私と彼女とダンベルと
恋愛系初挑戦。
さらっと読めます。
ご笑覧下さい。
彼女と初めて会ったのは確か私の6歳の生誕パーティだった。
彼女は公爵家の2女で同い年。私の婚約者候補であった。
金髪で巻き髪を顔の左右に垂らしたお人形の様な女の子。
かわいらしいな。と思った。
そしてプレゼントをもらったけど2kgのダンベルだった。
お返しの彼女へのプレゼントは花にした。
次の年の誕生パーティでダンベルの重量が4kgになった。
政治や貴族間のバランスを考えて彼女と正式に婚約した。
少しづつ帝王学を学びつつ、体も鍛え始めた。
せっかくもらったプレゼントだしね。
7歳の誕生日が過ぎて少し経ったある日、彼女と一緒に教会で洗礼を受けた。
一応お忍びだったから二人とも変装したのだが、彼女が服を交換しようと言い、了承した。
所謂、女装男装状態で教会に赴いた。
洗礼は無事に?終了し、帰る間際、突然後ろから突き飛ばされて転び、顔から床にいってしまった。
少し意識を失って、気付くと馬車の中で彼女が泣きながら謝ってきた。《好感度上昇:上昇率中》(キュン)
顔の横の巻き髪もショボンってしててかわいいと思った。
突き飛ばした犯人は同じ年くらいの女の子だったらしい。
捜索したけど逃げられたと護衛に謝られた。
同じ歳くらいなのに逃げきれるのか。
すごいな。
感心してたら、彼女が、二度と同じ目に合わせない。今度は守って見せる。と巻き髪を振り回して言った。
そう言われて、ああ、私も鍛えて彼女を泣かさない為に、今度は転ばない様にしようと思った。《称号:男の娘獲得:成長率ー》
8歳のプレゼントは8kg。
あれ?なんかおかしいな。
このプレゼントちょっと重くない?って手渡された時に思った。
両手で持ってプレゼント係に渡したけど。
彼女、最初片手でプレゼント持ってたような?
帝王学の勉強だけじゃなく、約束もあるし、がんばって体も鍛えよう。
9歳は16kg。
いや。重いでしょ。
片手じゃ絶対に持てないよ。
プレゼント係に助けを求めた9歳の私。
鍛錬が足りないな。がんばろう。
そして次は32kg。
慎重に両手で受け取ってよかった。
プレゼント係の爺に渡したら腰をやった。
台車を用意していて助かったネ、爺。
来年は64kgかな?
64kgだった。
がんばった。私はがんばったんだ。
でも一人じゃ持てなかったよ。爺(一年一緒に鍛えた)と一緒に受け取った。
父親である国王と兄である王太子も少し引いてた。
プレゼントの箱からダンベルの球、飛び出てたからね。
情けない。私の鍛え方が足りなかったらしい。
もう、帝王学とか良いよね?王太子いるし、継承権なんてあったらお家騒動の元だし。
私は母親と父親、兄や妹、弟、そして彼女とその両親である公爵夫妻を説得してお願いして頼み込んだ。
しかし、継承権無くす事は出来なかった。でも、順位を下げることは成功した。
家族の中で一番継承権を下に出来た。
公爵夫妻のすまなそうな顔と両親のかわいそうな物を見る目、兄のあきらめ顔、弟妹の喜びの笑顔。
そして彼女の涙と笑顔。
いい決断をした。周りの評価なんぞどうでもいい。
これで大手を振って騎士団で鍛えてもらえる。帝王学も今までの1/3で終わるようになった。
来年(の誕生日)は負けない。
この時は気づいてなかったんだ。このままだと重量が100kgを超えるって事を。今なら馬鹿だよねってわかるんだけどね。
うん。
12歳のプレゼント、128kgだったんだ。
小学部卒業の年だったからかな。大台の100kg超えてきた。
大きさは片手サイズになってたけどね。材質が圧縮アダマンタイトでね。
軽く差し出してきたのと大きさが小さくなってたから、油断して手渡し品を受け取ったら、危うく指がちぎれるかと思った。
慌てて両手を離した私、悪くない。
お願い婚約者。その悲しそうな目をしつつ、顔の両サイドのドリルで私を狙わないで。
でもね。1mくらいの高さから、落とした衝撃で床が凹む重さはさすがにやりすぎだと思うんだ。
来年から国立学院中等部に入学だけど彼女はどこまでやるのだろうか。
国立学院中等部3年間の誕生日。
256kg。512kg。1024kg。
1000kg超えると流石に持てないよ。
私も継承権下げて、11歳から騎士団で鍛えて今年から正騎士に叙勲されたよ。
15歳の平均より身長低いし、筋肉はつかないけど、その分は強化魔法で補ってがんばったんだ。
だから言えるんだけどね。王国最強騎士の聖騎士ヴァレンティンでも強化魔法全開で512kgは持てなかったんだよ?
私は嫌われてるんじゃないのかな。
いや。さすがにね。
会場の床に足跡を残しながらプレゼントを手渡しに来てくれた彼女にお願いをしたんだ。
「君の愛は(物理的に)重過ぎる。毎年のプレゼントは嬉しいのだが、出来れば別の物にしてくれないか」
私と爺、ヴァレンティンでなんとかプレゼントを受け取りながら懇願した。
16歳の誕生日にまさかワイバーン狩ってくるとは思わないだろう?
はは。
素手で正面から叩き潰したんだってさ。
ワイバーンさんごめん。
婚約者を止められなかった私を許してほしい。
ちなみに2TON超え程度の重さだった。
嫌われてるってことはないと思いたい。
デートとかも行ったし。
でも夜会に行くと、ダンスで振り回される(物理)のは少しどうかなぁ。身長も勝てないからなぁ。
これでも6歳からもらったダンベルとかで鍛えてきたんだけど。
このまま彼女の愛に尻に敷かれるのも悪くはないって思ってたんだ。
17歳のプレゼントでドラゴン。
うん。ワイバーンとドラゴンって似てるけど違うんだ。
ワイバーン=爬虫類飛行蜥蜴種。
ドラゴン=幻想類ドラゴン種。
両方とも翼がある蜥蜴に見えるけど、ワイバーンとドラゴンには越えられない壁があるんだ。
ワイバーンは魔法が使えない。ドラゴンは存在自体が半分魔法生物。
ドラゴンって皮膚の鱗より硬い防御結界を全身分常時張ってるんだ。
え。殴ったら壊れた?そのまま顔面狙いで殴り続けたと。
もう、君が居れば軍隊とかいらないんじゃないかな?
かくして彼女は竜殺しになった。
称号と名誉爵位の最高位騎士の授与式。
メッチャ照れて真っ赤だけど一生懸命キリっとした表情。かわいい。《好感度上昇:上昇率小》(キュン)
そんな私に悪い転機が訪れた。
18歳。アレは高等部最後の年に転入してきた平民階級の女の子。
最終学年のみの転入。しかも平民。珍しい。教会からの推薦だそうだ。
外見はたしかに可愛らしいと思った。
でも他の貴族子女たちを見慣れていたからか、私は惹かれる事はなかった。
しかし、上位貴族の子息たちはカウンセリングや行動、仕草?であっという間に骨抜きにされていった。
どこの(夜の)お店の人だろうか。
そして彼女は私にも近づいてきた。
なぜか誰にも知られていないはずの王家の秘事や両親の秘密、隠された私の兄の存在などを話していた。
こわ。
まじこわ。
他国のスパイ?
いや、スパイならこんなこと王家の関係者に言うわけない。
それなら彼女も王家の関係者?
ありえない。
学院で話すべき内容じゃない。
そんなこともわからない人物が王家関係者のはずがない。
怖すぎた私は、ひたすら距離をおいた。
それなのに
学院の私のお気に入りの場所であった中庭の木陰、図書館の第3個室、第4騎士訓練所、教室。
全てに彼女は現れた。
なれなれしく、偶然ね。とか話しかけてくる。
第4騎士訓練所は男性専用だ。
図書館の個室は鍵付き。
すとーかー。
ぞっとした。
徹底的に逃げた。
教室は逃げられないが、学院が終わると即帰宅を心掛けた。
そして学院にいる間は出来る限り婚約者に引っ付いた。
情けないとかいうな。
私自身が知らない背中の黒子の位置やmm単位の身長、だれにも言ったことのない食べ物の好き嫌い、果ては私が週末どこでどうやって過ごしたのかとかささやいてくるんだぞ?
こわくないか?
婚約者は頼りになった。
ストーカーが現れると、毎回私を抱き寄せ結界(氣功)で弾き飛ばした(抱かれた瞬間、顔におっぱいが)。《好感度上昇:上昇率極大》
曲がり角で突撃された時は衝撃波(物理)で吹き飛ばしてくれた(衝撃でおっぱいがゆれる)。《好感度上昇:上昇率大》
しまいには階段から飛び降りてきたストーカーに対し、上段回し飛び蹴りで打ち返して、階段上に戻してあげていた(少しスカートの中が見えた。黒いガーターと黒い▼)。《好感度上昇:最大値です》(ピロリン♪)
ストーカーの出現により私と婚約者の距離は確実に縮まった。
そして一緒に対策を考案した。
ヤツが現れたら、いつでもどこでも、今までもらった誕生日プレゼントで鍛えることで無視した。
不思議なもので今までの鍛錬より集中できた。
おかげで騎士団武闘会にて元最強騎士ヴァレンティンに勝てたのは余談だ。
そして唐突に脈絡もなく、私たちの通っていた学園に魔王が出現した。
私たちの卒業式に。
え?
そしてストーカーは聖女だったらしい。
性女じゃないの?
講堂に現れた魔王が現状説明している隙に、私は学園所属の護衛や騎士たちと手分けして避難誘導を進め、学生や来客を校門まで送り届けた。婚約者は魔王の攻撃を弾いていた。
途中出てくる魔族から学生たちを庇い、迎撃しつつ、最後の一人を逃がした所で、校門から壁沿いに学園全体を覆う聖属性遮断結界で覆われた。この結界、一か所壊すと全部が砕ける仕様。結論、壊したら魔族も流出するから壊せない。
原因は性女だな。魔王に聖属性はない。多分。
うん。
この時点で私はかなりムカムカしてたんだ。
でも、キレなかった。
だって婚約者の方がキレてたし。
こわい。今まで見たことないくらい目がキラキラして唇が吊り上がってた。
トレードマークの縦ドリルが横になるくらい闘気とか魔素出てるし。
それからの彼女はただ歩いた。
物陰や異空間から出現する魔族は彼女の手がブレた瞬間に消し飛んだ。
彼女の後ろを歩くだけの絡繰り従者な私。
やっぱり彼女がいれば軍っていらないよね。
途中、話しかけてきそうな魔族や魔獣も出たけど、最初の一音で消し飛ぶんだ。
何を言いたいのか、言いたかったのか、わからないまま一番魔力が強い礼拝堂までたどり着いた。
バシュン!
ああ。扉を開けることさえ面倒になったんだね。
魔族さえ消し飛ばす、彼女の攻撃にただの扉じゃ意味なかったんだね。
そんな暢気な事を考えてる視線の先には。
魔王と結婚式を挙げようとしているストーカーの姿があった。
あぁ。まぁ。ねぇ。
魔王イケメンだからね。それに体中から噴き出してる黒いオーラ、あれって瘴気だよね?
兄(王太子)よりイケメンなのよ。
そんなのが跪いて性女の手に接吻してる。
性女の方は、うん。
足元に大きな鈍器。
砕かれた女神像。
絶対あれだよね。
洗脳とか魅了とかかかってないよね?
めっちゃにやにやしてるし、鼻の下伸びてるし。
シークレット達成ーっ!
とか叫んでるし。
客観的に、状況判断するとだ。性女、やっちまったな。
ブツリ(物理)
あ、婚約者の方からヤバイ音がした。
!?
彼女の姿が消えた瞬間、性女と魔王も消えた!
バギッギィンッドギャギャッドゴッバゴッガギッドガッバグッドギャグシャグチャグチャバシャバシュ
あー。いや、消えたわけじゃないね。
彼女、マウントポジションで顔殴ってる。砕けた女神像で。
とりあえず歩いて近づく。
あー、魔王。しばらく足がビクビクしてたけど、動かなくなったな。
ちらりと性女の方を見る。
女神像の台座に突き刺さってる。顔から。
見なかった事にしよう。
婚約者の後ろに到着。
未だ手の動きを止めない彼女。そろそろ女神像の原型無くなってるぞ?
はぁ。しかたない。彼女を止めるのも婚約者の役目だ。
私は後ろからゆっくり彼女の首に抱き着く。
「私以外の男性にそんな体位をするのかい?妬けてしまうね」
耳元でささやく。
瞬間彼女は飛びのきざまに平手打ち。
手加減してくれたのだろう。見える。けど、甘んじて受けよう。
だって真っ赤になってアワアワしてる彼女は初めて見たから。
それから。
まぁ色々あった。
性女は婚約者が台座から引き抜くと(おお。聖剣伝説みたいだ)へたり込んだまま、こっちに助けを求めてきた。
とりあえず、顎先を蹴り上げて気絶してもらった。
第一騎士団が来たから猿轡と顔に紙袋を被せ、絶対に取るなと厳命した上で王都の教会前広場に移動式座敷牢で運搬。24時間3交代常時5人制で見張りを近衛騎士団権限で依頼した。24時間誰かの目線がある状態だと色んな勢力や色んな権力への牽制にもなるし。逃亡防止にも良いし。下手に強固な地下牢とか塔より逃げられないと思うんだよね。裁判までこのままお願いしようと思う。
顔面崩壊した魔王は、とりあえず、縛って女神像の残骸に埋めておいた。
対処は教会にお願いしようと思う。これも騎士団に見張りをお願いした。
生徒や保護者、教師たちはケガ人は多数出たが、幸いにも死者はなし。
とりあえず、不満のぶつけ先として教会推薦の聖女が魔王復活の犯人だと煽っておいた。
これで教会と貴族たちで勝手に潰しあうだろう。
そして彼女は辺境に赴く事になった。
国に『勇者』として認定され。
同時に女辺境伯として。
私は彼女の辺境伯家への入り婿として一緒に。
本来の歴史から外れた物語はこれにておしまい。
お読みいただきありがとうございました。