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マストカ・タルクス53『アラトア神話』VS『エリアステール神話』の話

 アラトアとエリアステールの神々が軍勢を動かしたということは、自動的に両国の人間達も軍隊を動かさざるを得なくなるということだ。

 モンテール神殿ではすでに神官長から神の言葉が伝えられていた。

『我は軍神マヨールスである! すぐさまアラトア軍を動かしマムール州に送るのだ!』

 神殿に避難していた皇帝が片膝をついて言った。

「軍神よ! 今帝都でテール人の神が暴れております! それを鎮めなければ軍は動かせません!」

 マストカ討伐の命令を出した後、今度は帝都中に建てられたクフラース神の石像が動き出して暴れ始めていたのだ。

『あれはクフラース神の分身にすぎん、今さっき退治したぞ。それより裏切り者は今どこにいるのだ!? テール人の神々が妨害していて我々では探せんぞ!』

「先ほど、タルクス家に協力している『耳長族』から連絡が来たそうです。連中がいる場所が分かりました」

 皇帝が地図を献上した。地図には『マムール州』のある場所に点が書かれていた。

『でかした。すぐにそちらに我が兵を送るぞ。耳長族にも出来る限り足止めせよと伝えよ』

「ははー!」



「あー、とりあえず用がないならもう行っていいよね? 僕達急いでるから」

 そう言って行こうとしたらアハーマが足にすがりついてきた。

「待っておねがい~! このまま行かせちゃったら私の責任になっちゃうわ~ん! お願いだから私のためにもアラトアに戻って~ん!」

「いや無理に決まってるじゃん」と僕。

「迫害には慣れてるでしょ? あなたたちは賢いから別の国でもやっていけますわよ」とシュナ。

「アハーマよ、戦士なら潔くせい! 自害が怖いなら俺が代わりにやってやってもいいぞ!」とバルビヌス。

「私は戦士じゃないわよ~ん! 嫌よ~私は死にたくないから戻って~!」

 しばらくなんとか止めようとしていたが、僕達が聞く耳持たなかったのでさすがに諦めたらしい。

「……分かったわぁ。こうなったら私もエリアステールに連れてってぇ! このまま帰っても私皇帝に殺されちゃうもの! ほとぼりが冷めるまでエリアステールに匿ってもらうわ!」

「えぇ……バランの街はどうするんだよ? 耳長族やライクル達は困るんじゃないか?」と僕。

「大丈夫よ皆優秀だから。それにこっそり連絡とれるから問題ないわぁ。それよりぃ、心配するべきはどうやって国境を越えるかよん?」

 アハーマが懐から光る石を取り出した。

「これは『魔晶石(魔力を帯びた石)』よん♪ ねぇマストカちゃん、私達『耳長族』が世界中の神々から嫌われつつもどうして滅びないか知ってるかしらん?」

「人間に媚びてるかからじゃないの?」

「それもあるけど~ん、実は私達は神々の眼から隠れる方法を幾つも持っているからよ~。その1つがこれ、『魔晶石の中に隠れる』秘術よ~ん♡」

 シュナが怪しんだ顔で、

「『魔晶石の中に隠れる術』? そんな魔術聞いたことないですわよ」

「そりゃ『秘術』なんだからぁ、私達以外は知らないわよん♡ 神々もまさか魔晶石の中に隠れてるとは思わないから絶対にばれないのん。今回はこの方法を特別に皆にも教えちゃうわ~♡ 私達が隠れた石を食べ物にでも混ぜておけば、鳥が食べて私達を運んでくれるわん。ね、名案でしょ?」

 そう言って鳥かごに入った鳥と餌を取り出した。

「えぇ……それって大丈夫なの?」と僕。

「疑う気持ちは分かるわ~ん。でも私は門外不出の一族の秘術をあなた達に教えたのよん? 超一流のシュナーヘルちゃんも知らない術なのは確かでしょ? ちょっとは私の言葉も信じて欲しいんだけどぉ、ずっと嘘つき扱いは私だって落ち込んじゃうわ~。それにあなた達には選択肢はないはずよん? もうすぐ神々の軍団は来てしまうわん? 人間が神々より早く移動出来ると本気で思ってるわけないでしょん?」

「う……確かに……」 

 バルビヌスを見ると頷いた。どうやら僕達に選択肢は無さそうだ。

 だけどシュナを見るとまだ全く納得していないという顔をしていた。

「……信じられませんわ」

「ええ~!? なんでよ~ん!? 秘術まで教えたのにぃ!? じゃあどうしたら信じてくれるのよ~ん!?」

「あなたがアハーマである限り不可能ですわ」

 身も蓋もない言い方にアハーマはお手上げになってしまった。シュナがそんな彼女の顔の前に手をかざす。

「……仕方ありません、私のとっておきの魔法を使いましょう。実は私は『相手の嘘を見抜く魔法』が使えるのです。それであなたが嘘を吐いているかどうか判断させてもらいますわ……」

 なにやら小声でブツブツと唱え始めるシュナ。

 アハーマが困り顔で、

「えっとぉ、その魔法はどうやって嘘を判断するのかしらん? あんまり怖い方法だったら遠慮したいんだけどぉ……」


 シュナの手が光り始め……いきなり消えた。

『!?』

 僕が気づいた時には、すでにシュナの頭に光る矢が突き刺さっていた。

『ドサッ』とシュナが倒れると同時に無数の光の矢が降り注ぐ。僕とバルビヌスの身体に矢が刺さると、手足が麻痺して動けなくなってしまった。

「な、なんだこれは!?」

『……よくやったアハーマよ。よく我々が来るまで時間を稼いでくれた』

 空から光り輝く騎兵が降臨してきた。アハーマがすぐに膝をついて、

「光栄にこざいますマヨールス神、我ら『アハーマ族』はアラトアの神々の忠実な従僕でございますわ」

「な!? アハーマ! やっぱり嘘だったのか!?」

 僕が叫ぶとアハーマが悪戯っぽい笑顔を浮かべて、

「ごめんなさいね♡ マストカちゃん達を連れ帰らないと私達が滅ぼされちゃうものねん。でも大丈夫よん、神々もあなた達をいきなり殺すほど冷酷じゃないはずよん、根拠はないけどね♡」

『くくく、確かにそうだな。私は若殿を決して殺したりしませんわ……』

 いきなりマヨールス神がアハーマの首元を掴んで持ち上げた。驚いて目をぱちくりさせるアハーマ。

 神の顔がみるみる変わっていき……シュナになった。

「ひぃ!? ま、まさか幻術!?」とアハーマ。

「これぞ『嘘を吐いてるかどうか見抜く魔法』ですわ。さて、私達を騙そうとした罪は重いですわよアハーマ……」

 シュナの眼がギラギラ光り始めてアハーマが泣きながら懇願した。

「ごめんなさぁいっ! だってこうするしかなかったんですも~ん! バルちゃんが裏切っちゃったら力ずくも出来なくなったんですも~ん! お願い! なんでもするから殺さないで~ん!」

 地面に落下した後ひたすら謝り倒し足にキスしまくるアハーマ。プライドも糞もあったものじゃない。

 シュナは呆れ顔で、

「……はぁ、なんだか殺すのも馬鹿馬鹿しくなってきたので、暫くここに入っててくださいね」

 シュナが『風のタコ壺』を取り出して、中にアハーマを吸い込んで蓋をした。

『うえ~ん! なにこれ~!? 出してよ~ん! 暗いしなんか臭いわ~! 可憐な乙女をこんな所に閉じ込めるなんていくらなんでも酷すぎるわよ~!』

「黙れ」

 シュナの一言で無言になった。


 タコ壺をしまってからシュナが言った。

「さて、随分足止めを受けてしまいましたわ。先を急ぎましょう、神々の軍勢がそろそろ来るかもしれ……」

 ふとそこで、地平線の彼方が光り始めていることに気づいた。最初は夜明けかと思ったが、方角がおかしい。どんどん風が強くなり、無数の光がこちらに向かって飛んでくるではないか。

「あれは……いけない! 避けてください!」

 光の矢が飛来して僕達の足元で爆裂した。

 ドゴォンッ!

 爆発共に土煙が吹きあがる。さらに次の攻撃が飛んでくるのが見えた!

「俺の背に掴まれ!」

 バルビヌスが叫んで、僕とシュナが彼女の背中に掴まった。

 鬼族と戦争した時に実際に見たが、彼らは馬と同じ速さで走ることが出来る。野太い咆哮と共にバルビヌスがダッシュした!

「UGOOOOOOOOOOOO!!!」

 4メートルはあろうかという巨体からは想像も出来ない身軽さで猛然と地面を駆ける。その横を無数の光の矢が通り抜けて爆裂する。

『愚かな鬼族め! 罪人を庇えば貴様らも滅ぼすぞ!』

 後方から馬に乗った将軍が槍を構えて追ってきた。さっきシュナが見せた幻覚と同じ顔をしていた。

 ということはこいつが本物の『軍神マヨールス』だ。

「GRHAHAHA! 傲慢な人間の神よ! 我ら魔族が大人しく従うと思ったか!? 祖先の恨みを忘れておらんぞ!」

 軍神に従う天界の弓兵達が大量の矢を放ってくる。だがバルビヌスはジグザグに飛びながら躱した。

『何をしているのだ!? あの豚を爆殺せよ!』と軍神。

「ゲハハハ! 天上界の兵士は下手だな! もうちょっと練習してから来い!」


 すると僕達が走っている方向、つまりエリアステールの方向の地平線も光りだした。アラトアの神々と同じ光る軍勢がこちらに向かって走ってくる。

 エリアステールの神兵団だ!

『我が名は軍神クフラース! アラトアのマヨールス神よ、久々にお相手いたそうではないか!』

 先頭を走る空飛ぶ馬に乗った光り輝く『クフラース神』が叫ぶ。僕達の後を走るマヨールス神が怒りの表情になった。

『不戦の協定を忘れたか!? しかもここはまだ我らの領域だぞ!』

『領域を決めたのはアレクタール神とモンテール神だ、私ではない! 弓を構えよ!』

 エリアステール神話の弓兵達が一斉に矢を構えた。その矢の先に居る僕達が真っ青になって叫ぶ。

「待って! 撃たないで!」

『撃てぇええ!』

 前方から大量の光の矢が飛んできた! 

 バルビヌスが叫ぶ。

『UGOOOOOOOOO!! 絶対に離れるなよ!』

 前からエリアステール軍の矢、後ろからアラトア軍の矢が飛んでくる中をバルビヌスが避けながら走る! 走る!

 走る!!

 ある時は飛び、ある時は右に方向転換し、ある時は左に直角に飛んで躱す! 僕とシュナはまるで振り子みたいに滅茶苦茶に振り回されながら必死に矢を避けた。

『マストカとシュナーヘルよ! なんとか矢を避けてこっちに来い! 国境を越えればアラトアの神々はもう手が出せんぞ!』とクフラース神。

「だったら撃つなよ! うわあああああああああ!?」

 手が滑って空中に放り出されそうになった所をシュナが僕の手を掴んで引き戻した。

「若殿、今の状態ではらちがあきません、1つ賭けを思い付きましたわ……若殿は私を支えてくれますか?」

 シュナがこんな状況でも静かに言った。僕は思った。

 今までずっとシュナに頼って来たけど、頼られるのは初めてだと。

 僕は頷いて、

「分かった、僕が支えるよ。だから安心して」

「……ありがとうございます若殿、それでは行きますわよ!」

 シュナがバルビヌスから片手を放し、代わりに僕が彼女の身体をがっちりホールドした。

 彼女は飛び交う矢を睨み、手を出して、呟く。

「私の魔族の身体よ、その真価を見せてちょうだい……!」

 ビュウウウウゥッ!

 前方から飛んできた1本の光の矢に狙いを定め、横から掴んだ!

 ジュウウウウッ!

「ぐぅ……!」

 光の矢の『聖なる力』にシュナの掌が焼かれる。だが離さず、僕がすぐに魔法の袋から弓を取り出した。

「若殿、弓を構えてください。私が狙って撃ちますわ。バルビヌス! 私が良いと言うまで真っすぐ走ってください!」

「ゲハハハ! 承知した! はやく済ませろ!」

 バルビヌスがジグザグをやめてまっすぐ走り出す。滅茶苦茶に矢を撃っていた歩兵達が一斉にこちらを狙い始める。

『む!? 投石器を出せ! シュナーヘル達を守れ!』

 クフラース神の命令で空飛ぶ投石器が用意され、黄金の輝きを放つ岩が大量に飛んできた。

『ぬぅ!? 我らも投石器を出せ!』

 マヨールス神の命令で投石器が出てきてやはり黄金の岩を遠くのエリアステールの神兵達に放つ!

 僕が片手で弓を構え、シュナも片手で矢をつがえて狙いをつける。

 大量の岩や破片が降り注ぐ中、シュナは待った。投石器に注意がそれ、一瞬別の方向をマヨールス神が見たのを察知してシュナが矢を放った!

 ドガァッン!

『GAAAA!?』

 見事『光の矢』がマヨールス神の顔に命中した! 思わず落馬し転げまわりながら後方へと離れていく軍神。

『今だ! 突撃ぃ!』

 アラトアの神兵達はあからさまに動揺した。足並みが乱れた所にエリアステールの神兵が僕達の横をすり抜けて津波のように突進した。

『やばい! 退け退け!』

 アラトアの軍勢が撤退し始める。すぐにクフラース神が追撃を命じた。

『敵を追え! そのままサンマルテールの街まで攻め入りモンテール神殿にアレクタール神の像を置くのだ!』

 バルビヌスが停止し、目の前にクフラース神が降り立った。

『ご苦労。確か貴族の少年と魔術師の2人だと聞いていたが、鬼も仲間に加わったのか?』

 バルビヌスが僕達を地面に降ろしてから、

「我が名はサリバン族の誇り高き戦士バルビヌス・アッパブブス、グスターレー。お初にお目にかかるテール人の神よ」

『ほう、聞いたことあるぞ。アラート山に住んでいる鬼達の中で最強の戦士だったな? 我々はこれからアラトアの帝都へ進軍する。すまんがお前達は自力で国境を越えてくれ。我々も全軍を動かさなければならんのでな』

 そう言ってクフラース神と配下の軍勢は空を飛んで遠くへと去って行った。

 ……生きてるのが不思議な気分だ。

アハーマは『♡』や『☆』が少ないので比較的マジメモードです。

バルビヌスが言っている『祖先の恨み』は、アラトア帝国とサリバン族が同盟を結ぶ前に何度か戦った時のことを言っています(ちなみにエリアステール王国とも何度も戦ってます)

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