マストカ・タルクス㉚『冒険者の町:バラン』と龍牙兵(龍骨騎士)の話
魔法使いの戦い方って、真正面から呪文をバンバン撃ち合うのが主流なのだと思っていた。
そう言うとシュナが笑って、
「そんなわけないじゃないですか。魔法使いは近接戦が出来ないんですから、遠く離れた場所に隠れながら使い魔を送ったり呪ったりするんですわ。わざわざ戦士の間合いで戦いませんわ」
「え、でもシュナは割と近接戦してるよね……?」
「それは私が『最高の魔術師』だからですわ」
めっちゃドヤ顔で言われた。
夜、俺とアルヘイムが昼間に遭遇した猫の使い魔の話を早速父上に話した。
すると父上とシュナとエイルが顔色を変えた。
「む、実は昼間にこんな手紙が届いたんだ」
父上が差し出した手紙を読む。
『現町長のライクルを辞めさせ、バランの町から手を引け。さもなくばタルクス家に恐ろしい悲劇が起こるだろう。妖術師アンタルサより』
「妖術師アンタルサ!? あれってカルマスが名乗ってた偽名じゃ……」と俺。
「ふん、死人の名を名乗るとは気持ち悪い奴ですなぁ」とアルヘイム。
「これってやっぱりあのリストに載っていた有力者達なんじゃ……」
父上は眉間に皺を寄せて、
「……まだ証拠がない。しかし、こんな手紙はただの悪戯かと思っていたが、まさかお前達が襲われてるとはな。しかしなぜマストカを狙ったのだ?」
「恐らく、若殿を誘拐して私達を脅迫しようとしたのでしょう」とシュナ。
「む、なるほど……ならば護衛をつけねばならん、シュナーヘルよ任せていいか?」
「いつもしてるから変わりはありませんわ」
父上の言葉にエイルが怒りだした。
「待ってよおじ様! マストカの護衛なら私がやる! 『契約魔術』より私の『神聖術』の方がずっと頼りになるって!」
父上が困った顔になってシュナをチラ見すると、
「分かりました。では若殿はエイル殿がお願いしますね。私はオルバースの護衛を致しますわ」
「あったり前じゃん! ほらマストカ、行くよ!」
「え、行くってどこへ……」
「家の中に籠っててもいいことないもん、市場に遊びに行こうよ。私だってバランの市場見てみたいもん!」
エイルにグイグイ手を引っ張られて俺は屋敷を出た。
「さすがに不用心すぎないか……? 俺一応狙われてるんだろ?」
俺が言うと、屋台で首飾りを物色しているエイルが言う。
「居場所がばれてたらどこにいても同じじゃん。隠れても意味ないよ」
「でも家には結界が張ってあるんじゃ……?」
「結界魔法だって万能じゃないよ。魔法より私の『神聖術』の方が強いから大丈夫大丈夫。それに折角魔女を叔父様におしつけられたんだしさ!」
エイルが物色を再開した。
「ほらほら見て見て! この首飾り綺麗じゃない!? おばちゃんこれ頂戴!」
エイルが眼をキラキラさせながら首飾りを見せてきた。確かに似てる。
「銀貨3枚だよ」と店のおばちゃん。
「高いわ!? 巫女相手にぼったくるなんて良い度胸だねババア! こんなしょっぼいのよくて銅貨2枚だろ!」
貴族の娘とは思えない口調でおばちゃんの胸倉を掴み上げるエイル。俺が慌てて止めた。
「待て待て! 俺が払うから! 銀貨2枚だろほらこれでいいかおばちゃん!」
エイルを引き離して銀貨2枚を渡した。おばちゃんがすごく嬉しそうな顔をして、
「その小娘と違ってさすが貴族様は太っ腹だねぇ、ヒッヒッヒ、特別にうちの旦那以外にあげたことない口づけをあげるよ~ンチュー」
ほっぺにおばちゃんがキスしてくれた。俺は喜べばいいのだろうか。
「私も貴族だ糞ババア! 太陽神に呪ってもらうぞ!」とエイル。
「ヒヒヒ、とんでもないじゃじゃ馬だねぇ、そんなんじゃあ男に相手してもらえないよ?」
「ちゃんと許婚くらい居るわボケババア! くたばれ!」
散々罵倒しまくってから屋台を離れた。
エイルは打って変わって上機嫌で首飾りをつけて、
「この首飾りはマストカが銀貨2枚で買ってくれたから高級品だね♪」
切り替え速いなオイ。
「あそこで買わないとお前が婆さん殴ってただろ……仕方なくだよ」
「『バラートアラトーア』にいいこと書かれてるよ。『黄金を高価な物だと信じているのは人間だけだ。人間が欲しがらなければ鬼族は金が採れる山に住まない』てね」
「? どういう意味だ?」
「ちゃんと勉強しなよ~、私の方が1コ年下なのに教養で負けてるよ~?」
ぐ、ギャルに教養で負けるとか悔しい……!
エイルと市場を歩いていると、『天地ひっくり返り亭』に向かっていたウルルムと出会った。
「ありゃマストカと……シュナーヘルじゃないねぇ、誰よ?」
ウルルムが顔を近づけるとエイルが不機嫌な顔になって、
「はあ? 巫女に対してその態度はなに? 身分を弁えなさいよ」
「ありゃりゃ、貴族とはこれは失礼しました~と。マストカの妹?」
「……従妹のエイルだよ。ていうかエイル、初対面の人にその態度はないだろ」
俺が言うとエイルが信じられないと言いたげな顔で、
「は? 貴族相手に舐めた態度取ってるからでしょ? マストカマジで言ってんの? こいつ平民だよ? しかも冒険者じゃん、逆になんであんたはそんなに腰が低いのよ」
こ、腰が低い?? 対等に接してるだけなんだけど……。
なぜかウルルムも頷いて、
「私が言うのも今更だけど同意見だね。普通貴族が平民と親し気に会話なんてしないよ。あんたは私ら平民から見ても心配になるよ、もうちょっと威張ってないと舐められるよ?」
「そうそう! マストカ昔から女々しい所があるからさ~、召使とかにも丁寧なのよねぇ、タルクス家の召使全員が『女に産まれればモテたのに』て愚痴ってたよ?」
え゛ そんなこと裏で言われてるの俺……。
ウルルムが大笑いした。
「ダハハハハ! こりゃ傑作だ! マストカは従妹殿と性別を交換すべきだね! 従妹殿、巫女なら交換出来るんじゃないのかい?」
「あははは! それは名案だわ! あんた平民の癖に中々良い事いうじゃない、名前を憶えてあげるよ、なんていうの?」
「ウルルムだよ。あ、そっちが名乗る必要はないよ、あんたが帰った後でマストカに聞いとくから」
「へぇ、さすが冒険者だけあって中々いい度胸じゃない? 私はエイル・タルクス、将来あんたに神罰をあてる巫女だよ」
「ふーん、じゃあ神罰があたるまでは無礼講でいいんだね」
なんか2人が意気投合(?)した。
ていうか俺の扱い酷くない?
なんだかんだエイルと仲良くなったウルルムが上機嫌で誘ってきた。
「どうだい、この糞生意気な巫女様を『天地ひっくり返り亭』にご招待しないかい? きっと好きなだけ神罰食らわせられるから喜ぶと思うよ?」
エイルも興奮して頬を赤くしながら、
「前マストカが言ってた冒険者とかいう負け組の集まる巣のことだよね? 穢れた土地を浄化するのが巫女の役目だから是非とも見てみたい!」
エイルがウルルムの足を踏み、ウルルムがエイルの頬を抓った。
お前ら仲が良いのか悪いのかどっちだよ。
とりあえずエイルが行きたいということでサンバースさんの店に向かうことにする。賑やかな市場を抜けて(エイルが何度も冒険者に喧嘩売って大変だった)、外れの道に入った。
ドンッ!
突然地面が揺れた。地震か!?
だけど暫く様子を伺っても、それ以上揺れはなかった。
「? なんだったんだ今の……」
「マストカ、剣を抜いて」
突然エイルが言った。ウルルムを見ると既に剣を構えている。
俺はそこで、さっきまで何人か通行人が居た道が、俺達3人以外完全に無人になっていることに気づいた。
隣の賑やかな大通りを見たけど、市場の屋台があるだけで人が居ない。
明らかに異常、これは魔法だ。
エイルが上空を見上げて叫んだ。
「来るよ!」
ドゴオンッ!!
突然少し離れた所にある建物が爆発した。モクモクと土煙が上がり、その中から1体の人影がゆっくりと姿を現す。
それは鱗で出来た鎧を着たガイコツの戦士だった。歯を『カチカチ』ならしながら筋肉のない細腕に大きな斧を握っている。
エイルが眼を見開き、ウルルムが真っ青になりながら呟いた。
「『龍骨騎士』……!? 嘘でしょ、なんであんな高レベル魔術が……」
『龍骨騎士』とはドラゴンの骨で作った人形に、同じくドラゴンの鱗で作った鎧と牙で作った武器を持たせ、それに魔法で命を吹き込んだ人形だ。通常は1匹のドラゴンの死体から作られる。人形を動かすパワーの源は犠牲になったドラゴンの魂なのだそうだ。1000年以上前から伝わる古代の魔術らしい。
龍骨騎士がこちらに飛び掛かって来た!
「はぁ!」
早速ウルルムが迎えうつ。突進してきた騎士を斬ろうとするが、慣性の法則を無視して上空に飛んで避ける。
そのまま落下してきた騎士の斧を避け、ウルルムが右から、俺が左から斬りかかった。
だが避けられた。肉がないのか知らないがやたら素早い。
「エイル! 魔法で援護してくれ!」と俺。
「ちょちょ! だったらそのガイコツから離れてよ! 巻き込んじゃうでしょ!」
「剣士が離れられるわけないだろ! 強化呪文だよ!」
「だから無理だってガイコツに当たっちゃう!」
駄目だ、エイルが全然戦闘慣れしてない。騎士が斧を振り回したので俺達が距離を取る。すかさず騎士がウルルムに突進し、俺に向かって斧を投げてきた!
「武器無しとか舐めてんじゃねぇ!」
ウルルムが叫んで『爆裂呪文を封じた石』を投げた。
ドズゥウンッ!
重たい爆発音。飛んできた斧を『星空の剣』で受け流し、煙が晴れたので様子を確認すると……、
ウルルムの喉に骨が突き刺さっていた。
「うぐ、ぐ……!?」
爆風で龍の骨が刺さったのだ。そのまま飛び散った骨達と斧がすぐに集まり、騎士の形に戻ってウルルムに向かって斧を振り下ろそうとする!
「うおおおおおおおお!」
俺は何振り構わず突進した。だけど騎士がまたバラバラの骨になって四散し、今度は俺の背後で再度騎士になって攻撃してくる!
こいつ自由にバラバラになれるのかよ!
バラけて逃げられるので最強の魔法剣が当たらない。ウルルムは喉から血をどくどく流して動かない。エイルの方を見たら熱心に何かの呪文をずっと唱えている。
やばいやばいやばい!
どうやってこのガイコツにダメージが入るんだ? ていうかどうやって倒せる? はやく手当しないとウルルムが死ぬ! エイルは一体何やってるんだ? なんでずっと呪文を唱えてるんだ? シュナみたいに短い呪文で魔法が使えないのかよ! どうすればいいんだ? ちきしょうなんでシュナが居ないんだ? シュナ、シュナ……、
『若殿、必要なのはほんのちょっとの勇気ですわ』
俺はハッとした。シュナのあの澄んだ優しい声を思い出して冷静になった。
正直魔法はいまだによく分からない、これは完全に当てずっぽうの推理でしかないわけだけど……、
このガイコツは人形なんだろ? だったら魔術師はどこから操ってるんだ?
俺が咄嗟に詠唱に集中しているエイルを抱き上げて、近くの建物の中に飛び込んだ。
「すまんエイル! ちょっとここに居てくれ!」
そう言ったが、エイルはトランス状態らしくずっとブツブツ言ってて聞こえていないようだった。
ガンッ!
すぐにガイコツ騎士も家の中に飛び込んできた。だけどそこで一旦動きがストップした。
自分の周囲の障害物を確認しているように見える。
それから適当にぶんぶん斧を振り回し始めた。
やっぱり見えてない……! ていうことはどこかから操ってるな!
ドゴッ! ガチャン! バゴン!
騎士は見えないからとにかく適当に斧を振り回す。傍に会った箱を破壊し、ドアをぶち壊し、壁に穴を開けていく。
俺は無視して外を見た。騎士がエイルの近くの壁に穴を開けたり、俺のすぐそばに斧を打ち込んでも無視する。ひたすらじっと外の魔術師を探す。ウルルムが危険だけど無視する。斧の切っ先が俺の右耳をえぐったがそれも無視した。
しばらくすると、近くの屋根から屋根へ飛び移る人影が見えた。
「見つけたぞ!」
シュナから渡されていた魔法の袋を取り出し、中から強弓を引っ張り出して外に飛び出し、構える。
動揺する魔術師が良く見えた。屋根の影に隠れる前に矢を放った。
「ぐぎゃあ!?」
ナイスヒット! 魔術師が路上に落下するが、俺が剣を持って走ると慌てて起き上がって叫んだ。
「戻れ『龍骨騎士』! 私を守れ!」
途端にバラバラになった騎士が魔術師の前に立ちふさがる。
くそったれ隙なしかよ! こうなったら刺し違えてでもやってやる!
その時、声がした。
「『雲上の玉座より来たれ太陽神モンテール!』」
まるで背後からストロボライトが焚かれたような閃光で魔術師の目が潰れる。同時に何かの強力なパワーが俺の身体に直撃した。
な、なんだこの力は……!?
「うぐおおおおおおおおおあああああああああ!!!!」
今まで感じたことのない圧倒的なパワーで俺の身体が爆発しそうになる。俺は何かに突き動かされるように剣をおもいっきり振り下ろした。
『神罰を受けよ! 穢れた魔術師よ!』
誰かの言葉と共に俺の剣から光の柱が放たれた。光に触れた瞬間龍骨騎士が灰になり、魔術師が光に包まれた!
「ぐぎゃああああああああああ!?」
眼も開けられないほどの光が消えたと思ったら、綺麗さっぱり魔術師も消えていた。
まるで最初から何も存在していないかのようだった。
「マストカ大丈夫!?」
エイルが心配そうにかけつけてきた。俺はそこでものすごい疲労感に襲われてへたり込む。
「はぁ、はぁ、あ!? ウルルムは!?」
思い出してウルルムを見ると、なぜか傷が治っていて起き上がった。
「あれ? 私喉に骨が……ていうかガイコツ人形は? 倒したのかい?」
俺がエイルを見ると彼女が小さく舌を出して、
「ごめんごめん、私の『神聖術』は魔法と違って詠唱に時間がかかるの。でも無防備な詠唱中守ってくれてありがとね」
神殿に仕える神官や巫女は神々の力を借りることができる。それが『神聖術』だ。魔族の力を借りる他の魔術よりも圧倒的に強力だが、限られた人間にしか使うことが出来ない最強の魔術なのだ。
『マストカよ、お前の耳とウルルムの怪我を直したのはサービスだ。我らの力を借りたいのなら我らを真面目に信仰し『古の法』を守れ。もし我らの愛を理解しないのならあの汚らわしい魔術師と同じ運命を辿るだろう』
空から声が聞こえてきたので上を見たが綺麗な青空が広がっているだけだった。
「太陽神モンテールだよ。普段私みたいな下っ端の巫女に『降りてくる』ことは珍しいんだけど、マストカに忠告したかったから特別に降りてこられたみたい。さっきあんたに与えたパワーは太陽神の力ね」
マジか、あれがアラトアの最高神か……。
ていうか疲れた。はやく『天地ひっくり返り亭』でひと休みしたいよ……。
エイルの性格はギャルというよりヤンキーに近いですかね?




