大きな手
『がっははははは!!』
老人の大きな笑い声で、古くて小さな家が、キシキシと揺れました。
彼の名は、五郎。
森の奥に、ひとりで住んでいて、村では、少し変わった老人で知られていました。
みのりは、森の中にかくれているところを、彼に見つかり、助けてもらったのでした。
『良いたべっぷりだ!気に入った!』
五郎は、山のように盛られたご飯を、夢中になって食べるみのりを見て、自分のひざをピシャリと、叩きました。
みのりは、ふたつめのご飯の山を食べおわると、こほんっと、せきばらいをし、深々とおじぎをしました。
『さっきは助けてくれて、ありがとうございます!
それに、美味しいご飯もたくさん、いただいてしまって!』
『いやいや、かまわないよ。どうせ、その米もあまりもんだしな。
それにしても、本当に“妖精”なんてのが、居るんだなぁ!80年生きてきてはじめて見たぞ!』
五郎は、みのりのほっぺをかるくつまみながら、少年のような目で、みのりを観察しました。
『わたしが妖精だって、信じてくれるんですか!?』
みのりは、ふしぎに思いました。
なぜなら、先ほどの村人たちは、いっさい信じてくれず、話も聞いてくれなかったのですから。
『俺だって、さいしょにお前を見たときゃ、たまげたさ!
でもな。あんなことがあったんだ。なにが起きても、ふしぎじゃねぇ。』
『あんなこと・・・?』
『“あの地震”のことさ!
あんな天変地異があったから、もうだいたいの変なことは屁でもねぇのさ!』
五郎は、鼻をふんっと、ならしました。
『でも、村のやつらは、違うな。
皆、あれから怖がりになっちまった。
ほんの少しの変化にもビビって、それを排除しようとするのさ!』
それを聞いてみのりは、
自分が、村の人たちを怖がらせしまったのだと知り、申し訳なくて、悲しくなりました。
五郎は、そんなみのりの頭をわしわしと撫でると、不器用に笑いました。
『まぁ!お前もえらい目にあったみたいだし。
きょうはもう寝ろ!』
五郎の手は、大きくて、あたたかでした。
みのりは、ほんの少し、ほっとしました。