マストカ・タルクス52『マムール州』の平原で出会った2人の魔族の話
主人公の我儘で大事件に発展してます。
翌朝、シュナが帝都に置いておいた『使い魔』が持ってきた情報を教えてくれた。帝都を脱出する時にタルクス家の動きを探るために放っておいたのだ。
すっげぇ便利だな『使い魔』、僕も魔法使いになりたいなぁ。
翌朝、眠りこけていた帝都中の人間達が一斉に目を覚ました。
僕がシュナと一緒に脱走したことは『モンテール神殿』の神官長の口から語られすぐに皇帝の耳に入ったそうだ。
父上とエイルは家に引き籠ってしまい、『カートラッド宮殿』では皇帝陛下が怒り狂った。
「我が国の、しかも大貴族の跡継ぎが裏切っただと!? すぐに追って裏切り者をとらえよ!」
貴族や神官達も色々と言い合った。
「これは責任問題ですぞ、オルバース候を逮捕すべきでは……?」
「マストカはともかく、シュナーヘルは我が国の軍事機密を知っているぞ、なんとかしないとエリアステールに漏れてしまう!」
「すぐにタルクス家を裁判にかけるべきだ。もし脱走を止めなかったならこれは国家反逆罪だぞ!」
諸侯は父上の責任を追及しようとしていた。
その時だ、皆が集まっていた『謁見の間』の扉が突然開かれた。
「何者だ!? ここは許可無き者は立ち入り禁止だ……ぎゃあ!?」
衛兵が捕まえようとしたが、全員殴り飛ばされて気絶した。
皇帝が驚いた。
「む、お前はオルバースの友人の……」
「ご無礼をお許し下れ、アルヘイムでございます。そしてこちらのご婦人はニニメ・タルクス様です」
アルヘイムと母上が敬礼した。貴族と神官達がどよめく。
「ふむ、一体何の用だ?」と皇帝。
母上がきっと眉を吊り上げて堂々と言った。
「誤解を解きに参上いたしました。我々はマストカとシュナーヘルが逃げないように監視しておりましたが、魔女めの魔術にまんまと眠らされて取り逃がしてしまいました。我らの落ち度ではありますが、決して逃亡に協力したわけではありません」
「……信じられんぞ。それに眠っていたのはお前達だけではない、帝都全体が眠っていた。あんなことシュナーヘルが出来るわけがない。エリアステールが背後に居るのだ。だから奴らはそこを亡命先に選んだのだ」
「そ、それは本当ですか……? 我々は決してテール人と協力しておりません、神々に誓って申し上げます」
「だから言葉だけでは信じられんと言っておるのだ。お前達は私の忠実な部下である証を見せよ」
母上の額から一筋の汗が流れた。だが無表情を崩さずに宣言した。
「では、タルクス家が全力でマストカとシュナーヘルを殺しましょう。そして必ずエリアステールへの亡命を阻止してみせます」
皇帝は満足そうな顔になって、
「そうだ、その答えが聞きたかった。全力で殺せ。考えれる限りの手段を講じて必ず亡命前に殺せ。分かったな? それまではタルクス家の処分は保留しよう」
『ははー!』
深々と敬礼して2人は出て行った。
僕とシュナはすでにアラトア北部の『マムール州』に入っていた。
「……タルクス家が全力を挙げて私達を追って来ていますわ。まさか自分の家族と戦わなければならないとは思いませんでしたか?」
僕達は何もない草原のど真ん中で、転がっていた丸太を椅子にして火を焚いていた。
「……いや、覚悟してたさ、て言ったら嘘になるかな……本当に母上が僕達を殺すって言ったって聞くと、やっぱり少しはへこむよ……」
パチパチと火花が爆ぜる。さっき草原を走っていた羊の群れが居たので、1匹捕まえて潰して丸焼きにしていた。
「そんなものですわ、人生なんて。私も計画通りに行ったことが一度もありませんもの。いつもいつも失敗の連続、よく800年も生きていたと思いますわ……」
僕が焼けた羊から肉がついた肋骨を引っぺがしてかぶりつきながら、
「はは、まるでお婆ちゃんだなシュナは。もう焼けたみたいだし食べなよ」
「女性に向かって失礼な人ですわね……なら若殿はまるで子供ですわね、我儘放題でお姉さんに甘えてばっかりの」
「ごめんごめん。てか話変わるけど、香辛料とか持ってない? やっぱり味付けがないと美味しくないんだよね……」
「……貴族を辞めたんじゃなかったんですか?」
シュナが呆れてから笑った。僕もつられて笑った。
でもシュナは香辛料を持っていなかった。
お腹を満たした後、星空を眺めながら草原で横になった。
「綺麗だね……」と僕。
「そうですね……」とシュナ。
この夜空のために、僕は沢山の代償を支払ってしまった。
でも後悔はなかった。
ザリ……ザリ……。
何者かの足音がして、僕とシュナは飛び上がって構えた。
「誰だ!?」
月明かりの中、いつの間にか妙に大きな影が近づいてきていた。3メートル以上あるかもしれない。そしてその大きな影から小さな影が飛び降りた。
「私達はタルクス家から依頼を受けた者よ~ん♡」
「さきの戦い以来だな、マストカにシュナーヘル。このような形で再会するとは思わなかったぞ」
聞き覚えのある媚び媚びの甘ったるい声と野太く獰猛な声。
シュナが眼を見開いて言った。
「アハーマにバルビヌス……なぜ貴女達がここに……?」
クネクネしている小さい影は『バラン』を支配する『耳長族』の女族長アハーマ、巨大な影は『マムール州』の『アラート山』中に住む『サリバン族』という『鬼族』の最強の女戦士バルビヌスだった。
「タルクス家の依頼できたの~♡ マストカちゃんもシュナーヘルちゃんも強すぎるからん、私達が適任ってことらしいわ~ん♪」とアハーマ。
「……やっぱり僕達を殺しに来たってわけか……」
「とりあえずこちらの話を聞くがいい」
「うわ!? あ!」
僕が『星空の剣』の切っ先を向けると、バルビヌスが剣の刃を掴んで奪い取った。
剣はそのまま放り捨てられた。
「我々はお前達と話し合いに来たのだ。殺し合うだけが戦争ではない、戦わずして勝つことが最上の戦術だ」とバルビヌス。
「確かにその通りですが、それを鬼族の戦士が言うのですか……?」とシュナ。
「戦士は軽々しく斧を握らぬ。戦いは神聖な物だ。むやみやたらに斧を握るのは下郎のすることよ。戦士の使命は生きて部族と神々を守ることだからな。だが、そんな我らも怒りに任せて戦いに身をゆだねなければならない時がある。それは戦士としての誇りを傷つけられた時だ……」
バルビヌスが斧を持って僕の前に突き出した。
「俺はお前を一流の戦士だと認めた。そんなお前が己の一族と神々を裏切ったことに俺は腸が煮えくり返りそうになっている。これではお前を認めた俺まで愚か者ではないか。例え種族や性別が違えども俺とお前は同じ戦士だ。だから俺は貴様にその真意を聞きにきたのだ」
横で聞いていたアハーマが黄色い声を上げてバルビヌスに抱き着いた。
「やだ~ん♡ バルちゃんカッコイイわ~ん♡ 同性じゃなかったら絶対誘惑してたのに本当世の中って残酷だわ~ん♡」
「えぇい! 離せ! クネクネしおって気持ち悪い奴め! 俺は世辞やおべっかが死ぬほど嫌いなのだ! 血みどろの癖に香水で隠しおって嘘つき耳長族が! 寄るな触るな!」
「え、うっそ~ん! なんでわかったの~? やっぱりすごいはバルちゃん♡ 女同士だって愛は育まれるのよ~ん♡♡♡」
腕に纏わりつくアハーマをバルビヌスが必死に剥がそうとしていた。結構力あるんだなアハーマは。
「……ふざけて時間稼ぎをするつもりですの? そういうしょっぱい作戦ならもう行かせてもらいますわよ?」
シュナが言うとすぐにおふざけが終了した。
「マストカよ答えろ。お前はなぜ一族と祖国と祖先たる神々を裏切った!? 答え次第によっては今この場で『神聖試合』をしてもらうぞ!」
バルビヌスはの眼は夜の平原でも赤く光っていた。
僕は答えた。
「……僕とシュナは愛し合ってるんだ。他の女性は愛せないんだ、でも『古の法』はそれを許してくれない。だからエリアステールに亡命することにした。それだけだ」
「……つまり貴様の動機は愛ということか?」
「『愛』……まあ、そういうことになるのかな……?」
鬼族の戦士は不思議そうに首をひねった。
「分からん。愛であるなら、なぜお前は愛する家族を裏切るのだ? オルバースはお前を愛していたのではないのか? お前の母親にも会ったが、お腹を痛めて産んだ息子を殺さなければならないと言っていたぞ。お前はなぜそんな冷酷なことが出来るのだ? 俺は女としてお前の行動が理解出来ない。そしてやはりお前の言葉も理解出来なかった。……やはりこちらで解決するしかなさそうだな」
バルビヌスが斧を握った。僕は鬼の後方に投げられた剣を見る。
僕は言った。
「……鬼族最高の戦士に聞きたい。『古の法』をどう思うんだ?」
バルビヌスは眉をひそめて、
「うん? 『どう思う』とはどういう意味だ? 『古の法』は『古の法』でしかない。どの神話にもどの種族にも必ず『古の法』がある。この世の全ての生きとし生ける物どもが守らなければならない最も神聖な法だ。それがどうした?」
『古の法』は何もアラトアにだけあるものではない。この世界の魔族を含むすべての生物に存在するものなのだ。
「鬼族の『古の法』でも貴族と外国の魔術師の結婚を禁じてるのか?」
「鬼族に『貴族』と呼ばれる身分は存在しない。『戦士』が一番近いがな。『戦士』も下賤な身分との結婚は禁止されているが、そもそも結婚しようとは思わん。鬼族にとって『下賤』とは『弱い』ことだ。戦士は強い者しか認めん、逆に言えば強ければそいつが何者かは関係ない」
バルビヌスはそこで地面に座った。
「『古の法』は定めた神々によって中身が変わる。サリバン族の神々は異種族や魔術師を嫌ってはいない。だがアラトアの神々は嫌っている、それだけのことだ」
僕は叫んだ。
「そんなの神々の都合じゃないか! おかしいって思わないのか!? 僕はシュナが好きなんだ! 神々がどう考えてようがこれは僕の意思だ! 誰かにとやかく言われる筋合いはない!」
「愚かな……まさしく現実が見えぬとはこれよ。今お前は神々から逃れるためにエリアステールに逃げているのだろう? しかもテール人の神に助けを得てだ。もしテール人の神が助けてくれなかったらお前達は今頃どうなっていたと思っているのだ?」
ド正論すぎて言い返せなかった。戦士の癖に頭も良いとか卑怯だろ……。
「力がない癖に我儘を言うからこうなる。良い教訓になっただろう? 神々の軍勢も迫ってきているだろう、今ならまだ間に合うぞ。我々がとりなしてやるから謝罪し、シュナーヘルを諦めるのだ。そうでなければ確実に死ぬぞ、お前達は生き残っても、タルクス家の人間は確実に死ぬ。そんなのは戦士として相応しい死に方ではない。死ぬのも生きるのも、もっと多くの人々を笑顔にしてこそ最良の戦士だ」
バルビヌスの赤い眼は、おっかない見た目に反してどこか優しかった。
この鬼族の女戦士はどこまで爽やかな奴だ。本気で殺そうとした相手を今は本気で心配している。こんな堂々と僕も生きてみたかった。
だからこそ、彼女に認められた『戦士』だからこそ、僕はこう答えるのだ。
「僕はもう貴族もアラトア人もやめたんだ。いや、元々そうじゃなかった。ただ忘れていただけなんだ。何一つこの世界で所有していない、この世界の何者でもない僕が唯一手に入れたもの、それがシュナへの想いだ。それが、それだけが僕の『一族』であり『祖国』であり『祖先たる神々』だ。だから僕はその笑顔のために戦う、それだけだ」
僕は異世界の人間、『救世主』としてこの世界に呼ばれた。
シュナ1人を救えなくて何が『救世主』だ!
バルビヌスとじっと僕は見つめ合った。暫くして鬼の戦士は大笑いした。
「ゲハハハハ! まるで冒険者だなマストカよ! 何もかも捨て去り、ただ愛しい女だけを連れてまだ見ぬ土地を往くか!?」
「言っただろ? 『僕は元々この世界の人間じゃない』ってさ。産まれながらに僕は冒険者なんだよ。今までも、これからもね」
「GRHAHAHAHA! 面白い! お前は本当に面白い奴だ! 我が夫に出来ないのが悔しくてしょうがない! シュナーヘルよお前に嫉妬するぞ! 変な奴だとは思っていたが、暫く見ぬうちにもっと変になっておるわ!」
バルビヌスが振り返ってアハーマに言った。
「という感じなので、俺はこの2人のエリアステール行きに協力することにした。アハーマは仕事を果たすも帰るも自由にするがいい」
アハーマがひっくり返った。
「えぇ!? ちょっと話が違うじゃない!? 私達お金貰ってるのにぃ!」
「ふん、我ら鬼族が金を惜しむとでも思っているのか? 欲しければお前に全部くれてやるわ。俺は自分のやりたいことしかやらん」
「あーん! バルちゃん勝手すぎるわーん! シュナーヘルちゃんお願い説得してよ~ん!」
「私に頼んでどうするんですか……」
「そうなのよねー! ああーん! どうしましょー!?」
アハーマが1人で泣き出してしまった。
すっかり真夜中だ。なんだか風が強まってきた気がする。
アハーマは『バラン』編からそんなに間がありませんが、バルビヌスは『サリバン族』編以来の登場です。美女の姿をして華奢だが狡賢く面の皮が厚いアハーマと、見た目は豚に似た怪物ですが豪快で誇り高く戦士らしい戦士でありながら同時に女であることも捨ててないバルビヌスのコンビは個人的にお気に入りです。シュナーヘルと合わせてハーレムですねマストカは(白目)




