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マストカ・タルクス㊼『現人神ウルハクの奇跡』と『慈雨神ぺルテの町』の話

前回と今回で骨休め的な回です。

『天空の塔』、『アルカーンの鍵』は有名な話らしい。クノム人とお喋りする時にアラトア人がこの話をするとちょっと評価が上がるとか(フェリ談)

 言っても俺が良く話すクノム人ってアルヘイムだけだけどね。

 アルヘイムかぁ……(ため息)ていうかアルヘイム1回もこんな話してくれたことないんだけど(困惑)



 フェリはさらに『ムンディ・アクナ』の話もしてくれた。

 実はドノト(南方)大陸と東方アッスは陸続きで繋がっている。東方からドノトへ陸路で入ろうとすると真っ先にぶつかるのが『ムンディ・アクナ』だ。

 ここは広大な砂漠のど真ん中に『アルトラ河』という運河が流れていて、この河の周りにだけ緑豊かな土地がある。『ムンディ・アクナ』はそのアルトラ河中流域を中心とする『アクニ人』という民族の超大国だ。

 この大国は『現人神』の王に支配されている。アクニ語で『ウルハク(大きな家)』と呼ばれ、人間ではなく神らしい。


 ある時、クノム人の商人が『ムンディ・アクナ』の首都『ベニークティオン』にある王宮に住む『ウルハク』に謁見して聞いた。

「ウルハクは人間ではなく神と聞いております。神は地上でどのような生活をしているのですか?」

 ウルハクはいつも絹のカーテンの後ろに居て顔を見せない。

『人間は肉や魚や野菜を食わなければ身体を壊すが、神は小麦と果物だけで問題ない。むしろ『血の流れる物』は不浄だから神は食べない』

「小麦と果物だけなのですか?」

『そうだ。そして神は常に清いから風呂も水浴びもしない。穢れなき存在だから歯も磨かない、美しいから化粧もしないし、薬も飲まない』

「驚きました、では普段は何をしているのですか?」

『私は常に天上界の神々と会話している。お前の周りにも神々の兵士達が立っているぞ』

 商人が自分の周りを見たが、当然そんなものはいない。彼はなんだか恐ろしくなってきた。

「……それでは、ウルハクは別に欲しい物はないということでしょうか? 私は商人です、世界中の薬や宝石や香辛料に魔術書なんかも扱っておりますが、特に買いたいものはないということでしょうか?」

『当然だ。私は地上を支配する神だぞ? この世の全てを所有しているのに何を買う必要がある?』

 商人はがっかりして帰ろうとした。だが王宮を出ようとしたら神官の1人に呼び止められた。

「ウルハクがお呼びだ、来い」

 不思議に思いながらついて行くと、ウルハクの寝室に案内された。

 カーテンに隠れていないウルハクは骨と皮みたいに痩せて青ざめた青年だった。

 歯は虫歯でほとんど無くなっていて、病気で眼も見えなくなっていた。そして尋常でないくらい臭い。

「ウルハクは今『サーシュ(鎮痛剤)』を切らしているのだ。お前の商品に鎮痛剤はないか?」

 ウルハクの横に居た従者の声はさっき聞いたウルハクの声と同じだった。

「もちろんありますけど……これは一体どういうことでしょうか?」

「ウルハクは人間でありながら神なのだ。だから人間と同じことをしてはいけない、下々の者たちと同じ物は食わないし、同じこともしない。それが我らアクニ人の『古の法』だ。だがそのせいでどうしても病気になってしまうので歴代のウルハクは皆鎮痛剤をいつも飲んでいたのだ」

 商人は呆れかえって、

「なんと馬鹿馬鹿しい『古の法』なのでしょうか……歯もないのでは喋れないじゃないですか。こんなことをする意味があるのでしょうか?」

「ここまでするからこそ、ウルハクには神の力が宿るのだ。商人よ、お前はウルハクが神だと信じてないな?」

 神官がぎろりと睨む。商人は心底馬鹿にした顔で、

「神じゃなくてこれじゃあ死体、いや幽霊ですよ。可哀そうだと同情はしますが、神々しさを感じて涙を流すなんてことはありませんな。その神の力とやらを実際に見せてもらえれば信じますけどね」

「なんと不敬な……! 聖なる神の奇跡はそんな軽々しく見せられるものではない! 賤しい外国の商人ぶせいが口を慎め!」

「ほらやっぱり見せられないじゃないですか! やっぱり神だなんて民衆を騙す嘘なんですよ。そんなお粗末な嘘、アクニ人の農民なら騙されるでしょうが、自由人たるクノム人は騙されませんよ!」

 神官が怖い顔で睨みつけていたが、やれやれとため息を吐いてから言った。

「なら商人よ、特別に選ばせてやろう。熱病にかかって苦しみながら死ぬか、全身が腐って泣き叫びながら死ぬか、あるいは魔族に取り憑かれて狂乱のうちに首を吊って死ぬか……好きな奇跡を選びたまえ」

 商人は青ざめ、しどろもどろになって『そんな奇跡は望んでいない』と言った。

「そうか。かといって他の者にもそんな奇跡を起こすわけにはいかない。だからお前に奇跡を見せることは出来ない。まあどうしても奇跡を見せて欲しくなったらまた来るがいい、ウルハクは拒みも恐れもしない」

 商人は素直に負けを認め、鎮痛剤を売って王宮を去った。


 なんだそれ、とんちかよ……。

「私この話面白くて大好きなんです。若様も面白いと思いませんか?」

 フェリのテンションが高かった。

 俺は別に……ていうかちょっとフェリ趣味悪くない?

 フェリは鼻息荒く、

「若様、もう1つ、もう1つ好きな話があるんです、聞いてくれますか……!?」

「ああ、うん、いいよ……フェリが楽しそうだと俺も楽しいよ……」

 まあ、フェリと打ち解けられてちょっとほっとした。


『ムンディ・アクナ』と『ハリスキーナ』の間には『レーム(荒野の土地)』という地域がある。

『レーム(荒れた土地)』という名前に反してこの地域は肥沃な農業地帯もある。それ以外にも熱砂の砂漠や気温の低い草原、険しい山脈に港町など色々な場所がある。

 なぜ『荒地』呼びなのかと言うと、古代から争いが絶えず『魔界』が土地の大部分を占めているからだ。


 その『レーム』地方のある所に『ペルテアック』という都市国家があった。

 ここには『ぺルテ』という神の神殿がある。サイの頭に人間の身体という姿の神で、嵐を起こしたり恵みの雨を降らせたりするらしい。

 ぺルテ神は元々ペルテアックの住民だけが崇めていたが、周辺の過酷な砂漠に暮らす遊牧民達も崇拝するようになっていた。

「我々は1滴の水すら簡単に手に入りません、ですからぺルテ神の御利益にすがりたいのです」

 ぺルテの神官達は最初、砂漠の民達が神殿にやってくることを嫌がった。

 彼らはいつもぺルテアックの商人達を襲撃する砂漠の強盗だったからだ。だが砂漠の民の長が『二度と襲撃しない』と約束したので渋々許可した。

 この世界では基本、異民族の神を信仰することはほとんどない。非常に珍しかったため『ペルテ神は慈悲深い神』だと噂になり、ハルワー人、クノム人、マカム人、ハルハン人など色々な民族がぺルテ神を崇拝するようになった。

 ぺルテアックはあっという間に国際都市として繁栄し、神殿には莫大な寄付が集まるようになった。


 それから暫くして、ぺルテ神殿の神官長の夢にぺルテ神が降臨した。

『砂漠の民達を今後一切街に入れてはならない。彼らは豊かなペルテアックの街を自分達の物にしようと狙っている。城門を開けば市民は皆殺しにされてしまうぞ』

 神官長は起きると早速国王に相談した。

 だが国王は反対した。

「砂漠の民達は約束を守り本当に商人を襲っていないんだぞ? 我々の方から約束を破るわけにはいかない」

 神官長は『その通りだ』と思って、夢を無視した。

 数日後、神官長の父親にぺルテ神が乗り移った。

『私の警告を無視するな。砂漠の民達を絶対に入れてはならない。次彼らがやってきた時がペルテアックの最後の日になるぞ!』

 神官長は再度国王にぺルテ神の言葉を伝えた。

 だが国王も意見を変えなかった。

「砂漠の民達はすっかり大人しくなった。前の彼らは残虐で無慈悲な奴らだったからな……私の兵士達も彼らと戦わなくて良くなったと喜んでいる。わざわざ争いの原因になるようなことは出来ない」

 すると次の日から大雨になった。街の中を流れる川が洪水になり、沢山の犠牲者が出た。

『ぺルテ神の怒りだ』と住民たちが恐れた。神官達が神殿で祈ると天空から声がした。

『何度も言わせるな、砂漠の民達を追い払うのだ。私はお前達を守りたくて言っているのだ』

 国王はその後街の復興に取り組んだ。だが洪水被害の悲惨さにショックを受け、神官長に言った。

「あれは本当にぺルテ神だったのか? 警告のために信徒に水害を起こすなんて守護神のすることではない。あれは神の名を騙る魔族かもしれない」

 その後、すぐに砂漠の民の長から手紙が来た。

『我々も街の復興をお手伝いしたい』

 国王は感激し、再度神官長に言った。

「やっぱり魔族だ! 砂漠の民達と我々が仲良くするのを妨害しようとしているに違いない! もう二度とあの魔族の話を私にするな! いいな!」

 神官長も『あれは魔族だろう』と思った。


 その夜、神官長の夢にまたぺルテ神が現れて言った。

『散々忠告したのに失望したぞ……。神官長よ、もうお前だけ逃げるのだ。既にお前を街の外の丘の上に移動させてある。そこから見下ろせば私がぺルテ神かどうか嫌でも分かるだろう』

 神官長が起きると、本当に町の外の丘の上に寝転がっていた。

 街を見下ろすと大勢の砂漠の民達が城門の前で待機していた。

「あ! 大変だ! 砂漠の民達の歓迎の儀式をしなければいけない! ええい魔族め! 私が居なければ儀式が始められないじゃないか!」

 神官長は慌てて帰り、砂漠の民達と合流して門番達に城門を開けるように命令した。

 城門が開け放たれ、砂漠の民達が街に入った。すると彼らは突然雄叫びを上げて武器を構え、手あたり次第に住民を襲い始めた。

「なぜだ!? なぜこんなことをするんだ!」と神官長。

「はっはっは! ちょっといい顔しただけで信用しおって、都会の人間は本当に能天気だな! こんな素晴らしい街を俺達が欲しがらないわけないだろうが馬鹿め!」と砂漠の民の長。

 神官長も国王も殺され、住民は全員殺されるか奴隷として売りはらわれてしまった。

 以後、砂漠の民の長が新たな神官長となり、今でも神殿には色々な民族の沢山の供物が捧げられているらしい。


「神様の言葉を信じなければこういう目にあうと母はよく言ってました。東方の人間と違い、クノム人は世界で一番信心深いのでこんなことにはならないんですよと」

 フェリが得意げに胸を張った。

 シュナが『クノム人は異民族を野蛮だと馬鹿にしているんです』と言ってたけど、フェリの話を聞いてるとマジっぽく聞こえるね……。


話広げ過ぎてない? 大丈夫? と自問自答する日々です(笑)

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