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マストカ・タルクス55『北部国境地帯』の話

人間は弱いが守護している神は強く、魔族は強いが守護している神は弱いという設定です。

 冒険者はまともな死に方をしない。そんなことは常識だ。

 墓が作られるだけ大分幸運らしい。龍族の炎を食らって消し炭になったり、鬼族に骨ごと食われたり、精霊族に石に変えられたり、小人族に崖から突き落とされて行方不明になったり、とにかくろくな死に方をしない。

 それを承知で命知らずの冒険をする。だから冒険者はどこの国でも尊敬され、差別されるのかも知れない。



 カイバルの埋葬が終わった頃にはバルビヌスも食事を終えて元気になっていた。

「ふん、さて、エリアステールとの国境はまだ遠い。俺の背中に乗れ。走れば明日中には着くはずだ」

 シュナがバルビヌスに乗ったが、僕は少し躊躇った。

「若殿? 何をしているんですか? 早くしてください」とシュナ。

「おい俺の話が聞こえなかったか!? さっさと乗らんと食うぞ!」とバルビヌス。

 僕も背中に乗った。バルビヌスだって助けてくれた仲間なのに、自分のつくづく自分の偽善が嫌になる。

「GUOOOOOOO! 行くぞ! しっかり掴まれよ!」

 バルビヌスが爆走し始めた。広大な草原がものすごい勢いで後方へと流れていく。

「若殿、帝都に飛ばしていた『使い魔』が情報を持ちかえってますわ。聞きたいですか?」

「え、うん。もちろん」

「分かりました。では話しますね……」


 シュナの話はこうだ。

 マムール州で僕達と遭遇した後、エリアステールの神兵団はどんどん南下していきマムール州を越えて隣の『カルターン州』に入った。

 そこで態勢を立て直したアラトア神兵団と激突した。この戦いにはアラトア帝国内に住む魔族達が崇拝する神々も参戦したことで今度はエリアステール側が後退を余儀なくされた。

『汚らわしい魔族神にまで力を借りるとは恥を知れ!』とアレクタール。

『何の話だ? 攻め込んできた貴様らを恐れて魔族神達が『自主的に』参戦しただけだ。私は知らなかったし、魔族神どもが何をしていようが私は興味もない』とモンテール。

 神々が膠着すると、すぐに人間達の戦争に移った。

 神々と同時に出陣していたエリアステール軍が遅れて国境を越えた。アラトア帝国軍はマムール州と帝都の近くの2か所に駐屯しているので、まずは北部国境警備隊がエリアステール軍と激突した。

 エリアステール軍2万に対して国境警備隊は4000だったので劣勢だったが、山岳地帯のマムール州北部でゲリラ戦法を用いたのでエリアステール軍も苦戦を強いられた。

 その隙に帝都から帝国軍約2万が出陣した。マムール州は北部以外は平原なので、そこに布陣して警備隊を突破してきた敵を待ち構える手はずらしい。

 なんですぐに警備隊に加勢しないのだろうと思ったら、シュナが『警備隊の将軍は身分が低く、国軍は貴族が中心だからです』と教えてくれた。



「……以上が現在の状況ですわ。国境警備隊とエリアステール軍はここからもう少し西の方で戦っているそうです。そっちを避けて国境を越えましょう」

「そっか……じゃあタルクス家はどうなってるんだ?」

「そうですね……」


 父上は『体調不良』と言ってずっと家に引き籠っているらしい。

 母上が代わりにカートラッド宮殿に通ってあれこれ活躍しているそうだった。周りの貴族達からは『家を守る烈女(信念を貫く激しい女性)』だと褒めたたえているらしい。

「マストカの首はまだなのか? もしや息子が逃げるための時間稼ぎをしているのではあるまいな?」

 皇帝にそう言われると真っ青になる執事を横に母上が毅然と言った。

「お言葉ですが皇帝陛下、陛下はいつエリアステール王の首を臣民にお見せいただけるのでしょうか?」

 大貴族達が青ざめて叫んだ。

「口を慎め! 陛下に対してなんと無礼な!」

「いいえ黙りません! 自分が出来ないことを臣下に強制するのは間違ったことです! 陛下は私の言葉が間違っていると思いますか!?」

「おのれ女の分際で! 不敬罪で貴様を監獄に……」

 皇帝が遮った。

「やめよ。ニニメ殿の言葉は正しい。つまりはタルクス家が放った刺客をマストカと魔女が全て倒してしまっているというわけだな?」

「は! ですが我らには最強の切り札がこざいます! 必ずや近々2人の首を献上いたします!」

 そこで皇帝がふと、哀れんだ顔になった言った。

「……素晴らしい、強力な魔族や経験豊富な冒険者を倒したのか……恐らく私の部下だったなら宰相の地位に登れたことだろう。息子の才能に鼻が高いだろうニニメ殿?」

 母上は無表情で、

「マストカはすでに私の息子ではありません。奴は我が国の反逆者です」

「そうか、そうだな……変なことを言ってしまってすまない。許してくれ」

「許すもなにも、お許しを乞うのは私の方でございます。無礼な言葉の数々、どうかお許しください」

「はは、気にするな。……自分が命令しておいて矛盾しているが、残酷なことをした。本来なら他の者に任せるべきだった」

「いえ、むしろ汚名を返上するチャンスを与えていただき感謝しております。必ずや裏切り者の首をここに」

「ああ、期待しているぞ」

 母上は一礼して宮殿を出て行った。


 ぐんぐんバルビヌスは走っていく。どんどん北の方角に山が見えて来た。

 北部国境に跨る『アラート山』だ。もうすぐエリアステールの土地に入れる。

「あの、シュナ、その……エイルが何してるか分かる?」

 シュナがネガティブな反応をするんじゃないかと怖かったが、彼女はニコニコして、

「やっぱり気になりますか?」

「うん……エイルを振ったことになるわけだし、従妹だからやっぱり気になるよ……」

「そう言うと思って『使い魔』に調べるよう命じておりましたわ。ですがエイル殿を探す前に私がピンチになってしまったので帰還してしまいました。さっき再度飛ばしましたが、エイル殿はまだ見つけられてませんわ」

「見つけられてない? どういうこと?」

「分かりませんが、恐らく神殿の奥に居るのでしょう。今は戦争中ですからね。神々に祈っているのかもしれません」

 なるほど、確かにエイルは巫女だから今かなり忙しそうだ。


 バルビヌスが突然足を止めた。

「うわ!? いきなりどうしたの!?」と僕。

「あれを見ろ」

 バルビヌスが前方を指さした。

 そこは山の麓の平原で、その中にポツンと大きな石の柱が立っていた。

「あれは『第10次エリアステール戦役』で戦死した兵士達の慰霊碑だ。以来あの石柱がエリアステールとアラトアの神々の国境線になっているらしい。あくまで神々の話で人間は気にしてないがな」

 アラート山はこの石柱の向こう側にある。むしろ僕達にとってはアラトアとサリバン族の領域を分けている目印に思えた。

「神々は鬼族のことを特に気にしてませんので、サリバン族の守護神はどうしてるんですの?」

 シュナが聞くとバルビヌスがため息を吐いて、

「我らが崇める神々は残念ながら弱い。魔族の神々はえてして人間の神々より弱いのだ。だから我らは辺境や『魔界』に引き籠っていると言える。サリバン族の守護神は大昔の戦いで負傷してから一度も降臨していない。だからアテにならんのだ。神官職も遥か昔に廃止してしまっている」

 へぇ……『バラートアラトーア』では確か『魔族は神々に守護されてない』と書かれてたはずだけど、史実はちょっと違うんだなぁ。


「さて、これで国境を越えられる。越えてしまえばもうアラトアの神々は追いかけてはこれなくなる。もう安心していいぞ」

 石柱に近づいてバルビヌスが言う。僕が苦笑いして、

「普通に国境を越えて追いかけてきそうだけど……」

「はん、今回の戦争もどうせ引き分けで終わるだろう。いつものことだ。両国とも相手を滅ぼすまで戦おうなどという気はない。適当な所でけりをつけて終わりだ。エリアステールもアラトアも『アルナイ半島』全土を統治出来る国力はないからな」

「サリバン族のあなたが言うと説得がありますわね」とシュナ。

「ああ、ただお前達はここを越えなければ生き残ることは出来ん。ほら、もたもたしてないで早くしろ。今夜は俺の村に泊っていくがいい、サリバーン王もきっと喜ぶだろう」

「前回のリベンジがしたいとか言わないよね……?」と僕。

「そうなったら説得してみるがいい、俺の時のようにな。面倒だから翻訳はせんぞ」

 翻訳なかったらどうやって説得するじゃい!


 僕達が石柱を越えようとすると、柱の影から人影が出てきて行く手を遮った。

「……これが最終警告だよマストカ。ここを越えたら本当にあんたは裏切り者になる。これは太陽神モンテールの忠告、もちろんシュナーヘルにも言ってるからね?」

 僕が見覚えのある人影に向かって言った。

「神殿でお祈りしなくていいのか? エイル」

 シュナも膝をついて敬礼してから、

「こんばんわですわエイル殿、……それとアルヘイム」

「え!?」


 シュナの言葉に石柱の影からもう一人、アルヘイムが出て来た。

「……マストカ様、剣を納めてくだされ。そして今すぐ帝都へ帰るのです。これが最終警告、本当の最終警告なのですぞ……」

 僕の師匠である老剣士は今まで見たことないほど真剣な顔で告げた。

 僕は頭を振って落着きを取り戻した。

「……もう僕はアラトア人でもなければ貴族でもない。かしこまった言葉遣いをする必要はないよアルヘイム」

「いいえ、あなたは確かにマストカ様です。誰が何と言おうが、私の友人の息子にして剣の弟子であるマストカ・タルクス様なのですぞ……」

 月明かりの下、悲しそうなアルヘイムが剣を抜いた。


バルビヌスの『石碑がアラトアとエリアス―テルの神々の国境線になっている。人間達は気にしてないがな』というセリフですが、両国の王が決めている境界線と神々が決めている境界線は一致していないということです。王達は『アラート山はアラトアの勢力圏』と決めていますが、神々は『アラート山はエリアステールの領域』としています。どっちにしろアラート山(マムール州全域)はどちらの王も神も支配力が及んでいない空白地帯なので、あくまで形式的な話ですが。アラート山は実質的にはサリバン族(とその神)の実行支配地域です。

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