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高橋大輔⑤異世界ハーレムの話

『魔女』は完全にヨーロッパの『ウィッカ』のイメージですね。

 シュナーヘルはアラトア人達からは『魔女』と呼ばれ、あまりよくは思われてはない。

『魔女』は本当はアラトア語の『ディッダ(祈祷師)』なんだけど、この『祈祷師』は元々アルナイ半島南部の原住民たちが崇拝していた女性の呪術師『ディメルダ』が訛ったものらしい。

 伝承では『怪しげな薬で酔い、夢の中で神と交わっていると勘違いしながら部族の男達と交わる猥雑な風習の犠牲者。邪神の慰み物であり、別名『聖なる女奴隷』と呼ばれていた』とかなんとか。アラトア人はこの原住民の信仰にドン引きして、全ての『ディメルダ』を『解放』したらしい。

 だから『魔女ディメルダ』呼びは本当はすごい侮辱なんだけど、シュナは好んでこの名を名乗っているのだった。

『私は原住民でもアラトア人でもないですからね』とシュナ談。

 ちなみに俺が『魔女』の意味を知ったのは15歳になってからだった。



「おい大輔、お前は異世界でハーレム作ったのかよ?」

 学校の昼休み時間。石田が僕に聞いてきた。

「ハーレム? いや、作ってないけど……」

「はぁ? なんで? お前貴族なんだろ? 作り放題じゃん、なんで作んないの? もしかして作ろうとして失敗した感じ? 貴族なんだから子供出来たって養えるだろ?」

「発想が最低ですね……」と斎藤。

「なんでだよ!? 向こうはこっちとは違うんだぜ!? 『レビーニ』じゃあ男の価値は嫁の数って言われてるくらいなのによ! それともアラトアじゃあハーレムはご法度なのかよ?」

 石田が妙にしつこく聞いてくる。

 なんとも答えづらい……空気を読めないこの馬鹿に『なんとなく』という言い訳が通じるだろうか?

 でも本当になんとなくなんだよなぁ……シュナ以外に全然そんな気が起きない。

「……別になんだっていいだろ。なんとなく気が向かないだけなんだよ」

 途端に石田が大笑いした。

「だっはっは! お前あれか? 『一人の女しか愛せない』とかそういう恥ずい奴か!? イケメンが言うなら『お!』と思うけど、陰キャキモオタが言うとキモさに拍車がかかるな! ぶっはっはっは!」

「ぐぐぐぐ……!」

 恥辱にまみれて拳を震わせる僕。こいついつか絶対ボコボコにしてやる。

 石田が笑いながら今度は斎藤に、

「ヒーヒッヒッヒ! じゃあ斎藤はどうなんだよ? お前も『おまじない』試してみたんだろ? まさか向こうでも『三次元は糞』とか言ってんのか!?」

 斎藤は不快感を隠さずに、

「……別に。ただ政略結婚は陳腐ですが政治的には有効な手段ですよ。各地の有力部族の族長の娘を娶るなんて、好むと好まざるともしなきゃいけないですしね。他にも出世のためにとか色々……途中から仕方なく『肉体的コミュニケーション手段』と割り切ることにしましたよ……」

「なんか悟りの境地に到達してやがる……!」と石田。

「三次元に対する絶望が悪化してないか?」と僕。

 そこで僕はちらりと教室の反対側にいる粟島を見る。

 きっとあいつもモテモテだから男をとっかえひっかえしてるんだろう、斎藤みたいに三次元には絶望してないけど、粟島はきっと多くの男子を手のひらで転がし散々弄んでることだろうさ。

 あー! 本当現実ってクソだ! ずっと異世界に居たい!


 他方、教室の反対側では優莉達もお喋りに興じていた。

 愛がひがみ顔で、

「ねぇ、優莉ってさ。今まで彼氏何人居た?」

 優莉はいつものニコニコ顔で、

「0人よ。好きな人ならいるけど、遠くにいて全然会えないわ……」

 そこで少し憂いを帯びた目を窓の外に向けた。

 途端に愛と佳が顔を近づけて、

「絶対嘘だわ。これは17人くらいは居る顔だわ」と愛。

「いやいや、『彼氏』はいないんだけど、『男友達』は居るタイプに決まってるじゃん。肉体的コミュニケーションとりまくりの遊びまくりよ、清純派の女は皆そうなんだって」と佳。

「2人は私をどんな人間だと思ってるの……?」

 愛と佳はいくら優莉が『男嫌い』だと言っても信じないのだった。


「……やっぱり愛人を沢山作るべきなのかな?」

 タルクス家の一室で、いつものようにシュナーヘルの魔術の授業を受けながらマストカが呟いた。

 本を朗読していたシュナーヘルが顔を上げて、

「それはもしかして私に聞いているのですか?」

「……いや、その……友人達から『お前は愛人が1人もいないなんておかしい』て言われてさ……」

 するとシュナーヘルは目を見開いて、

「驚きましたわ……若殿に友人がいただなんて……」

「失敬な!? 友達くらいいるわい!」

(まあこっちにはいないけどね……)

 クスクス笑うシュナーヘルを見ながらマストカは内心付け加えた。

「……シュナは美人だし、恋愛経験豊富そうだよね」とマストカ。

「あら嬉しいですわ。でも残念、『魔女』に恋する変わった殿方は800年旅しても1人しか知りませんわ。愛人を囲う貴族はどこにでもいますけどね」

「……やっぱり愛人がいないと馬鹿にされるかな?」

『魔女』は本を閉じてから、

「もし、私の意見をききたいのでしたら答えて差し上げますわ。愛人なんて作らないでくださいね」

「あ、やっぱりダメか……嫉妬しちゃう、とか?」とマストカ。

「若殿は2人以上の女性を愛せるほど器用じゃないからですよ。幸せにできないのが分かっているのに愛人なんか作っちゃダメですよ?」

「そ、そっか……まあ確かに俺は器用ではないね……」

 嫉妬じゃないのかとマストカは少しがっかりした。

 シュナーヘルは再び本を開いて、

「……若殿、そういう所を『不器用』というのですわ。 好きな人にただ『好き』というだけが愛情表現じゃあありませんわよ? 求める物を与えないのも愛情を長引かせる戦略ですわ……」

「へ、それってつまり……」

「さあ、若殿、授業を再開しましょうね。私が先生だってこと忘れてませんわよね?」

(やっぱりシュナには勝てない、とてもじゃないがハーレムなんか無理だよ……)

 マストカはため息を吐いたが、決して嫌ではなかった。



異世界と現実世界を行ったり来たりしています。

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