表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/2314

マストカ・タルクス㊲『冒険者の町:バラン』と商売の神アンバシスの話

 神官が全て死んで空っぽになった『ヒーバル神殿』ではすぐに祀られていたアンバシス神を慰める儀式が行われ、皇帝の命令で帝都から30人の神官達が送り込まれた。



「若殿。アハーマの娼館に行ってみますか? 今行くと町中の商人達が彼女の下に挨拶に来てますわよ」

 シュナがヒーバル神殿で行われている儀式を見ながら言った。儀式中の巫女の中には緊張した顔のエイルが見える。

「今から? あの店は昼間は閉まってるんじゃないの?」

「今日は特別開いてるんですわ。これからはアハーマがこの町の真の町長だと皆が知っています。なんたって彼女は『耳長族』の1部族の長で、しかも大貴族タルクス家がバックに居るんですもの。これに逆らう者はおりませんわ」

 あれ以来『妖術師アンタルサ』も現れなくなった。シュナの言った通り神官達が犯人だったことが確定したようだ。

 父上はあれ以来ずっと暗い顔をしている。真面目な人だから、神官達を虐殺したことをずっと悔やんでいるらしかった。

 でもその神官達はよそ者をいじめてたわけだし、当然の報いだと思うね。


 俺はまた『天地ひっくり返り亭』にシュナと2人できていた。

「アルヘイムやエイルはどうしたよ?」とウルルム。

「アルヘイムは父上の仕事を手伝ってるよ。エイルはアンバシス神を慰める儀式をやってる。あの儀式丸2日間やるらしいんだよね」と俺。

「ひえ~、かたっ苦しい儀式を丸2日ねぇ! 考えただけでゾッとするわ」

 ウルルムの横でシャイザルはちびちび酒を飲み、カイバルはぷかぷかタバコを吸っている。

 シュナが口を開いた。

「そういえば、『アンバシス神』で思い出しましたわ。皆さん『バラートアラトーア』の『アンバシス神』に関する章の内容を覚えてますか?」

 冒険者3人が笑い出した。

「俺らが知ってるわけねーだろ! 文字すら読めねーのに」とシャイザル。

「バラートなんちゃらってあの古臭い昔話でしょ? 覚えてるわけないじゃん」とウルルム。

「寝物語は寝るための物だぜ、内容を覚えるようなもんじゃねぇな」とカイバル。

 全くその通りだ。昔話を一々覚えてるわけないじゃないか。

「若殿は知ってないといけないでしょ」

 シュナに突っ込まれて皆が笑った。

 

 昔、バランの隣にある港町『ヒノイセン』に1人の男が住んでいた。

 その男は冒険者で、ある邪悪な魔術師を倒して沢山の宝物を奪い大金持ちになった。だが友人に騙されて全財産を失ったのであった。

 男はがっかりしながらバランの『ヒーバル神殿』にやってきて祈った。

「商売の神様。オイラはほとほと金とか財産とかって物が嫌になりました。信頼していた友人でも金に目がくらむと平気で騙して盗むんです。もう人間が嫌いになりそうですよ。この世から金という物は無くしてください!」

 商売の神アンバシスは驚いた。彼に祈る人間は皆商売の成功を祈るからだ。ちょっと興味が湧いて地上に降臨した。

『今までこの世から金を無くしてくれなどと祈る人間は見たことがない。お前面白いな。だが地上には既に私が作り出した貨幣が満ちている。これを回収することは簡単ではないぞ?』

「お任せください、私に良い考えがあります」

 男はその日からアンバシス神に力を与えられ、布教者となって世界中を回った。

「この世に金なんてものがあるから貧富の差が出来る! 金なんてものがあるから奪い合って戦争が起こる! 農民を見よ、彼らはお金なんて持ってなくても暮らしている! 太古の昔人は皆貨幣がなくても幸せに暮らしていた! またその時代に帰ろうではないか!」

 この説教は貴族や貧民など身分を問わず広まって、男の下に数千人の信者が集まって来た。

 信者達は積極的に自分の全財産を『ヒーバル神殿』に寄付し、数年後には信者が数えきれないほどになって『ヒーバル神殿』には世界の富の半分が集まっていたそうだ。

 アンバシスはその集まって来たお金を消し去ろうとしたが、なんだか自分が折角作った物を壊すのが勿体なく思えて、結局壊さずに神殿の奥に倉庫を作ってしまっておいた。

 ある夜、男とアンバシス神が二人で酒を飲んでいた。

『ははは! お前のおかげで私には数えきれないほどの信者が出来た! お前を布教者にして正解だったぞ!』

「いえいえ、これも全てアンバシス様の偉大さの賜物です。ささ、どうぞどうぞ……」

 アンバシス神は気分が良かったので、その日は随分と飲みすぎてしまった。酔って爆睡して目覚めると、いつの間にか神殿には自分1人しかいなかった。

『む? おい! どこに行った!?』

 神殿内部を探すが男の姿はない。ふとそこで奥の回収したお金をしまってあった倉庫の扉が開いてることに気づいた。

『こ、これはまさか!?』

 すでに手遅れだった。倉庫の中は空っぽで中にあったお金が全て持ち去られた後だったのだ。

『……あの男、最初からこれが目的で……? く、おのれ、おのれええええ!!』

 アンバシス神は怒り狂って男を追いかけた。だが男の方もこうなることは既に予想済みだった。なんとアラトア皇帝の下に駆け込んだのだ。

「皇帝陛下! どうか私をアンバシス神からお守りください! 助けていただけるなら私の全財産を皇帝陛下に差し上げます!」

 皇帝は男が持ってきたとんでもない額のお金に圧倒され、男を特別に自分の娘の婿として迎えた。

 皇帝一族は最高神モンテールに守られている。よってアンバシス神は手がだせず、諦めて『ヒーバル神殿』に帰って行ったのだった。


「……この話はアラトアの皇帝一族の武勇譚として語られている話ですわ。『知恵と勇気は神々に勝る』祖先の話だそうですわよ」

 シュナが語り終わった。俺は思った。

 ただのせこい詐欺師の話じゃねぇか……。

 だが冒険者達の感想は違ったようだ。

「面白れぇな! 俺も今度その方法試してみっかな」とシャイザル。

「ばっかもう手の打ちバレてるから無理だよ。それにあんたは頭が悪いから不可能だね」とウルルム。

「さすがイヒルナスの子孫だな。冒険者にとって理想の生き方だぜ」とカイバル。

 えぇ……(困惑)

「私もこの話は興味深いと思いますわ。同じ神話の神に対してのこの酷い仕打ち、もしかしたらアンバシス神は元々別の民族の神だったのかも知れませんわね。アラトア人に征服された原住民の神だったのかも……」

 さすがシュナは知的だった。頭の良い女性っていいなぁ……。


前回太陽神モンテールが『ヒーバル神殿』の神官達の粛清を許可したのはテール神話の神に力を借りたからでしたね、一番重大なことを忘れてました(失念)

アンバシス神はとにかく扱いの悪い神様です(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ