高橋大輔④ピーマンと肩こりと肌荒れの呪いの話
学校の昼休み中、僕はじっと粟島を見ていた。
いや、この表現は正確ではない、『睨んでいた』が正しい。
僕の視線に気づいて集まってきた石田と斎藤も粟島を見る。
「? どこ見てんだお前は?」
残念だが相手している暇はない。
僕は日課で忙しいのだ。
あらんかぎりの恨みのエネルギーを粟島に送り続ける。これだけ僕が恨んでるんだ、きっと何か悪いことが起こるに違いない。
……しょーもないとか言うな!
神様仏様、どうか粟島の弁当にあいつが嫌いなピーマンが入っていますように!
優莉が弁当箱を取り出して机の上に開く。それを佳が覗き込んで、
「お、その炒め物うまそ~! 弁当綺麗だね~、お母さん料理上手なん?」
優莉はいつものニコニコ顔で、
「ううん、お弁当は自分で作ってるの。お母さんじゃないわ」
「え!? 自分で!? すご!」
「そういえば優莉の趣味って料理だっけ? それにしてもまさか自分で弁当作ってるとは……」と愛。
「ふふ、慣れるとそう大変でもないわよ? 妹と姉のお弁当も私が作ってるのよ」
「3人分も? 面倒くない?」と愛。
「ていうか優莉三人姉妹の真ん中だったんだ、地味にびっくりしたんだけど……超意外だわ。どこからどう見ても長女だもん」と佳。
「そうかしら? まあお姉ちゃんの世話も焼いてるから妹が2人いるようなものだけどね、ふふ」
そう言いながらピーマンの肉詰めを優莉は食べた。
遠くで聞いていた大輔が愕然とした。
(な!? 自分で作ってるだと!? それじゃあ嫌いな物が入る余地がない……ていうかピーマン食えるようになってるじゃねーか! 畜生! なんだなんだ母性アピールか!? そんなデカイもんぶら下げやがって、重くて肩が凝りますよーに!)
再度呪いの念を送った。
「へ~家じゃあ優莉が実質一番上の姉って感じなん?」と愛。
「優莉って本当母性強いよね~、やっぱり母性が強いからボインなの?」と佳。
「性格とバストサイズは関係ないと思うけど……」と優莉。
「てかデカいと肩凝らない? ブラ選びも大変なんしょ? 男は好きらしいけど、女から見るとね~?」
愛がそう言って佳の方を向くと。
「まあねぇ、でもモテるのは事実だしね。運動する時とか痛そうだけどさ」
優莉は不思議そうに首をひねって、
「私は痛くないし肩も凝ってないわよ? 運動して筋肉つけてるし、ちゃんとしたブラを選べば凝らないわ」
「え、そうなん? てか筋肉つけてるってことは脱ぐとマッチョ?」と愛。
「まさか、そんな簡単にムキムキにはなれないわよ。胸のせいで良く太ってると思われるけど……」
優莉が自分の制服の腹の中の部分を手で押して、内側に何もない空間があることを示した。
「私、お腹のラインには結構自信あるのよ?」
優莉がほほ笑み、友人達が顔を赤らめ、盗み聞きしていた周りの男子達が皆鼻の穴を広げて生唾を呑み込んだ。
遠くで聞いていた大輔だけは唖然として、
(そんな、肩が凝らない下着があるなんて……! くそったれ! こうなったら昔みたいに日焼けしてお肌が荒れますように!)
懲りずに大輔はまた遠くから呪った。
「そういえば、姉妹の弁当作ってるってことは、もしかして家事もやってんの?」
愛が卵焼きをつつきながら聞くと、優莉が頷いて、
「ええ。洗濯や掃除もしてるわ。皿洗いは手の肌が荒れるからそれが最近の悩みね……」
「中年主婦かよ」と愛。
「でも優莉肌めっちゃ白くて綺麗じゃんね。髪も全然枝毛ないしさ~、なんか使ってんの? 教えてよ~!」と佳。
「私は別に特別な物は使ってないわよ?」と優莉。
「うげ、はいはい産まれつきってやつですか。本当神様って不公平だって再確認しました~」
美人で、スタイルよく、勉強もできて、運動も得意。まさに文句なしの才女。
(……確かに粟島は才能の塊みたいな女子だ。だからこそ、あいつは僕みたいな弱者の気持ちが分からないんだ。ちきしょう……粟島さえ、粟島とさえ出会わなければ僕は劣等感に苛まれることもなかったのに……)
聞き耳を立てていた大輔も愛に全面同意した。
愛が不貞腐れた顔でいると、優莉がいきなり立ち上がった。
「……2人ともいい? お肌の最大の敵は何か知ってるかしら?」
腰に手を当て真剣な顔で迫られて鼻白む友人2人。
「え? さ、さぁ? 皿洗い?」と愛。
「ストレスと睡眠不足よ。十代後半の女子の身体はホルモンバランスが崩れやすいの。まずは十分かつ規則正しい睡眠習慣と日常のストレスの軽減が第一! 夜10時には寝て起きるのは朝7時! そして遅刻しそうになっても朝ご飯は絶対に抜かない! 三食きっちり欠かさず食べれば勉強にも良い影響があるわ! それにストレスの軽減には運動が最適! でも紫外線はお肌の敵だから屋内スポーツがいいわね、運動習慣がつけば食事制限しなくても太らないからダイエットのストレスからも逃れられて一石二鳥! そして食べるものはバランスよく偏食しない! 以上の項目を中学生のころから実践していれば誰だって綺麗になれるわ。2人は高校生だけど、まだ遅いってわけじゃないわ。今日からでもまずは10時間睡眠を取り入れるべきよ! 私も協力するわよ!」
優莉にぐいぐい迫られて2人はたじたじになった。
「い、意識たっか……」と佳。
「い、いや~、なるほど~、優莉は努力家なわけね~、なんか嫌味言っちゃってごめんね~、でも私にはちょっと無理かな~あはは」と愛。
遠くから聞いていた大輔は絶望した。
「……リア充になるためにはそんな努力をし続けないとダメなのか……僕みたいな自堕落で飽き性の屑には無理だ……だからいじめられるのか、あはは……」
「いや、そこまでやるのは粟島さんだけだと思いますよ」と斎藤。
石田も呆れながら、
「やっぱ女優志望というだけあって普通じゃねぇなぁ、ちょっと俺の恋人にするには偏執的すぎるぜ。パスだな」
「いや何様ですかあんたは」
石田の異常な自信が大輔には少し羨まし……くはなかった。
『高橋大輔』編は最初の話以外は本編とは完全に時間軸が別なので、ややこしいと思います。こっちは気まぐれで更新すると思います。




