第二話:婚約破棄
どうしてこうなった………私は私のもとへ会いに来た王子のアルル様と私についてきたお兄様を見比べる。二人とも輝くばかりの笑顔を浮かべてお互いを見ているが、近くにいる私にはその裏にある凍りつくような空気感が凄く感じられてコワイデス…………
私は目の前のことから逃げるように少し前を思い出していた。
それは数分前のこと、第二王子ことアルル様が婚約者である私に会いに来た。あの高熱を出した日から一週間も経っていた。お兄様に婚約破棄のことを話すととても驚いていたが、お父様に掛け合い、「お前が望むのなら」と私の我儘を聞いてくれ、アルル様に一人で言うのはちょっと無理だったので、お兄様がついてきてくれた。
「アルル様、ご機嫌麗しゅうございます。」
「リリス様、こんにちは。お身体はもう宜しいんですか?」
「はい、おかげさまでだいぶ良くなりなした。あの……それで…………私今日、アルル様にお話がありまりまして……」
「お話……ですか?」
「はい。私との……」
後ろにいるお兄様がそっと背中を押してくれた。だって目の前の人国の王子だよ?私でも緊張するよ。
「私との婚約を破棄していただきたいのです!」
言い切った!少し語尾が強くなったけどそこは大目に見てね。私が満足感でいっぱいになっていると、今まで素敵な笑顔を浮かべていたアルル様の顔が曇った。うん、そりゃ笑顔も曇るよね。
「え……っと…嫌でしたか?」
「へ?」
不敬罪にでもなるのかと思っていた私はアルル様の言葉に思わず間抜けな声を出してしまった。
「僕との婚約が嫌ですか?」
「あ、いえ。アルル様が嫌とかではなく、私がその……妃という立場が耐えられなくて…………申し訳ございません。」
まさか貴方様と婚約したら破滅フラグが経つので婚約を受けられません。って言うわけにもいかないので、昨日の夜考えたそれっぽいことを言う。
「良かった……僕リリス様に嫌われたかと思いました。」
アルル様はこの言葉にほっと胸を撫で下ろし、また輝く笑顔を浮かべた。
「では婚約は破棄しなくて宜しいですね。婚約といっても必ず結婚するのではないので破棄はしなくてもいいんでわないでしょうか。」
笑顔で爆弾を落とされた私が、もう腹黒になったのかと場違いなことを考えていると、お兄様の声が聞こえた。
「殿下、リリスは破棄と言っているので婚約破棄していただけませんか。」
「お兄様?……」
お兄様の気持ちは嬉しいけどお兄様が不敬罪に問われたら嫌だなぁ……私がお兄様に声を掛けるよりも早く、アルル様が笑顔で言った。
「リリス様は僕のことを嫌っているわけではないので婚約は破棄しません。」
そして今に至る。
アルル様とお兄様の目が笑ってない…………あーあメイドさん達も怯えてるよー。仕方ない、私がこの場をおさめよう。
「あ、あの……………今は、婚約者〔候補〕ということでいかがでしょうか?メイドさん達も困ってらっしゃいますし……」
私が恐る恐る見ると、お兄様達はバツが悪そうに言った。
「す、すいません……」
「すまない、リリス。」
一件落着ですね。だいたい婚約破棄したようなものだし、これで王子ルートの破滅フラグは潰した。んーでも他のルートは私がとばっちり受けることは無さそうだし、後は来るべき時に備えて魔術訓練や剣術を少し習っとくかなぁー。私が今後の事を考えているとアルル様が言った。
「また来るよ。僕の婚約者候補さん。」
「もう大丈夫ですよ、殿下。」
何でアルル様は私にこだわるのだろう?他に可愛い公爵令嬢達はいるのに。新たな疑問がうまれたが、とりあえず笑顔で返事をかえしといた。
「お待ちしておりますわ、アルル様。」