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マストカ・タルクス㉕『冒険者の町:バラン』と妖術師アンタルサ討伐準備の話

 冒険者達には『美学』がある。

 沢山の吟遊詩人が歌う『冒険物語』がその美学を俺達に教えてくれる。

 彼らは皆勇気があって、強くて、賢くて、絶対に挫けず、例え相手が王族や貴族であっても絶対に媚びないし、恐ろしい魔族であっても決して死ぬまで戦うのを止めない。

 自分の力だけで荒野を生きる真の自由人なのだ。



 事件は突然勃発した。

 町長逮捕後のことだ、役人の1人が飛び込んできて叫んだ。

「た、大変です! 『妖術師アンタルサ』と名乗る者が牢屋から町長を誘拐しました!」

 は? 誘拐? どういうこと?

 ていうかその『妖術師』て誰だよ聞いた事ねーぞ。

 ちなみに『妖術師』というアラトア語は本当は存在しない。役人は『邪悪な魔術師』と言ってたんだけど、一々長いので『妖術師』と意訳した。

 


 役人は紙を俺達に見せた。『妖術師アンタルサ』という奴が送ってきた『犯行声明』だった。

『カルマス町長は預かった。返して欲しければ金貨3000枚を用意しろ。7日以内に我がアジトに持ってこなければ町長を殺しバランの町も滅ぼす。妖術師アンタルサより』

『妖術師』て自称かよ。自分で自分のこと『邪悪』ていうか普通? この世界の人間のセンスは理解できない……。

 文章の下にはアジトの場所も書かれている。バランの町を出て北に少し歩くと見える丘だ。

 シュナが紙に添えられている地図を指して、

「このアジトがある場所、無人の城がありますわ。大昔、アラトア人がこの地域を攻める時に築城した拠点ですわ。今は廃墟になっているはずですが……」

 アルヘイムが付け加えた。

「恐らくその城をアジトにしているのでしょう。魔法で修復していると見て間違いありますまい。町長が誘拐された現場を見た者はいるか?」

 役人が汗を拭きながら言った。

「じ、自分が見ました。沢山の恐ろしい魔族どもが突然牢屋を襲撃して誘拐していったのです。衛兵達も怖がって何も出来ませんでした……」

 父上が召使に水を用意させて役人に渡した。

「そうか、ご苦労だった。君は持ち場に戻れ。後はこちらで対処する」


 役人が出て行った後、父上が皆に言った。

「お前達はどう思う?」

「カルマスが脱獄して廃墟に立て籠っているのですわ」

 シュナが即答した。父上も頷いて、

「だろうな……このタイミングで謎の魔術師に誘拐とか都合が良すぎる。だがどうやって脱獄したのだ? 町長が魔術師だったなんて聞いたことないぞ?」

「魔族は常に人間達を混乱に陥れようとチャンスを伺っていますわ。恐らく通りすがりの妖精辺りが力を貸したのでしょう。魔族とはそういう連中です」

 まるで通り魔だ。魔族が恐れられる理由が俺も少しは理解できた気がした。

「ふむ、そんな所か。しかし今回のことは完全な皇帝陛下への反逆行為だ。2人とも討伐を頼めるか?」

 父上の言葉にシュナとアルヘイムは拒否した。

「敵がどれほどの魔族と契約し、しかも何人いるかも分からないのに2人で行くなんて自殺行為ですわ。ここはできる限り兵を集めるべきです」とシュナ。

「ここは商業都市ですぞ。ちょうどいいですしここで人手を集めましょう。暇してる冒険者達を金で雇うのですぞ」とアルヘイム。

「むぅ、2人の言う通りだ。早速妖術師討伐のための冒険者達を集めよ!」

 召使達に命令が伝わり、急いで準備を始めた。


 早速父上の名前でバランの町で冒険者を募集した。

「おいマストカ! 話は聞いたぜ? 妖術師討伐とやらに俺も参加させてくれよ」

『天地ひっくり返り亭』で俺がテーブルに座っていたらカイバルがやってきた。

「あ、カイバルさん久しぶり。町長救出作戦に参加希望?」

「ああ、給料はアンタルサより低いが、俺はあんたの方が好きだからな。こっちに乗らせてもらうぜ」

 そう言って俺の対面に座ってタバコを吸い始めた。俺が聞き返した。

「はい? 今なんて言った? アンタルサより低いって?」

「なんだ知らねぇのか? 妖術師の奴もあんたらと同じく冒険者を集めてるんだよ。あんたらは前払いで1人につき銀貨2枚+成功報酬あり。アンタルサは後払いだが金貨5枚だ。冒険者達は『大貴族の癖にケチだ』て噂してるぜ?」

 アラトアでは銅貨60枚=銀貨12枚=金貨1枚の交換レートだ(法律で固定されている)

 向こうは30倍か……(汗)

 妖術師の方も冒険者を集めているらしい。ちょっと予想してなかった。

「……1つ確認したいんだけど、アンタルサは町長を誘拐した犯罪者なんだけど」

 俺が聞くとカイバルが首をひねって、

「それがどうした? 俺ら冒険者には関係ないね。俺らは自由人だ、貴族とか法律とか豚の餌にしちまえよ」

 そこでカイバルがアリムを呼んで料理を注文した。

「そんなこと言ってたら豚料理が食いたくなったからいつもの頼むぜ。また嘘吐いて蛇出してら許さねぇからな」

「ええ~市場に行って豚買ってこないといけないじゃ~ん! 蛇だったらすぐ出せるのに~!」

「看板に『蛇料理専門店』て書いてやろうか? おらさっさと行けよ」

「ちぇ、文字なんて書けない癖に! 行ってきますよーだ!」


 アリムが出かけると入れ替わってシャイザルとウルルムもやってきた。

「よ、マストカ! とシュナーヘルも居たのかい」

 ウルルムに声をかけれられて俺の隣で黙って座っていたシュナが言った。

「こんにちはですわ。お2人も妖術師討伐に参加してくださるのかしら?」

「私は邪悪な魔術師が嫌いだからね。こっちに味方してやるよ」とウルルム。

 彼女がシュナにウィンクすると、シュナも笑った。

 シャイザルがカイバルの横に座って、

「正直な話よぉ、町長が誘拐されたとか言ってたけど、俺は信じてねぇんだよな。ぜってぇ狂言だろ。そもそもアンタルサなんて名前聞いたことねーぜ?」

 シュナも頷いて、

「ええ。私達も町長がでっちあげてると考えてますわ。逮捕したタイミングでこれはいくらなんでも都合が良すぎますわ」

 シャイザルが興味津々といった様子で身を乗り出した。

「あん? 逮捕? 町長がなんかやったのかよ?」

「やめとけ。政治の話なんて俺らが聞いても得なんてねーよ」とカイバル。

「そうそう。私らは金貰えて気分よく仕事出来ればいいのよ。それで? どうすればあんたらの仲間に加われるわけ?」とウルルム。

 シュナが外を指さして、

「この通りを西にまっすぐ行ったら私達が泊っている家がありますわ。そこに冒険者達が集まってるからそこで登録をお願いします。給料もそちらで渡しますわ」

「おっし了解、そんじゃいくよ男ども!」

『へいへい』

 ウルルムを先頭に3人が出て行った。

「なんか妖術師側も人を集めてるらしいけど、大丈夫かな?」と俺。

「ご安心を、鬼族との戦争の時と同じですわ。また勇気が出る薬を渡しておきますね」とシュナ。

「え!? 俺も行くの!? 父上は危ないことはするなって……」

「私が居るから危ないなんてありえませんわ」

「す、すごい自信ですね……」

 滅茶苦茶頼もしくて可愛いドヤ顔だった。


 バランの町を出て北を見るとすぐに丘が見える。

 その上の方に石作りの小さな城が見えた。『イサルダ城』というらしい。あれが妖術師のアジトか。

 山の麓の平原に俺達は居た。

 父上が目の前に集まっている冒険者達に叫ぶ。

「よくぞ集まってくれた冒険者諸君! 軍神マヨールスの勝利の美酒がお前達に降り注ぐことだろう! 英雄イヒルナスはこう言われた、『叩いて進め、突き刺してなお進め、敵の死体を枕にして眠る夜……』」

「さっさと始めろ! かったるい話なんてしてんじゃねぇぜ!」

「あそこの城に居るんだろ!? あたしらは軍人じゃねーぞ!」

「詰まんねぇ説教するんなら給料出しやがれ!」

 一斉にブーイングが飛んできて父上の顔が引きつった。

 まじで貴族を何とも思ってないんだな……。

 父上は気を取り直して、

「あー、その、なんだ。時間がないから省略するぞ。とりあえず2手に分かれてあの城を攻める。正面と裏からだ。正面は魔法による攻撃が予想されるのでシュナーヘルが指揮をとってくれ。裏はアルヘイムが指揮を。この際町長の生死は問わないこととする。とりあえず妖術師を滅ぼすのだ」

 表は魔法使いの冒険者を中心に大人数、裏は丘の裏側の崖を登れる力の強い者達だけで少人数。

 早速作戦が開始された。


「……なんで俺が危険な方に居るの?」

 ここは表門に向かうシュナが率いる正面部隊。

 俺が隣を歩くシュナに聞いた。彼女は上機嫌で言った。

「これは良い経験になりますわ。それに大活躍できるチャンスですわよ?」

「いやいや俺達どちらかっていうと陽動じゃん! 危険な上に損な役回りじゃんか!」

「そんな状況を跳ね返し大活躍する若殿、素敵ですわぁ……」

「ちょっとは俺の心配をして!? 俺一応名門貴族の跡取りなんですけど!?」

 シュナが『そういえばそうですね』みたいな顔で空を見上げて少し考えてから、

「それは……まあアレですよ。大丈夫ですよアレなので。はい、アレです」

「アレってなんだよ!? 適当すぎるだろ! アルヘイムの方に行かせてくれよおおおおおお!」

 シュナは笑うだけでがっちり俺の腕を離さなかった。


アラトア帝国は金貨を鋳造できるだけの経済力はある国です。ですが魔術師の社会的地位が非常に低いせいで国家の魔法防御はかなり貧弱です(アラトアに限った話ではありませんが)

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