高橋大輔⑧高木じゃなくて高橋の話
安藤さんはこれ以降登場しません。
『サリバン族』との戦争の直後のことだ。
「なんで一番活躍したシュナが何の表彰も褒美もないんだ!? ほとんどシュナが率いた魔術師部隊のおかげじゃないか!?」
俺は怒りをぶちまけていた。帝都に戻った後表彰式が行われたが、シュナは呼ばれなかったからだ。
シュナは俺の傍で魔術書を読みながら、
「若殿、通常戦争は男がいくものですわ。『古の法』でも『女には戦う義務はない』と定められています。男は女を守り戦う者なのですわよ」
「何言ってんだ!? 実際にシュナは戦争に参加してたし、女の冒険者だっているだろ!?」
「……魔術師は人間ではありませんから問題ないのですわ。冒険者もアラトアの身分制度の外にいる存在ですので別にどうでもよいのです」
女性に対する差別。魔術師に対する差別。冒険者に対する差別。
俺は気分が悪くなった。目の前でこんな理不尽なことを見せつけられて何もできないなんて……これじゃあ俺も差別に加担してるのと同じだ。
俺ががっくりと項垂れると、シュナが俺の手をとってほほ笑んだ。
「若殿がそう怒ってくれるだけで私の魂は救われます、それで十分、本当に十分ですわ……」
……俺は本当に『救世主』なのか?
なにもできないじゃないか、どこが『救世主』なんだよ……。
「……なんで僕は異世界に呼ばれたんだろ?」
学校の始業前の時間、僕がふっと呟くと石田が言った。
「『おまじない』をしたからだろ?」
「……正論で返すなよ」
「なんでだよ!? 事実だろうが!」
斎藤が欠伸をしてから、
「異世界に行った時に聞いた声のことですか? 私と石田君も聞きましたよ。私は無視しましたけど」
「俺は『チート能力とかある!?』て聞いたらそれ以降聞こえてこないぜ。人の質問にはちゃんと答えろやあの女よ~」と石田。
石田はウザ絡みするからあの『声』も嫌だろうなぁと思った。
そのホームルームに担任の先生がこんなことを言った。
「えー、この前安藤が転校した関係で、現在保険委員が1人しかいないことになってる。この状態のまま続けるのは可哀そうなので、全ての委員と係を入れ替えるぞ~!」
実は先週安藤さんという女子が転校していった。
まあ正直僕は一度も話したことなかったからなんとも思わないけど。
うちの学校は一クラスに色々な委員と係があって、クラス全員がなんらかの役職につくことになっている。委員は保険委員とか体育委員とかで、係は現代文係とか数学係など全教科に係がある。クラスの人数も減ったのでホームルーム係が1名になった。その分仕事も減らすらしい。
(……面倒だなぁ。とりあえず現代文係を続投するか)
人気なのは図書委員とかだな。教科係は微妙、それぞれの教科の授業が始まる前に担当教師の所にいって手伝いをしなければいけいないので、ちょっと面倒なんだ。
まあ一番面倒で不人気なのは体育委員だな。それだけは避けるために早めに教科係辺りになっておくのが無難だ。
「ねぇねぇ優莉~? 一緒に保険委員やらない?」
里中が粟島に声をかけていた。粟島はいつも通りのニコニコ顔で、
「ええいいわよ」
ちなみに上島はどうやら姫川君と一緒の委員を狙っているようだった。
……粟島は保険委員狙いか。よしよし絶対に僕と被る可能性はなくなった。ありがきありがたき。
というわけで先生が役職を読み上げていき、狙っていた現代文係の時に手を挙げた
「お、国語係は高橋だけか。あと1人はいるか~?」
いなかった。なんかいないのも少し寂しいが、おかげで僕は現代文係が確定した。
その後先生が保険委員の番を告げた。
「よおしじゃあ次は保険委員になりたいやついるか~?」
『はい!』
なんと粟島と里中とクラス大部分の男子が一斉に手を挙げた。
「はぁ!? なんでこんなにいるの!? あんたら他の委員に行ってよ!」
里中が怒りながらじゃんけんが始まった。
……粟島だけじゃない、里中もギャルっぽいが美人だからモテるのだ。保険委員の定員は2人、どっちでもいいからお近づきになれるチャンスと考えて男子どもが突撃してきたのだろう。
結果、里中と1人の男子が勝負を勝ち抜いて見事保険委員になった。
粟島は結局あぶれたので、その後図書委員に挑戦したがこちらでもじゃんけんに敗れた。その後とりあえずすべての委員と係が一周したので、余っている人達で余っている席をかけてのじゃんけんが始まった。
その余ってる席の中にはもう一人の現代文係があり……。
「あ、勝ちました」と粟島。
「よし、じゃあ粟島と高橋で現代文係だな」と先生。
なんだって!?
粟島が体育委員だけはなんとか避けて現代文係に転がり込んできたのだ。なんてこった!? なんで二度と関わりたくなかった奴と同じ係になってしまうだ!?
(くそ……粟島のことだ。どうせ仕事を全部僕に押し付けるに決まってる。ちきしょー見てろよ、僕は昔の僕じゃないんだからな……)
早速、現代文係の仕事の時間がやってきた。
「優莉~、現代文の宿題やってきた~? 教えてよ~」
粟島に上島が泣きついていた。宿題をやってこなかったらしい。
(……現代文係は授業前に現文の先生の所に行かなければならない……)
僕は立ち上がって1人職員室を目指す。
粟島は来ないだろう、宿題を教えるからだ。ふん、やっぱり僕1人に押し付けてきたな……。
「ごめんね愛、私現代文係だから。ちょっと職員室行ってくるわね」
「ええ~!? 私の宿題は~!?」
「たまには自分でやりなさい? それじゃあね」
粟島は上島を振り切って僕の隣にやってきた。
「さあ現代文の先生の所に行きましょう高木君。プリントとか運ばないといけないものね?」
「え、う、うん……」
……ちょっと予想外だった。絶対友達の方を優先すると思ったんだが……。もしかして僕はちょっとひがみが強すぎたか?
粟島は昔と違ってなんだか優しい雰囲気だ。もしかしたら過去の過ちを悔いて僕への償いをしようとしているのかな……。
ん? そういえばさっき僕の事なんて言った?
「……あの、粟島さん。さっき僕の名前なんて言いました?」
なんで敬語なんだ僕は……?
粟島は僕の方を向いて、
「え、高木君だよね? それがどうしたの?」
……。
「……高橋です」と僕。
高木じゃなくて高橋です。
粟島が慌てて、
「あ、ご、ごめんなさい! 最近好きな漫画の主役が『高木』だから間違えちゃったの! ごめんなさい! 高橋君だったわね! 大丈夫、言い間違えただけだから!」
……もしかして粟島は優しいんじゃなくて、僕のこと心底どうでもよくて他人行儀な態度をとってるだけ?
ていうかもしかして僕のこと全く覚えてない? 小学校時代一緒に遊んでた高橋大輔だということに気づいてない?
…………。
やばい、吐きそう……。
いやいやいや落ち着け僕! そんなことあり得ない! あれだけイジメてたんだぞ!? 覚えてない方がおかしい、もし覚えてないなら脳の病気だ! だからそんなことありえない! 絶対に覚えてる! 覚えてて遠回しに償おうとしてるに決まってる!
内心テンパって挙動不審な僕に気づかず、粟島は窓の外を眺めていたのだった。
高木じゃなくて高橋です。




