マストカ・タルクス③生贄の娘の話
この世界の中心には大きな海があるらしい。アラトア語で『バラー・ヒークサー・クシュル(世界の真ん中の海)』と言うらしい。
長いので『中つ海』って呼ぼ。
「若殿、ぼーっとしてないでちゃんと本を読んでください?」
タルクス家の屋敷の中に特別に作られた『勉強部屋』がある。俺が先生たちから色々教わるための部屋だ。今はシュナーヘルから魔法を教わっている。
「だってさぁ、ずっと本読んでてもつまんないよ。それよりなんかすごい魔法見たいよ。またあのビーム吐く魔族見せてよ~!」
なぜかシュナーヘルは魔法を見せてくれず薬草の話ばかりする。
ちきしょ~俺もビーム撃ちたいのに~!
「はてさてなんの話かさっぱり……そんなことより明日薬草学の知識をテストいたしますわ。半分間違えたらオルバースに報告いたしますね」
「うげぇ……」
読みかけの本を再度見て悶絶しそうになる。『薬草学の知識』というけど、この本に書かれてるのは『○○の薬と△△の薬を3対1で混ぜると火と水の元素が同じ割合になる、ならば4対5で混ぜると火と水の割合は?』という、おもいっきり数学の問題が書かれているからだ。
なんで異世界まで来て数学の勉強なんてしないといけねーんだよ!
数学なんていつも赤点の周辺を彷徨ってるよ(涙)
「なんかやる気出ないよ~! なんか面白い話してよ~! シュナーヘルが面白い話をしてくれたら勉強するよ~!」
俺は駄々をこねた、子供ってこういう時便利だなぁ。
シュナーヘルはいつもの『やれやれ』の表情になって、
「分かりましたわ……それでは私が昔、世界中を旅行した時に人から聞いた話をして差し上げますわ……」
シュナーヘルはタルクス家に来る前に世界中を旅して魔法の修行をしていたらしい。だから色々なことを知っているのだった。
これはシュナーヘルが遠い国に居た時の話だ。
世界の中心には大きな海、『中つ海』がある。
その海の東側を『アッス(東方)』、西側を『エレブ(西方)』と呼ぶらしい。ちなみにアラトア帝国は『エレブ(西方)』にあるのだそうだ。
今から数百年前のこと、アッス(東方)のある所に『ミバエル』という町があった。
当時、この町は危機的な状態だった。町の南にある山に『魔王ジオロジス』という強力な魔族が巣食っていて、ミバエルの住人達に生贄を要求してきていたからだ。
『毎年一人ずつ若い娘を俺に生贄に差し出せ。さもなくば俺の配下の魔族達にミバエルの町を襲わせるぞ。俺様は人間の女が大好きなんだげっへっへ』
なんつースケベな魔王だ。
やってることはゲスイが、魔王ジオロジスは強大な魔力を持っていて何人もの魔術師や戦士が返り討ちにあっていた。住民たちは仕方なくくじ引きをして生贄の娘を選んでいた。
14人目の番になった年、なんと町長の娘が選ばれてしまった。町長は『絶対うちの娘は魔族になんぞやらん!』とゴネまくり、町の誰も町長に逆らえなかったので再度くじ引きをやり直そうという話になった。するとその娘が言った。
『お父様、くじ引きで決まったことをひっくり返すなんていけません、掟に従って私が生贄に行きます』
町長は最後まで反対したが、それを娘は押し切って生贄に行くことになった。町の住民たちは感激し、生贄と一緒に魔王に献上する宝物を用意した。
『流れ星を鍛えて作った魔法の剣』、『無限に水が湧いてくる壺』、『翼の生えた白い馬』、『履けばどれだけ歩いても疲れない靴』等々……。
そんな便利なマジックアイテム持ってるなら勝てそうな気がするんだけど……。
決められた日に生贄の娘が御輿に乗り、町の住民総出で魔王が住む山へと運んだ。
魔王の命令で生贄と献上品を山の中の城の前に置いたら他の者達は帰らなければならない。娘は一人でじっと魔王が来るのを待った。
『げっへっへ! お前がミバエルで一番美人と噂の町長の娘か! それでは早速俺の嫁になってもらおうか!』
魔王は人型だが身長は人間の男の倍くらい、しかも頭が牛という姿だった。それが興奮しながら娘に強引にキスしようとした。
魔王は肥溜めみたいな体臭をさせていて娘は失神しそうになったが、大人しくキスをする振りをしていきなり魔王の唇を噛みちぎった。
「ぶげぇ!?」
まさか攻撃されるとは思ってなかったので魔王が動揺し、その隙に娘が献上品の魔法剣を掴んで魔王を斬った。
「ぎやあああああ!? いでぇえええ!」
胴体を斬られて倒れる魔王。娘は魔王の身体の下から脱出し、足で魔王の身体を踏んで固定してから首を斬り落とした。
「はぁ、はぁ……」
娘は身体にべったりついた返り血を拭いもせず、魔王の首を掴んでから目の前の城の中に入った。
城の中にはジオロジスの配下の100以上の魔族達が控えていた。
怖気ずに娘が叫ぶ。
『聞け魔族ども! お前達を支配していた魔王ジオロジスは死んだ! もはやお前達がこの城に留まる理由はなくなった! 早々に別の土地に立ち去れ!』
魔族達は最初娘に戸惑った。だがすぐに威嚇し始めた。
『……なるほど、確かにジオロジスの首だ。どうやら貴様の言っていることは本当のようだな……ならば貴様を生かしておくわけにはいかん! 我々魔族が人間の小娘ごときに舐められたら生きていけんからな!』
数匹の魔族が娘に飛び掛かる。だが娘はまず魔王の首を投げつけて怯んだ1匹を斬り、その死体を盾にして後ろの2匹を斬り、驚いて立ち止まった1匹を斬り、背中を見せた1匹をさらに斬り殺した。
『おお!?』
いきなり5匹も仲間をやられて驚く魔族達。娘が叫ぶ。
『私は既に生贄として死んだ身だ! 私の冥途の旅のお供をしたいという者は前に出ろ! 一撃であの世へ送ってやる!』
『……何もこの小娘一人に拘る必要はない、我らは自由なのだから』
娘を無視して魔族達は続々と外へ出て空の彼方へと飛び去って行った。
『ふぅ……』
娘はほっとしてから城の中を探検し始めた。今までに献上された娘達を探すためだった。
その娘たちは意外と早く見つかった、白骨死体で。
城の地下牢の一角に無造作に積み上げられていたのだった。
骨の周りには、その骨をしゃぶっている小型の魔族がいた。
『ミバエルの娘達に自分の子供を産ませ、その後は子供達の食糧にしていたのか……憐れな娘達、私のように強ければこんな目に合わなかったものを……』
娘は小型の魔族も全て殺し、娘たちの骨を集めて城の外に墓を作った。
『いや~お嬢さんはお強いね~、どうだい? 君は魔族を殺してしまったから必ず復讐されるよ? 身を守るために私と契約して魔法使いにならないかい?』
声をかけられたので振り返ると精霊が1体居た。『精霊族』は魔族の中で最も強力な魔力をもつ種族だ。
娘はその場でその精霊と契約して魔術師となり、空高く飛び立って二度とミバエルの町には戻らなかった。
シュナーヘルが話を終えて沈黙した。俺が恐る恐る聞いた。
「あの~……もしかしてその主人公の女の子ってシュナーヘルのことじゃ……」
そこまで言って俺は頭を振って、
「い、いや! 中々面白い話だったよ! へ~アッス(東方)にはそんな話があるのか~すごいな~(?)」
俺のへたくそな演技を見て、シュナーヘルはいつものドキドキするような微笑みを浮かべた。
「……さあ、約束通り勉強してくださいね」
「う、うん……」
それにしても、俺を勉強させるためにこんな重たい話をしたというのなら、いや~さすが『魔女』と呼ばれるだけはあるなぁと思った。
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