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高橋大輔⑲『前世の記憶』の話

この世界にトルコという人種や国名が存在しないのに『トルコ石』はどうかと思いましたが、分かりやすさ優先にしました。

 ある日、ニムルがマーシスとカムサと3人で市場に買い物に出かけていた。

 カムサが宝石商が店先に並べていた『トルコ石 (アバーディス)』で作った指輪を眺めながら値段交渉していた。

「これって本物のトルコ石? なんか模造品っぽいんだけど?」

「お嬢ちゃんは素人だから見分けがつかないだろ? 『アバーム』から直輸入の本物だよ」

「え~? 私本物みたことあるけどもっと青緑色が濃かったわよ~?」

 文句をつけて値引きさせようとする妹の横でニムルがふと近くの店の前に立っている馬と目が合った。

「あ、馬だ」

『ブルルツ……』

 馬は『ファーバス』の職人が作った鍋を買い付けに来た商人の所有だった。ニムルが馬を撫でるとマーシスが驚いた顔で、

「姉さん馬は怖くないの?」

「え? 怖い?? 別に怖くないけど?」

 馬も撫でられるのが嬉しいのか顔を寄せてくる。気づいたカムサがぎょっとして、

「うわ馬!? お姉ちゃん怖くないの!? だって馬だよ!? すっごい狂暴じゃん!」

 マーシスがカムサを指して、

「普通はそういう反応だよ姉さん。女の子は馬を怖がるものだよ」

「そ、そうなんだ……こんなに可愛いのに……」

 ニムルは前世で軍馬に乗って戦場を駆けた経験もあるので別に馬に対する恐怖心はなかった。

(でもそういえばニムルに産まれてからは馬乗ってないなぁ)とニムル。

 すると今度は馬の所有者の商人である杖を突いた老人が気づいて、

「おや、愛らしいお嬢ちゃん、君は馬が怖くない……」


『きゃああああ!? 盗人よぉ!』


 いきなり女性の悲鳴が聞こえ、見ると男が女性から荷物を奪って城門の方向に向かって走り去っていった。

(ひったくりだ!)

 そう思うが早いか、ニムルは老商人の杖を奪い、馬に跨って尻を叩いた。

「走れ!」

『!? ヒヒーーンッ!』

 驚いた馬が走り出す。姉が颯爽と杖を片手に馬を乗りこなしているのを見てマーシスとカムサが唖然としながら見ていた。


「どいたどいたぁ!」

「きゃあ!?」

 市場に向かって友人達と歩いてた町長の娘、カムサが道の角を出ると、いきなり目の前を馬が走り抜けて腰を抜かした。

「ちょ、カムサさん大丈夫ですか!?」

 友人達がすぐに介抱するが、カムサは今走り去っていった馬の騎手が一瞬だけ見えて、

「……い、今、女が馬に乗ってませんでした?」

「え? 女?」

 友人達が馬が走り去った方向を見ると、確かに小柄な女の子が乗っているのが見えて茫然とした。


「待てぇ!」

 ひったくり男が後ろから思いのほか軽い声がと馬の足音が聞こえて、振り返ると木の棒を振りあげたニムルが目の前まで迫ってきていた。

「な!? なんだこのガキ!」

「はぁ!」

「ぶげっ!?」

 男が握っていた長剣で斬りつけようとしたが、木の棒で手を打たれ、さらには顔を打たれて地面にひっくり返った。

「く、くそ……!」

 ドガンッ!

 男が顔を押さえて立ち上がろうとするが目の前に馬の足が打ち下ろされて硬直し、さらにニムルが男の上に馬乗りになって杖で首を押さえつけた。

「捕まえた! 誰か衛兵呼んできて!」

 ニムルが叫ぶと追いかけてきたマーシスや老人や群衆が駆けつけてきた。

「お、お姉ちゃん? もしかして捕まえたの?」とカムサ。

「そうだって! 早く衛兵を呼んで!」

「はいはいもう来てますよ」

 衛兵がぞろぞろやってきてひったくり犯を連行していった。兵士の1人がニムルを見て、

「いやぁ驚いた。君はアルディヤ家のお嬢ちゃんだろ? 一体どこで乗馬術を習ったんだ?」

「そうよお姉ちゃん。なんで馬に乗れるの? しかもすごい上手じゃない、貴族でもあそこまで乗りこなせないわよ?」

 カムサに問われてニムルはしどろもどろになった。

「え、え~と、いやぁ、なんでだろ? あはは! なんか神様の声が急に聞こえて、そしたら馬に乗れるようになったみたいな~?」

 まさに前世にとった杵柄だった。ひったくり被害者の女性がおずおずと近づいてきて、

「あの、ありがとうお嬢ちゃん。お礼に今日買った蜂蜜をあげるわ」

 女性はそう言って蜂蜜が入った壺をニムルに渡した。

「蜂蜜!? やった! ありがとうお姉さん!」

 ニムルが目を輝かせると、兵士が壺を奪い取った。

「あ!? ちょっとなにすんのさ!?」

「お嬢ちゃんはまだ小さいから知らないかもしれないが、市場で馬に乗るのは法律違反だ。人の出入りが多くて危ないからな。ということでこれは没収する」

「法律違反!? 僕人助けしたのに!?」

「だから蜂蜜で勘弁してやると言ってるんだ。本来なら問答無用で逮捕、アルディヤ家の名前に傷がつくことになる。お前は一族の名誉より蜂蜜の方が大事ってなら持って帰ってもいいんだぞ?」

 マーシスがニムルの口塞いで、

「ご配慮ありがとうございます。さあ帰ろう姉さん」

「そんな~!? 僕タダ働きじゃ~ん!」

 まだごねるニムルにマーシスが真剣な顔で、

「アルディヤ家は一般市民とはいえ『ファーバス』の英雄の末裔、カムサの縁談も我が家の名前のおかげで決まったようなものなんだ。妹のためにここは我慢してよ姉さん」

 カムサが姉の頭を撫でて、

「後で美味しいザクロ買ってあげるから。ほら行きましょうお姉ちゃん」

 ニムルは老人に杖と馬を返してから渋々家に帰った。

 帰りにマーシスがこんなことを言った。

「姉さん。ここだけの話、街の大人達が姉さんの話を聞いたらきっと『女なのにはしたない』とか『大股開きで馬に乗るなんて恥ずかしい』とかお説教されるよ。とくに姉さんは嫁入り先が決まってないんだからお母さんすごく怒ると思うよ? ここは大人しく引き下がるべきだよ」

「……僕は結婚しないって言ってるのに……はぁ」

「それは許されないことよお姉ちゃん」とカムサ。

 ニムルはクノム人社会の偏狭さに辟易した。


「僕は結婚できるだろうか……?」

 金沢の繁華街を石田と斎藤と3人で歩いていた大輔がぼやいた。

 周りには観光客や近くのショッピングモールを目指すオシャレピープルたちが大勢歩いている。

 なぜオタク3人衆がそんな場所を歩いているかというと、学校帰りにゲーセンに寄るためだった。

「なんですか突然に?」と斎藤。

「いや、自分の将来のビジョンが全く見えなくてさ……大学行ったら彼女できるかなって」と大輔。

「まだお前高校一年だろ。諦めんなよ高校生活を」と石田。

「僕は逆に全く絶望してない石田が羨ましいよ……」


 3人がそこでゲーセンの前にたどり着いた。

「……そもそも高橋君、女性恐怖症じゃなかったでしたっけ? なのに彼女欲しいんですか?」

「……まあそうなんだけど……」

 大輔がモゴモゴ言いながらゲーセンに入ると、すぐ近くのUFOキャッ○ャーの前に粟島優莉がいた。

「うぎゃ!?」

 思わず悲鳴を上げて隠れる大輔。優莉はそれには気づかず友人の上島愛と里中佳の3人で遊んでいた。

「なんで隠れてるんですか?」と斎藤。

「あいつだよ! あそこにあいつがいるの!」と大輔。

「……あ、粟島さんじゃん。へ~ゲーセンに来るんだな」と石田。

「まあ来るでしょうよゲーセンなら。……あ、1人になりましたね」と斎藤。

 愛と佳が何か言ってその場を離れ、優莉が1人でお金を投入する。

 大輔が持っていた傘を構えて、

「……今なら3対1で戦えるぞ」

 石田が大輔にチョップした。

「落ち着け。苦手なら関わらなけりゃすむ話だろ。俺らは奥の格ゲーコーナーにでも行こうぜ」

 石田が大輔を引っ張って立ち去ろうとすると、優莉に4人ほどの大学生と思しき青年たちが話しかけた。

「お、君高校生? 可愛いね~? 友達も一緒? 暇ならこれから俺らとお茶しない?」

 陰キャ3人が遠目から恐れおののいた。

「ナンパだ! おいマジで初めて見たぞナンパ! マジでアニメみたいに話しかけるんだな!?」と石田。

「盛り場になんて近づかないので初めて見ました……!」と斎藤。

「何もせずとも遊んでるだけで異性が寄ってくる……やはりリア充は僕らとは別人種……」と大輔。

 なぞの興奮でハイテンションになっていると、優莉が困った笑みを浮かべて、

「いえ、そういうのは遠慮したいんですけど……」

「大丈夫大丈夫俺ら紳士だからさ! ちょっとお茶したいだけだって! ね? ね? ちょっとだけだから!」

 優莉は明らかに困っていた。大輔が少し考える。

(……嫌がってるのか? まあ確かに見ず知らずの男にナンパされたら怖いか……)

「助けるのか?」と石田。

「……いやいやまさか。第一僕が行っても何もできないし、それになんで恨んでいる相手を助けなきゃいけないんだ……むしろ男の側に加勢したいくらいだよ」

「加勢したらナンパする羽目になりますよ?」

 斎藤の指摘は無視された。

 だが大輔は言葉とは裏腹にモヤモヤしていた。

(……例え悪魔のような粟島でも女の子なわけだし、ここで見殺しにするのはいくらなんでも非道すぎるか? でもあの粟島だぞ? あいつは僕の人生を滅茶苦茶にしたのになんであいつの人生を守ってやらなきゃ……)


「いいからさ! ほら、とにかくお茶しに行こうよ!」

 男の1人が粟島の手を強引に引っ張ったのを見て、思わず大輔が走り出した。

「あ……」と石田。

「あん?」と大学生たち。

 いきなり目の前に現れた大輔に大学生たちが困惑し、優莉が目をぱちくりさせた。

「ちょ、ちょっと、困ってるでしょ! やめてあげてくださいよ!」

 緊張してなんだかよく分からないまま叫んでいた。大学生たちが苦笑して、

「なにお前? この子の彼氏か何か? 邪魔だからどっか行ってくんない?」

 1人が手を伸ばすと、大輔は咄嗟にその手をすり抜けて傘で顔面に一撃叩きこんでいた。

「ブッ!?」

「ああ!? お前何すんだ!?」

 激怒した大学生たちが一斉に躍りかかる。だが大輔はここで初めて自分の身体が予想に反して滑らかに動くことに驚いていた。

(な、なんだ!? なんでこんなに動けるんだ!?)

 こちらの世界と異世界、例え肉体は違っても魂と記憶は共有されている。マストカの頃に学んだ様々な体術の記憶が大輔の魂にしっかり保存されていたのだった。

「げぇ!?」

「ぎゃあ!?」

「ぐげ!?」

 あっという間に4人の大学生が気絶した。そこに慌てて石田と斎藤が走ってきて、

「2人とも逃げろ!」

 呼び止める店員を振り切って大輔たちと優莉は逃げ出したのだった。


「えっと、ありがとう」

 繁華街の外れにある公園まで来て、優莉が大輔に頭を下げた。

「い、いや、別に……」

 大輔がパニック状態のままもじもじしていると、優莉が近くの自販機からジュースを買ってきて大輔に渡した。

「これはお礼。それじゃあ私は友達を待たせてるから帰るわね?」

「え、あ……」

 優莉はさっさと立ち去った。

「結構たんぱくというか、あんまり感謝してる感がなかったな」と石田。

「ちょっと冷たいですよね」と斎藤。

 大輔がジュースを暫く眺めて、一気飲みしてから言った。

「……別にいいよ。必要以上に関わり合いになりたくないんだから願ったりかなったりだ」

『なんであんなことをしてしまったのか』と大輔は後悔でため息を吐いた。


 優莉が来た道を戻ると途中で愛と佳に遭遇した。

「優莉大丈夫? なんか急に走り出してたけど何があったん?」と佳。

 優莉が事情を話すと、

「へ~ナンパされたところをねぇ~。そんなドラマみたいなこと実際にあるんだね~」と愛。

「お礼はしたん?」と佳。

「ええ。ジュースを奢ったわ。でもあれで対応間違えてないかしら? またストーカーが増えるかと思うと気が重いわ……」

 優莉がため息を吐いた。愛と佳が首をひねって、

「どういう意味?」

「昔ナンパされてたところを武術を習ってる男の人に助けらたことがあったんだけれど、私のことを口説いてきて断ったらストーカーになったのよね……似たようなことが3~4回あったから助けられても極力勘違いされないように対応してるんだけど、いまだにどうすれば変な勘違いされないか分からなくて……さっきのアレで良かったか心配だわ……」

「さ、さすが女優志望……圧倒的『助けられ力』……!」と愛。

「男の夢を木っ端微塵に粉砕する優莉先輩マジえげつねぇっす」と佳。

「あともう1つ困ったことがあって……」

 優莉がそこで自分のスマホを検索しながら、

「……多分さっきの男子、クラスメートだと思うんだけど誰か分からなくて……誰か友達の彼氏だったかしら?」

「……優莉って見た目おっとり系の癖に性格が普通に鬼畜で非情だよね……」と佳。

 友人2人は勇気を振り絞って優莉を助けたのであろう、名も分からぬ男子に心の底から同情したのだった。


ニムルが『馬に乗るのが好きで女らしくない』という噂が立つと嫁の貰い手がなくなると心配してマーシスが止めたわけです(現状でも貰い手はありませんが)。クノム人社会に結婚しないという選択肢は存在しません。

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