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マストカ・タルクス⑤神殿廃墟の母子の話

 こっちに来てもう15年経つけど、不思議なことに全然ホームシックにならない。

 別に家が嫌いだったわけじゃないけど……なんでだろう、分からない。



 帝都『サンマルテール』は7つの丘の上に立つ大きな街だ。

 7つの丘のうち最も高い丘に太陽神を祀る神殿がある。2番目に高い丘に皇帝の居城が、他の丘の上には貴族の屋敷がある。

 一般市民の家はその丘の斜面や丘と丘の間の平地に広がっている。それらを巨大な城壁が囲んでいるのだ。


「……太陽神の神殿がある『モンテールの丘』には元々この辺りに住んでいた原住民たちの神を祀った神殿がありました。伝承によれば『人間に生贄を要求する神』だったそうです。英雄イヒルナスが太陽神の力を借りて討伐し、原住民達を解放したと伝えられてますわ」

 モンテールの丘は全面が森に覆われている。この丘自体が『聖域』なので人は住んでいない。

 シュナと俺は神殿へと通じる道の入り口に来ていた。

 丘というか、完全に山だ。山の上の神社に通じる参道と言った感じである。

「丘の中腹辺りにその原住民の神殿が残っています。当然廃墟ですわ。最近その廃墟に魔族が棲みついているという話があります。すでに何人もの戦士が剣を折られて殺されているとか。今回若殿にはそれを退治してもらいたいと思いますわ」

 俺がシュナに確認した。

「……もしかして今回も使い魔とか?」

「いやですわ、そんなわけないじゃないですか。今回は本当の本当ですわ」

 むしろそっちの方が良かった……。

「でも、アラトアの聖域に魔族が紛れ込んでるなんて大事件なんじゃないの?」

「大事件? よくあることですわ。弱小な魔族なんて神々はわざわざ相手にしませんですもの」

 マジか……でも圧倒的な力を持ってる神々ならそんなものか。

「さぁ若殿、後は1人でお願いしますね。私はここで待ってますから」

「へーい……」

 俺は1人で明かりを持って丘を登り始めた。


 夜の森の中は酷く不気味だ。

 人間の赤ん坊みたいな声で鳴く鳥、肉食バッタに襲われて悲鳴を上げる小動物、天敵に食べられないために火の粉を吹く甲虫、俺は足を震わせながら草を掻き分けて登る。

 しばらく行くと開けた場所に出た。

 そこは奇妙な石の柱が何本の立っている場所だった。柱は石畳の上にあって、中心には祭壇のようなものが置かれている。それだけで屋根すら見当たらない。

 どうやらここが『原住民の神殿』のようだ。

「アラトアの神殿よりずっとシンプルだなぁ……」

 原住民達は天空神を崇拝していたらしい。だがその神はアラトアの太陽神によって滅ぼされた。今は神殿の跡が残るだけだ。

 俺はなんだかしんみりした気分になって、倒れている柱の1本に座った。

 そこで魔族が現れるのをじっと待った。


 真夜中にさしかかった頃だろうか、森からガサガサと音がして、振り向くと小さな子供を抱っこしている女が現れた。

 女の服装はボロボロの一枚布を体に巻き付けただけという典型的アラトアの一般市民のそれだった。女はゆっくり神殿に近づくと、俺から少し離れた所で子供を降ろして言った。

「あの人がお前のお父さんですよ? さぁ行って抱かれてきなさい」

 当然俺は童貞だから子供なんていない。母親に言われて子供がトコトコこっちに近寄ってきた。

 明らかにおかしい。多分この母子は魔族だ。俺は『星空の剣』の柄に手を掛けた。

 すると子供は驚いて後ろに転び、その時の衝撃で首がとれた。

「!?」

 だけど子供は何事もなかったように首を拾って母親の下に戻った。

「あらあら何やってるの。さあさ、今度こそ抱かれてきなさい」

 母親が子供の首をつけなおしてまた送り出した。ニヤニヤ笑いながらトコトコ近寄ってくる子供を俺は咄嗟に斬ろうとした!


『若殿、ほんの少しの『勇気』を持ってください』

 シュナの言葉脳裏によみがえってハッとした。恐怖心を抱いたらそれこそ魔族の思うつぼだ。

 シュナ、俺に力を貸してくれ……!

 俺は剣を抜かず、手で子供を押し返した。

 子供はまた転び、また首が外れた。血が噴き出して顔にかかって叫びそうになったが、なんとか堪えた。

「あらあらまたですか? 今度こそ抱かれてもらいなさい?」

 子供が戻ってくると母親がまた直してからこちらに向かわせ、俺がそれを押し返すを何度も繰り返す。

 一体何時間経っただろう? ついにしびれをきらしたらしく母親が立ち上がった。

「もう! こうなったら私が直接抱かせますわ!」

 子供を抱えたまま母親が近づいてくる。

 今だ!

 俺はすかさず『星空の剣』を抜いて母親の腕を斬った。

「ぎゃあっ!?」

 子供を落として慌てて逃げようとする母親を追いかけて背中を斬り、倒れたところを馬乗りになって首を斬り落とした。

「はぁ……はぁ……どうだ化け物……!」

 明かりで照らして見ると、母親だと見えていたのは巨大な蜘蛛の怪物だった。振り返って子供を見るとこっちは大きな壺だった。中にはネバネバのトリモチが入っていた。

(なるほど、『星空の剣』が折れなさそうだったからこれで無力化しようとしたのか……)

 まあ、それはともかく……、


 俺はガッツポーズした。

「やった! ついにやったぞ! 自分1人の力で魔族を倒したぞ!」

 しばらく感動の余韻に浸ってから、俺は蜘蛛の死骸に向き直った。

「さて、証拠に足の1本でも持って行こ……」

 その時、『ザザザッ!』という大きな音と共に森全体が揺れ、四方八方から大量の肉食バッタが飛び出してきた!

「うわあああ!?」

 肉食バッタは火を怖がるので明かりを持っている俺を避けて蜘蛛の死骸に群がり始める。

「あ……」

 気づいた時には何かも遅かった。バッタ達が魔物の死骸を綺麗に食い尽くしてしまったので足どころか毛の1本すら残っていなかったのだ。

「……倒した証拠がない」

 俺はしばらくその場に立ち尽くした。

 帰り道、バッタ達は満腹になったのか、襲われる小動物の悲鳴は聞こえなかった。


主人公は普通に強いです。修行パートは割愛で。魔法の先生もついてますが、主人公は一切魔法が使えません(笑)

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