表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/2314

高橋大輔⑱『高橋流イジメ論』の話

 僕がいつも通り学校の教室で石田や斎藤と馬鹿話していると、いきなり大きな声が教室中に響き渡ってびっくりした。

「あ、粟島さん! 俺と付き合ってください!」

 クラスの男子の1人、近藤が(恐らく友人達からそそのかされて)粟島に大勢の前で告白したのだ。

 とたんに近藤をけしかけたと思しき生徒達が拍手し始めた。

「いいねぇ! 勇気あるぜ近藤!」

「格好いい~! 私見直しちゃった~!」

「これは断れないでしょ! 付き合っちゃえよ!」

 最初は彼らだけだったが、すぐに周りも乗っかって『付き合え』コールが巻き起こった。

 斎藤が途端に不機嫌になって、

「粟島さんも災難ですね……これってイジメってやつじゃないんですか?」

 石田は詰まらなさそうに、

「粟島は今まで告白してきた奴全部振ってるからなぁ、逆恨みしてる奴が何人もいるんだろ? 女子でも面白くない奴らいるだろうし」

 僕はなんとも言えない気分で見ていた。

『少しはいじめられる奴の気が分かったか』と思う反面、1人を集団で追い詰めるのは見てて不快な物だ。

 まあそんなこといいつつ……、

 僕は両手を顔の前まで持ってきて拍手の準備をした。

「……僕も乗るんだけどね」

「乗るんかい」と石田。

「いいんですか? いじめっ子と同じレベルに落ちてしまって」

 斎藤に言われて僕の手が止まる。僕は渾身の力で己の良識を汗とともに洗い流そうとして、

「ぐぐ……! 正論を言うてくれるな斎藤……! 直接仕返しができないからこういう時に隅っこで自己満足に浸るくらい被害者である僕に許されていいだろ……!? いいや許されないはずがない!」

「卑屈すぎだろ……」と石田。

 僕はそこでいったん手を引っ込めて粟島をしげしげ眺めながら、

「……それに、粟島も少しは理解できただろうさ。少しでも気を抜けば誰だっていじめの標的にされるってことをね……」


 いじめっ子は基本、常に獲物を探している。

 ああいう連中はよく『いじめられる奴はそれなりの理由がある』というが、そんなものは後付けに過ぎない。人間は強いストレスにさらされ続けると精神にダメージが入って様々な異常が顕れる。加害者が主張する『理由』は大抵いじめられ始めてから顕れたものなのだ。


 なら一体なにが原因でいじめが始まるのか? それが今粟島の身に起こっていることなんだ。

 いじめっ子は誰でもいい、適当な奴を見つけ適当な理由をつけて集団で嫌がらせをする。彼も彼女も特に悪意なんてない、『からかってる』とかその程度の理由で嫌がらせをする。あの人種の脳内では『からかい』と『遊び』と『いじめ』に本質的な差はないのだ。それで被害者が傷ついたり、怯えたり、ショックを受けたりすると『こいつは殴っても仕返ししてこない』と踏んで徐々に嫌がらせをエスカレートさせるのだ。性格が狂暴なだけでなく、他人を思いやる想像力が欠如しているからこういう発想になる。当然想像力がないから自分が標的になる可能性なんて一切考慮しない。

 僕はこれを『いじめっ子の獲物探しローラー』と呼んでいる。特に新しい学年になってクラスの顔ぶれが変わると最初の学期に積極的に行われているのをよく見る。大抵は『友達作り』と称して気の弱そうな奴を探すのだ。妙になれなれしい奴や話題作りのために無茶ぶりする奴、やたら明るい奴は注意した方が良いだろう(根暗故の警戒心)。


 いじめっ子は基本性格に問題のある奴ばかりなので、常にストレスを抱えていてサンドバッグを探している。そこに自分が標的になりたくない意志の弱い奴が集まれば立派な『いじめっ子集団』の出来上がりだ。あと欠けているのは『いじめられっ子』の役割を受け持つ人間だけという具合さ。


「……あくまで僕の持論だけどね」と僕。

「お前が言うと謎の説得力あるな」と石田。

「前にテレビで、『いじめ問題はいじめっ子を治療しないといけない』と言っていたのを見たことありますよ。ということは粟島さんも復讐するんじゃなくて治療した方が良いんじゃないですか?」と石田。

 ……そうやって正論ばっかり言わないでくれる?

 僕が渾身の恨みを込めて拍手しようとしたらいきなり『ガンッ!』とデカい音がして教室が静まり返った。

 どうやら粟島が近くの机を蹴ったらしい。いつも通りニコニコしながらも困り眉で机の位置を直してから、

「あ、ごめんなさい。足を動かしたら当たっちゃったわ……えっと、近藤君だっけ? 私は別に恋愛とか興味ないから、ごめんなさいね?」

「え、あ……」

 粟島は近藤を無視して自分の席に座った。すぐに里中や上島との会話の中に没頭してしまった。

 教室中がどよどよしていたが、なんだかなし崩しでお開きになった。僕は割とマジでショックを受けている近藤が少し気の毒になった。

「粟島さん強いですね。あれはいじめられませんわ」と斎藤。

「近藤のやつ悪乗りっぽい雰囲気だしてた癖に実は本気だったのか? いざ失敗しても『おふざけ』で済むと考えてたならゲスイ奴だなぁ」と石田。

「全く『おふざけ』になってなくて大火傷ですけどね」

 僕は『はぁ』とデカいため息を吐いた。

「……粟島がこの程度で折れるような奴なら僕は負けてない。こうなることは予想してたさ……」

「あんたはイジメられてただけでしょ」と斎藤。

「なにライバル目線で語ってんだよ、苗字すら間違えられた癖に」と石田。

 うるせーー!! お前ら2人とも嫌いだあああああああ!


 粟島が席に着くと上島と里中が手を合わせて謝った。

「マジごめん優莉! 助けたかったけど気圧されちゃって……」と里中。

「埋め合わせはするから! 私ら別に優莉のこと嫌いなわけじゃないからさ! 本当ごめん!」

 粟島はほほ笑んで二人の頭を撫でてから、

「いいのよ別に。あんな状況になったら普通はそうなるわ。悪気が無いことくらい分かってるから安心して?」

 友人2人は涙目になって、

『うう……お母さんありがとう……』

「誰がお母さんよ」

 2人同時にアイアンクローをきめられて悲鳴を上げた。


大輔君の持論は根拠がないので『まあそんな考え方もある』くらいで考えておいてください(リテラシー)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ