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高橋大輔⑭クノム人が食べる肉についての話

「なぁ、お前らは犬とか猫とか食ったことある?」

 学校の昼休み、僕が石田と斎藤に聞くと、

「なんだよいきなり。家で犬飼ってる奴にそんな話するか普通?」と石田。

「異世界の話ですか?」と斎藤。

 さすが斎藤は察しがいい。まさしく異世界の話だ。

 石田も合点が行った様子で、

「なんだ異世界か。いや~、犬猫は食ったことねぇな。サソリとかムカデとかなら食ったことあるけど」

「そっちの方がよりゲテモノじゃねーか」と僕。

「そうか? まあなんか俺の所だと『犬は穢れてるから触るのもNG』で、『猫は動物の中で最も上等だから慈しまなければならない』て感じだったな。サソリは結構うまいぜ」

「私の所だと犬猫は食べることもありますが、上流階級はそもそも肉を食わないのであんまり一般的じゃないですね」と斎藤。

「結構文化の違いがでるな……」と僕。

 僕はそこで小学校の時粟島に虫を食わされたことを思い出して教室の反対側を睨んだ。

 ふん、どうせ『お肉は太るから赤身ね~』とか言ってんだろ、脂が全然なくて臭い野生の狐肉でも食ってやがれ!

 ……そうなんだよね。狐を食べるんだよねクノム人って。



 クノム人社会では基本、『男は外で女は家の中』が厳格に守られている。だからニムルも家事を幼いころから母親に教えられていた。

 ある日の夕暮れ、街の外の森に狩りにでかけていた父アルキアデスと弟マーシスが帰ってきた。

「おお~い帰ったぞ~! 今日はお祝いだ! マーシスが初めて獲物を獲ったぞ! しかも複数だ!」

 2人が持ってきた獲物は狐、貂、野良犬、野鳥だった。

 妹カムサが目を輝かせて、

「キツネにテンじゃん!? 毛皮で冬着作ろうよ!」

 母メムサがカムサの頭を軽く小突いて、

「お馬鹿、職人への依頼料幾らかかると思ってるの。毛皮商に持って行って売ればいいわ。それなりにお金になるわよ」

「ぶー! またお金~? じゃあ鳥の羽飾はいい? 東方風の羽飾りつくりた~い!」

「弓矢にも使うからその分は残していおいてよ」とマーシス。

 母親が狐の死骸を持ちあげて、

「さて、じゃあニムル手伝ってちょうだい。狐料理を作るための下ごしらえするわよ」

「は~い……え? 狐料理!? 食べるの!?」

 ニムルが驚くと家族全員が不思議そうな顔で、

「? ああ、そういえば子供達が産まれてから狐は料理してないな母さん」と父。

「そういえばそうだったわね……結婚する前はお父さんよく狩猟に行って獲物をくれたけど、そういえば子供達が産まれてからはないわねぇ……」と母。

「友達の家で一度だけ食べたことあるよ」とマーシス。

「私も~、お姉ちゃんはなかったの?」とカムサ。

「うっそ、カルチャーショック……」

 唖然とするニムルを尻目に狐の皮を剥ぐ作業が始まった。


 クノム語で狐やテンなどは『獣肉』というカテゴリーになり、羊や豚などの家畜とは扱いが変わる。そこは日本とあまり変わらないだろう。

「神々に捧げる犠牲(生贄の肉)は上等の肉である豚、牛、羊、ヤギ、ロバ(ヤギとロバは前の三つと比べると少し格が落ちる)と相場が決まってるの。それ以外が下等の肉ね。とくにキツネやテン、モグラ、ビーバー、猫、犬、などはそのままだと肉が臭くて食べられたものじゃないから、干してから食べるのよ」と母。

「も、モグラにビーバーまで食べるんだ……」とニムル。

 他にもカタツムリなども食べるらしい。これはこちらの世界でも食べる地域はある。

 なお、蛇やカエルはゲテモノ扱いで嫌がられるのだった。基準が謎である。


 母親は皮が剥がれた狐の肉を短剣で丁寧に骨から分離し、内臓は捨て、肉を極力薄くスライスし始めた。

 その肉をグラグラと煮立った鍋の湯で軽く茹でてから天日干しすると、獣臭さが消えるのだ。後日それをスープに入れたりして食べるのであった。

「あんたもお嫁に行ったら旦那さんが張り切って狩りの獲物を持ちかえってくるでしょうから、獣肉の調理方法をちゃんと覚えておきなさい? 獣肉を美味しく調理できる嫁は夫の両親からも好かれるわよ?」と母。

「獣肉料理の出来は嫁の質を量る目安になると昔からよく言うぞ」と父。

(僕は本当は男なんだけど……て言っても信じてくれないだろうしなぁ)

 ニムルの横でマーシスが笑って、

「姉さんはまだ小さいから嫁入りの話は早いよ。カムサはもうすぐだからしっかり覚えておかないとね」

「そうそう、お姉ちゃんに刃物持たせると危なっかしいからね」とカムサ。

「……む~!」

 同調したいがプライドが許さずニムルが頬を膨らませた。

 数日後、天日干しされた狐やテンの干し肉が入ったスープは臭みがなくて割と美味しかった。


 学校の昼休み、弁当を食べていた優莉がふと呟いた。

「……鳥のささ身を食べてると、異世界で食べたカエルの肉を思い出すわね……」

 彼女が『魔女』シュナーヘルだった頃、クノムティオでの激しい迫害から逃れて山の中を彷徨っていたことがあった。

 その時はもうお腹が空いてしょうがなかったので、手あたりしだいになんでも食べた。あいにく身体が魔族化していたので毒耐性が高く色々な草やキノコなどを直に食べて調べることができたのだった。

「食事中にする話じゃなくない……?」と愛。

「食欲失せるわ……」と佳。

 2人が箸をとめてげんなりすると、優莉が暗い笑いを浮かべて、

「ふふふ、それがね、侘しかったあの頃を思い出すと『なんて日本は美味しい物に溢れてるの!』と思って食べるが量が増えちゃって増えちゃって…」

「優莉、あんた太ったわけね……」

 愛が察すると優莉は否定して、

「あ、太ってないわよ? 私は間食してないし、毎日ランニングもしてるもの。ただ太るんじゃないかと心配になってるだけ。おやつを食べたくなる欲望を抑えるのに苦労してるのよ……」

 物憂げな優莉に友人2人は本気で思った。

(自慢かよ、うぜぇ)


『キツネの肉は薄くスライスした後軽く湯通ししてから天日干しにすると獣臭さが消えて普通に食える』というのはアイヌ人の知恵だそうです(本でよんだことがあるので参考にしました)。

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