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マストカ・タルクス②:剣術と魔法の先生の話

 クノム人という人種がいるらしい。どんな人達なのかって? 俺も知らない。



 今日はタルクス家の屋敷に剣術と魔法の先生が来ていた。

 天気は晴れ、時刻は午後、場所はタルクス家の屋敷の中庭だ。

「お初にお目にかかりますマストカ様。『紺碧海を統べる剣』ことアルヘイムと申します。以後よろしくお願いいたします」

 高身長でハゲ頭、肌の白い剣士のおっさんが挨拶した。この人が『最強の剣豪』らしい。

 なんだか喋り方が難しいので俺は困って、

「はぁ、どうも……あの、そのコンペキなんちゃらって名前はなんですか?」

「『紺碧海を統べる剣』です。私の二つ名ですぞ。私はクノム人の国から来たのです。アラトア語もぺらぺらですのでご安心下され」

「は、はぁ……」

 なんか説明してくれなさそうなのでそのままスルーした。

 紺碧海って海の名前か? てかクノム人って何? とにかくアラトア人ではないってことは分かった。


 アルヘイムさんが黙ると今度は隣にいた女性が挨拶した。

「初めましてタルクス家の若殿。私の名はシュナーヘル。人々から『魔女』と呼ばれていますわ。アルヘイム殿とオルバース殿とはもう20年以上の付き合いになりますわ」

 全身を真っ黒なフードですっぽり隠していて顔以外肌は見えない女性だ。肌は雪みたいに白くて、フードからこぼれ出た髪の毛も真っ白。小柄だが妙に大人っぽい。アラトア人ではないようだが、出身民族は分からない。

 この人が『最高の魔術師』らしい。

 ていうかめっちゃ美人だ……! 


 俺の顔が赤くなると、アルヘイムが言った。

「おやおやマストカ様、シュナーヘルは魔術師ですぞ? それにこの女は見た目は若いですが実年齢は軽く800歳を超えておるのですぞ?」

「800歳……!?」

 まさか祖母より年上とは驚いた……。


 すると『魔女』が俺の目の前に近づいてきて上目遣いで顔を覗きこんできて、

「女の魅力は年齢では決まりませんわ……本当かどうか今から教えて差し上げましょうか?」

 シュナーヘルの髪の毛の香りが鼻に入ってきて俺は頭の中がくらくらした。

 100歳越えてる女性も良いものだなぁ……。


「おい『魔女』! うちの大事な跡取りを誘惑するな!」

 父オルバースがデカい声を出しながら近づいてきて俺はビクッと身体が震えた。

 シュナーヘルがクスクス笑いながら、

「ふふ、まだ幼い男の子はからかいやすくて面白いですわぁ」

 アルヘイムが僕の肩をポンポン叩いて言った。

「やれやれ、シュナーヘルは人をからかうのが大好きでしてね。『魔女』と呼ばれるゆえんですな。マストカ様もくれぐれももてあそばれないように気を付けてくだされ」

 俺は思った。

 むしろもてあそばれたい(真顔)


 父上が言った。

「さあ、それではまず剣術の訓練からだな。アルヘイム、頼むぞ」

「お任せを。それでは本格的な訓練を始める前に、まずは素振りをしてみてくだされ」

 アルヘイムがそう言って俺に剣を渡した。本物の鉄の剣だ。

 重っ!? でもなんか妙にテンション上がって来た……!

「素振りを何度かしてみれば、大体その人にどれだけの剣の才能があるか分かるというものです。なんといってもマストカ様は『天才児』として有名ですからね……」

 アルヘイムがそう言い、父上とシュナーヘルも真剣な目で俺を見ている。

 俺は自分の手に握られている剣を見る。

『この世界を救えるのは貴方様だけなのです!』

 あの時の声を思い出す。もし、俺が本当に救世主なら何らかの力があるはずなんだ。だからこの世界に呼ばれたはずなんだ。

 だから俺にはものすごい剣の才能があるはず……、いやないとおかしい!

 俺は深呼吸してから目の前の空間を睨みつけ、力強く素振りした。

「破ぁ!」

 

 まずは一振り。剣が勢いよく風を切り裂く。ちらっと横を見るとアルヘイムが『もう一度』と言った。

 もう一度素振り。まだらしくさらにもう一度素振り。またまた素振り。

 そのたびに静かに唸るアルヘイム。俺は確かな手ごたえを感じた。

 結局30回ほど素振りした後、『もう大丈夫です』と言われたので剣を地面に刺した。重い物を振り回したせいで腕が痛い。

 額の汗をぬぐう俺にアルヘイムが真剣な顔で告げた。


「マストカ様、あなたの剣の才能は……普通です」


 俺は盛大にずっこけた。

「じゃあさっき唸ってたのはなんなんだよ!」と俺。

「いえ、あまりに平均的だったので……でも事実を言うと傷つくんじゃないかと思ってずっとうまい言い方を考えてました。まあ、結局思いつかなかったんですけどね、ははは」

 もしかしてそれを考えるために30回も素振りさせてた?

 アルヘイムがヘラヘラしながら父上に言った。

「まぁ5年も修行すれば普通の魔族を狩れるくらいにはなるでしょう。剣だけでなく弓や馬の乗り方も教えましょうか?」

「そうしてくれ。マストカもいずれは戦争に行かなければならんからな」

 父上はそう言って一足先に屋敷の中に戻って行った。


 ハゲの剣士の次はシュナーヘルが俺に言った。

「次は私ですわね。オルバース殿から若殿は今まで一度も魔法を見たことがないと伺いましたわ。ですのでまずは若殿に魔法を実演してさしあげますわ……」

 シュナーヘルがそう言って両手のひらを地面に向けて何かの呪文を唱え始めた。

 うわ魔法だ! ついに魔法を実際に見ることが出来る!

 ビリビリと磁力のようなものが俺の肌に感じられ、風が彼女の足元を逆巻いて砂ぼこりを上げ始める。シュナーヘルがアルヘイムを指して叫んだ。

「汝の頭上にあるは月天、汝の身体を染めるは夜闇、黒の帳に映る影を見よ、あの頃に還れ、安らかな母のかいなに!『サラーマ・ミーン(眠りの歌)!』」

 呪文の完成と共に魔法が発動する。シュナーヘルの手から魔力の波動……じゃなくて小さな袋がアルヘイムの顔に投げつけられた

「ぶっ!? ぶわっ!?」

 袋がアルヘイムの顔に当たった瞬間、破裂して中から白い粉が噴き出した。アルヘイムがびっくりして粉を払い落そうとし、次第に粉の効果が聞いてきて白目を剥いて倒れた。

 シュナーヘルはアルヘイムの目を指で開いて眠っているのを確認してからどや顔で俺に言った。

「これが私が得意とする魔法、『眠りの歌』ですわ」

 俺はまたまたずっこけた。

「魔法じゃねぇじゃん! 眠り粉ぶつけただけじゃねーか! それのどこが魔法だ!?」

 シュナーヘルが『やれやれ』と首を振って、

「若殿は本当に青いですわ……大人の男を一瞬で眠らせるほど強力な粉の作り方、若殿は分かりますか? 魔法使いは薬草のスペシャリストなんですよ?」

「いや、でも魔法って言ったら手から炎の球を飛ばすとか、傷を治す光を出すとかそういうのじゃないの……?」

 魔女が笑って、

「あらあら若殿は少しは現実とファンタジー(空想物語)の区別がつけて欲しいですわ」

 俺は足の力が抜けて地面に突っ伏して思った。

 なんでだよここは異世界だろ! 少しは本気出せよ……!

「ぐぉぉ……」

 横を見るとアルヘイムが鼻提灯を膨らませながら呑気に寝ている。

 ……『最強の剣豪』と『最高の魔術師』なんだよね? 俺の魔法と剣術の先生大丈夫なのだろうか……?


 ふと、どこからともなく何か光の玉のようなものが飛んできた。

「ん?」

 光の玉というか火の玉っぽいな……ふわふわ浮かびながらゆっくりアルヘイムの顔に近づき、玉の形が崩れて親指くらいの小人に変化した。

 小人は『キキキ』と小さい声で笑うと、持っていた爪楊枝みたいな剣を抜き、アルヘイムの右瞼を開けて眼球の隙間に潜りこもうとする。

 こ、こいつ、もしかして母上が前に話してた『小人ミーバス族』か?

『小人族』、見た目はすごく小さい人間で愛らしいが、生き物の身体の中に入り込んで寄生し病気にする非常に危険なモンスター(魔族)じゃないか?

「おい! この野郎離れろ!」

 ビシュンッ!

 俺が潰そうと手を振り上げた瞬間、横からビームが飛んできて小人を一瞬で灰にしてしまった。

「え!?」

 俺がビームの飛んできた方向を見るとシュナーヘルの右手にカメレオンみたいな生き物がぶら下がっていた。カメレオンの口からモクモクと煙がでている。

 も、もしかして今のビーム撃ったのそのカメレオン?

 カメレオンはすぐにシュナーヘルの袖の中に隠れてしまった。

「ちょ、シュナーヘルさん!? 今の奴なんですか!? もしかして魔法を使ったんですか!?」

 だけどシュナーヘルは首を傾げて、

「? タルクス家の若殿が何を言っているのか分かりませんわ」

「えぇ!? なんでとぼけるの!? 今の魔法でしょ!? なんで隠すんですか! もう一回見せてくださいよ!」

「ですから魔法とは薬草の使い方のことと言ったじゃないですか」

「いやいや今光線出してたでしょ! さっきの生き物はなんなんですかぁ!」

 結局シュナーヘルはカメレオンのこと何一つ教えてくれなかった。


世界観の説明はぼちぼちやっていこうと思います。

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