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マストカ・タルクス56『異世界の日本人』の話

知識チートじゃないですけど、『現代的な思想信教の自由』という価値観を異世界に持ち込んだ日本人の男子高校生の話だと思ってもらえればいいです(やっと本題の入り口に踏み込めた気がします)。

まあ全然『チート』ではないですけど…(無双してないし)

 アルヘイムとは数えきれないくらい練習試合をした。でも本気で殺し合ったことはもちろんなかった。



 僕も『星空の剣』を抜いてアルヘイムと対峙した。両者とも『アラトア式宮廷剣術』の構えをとる。

 横でシュナとエイルが話し出した。

「……シュナーヘル。あんたはどうしてマストカを止めなかったの!? こうなることが分かっててどうして何もしなかったの!?」

 エイルが叫ぶとシュナはため息を吐いて、

「止めましたわもちろん、ですが若殿は思い込みが激しくて頑固ですから。どうしようも出来ませんでしたわ。エイル殿が若殿を止められる自信がおありなら、是非ともこうなる前に止めて欲しかったですわね」

 まあ、カッとなりやすいのは認めるよ。

 エイルが俯いた。

「はぁ……あんたって本当に嫌な女よね。嫌味ったらしいし、いつも人を小馬鹿にしてるし、そうやって煙に巻いて責任逃ればかりしてる。でも度胸だけは認めてあげるわ。太陽神の巫女に向かって生意気な言葉を吐く度胸はね……!」

 顔を上げたエイルの眼が黄金に輝く。太陽神が降臨したのだ。

『シュナーヘルよ。私は汚らわしい異国の魔術師であるお前に多くの自由を認めてきた。だが見事に裏切ってくれたな……! 貴様の罪は重い、マストカともども灰に変えてやろう!』

 エイルの身体が浮き上がり、地平線が白み始めた。日の出だ。

 太陽神の放つ光で、シュナの顔に影が差した。

「……それですわ、神々のその態度が気に入らない。崇拝されるのが当たり前、恐れられるのが当たり前、その傲慢さが消えない限り私が神々に従うことは決してないでしょうね」

『愚かな女だ! 消えてなくな……』

 エイルの頭にバルビヌスの斧が埋め込まれた。

「ゲハハハ! 太陽神モンテールよ! 祖先の恨みを晴らさせてもらうぞ!」

『……鬼めが……! 消えてなくなれ!』

 ドーンッ!

 いきなり天空から巨大な光の柱が落下してきた。

「ばるび……!?」

 僕が慌てるが、土煙の中から無傷のバルブヌスが出て来た。

 太陽神は上空を見上げて怒りの声を上げた。

『おのれアレクタール! なぜ邪魔をする!? お前も鬼族を攻撃した神だろうが!』

 上空でバルビヌスを助けたアレクタール神が言った。

『はっは! 人間の王は家臣の厳しい言葉を許すのが美徳だそうではないか? お前も少しは寛大さを見せたらどうだ?』

『貴様は自分が言われていないからそう言えるだけだ!』

 モンテール神が憑依してたエイルから抜け出して上昇し、アレクタール神と向かい合う。

 アラトア人とテール人の最高神同士の激しい空中戦が始まった。


 太陽神に放り出されたエイルが意識を取り戻して起き上がった。

「ゲホ! ハァ、ハァ……マストカ、考え直してよ。あんたがエリアステールに行っちゃったらタルクス家は滅亡するの! あんた1人の我儘でよ!? その責任があんたにとれるの!?」

 エイルが泣きながら僕の身体にすがりついてきて叫んだ。

 僕は少したじろいだが、今更止めるなんて無理だ。

「……ごめん、タルクス家とシュナを選べと言われたら、僕はシュナを選ぶよ」

「なんでよ!? 叔父様と叔母様が何をしたって言うの!? あんたが拾ったフェリミマとかいう奴隷はどうなるの!? 勝手すぎる! あんな魔術師のどこにそんな価値があるの!?」

 思わずカッとなった。

「魔術師がなんだ! 魔術師がそんなに悪い事なのか!?」

 僕の口からとめどなく言葉が溢れてきた。

「そっちこそシュナが何をしたって言うんだよ!? ずっと迫害されて、800年も孤独に生きて、初めて人を好きになったって言ってたんだ! なのに、なんでダメなんだよ! 故郷を追われて魔術師にならなければ生きていけなかっただけなのに! シュナのどこが悪いんだよ! 言ってみろよエイル!? 意味不明な理由で差別するのもいい加減にしろ!」

 だがエイルも負けていない、泣きながら怒鳴りかえす。

「『古の法』で決まってることなの! なんでそれが分からないの!? 守らなきゃ神罰が下るのよ!」

 またそれか。もういい加減うんざりだ。

 何が『古の法』だ。神々が気まぐれで決めているだけの法律、神様が死ねって言ったら大人しく自殺するのか?

 だったら最初から産むなよ! 神なら未来予知して産まれる前に殺せよ!

「なんでそんなものを守らなきゃいけないんだ!? 誰も幸福にしないルールを守る必要がどこにあるんだよ!?」


『ゲハァ!?』

 いきなり僕の横にアレクタール神が墜落した。槍を構えたモンテール神が手をこちらに向けて叫ぶ。

『なぜ守らなければならないかだと? こうなるからだ!』

 太陽神の手から放たれた光がシュナの身体を包み込んだ!

 ドンッ!

「シュナ!?」

「きゃああああああああ!?」

 轟音と共に光が消え失せた。僕がすぐにシュナに駆け寄ったが、不思議なことに彼女は無傷だった。

「シュナ!? 大丈夫か!? 身体に異常はないか!?」

 だけどシュナは答えなかった。ひたすら震える自分の手を見て茫然としている。

「あ、あぁ、ああ……!」

「シュナ!? 一体どうしたんだ!?」

 目の前にやってきた太陽神が告げる。

『シュナーヘルが契約していた精霊を滅ぼし、肉体も人間に戻した。魔力を失った魔女はもはや魔女ではない、ただの人間の女だ』

 神の言葉に僕は愕然とした。

 嘘だろ? シュナが魔力を失った? もう魔術師じゃない? 

 シュナはずっと自分の手を見つめ続けていた。


 沈痛そうな顔でエイルが僕に言った。

「ほら、『古の法』を破るからそうなるのよ……、マストカ、あんたは『古の法』を破れば皆は幸福になれるっていうの? 今のシュナーヘルを見てもそんなこと言えるの?」

「そ、それは……」

 エイルの静かな言葉に僕は反論出来なかった。

 シュナは自分の手を見つめたまま茫然としている。

 ぼ、僕は……、


 エイルはやるせない顔になって、

「あんたがやったことは、ただ自分の我儘を通そうとしただけよ。家族や私達だけじゃない、シュナーヘルまで不幸にしてね。魔女は自分が帰る場所も、生きるすべも失ったわ。それを分かってる?」

「……」

「マストカ、あんたの気持ちが本物だってことは分かったわ。あんた達は本気で愛し合ってた。でも、身を引くのも愛なのよ。あんたは引き際を間違えた。ただそれだけだわ。さぁ、神様に謝って。心を込めて謝罪すれば、モンテール神だって許してくれるはずよ?」

 エイルが太陽神を示して言う。モンテール神は肩をすくめて、

『ふふ、許すかどうかは分からんが、お前の態度次第では私の気持ちも変わるかもしれんな。腑抜けになったシュナーヘルを見ていると興ざめしたのも事実だな』

 シュナはやはり呆けたままになっている。

 僕は……、

「さぁマストカ! 私も一緒に謝ってあげるから! さあ手を取って!」

 エイルが手を差し伸べて来たが、僕は振り払った。

 エイルが手をおさえて叫ぶ。

「マストカ!? あんたまだ分かってないの!?」


 僕はシュナから離れて立ち上がる。

「ごめん、ごめんよエイル。君が言うことが正しいんだと思う。僕が馬鹿なんだと思う。神々に逆らって本当にどうしようもない愚か者なんだと思う。こんなことやって皆を不幸にして最低な奴だと思う。でも、それでも……!」

 僕はモンテール神に魔法剣を向けた。

「僕は、『古の法』なんて死んでも認めないし、絶対に神なんか崇拝しない……! どんなに脅されても、力を見せつけられても、例え死んだって僕はお前達に従ったりしない!」

 神々に逆らった罰だ? 滅茶苦茶なルールを作っておいて、破ったらこっちのせい? ちゃんとしたルールなら喜んで従うさ!

 崇拝する価値のない神に従うつもりはない。

 僕は日本人だ! 『信仰の自由』の国で暮らす人間だ! 何を信じるも信じないも僕自身が選ぶ! 弱い人間を救わない神なんて滅んでしまえばいいんだ!


 モンテール神が不愉快極まりないと言った顔になった。

『……我ら神々は人間の信仰心を感じ取ることができる。そしてお前からは全く信仰心を感じないなマストカよ。どうやらその言葉は本心のようだな』

 モンテール神が指を鳴らすとアルヘイムの剣が光を放った。

『お前の剣に加護を与えた。マストカの『星空の剣』に対抗出来るだろう。異教の神々の子孫であるクノム人のお前を受け入れた恩を今返すのだ』

「……承知いたしました」

 アルヘイムと僕が再び向かい合った。

 今度こそ、戦いの火ぶたが切って落とされた。


繰り返しますが、作者の宗教観と主人公の宗教観は違います(一応)

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