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マストカ・タルクス㉘『冒険者の町:バラン』とドラゴン戦の話

サブタイトルのセンスのなさに絶望してます。

 どうせなら、貴族じゃなくて冒険者に転生したかった。

 絶対その方が楽しいでしょ。貴族は習い事があったり、面倒なことが多くて嫌になるよ。逃げ出して海に飛び込もうかな。

 でも貴族じゃなかったらシュナと出会えてたかな……。



 居館の扉を開けた瞬間、中から炎が噴き出して数人の冒険者達が火だるまになった。

「ぐあああああ!? 火がぁ! 消してくれぇ!」

「喋るな! 喉が焼かれるぞ!」

 消化しようとすると、今度は中から巨大なドラゴンの首が出てきた。

『GOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 天地を揺らすような吠え声に冒険者達が硬直する。

『龍族』、様々な魔族の中でも最高位の『精霊族』に次ぐ魔力を持つ種族。大の人間嫌いで通常は『魔界』の奥深くに集落を作って滅多に人前には現れない。

 鱗は人間の力では傷つけることが出来ず、空高く飛んで炎の息で地上を焼き尽くす。そんな奴が数十匹の群れを作って飛んでくるのだ。滅多に人間の前には現れないが、現れれば国が1つ消滅すると言われ恐れられている。倒すためには『神々の協力』が必要になる。

 だから普通の奴は龍族の相手なんてしない。いくらお金のためとはいえ死んでしまったら元も子もないからだ。

 でも普通なら冒険者になんてならないだろ?

「恐れるな! これは幻覚だ! 龍族がこんな瘴気の薄い所に現れるはずがない!」

 根拠はないけど俺が叫んで突っ込んだ。『命知らず』を自称する冒険者達も突撃する。

 飛び掛かって首に纏わりつき、剣で首を切り裂く!

 ガキィッ!

 だが刃が通らなかった。固い鱗の感触と伝わる体温、その下から感じられる血液の流れと筋肉の動き、ギラギラ光る眼と荒い鼻息。

 あ、このドラゴン本物だ。

『GUOOOOOOOOOO!』

「うおっと!」

 龍が吐いた炎の息を飛び降りてかわし、巨体と門の隙間に身体を滑りこませて居館の中に突入した。

 ドラゴンが行かせまいとバタバタ暴れる足の爪や尻尾で攻撃してくる。それを避けてさらに奥に進むと、突然『雷光の呪文』が飛んできた。

 バヂィッ!

 魔法剣でなんなく防ぐ。

「……な、なぜお前がここに居るのだ? 貴族がどうしてこんな危険な場所に……」

 居館の玄関の大広間の1番奥に、魔術師のローブを身に纏った妖術師アンタルサ……、

 じゃなくて町長のカルマスが待ち構えていた。


 周りに仲間はおらず1人のようだ。俺と同じようにドラゴンを抜けてシュナやウルルム達がやって来た。ドラゴンはデカすぎて入り口にハマっている。

 シュナが白々しく言う。

「まさか貴方が妖術師だったとは。狂言誘拐とは呆れますね」

 カルマスはすぐに気を取り直して、

「……ふん! 恥知らずはお前達の方だ。あの憎たらしい淫魔の言葉に乗って私を逮捕するだと? 我が家は英雄イヒルナスの時代からバランの町を治めてきた名門家系だぞ! バランは我が一族の町だ! 帝都から来た貴族の好きにはさせん!」

「知ってますわ。安心してください、次の町長もあなたの親戚ですので問題ありませんわ」

 入り口を塞いでいたドラゴンが急に萎み、鷲くらいの大きさになってカルマスの肩の上に載った。

 魔法でデカくなってたのか。

「……まさかタルクス家の人間が来るとは、まあいい、こうなった以上より多くの生贄を集めて魔族を味方に付け反乱を起こさせてもらおうか!」

 ……生贄? どいう意味だ??

 肩に乗っているドラゴンが涎を垂らしながら吠える。シュナが周りを見回してから、

「……なるほど、あなたが雇った冒険者達が見当たらないと思っていましたが、魔族の生贄にしてしまったんですね」

「ど、どいうこと?」と俺。

「魔族と契約を結ぶ最も簡単な方法は人間を生贄に捧げることなのですわ。強力な魔族ほどより多くの生贄を求める。お金で釣った冒険者達を捧げてあの龍と契約を交わしたんでしょう」

 カルマスは何も言わず得意げに笑う。

 俺は開いた口が塞がらなかった。

 100人くらいは集まってたんじゃないか? 最初から騙して生贄にする気だったなんて……。


 カルマスが笑った。

「金貨を払うと言えば簡単に釣られる奴らが悪いわ。だがまだ足りんのだ。300人の生贄を用意しなければ龍族の長老と契約が結べんのだ。貴様らも生贄の足しにしてやる!」

 龍族も基本部族を作って暮らしている。恐らく龍族の長老との仮契約で子供の龍を貸してもらったのだ。

 幼龍が魔法で再度巨大化して炎を吐いた!

「『巍々たる高城! 天険たる壁よ!』」

 シュナが素早く『結界の呪文』で防ぐ、カイバルが叫んだ。

「散れ!」

 俺と冒険者達が全員別々の方向に走る。自然とシュナとカルマス、俺達とドラゴンの図式になった。

『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 ドラゴンの巨大な爪がシャイザルに向かって打ち下ろされる。同時にウルルムが飛んできた尻尾を避け、炎の息をカイバルがマントを盾にして防ぎ、余った俺が首に斬りかかる。

 バヂィッ! やっぱり鱗が固すぎて斬れない!

「ダメだ! やっぱり魔法剣でも斬れない! シュナ! なんとか出来ないか!?」

 カルマスと魔法の撃ち合いをしているシュナが叫ぶ。城の柱に隠れながらたまに顔出して呪文を撃ってるので銃撃戦みたいだった。

 カルマスの『火槍の呪文』を柱に隠れて防ぎながらシュナが叫ぶ。

「すでに強化呪文はかけてますわ! 龍族の鱗は最高レベルの防具素材なので無理ですわ!」

「『イバーイユーン』!こっちに火を吐け!」とカルマス。

 名前を呼ばれた龍がシュナに向かって火を吐こうとする。咄嗟に俺が龍の眼に剣を突き立てた。

 ガギンッ!

 後で知ったんだけど、龍族には瞼が2つある。内側の瞼は透明な固い膜になっていて目を守るのだ。俺の剣はその瞼に防がれた。

 ドラゴンは俺を気にせず烈火を迸らせる!

『GOOAAAAAAAAAAAAAAA!』

「シュナ!?」

 真っ赤な炎がシュナを包み込んだ! カルマスが勝利を確信して呪文を唱えた。

「『全て凍てつけ! 時間よと……』」

 その時驚きの余り詠唱が止まった。燃えているはずのシュナがこちらを見ながらゆっくり手のひらを向けたのだ。そして唱えた。

「『唸れ焔よ! 燃やし貫け!』」

 ズンッ!

 シュナが放った『火槍の呪文』を食らってカルマスの胸に穴が開いた。

 カルマスが自分の傷を見てから信じられないという顔で、

「ぐ、ガハ! な、なぜだ……? なぜその状態で魔法が使える……? なぜ喉が焼かれてない……?」

 シュナが手を振ると炎が消えた。火傷ひとつない唇で答える。

「魔族が最も喜ぶ生贄を教えてあげましょうか? ……『魔術師自身』ですわ」

「ぐぐ……! ば、化け物め……!」

「知ってますわ」

 再び放たれた『火槍の呪文』でカルマスの頭が吹き飛ばされた。


 眼がダメなら歯茎はどうだ!

 今度はこちらに向かって炎を吐こうとした龍の口に俺は剣を突っ込んだ。牙の付け根には当然鱗がないので刃が刺さった。

『GYOOAAAAAAAAA!?』

 さすがに痛かったらしい、龍が暴れて俺は振り落とされた。墜落寸前でカイバルが受け止めてくれた。

「歯茎か、中々いいやり方だ。確かにそこには鱗がないな。いい着眼点だぜ」

 怒り狂ったドラゴンが城の中を滅茶苦茶に暴れ回り始めた。柱をなぎ倒し、壁を粉砕して絶叫する。俺が叫んだ。

 ていうかカルマス死んでも消えないのかよこいつ!?

「外に出よう! 居館が崩れる!」と俺。

「ばっか! 今がチャンスだろうが!」

 シャイザルがそう言うなりドラゴンに接近する。案の定振り回される龍の尾が彼の身体に打ち込まれた!

「シャイザル!?」

 シャイザルが尻尾を食らって壁にふっとばされ……なかった。

 分厚い石壁を粉砕するほどのパワーがある尻尾をシャイザルが受け止めているのだ。

「……へへ、前に昔俺が『蟲』のおかげで怪力だったって言ったろ? 実はあの後研究したんだぜ? どうやったらまた怪力になれるかってよう……『力溢れよ、漲れ魂』ってな、オラァッ!」

『身体能力強化の呪文』と魔法薬の効果で手に入れた怪力でシャイザルが龍を投げ飛ばした。

『GAAAAAAAAAA!?』

 ドゴォンッ!

 勢いよく地面に叩きつけられた龍が悲鳴を上げる。だけどすぐに態勢を立て直して空に飛び上がろうとした。すかさずカイバルが接近する。

「はっはぁっ! じゃあこいつを食らいな!」

 彼が構えた袋から勢いよく煙が噴き出した。麻痺の効果がある毒ガスだ。

『GOA!? GOHAAA! GOAAAAAA!』

 翼に力が入らず飛ぶことが出来ない。龍は毒ガスを吹き飛ばそうと炎を吐こうと口を開ける!

 その龍の首にウルルムが後ろから抱き着き、

「見ときなマストカ。剣が効かない相手に勝つ方法ってのは……」

 口の中に『爆裂呪文を封じ込めた石』を放り込んでから飛び降りて言った。

「……こうするんだよ」

 石に込められた魔法が炸裂した。

 ボゴォンッ!

 さすがの龍族も鱗がない内側からは弱かった。爆発で内臓を破壊され、もうもうと煙を吐きながら龍が倒れた。

 ドズゥン……!

「す、すごい……」

 俺は尻餅をついていたのでシャイザルが手を伸ばして起こしてくれた。

「さて、感心してる場合じゃねぇぜマストカ。なんたってドラゴンの死骸だ! この際だから教えてやるが、ドラゴンってのは全身が高級素材の塊なんだぜ。鱗や牙は骨は武具や建築材料になるし、肉や内臓は保存食や薬になる! 幼龍でも城が建つくらいの金額になるぜ! おらさっさとしろ、ぼさっとしてると腐っちまうぞ!」

 カイバルとウルルムとシュナも嬉々として解体を始めた。俺はちょっと戸惑って、

「で、でも俺は何もしてないし……」

「違いますわ、若殿が龍族相手にも怖気づかなかったからここまでこれたんですわ。彼らもそれを認めてくれてるんです」とシュナ。

 ウルルムが俺の手を引いて笑った。

「あんたは立派な冒険者だよ。戦いに勝ったんだからあんたにも報酬を受け取る権利がある。ほら遠慮してると取り分なくなるよ」

 ウルルムがそう言って向き直ると、カイバルの毒ガスで失神して倒れた。

「おっしライバルが減った! 今のうちに持ってけるだけ持ってくぞ!」

 シャイザルとカイバルが大急ぎでノコギリを取り出して鱗を分解し始める。

 冒険者ってやつは……まあ確かに自由だね。


アラトアの国法では魔術は基本禁止されています(シュナーヘルなどの魔術師は皇帝の特別な許可で居住を許されている)。この法律を破ると死刑になります。カルマス町長は魔族と契約した時点で処刑確定なので、『じゃあ反乱起こしたるわ!』という感じです。

『龍族と契約しても神々に負けるやん』と言われそうですが、実は龍族も生贄にして精霊族、それも生贄にして最終的には神々を味方につけようと考えてしました。こういう風に契約魔族を生贄にしてより上位の存在と契約するのは魔術師としては割とポピュラーな手段です(いきなり精霊族と契約できるのは極めて稀)

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