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マストカ・タルクス㉛『冒険者の町:バラン』と神官長キャーブスの話

今回はバトルなしです。

『神々』という存在に初めて遭遇した。あんまり実感なかったけど。

『古の法』を守れって言ってたなぁ、てことは俺が『古の法』を馬鹿馬鹿しいと思ってることも知ってるわけか……。



『龍骨騎士』に襲われて出来た傷をシュナに治してもらってたら、白い神官服を着たおじさん達が俺の部屋にやってきた。

「おはようございます、オルバース候にマストカ殿。『ヒーバル神殿』の神官長のキャーブスと申します」

 神官長……つまりバランの町の宗教のトップか。

「はぁ、どうも」と俺。

「おお、久しぶりですなキャーブス殿。今日は一体どのようなご用件で?」

 父上が挨拶すると、キャーブスは俺の身体の怪我を見て大げさに驚いた。

「ああ!? マストカ殿がおぞましい魔術師が作った人形に襲われたと聞きまして、居ても立っても居られず参上いたしたのです! お身体は大丈夫ですか!?」

「え、あ、はい。シュナに治してもらったから大丈夫です」

 シュナが無言で挨拶したけど、キャーブスは無視した。

「しかし『龍骨騎士』とは、そんな高レベルな魔術を使える者に命を狙われていると聞きましたよ。大丈夫なのでしょうか?」

 キャーブスの後ろにいる神官達もうんうん頷く。父上が笑って、

「はは、なに、御心配は無用です。我がタルクス家には優秀な魔術師がおりますし、頼もしい巫女のエイルもおります。アルヘイムもいますし、マストカも剣の天才ですからこの程度なら『修行』の範囲内ですよ」

 横に居たエイルがどや顔した。だけどキャーブスは首を振って、

「いえいえ、まだ皆さまお若い。それに『神聖術』は神々の気まぐれで発動しなこともありますので、いざという時不安です」

 シュナは800歳以上のお婆ちゃんだけどね……。

 キャーブスが芝居がかった動作を交えて言った。

「今後も妖術師による襲撃が続くでしょう。もしものことがあってからでは遅いのです。どうですか? アンタルサの要求を受け入れてライクル殿を辞めさせるのは」

 後ろの神官達が『そうだそうだ!』と叫んだ。


 シュナが目を瞑り、アルヘイムの顔が険しくなり、父上が額に汗を掻きながら言った。

「いえ、要求を呑めば妖術師に屈したことになります。ライクルに町長を任せた以上ちゃんと最後までやり遂げてもらいます」

「ですが! マストカ殿は実際に襲われて怪我をしているのですよ! 次はもっと恐ろしい魔術を放ってくるかも知れません、さっきも言いましたがもしものことがあってからでは遅いのですよ!」

「貴族の本懐は民草のために死ねることです。マストカもバランの町の民達のために死ねるなら本望なのです、そうだな?」

 父上が同意を求めて来た。

 俺だって妖術師の要求を呑む気はないけど、他人から死んでもいいとか言われたらさすがにちょっとショック……。

「あ、はい、その通りです父上……」

 俺は空気を読んで同意した。

 そこでシュナが口を開いた。

「それで、もしライクル殿を辞めさせたとして、次の町長は誰になるのですか?」

 キャーブス達はお互いに顔を見合わせ少し躊躇ってから、

「……カルマス町長の息子がおります、彼にやってもらいましょう。我々が幼いころから教育してきたので人格に問題はないですぞ」

「……そうですか。まあ考えておきます」と父上。

『それでは』と言って神官達は部屋を出て行った。


 シュナが振り返って言った。

「付け加えておきますと、カルマス前町長の妻は神官長キャーブスの娘ですわ。つまり孫に継がせたいと言ってきたのですわ彼は」

 父上は黙り込んだ。シュナが続ける。

「オルバース、分かってるとは思いますけど今のは『脅し』ですわ。ライクルを辞めさせない限り若殿は狙われ続けますのよ」

 アルヘイムがシュナに言った。

「では『魔女』よ。お前はどうするべきだと思うのだ?」


「……神官達の粛清ですわ」


 部屋の空気が凍る。エイルが怒りだした。

「あんた今の発言は『反逆罪』よ! 出身も分からない汚らわしい魔術師の分際で身の程を弁えなさい!」

 貴族や神官などの特権階級に怪我をさせたり殺したりすればそれは『反逆罪』という大罪になる。罪人は即刻処刑だ。

「殺されたくなければ殺すしかない。エイル殿は世間知らずですのでまだ分からないだけなのですわ。せめて大人になってから発言してくださいませ」

「な!? あったま来た! 今この場で処刑してやる!」

「待て!」

 エイルとシュナが戦闘準備を始めたので父上が止めた。

 それからしばらく悩んだ後、

「……カルマスを殺し、神官達を殺し、次は誰を殺すのだ? 大商人達か? それとも商人全員か? その後はバランの平民達か? 粛清を始めればバランが無人の廃墟になるまで終わりはない。だから神官たちの粛清はしない」

「今後の襲撃で若殿が誘拐されたり、死んでしまっても?」とシュナ。

「貴族であればそれくらいは覚悟の上だ。そうだろマストカ?」

 父上の懇願するような目を見て、俺は思った。

 空気を読まないと本当にシュナが神官達を皆殺しにしそうだった。

「そ、その通りです! 国のために死ねるなら本望です!」

 エイルとシュナが構えを解いた。だけどシュナの眼は殺意でギラギラと光ったままだった。

「この話はもうおしまいだ。こんな面倒な『政治』の話なんて詰まらないだろ? さあさいつものように『天地ひっくり返り亭』にでも遊びに行ってこい。私は忙しいんだ」

「……『龍骨騎士』を差し向けた魔術師を調べますわ。それくらいは良いですわよね?」

 シュナの言葉に父上は少し躊躇ったが、

「まあ、お前がしたいと言うなら勝手にしろ。ただし犯人を見つけても殺さずに私のもとに連れてこい。ちゃんと自白を取ってからでなければ処刑は無しだ。カルマスのように殺すんじゃないぞ」

「……分かりましたわ。でも、もし犯人が神官達だと証明されたらなら、ちゃんと処刑するのですわよね? 約束してくれます?」

「お前まだそんなことを……しつこいぞ」

「そこだけは絶対に譲れないですわ。私は若殿を殺そうとした代償を支払わせないと気が済みませんわ、できることなら今すぐ殺しにいきたいくらいですわ」

 シュナ……嬉しいけど目が滅茶苦茶怖い。

 父上は難しい顔になって、

「……それは神官達が犯人だという証拠が出てから考える。今は何も言えん」

 その場の全員がため息を吐いた。

『政治』て難しいなぁ。


根暗の癖に空気を読む男、マストカ。

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