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ニムル・イル・アルディヤ76『過去に憑かれた者達』の話

時代的には鉄器の質が徐々に上昇しているがまだ青銅器も活躍してる、と言う感じの時代ですね。

 プルケラスはオルブスの町の一角にある自分が泊っている宿にニムル達を案内した。

「冒険者があつまる酒屋は治安が悪いですから、私の宿で飲みましょう」とプルケラス。

 事前に酒を買って宿に入り、宿の女主人に金を払って料理を用意してもらった。

 部屋に入るとプルケラスとルアンとイスティが用意されたカーペットの上で寝そべり、奴隷3人は座った。

 ハッシュがニヤニヤしながらカムサに言った。

「お前は宿屋の飯を食うの初めてじゃねーか? お嬢様はお抱えの料理人に作らせるから食ったことねーだろ?」

 だがカムサはやっぱり暗い顔のままで、

「……そうね。確かに初めてだわ……」

「……」

 ハッシュがいきなりカムサの両頬を引っ張ったのでカムサが怒った。

「ひたたた!? ちょっと何するのよ!?」

「お前暗いんだよ! 酒が不味くなるからいつも通りのヒステリーだせや! 張り合いがねぇだろうが!?」

「ヒステリーは出ない方がお酒は美味しいんじゃ……?」とニムル。


 プルケラスが早速買ってきた麦酒を水で割らずに飲みながら、

「くく、見てて楽しいお嬢さん方ですね。しかしなんでまた奴隷になってるんですか?」

 ルアンは水割り葡萄酒を一口飲んで、

「彼女達は故郷を失ってやむなく冒険者になった可哀そうな子達なんですよぉ。それで遺跡探検で負傷したから医療費を私が工面したって話ですねぇ」

「おお、なるほど。冒険者にはよくある話ですね。……しかしニムルさんの強さは恐れ入った。その剣技も冒険途中で培ったものですか?」

 ニムルがなんと答えようか悩んでる間にハッシュが言った。

「ニムルは冒険者になる前から強かったぜ。理由はあたしらも知らねぇ」

「う~ん、神様に愛されたって奴ですよ。へへへへ」とニムル。

「……本当に愛されてるなら奴隷になんてなってないわ……」

 カムサがボソッと呟き、ハッシュとニムルが顔を引きつらせて黙った。イスティは無表情だった。

 ルアンが薄ら笑いを浮かべながら、

「奴隷といえば、プルケラスさんもクノム風の名前ですけど東方の人ですよね? 奴隷としてこっちに来たんですか?」

「違いますよ。冒険者としてこっちに来たんです。私の本当の名前は『フールケ』というんですが、クノムティオに来たのでクノム風の発音に直してるんですよ」とプルケラス。

「なるほど。しかし東方人は麦酒を好んで飲むというのは本当なんですねぇ?」

「葡萄酒も飲みますが、麦の方が神聖なのですよ。私の故郷には『麦と麦酒の女神』という神がいまして……おっと、あまり西方で東方の神のことは言わない方が良いですね。それより、ニムル殿の動きにはとても見覚えがある。私が剣を学んだ『アルヘイム傭兵団』の剣士たちと動きがそっくりですよ」

 ニムルは思わぬ言葉に驚いたが、ハッシュやカムサも驚いて声を上げていた。

「『アルヘイム傭兵団』!? おっさん『アルヘイム』なのか!?」とハッシュ。

「はは、いやいや、私は弟子であって『アルヘイム』ではないよ。先代アルヘイムに師事していたことがあるんだ。あいにく資格なしとされて襲名はできなかったけどね」とプルケラス。

「す、すごいですわ……アルヘイムの弟子なんて初めて見ましたわ……」とカムサ。

「あはは! 弟子と言ってもチンピラに絡まれて困る程度の腕だけどね! いや~まいったまいった」とプルケラス。


 ニムルは暫く混乱していたが、やっとのことイスティに聞いた。

「あの、アルヘイム『傭兵団』て何?」

「……知らないんですか? 大昔東方諸国で名をはせた伝説の剣士ですよ。その人が作った『冒険者組合』を『アルヘイム傭兵団』というんです」とイスティ。


『冒険者組合』はようは『冒険者ギルド』だ。冒険者同士で遺跡の情報を交換したり、報酬を払わない豪商や貴族と交渉したりと個人経営が基本の冒険者達の権利保護や紛争の仲裁を行っている組織である。


『組合』は主に東方諸国で発達した制度で、最初は職人の集まりだったものが次第に自衛のために武装し、統治のために欠かせない物として権力者の保護下に入った組織だ。冒険者とは傭兵でもあるので、『傭兵ギルド』と言い換えてもいいだろう。先進的だが多民族社会で争いの絶えない東方ならではの制度だった。


(し、知らなかった……アルヘイムって本名じゃなくて大昔から受け継がれてる名前だったんだ……!)とニムル。

 マストカに剣を教えた『アルヘイム』が一体どういう経緯で『傭兵団』を捨てて単身アラトアにやってきたのかは分からない。生前アルヘイムはシュナーヘル同様ほとんど自分の身の上話をしなかったのだった。


 唖然としているニムルの顔を見てイスティは不思議そうに首をひねったが、すぐにプルケラスの話に関心を移した。

 プルケラスは麦酒をおかわりしてから、ぽつぽつと話し始めた。

「……ふふ、傭兵団の話をしたら昔を思い出してしまいましたよ。私は実は元々『モルバタエ』のある鍛冶屋の息子だったんです……」

 彼は語り始めた。


 プルケラスは『モルバタエ』という地方の貧乏な鍛冶屋の息子として産まれた。

 彼の家は代々地元民から『呪術師』とされていた家系で、神々に捧げる神聖な青銅器を作成して裕福な暮らしをしていた。

 だが10代前の祖先の時代に鍛冶の神からこんなお告げを受けた。

『これから青銅ではなく鉄の時代がくる。お前は鉄で武器を作るのだ』

 先祖はこれを信じて鉄器を作り始めたが、鉄の精錬技術が未熟すぎてボロボロの脆い鉄が出来るだけで全然使い物にならなかった。しかも地元民は『呪術師』が鉄器づくりを一度も成功させないのを見て尊敬しなくなり、彼の家系はすっかり貧乏になってしまった。

 プルケラスの父はこの話をした後、よく息子にこう言っていたらしい。

『確かに鉄の時代は来た。神々の感覚なら数百年はあっという間だが、人間にとってはそうじゃなかったというだけだ』


 そんなこんなで若いプルケラスは『祖先の失敗を俺が挽回するんだ』と思って熱心に剣の鍛造に打ち込んでいた。

 ある時彼は父と二人でハンマー振るって一心不乱に剣を叩いていた。すると頭上から声が聞こえてきた。

『我は鍛冶の神。お前達には実に済まないことをした。償いとして素晴らしい剣を一振り与えよう』

 途端に『鍛冶の神』が降臨し、神とプルケラスと父の3人で剣を叩き、一振りの名剣が完成した。

 その剣の刃は見ているとあたかも吸い込まれてしまいそうなほど美しかった。すぐに父によって『償いの剣』という名前が与えられ、プルケラスはこの剣が欲しくてたまらなくなった。

 だが父も一発で一目ぼれしてしまい、すぐに親子で剣の奪い合いが始まってしまった。

「はぁ!」

「ぎゃあ!?」

 気が付いた時、プルケラスは『償いの剣』で父を斬り殺していた。彼は慌てて剣の血を拭うと、旅支度をして逃げるように村を立ち去ったのだった。


 それから彼は東方諸国を渡り歩きながら剣の腕を磨いた。『償いの剣』は恐ろしいほど切れ味が良く、どんな武器であろうと防具であろうと簡単に両断することができた。プルケラスは次第に剣の切れ味に酔い、人を斬りたくてたまらなくなっていた。

 だがそんな『償いの剣』を折った剣士がいた。それが当時の『アルヘイム』と呼ばれる老人だった。

『お前はもう妖剣から解放された。だが今更元の生活には戻れまい、わしの弟子になれ』

 彼は数多く居る弟子の一人に加えられて熱心に修行した。だが結局ライバルたちとの競争に負けて『アルヘイム』を襲名することはできなかった。

 プルケラスの代わりに襲名したクノム人のライバルは去り際にこう言った。

『お前は剣の魅了からは解放された替わりに剣技に魅了されてしまっただけだ。その弱い心を治さない限りアルヘイムを継ぐなぞ夢のまた夢だぞ』


(『モルバタエ』……懐かしいですわ)とイスティ。

 そこでプルケラスが話し終えて、

「……それからは冒険者になって諸国を『冒険』して生活費を稼いでいます。ですがやはり剣士たるもの、夢は仕官すること! と思いましてね……名前を売るために『競技会』に出ようとこうしてアピールしていたわけなんですよ」

「せ、世知辛いですね……」

 ニムルは時代劇に出てくる貧乏浪人を思いだして『アルヘイムはうまく世渡りしてたんだなぁ』と改めて思った。


 プルケラスは赤ら顔になって、呟いた。

「……いや本当、ライバルの言った通りなんですよね。私は最初は剣に憑かれ、それが解けたと思ったら今度は剣技に憑かれている。先ほど見せてもらったニムル殿の動きを見て一発で惚れましてねぇ……ぜひ一死合い付き合っていただきたいと思った次第になんですよぉ……!」


 バタン!

 いきなりニムル以外の4人が倒れて気絶してしまった! ニムルがぎょっとして立ち上がり、

「な!? 一体……!?」

 プルケラスも立ち上がって剣を抜き、

「……実はこっそりニムルさん以外の酒に毒をいれておいたんです。遅効性の毒なのですぐには死にませんが、一晩経てば全員死体に変わってるでしょうねぇ? もちろん解毒剤は私が持ってますので、皆さんを助けたかったら私を殺して奪ってくださいねぇ」

 ギラギラ光る眼で嬉しそうに笑うプルケラスを見てニムルが唖然として、

「……あんた、なんでこんなことを……!」

「だから殺し合いをしたいからですって。私は弱いですから多分勝てると思いますよ? ……ニムルさんが嫌ならこっちから行きますよぉ! ひゃはははは!」

 プルケラスが一気に間合いを詰めてくる! ニムルはルアンの腰から『ビースラー』を奪って応戦する。

「ひひゃあああ! 先ほどの見事な剣技を見せてくださいよぉ!」とプルケラス。

「やめろ! 僕は人殺しをしたくないの!」とニムル。

 ガキィンッ! と剣同士が火花を散らす。

「私はしたいですよ! いひひひぃ!」

 狭い部屋の中でニムルは器用に攻撃を避ける。廊下に飛び出そうかと思ったがプルケラスは平気で他の人を巻き込みそうなので止めて別の手段を探す。

(人殺しをしたくないのに! 殺さないって約束したのに! なんで皆守らせてくれないの!?)

 プルケラスはそれほど強くはないが、狭い部屋の中なためニムルに逃げ場がなく圧倒的にやりづらかった。

「この!」

「ぐ!?」

 ニムルがそれでもなんとか剣撃をすり抜けて鳩尾を殴りつける。だがプルケラスは倒れず、

「……私打たれ強いんですよぉ! ひゃあ!」

 やたら頑丈で急所を何度も攻撃しても気絶しなかった。過剰に興奮しているせいである。

(く、こうなったら……!)


 ニムルは一計を案じ、いきなり倒れているハッシュの身体を持ち上げて盾にした!

「!?」

 プルケラスが驚きつつも躊躇わず剣を振り降ろし……、

 ガキィンッ!

 素早く影から飛び出してきた『デージャ』が嘴で剣を受け止めた!


 ザシュッ!

 すかさずニムルの曲剣が一閃され、プルケラスが剣を握っていた右手が手首を斬り飛ばされて宙を舞った。

『コケーッ!? ココココケーッ!?』

「いててて!? ごめんって! 君が助けると信頼してたからだって!」

『デージャ』が怒り心頭でニムルをつつきまくる。その横でプルケラスが血が流れる右腕を押さえて転げまわりながら、

「いぎゃあああああ!? ああいいでぇえええああああ! ひひ! ふひゃひゃひゃひゃ! 美しい! なんて美しく大胆な剣捌き! 見事ですよ! 惚れましたよニムル殿ぉ!」

 ニムルは立ち上がって『デージャ』を押しのけて、

「……あなたはそんなんだから『アルヘイム』を継げなかったんですよ……! さあはやく解毒剤を出して!」

「ひひぃ! 全くもってその通り! 今の『アルヘイム』と同じことを言ってらっしゃる! ひひゃはははは!」

 プルケラスは子供みたいに笑い続け、ニムルは彼の懐を探って解毒剤を見つけて全員に飲ませた。

 それから『デージャ』に向かって、

「デージャさん! プルケラスさんの傷もなんとかできない? あのままだとあの人失血で死んじゃう……」

「コケー!」

「あ……」

『デージャ』が羽でプルケラスを指した。振り返るとプルケラスは既に隠し持っていた短剣で自分の喉を刺して死んでいたのだった。

 ニムルは愕然としてその場に蹲った。

「……また、また人を殺しちゃった……!」

 

『汝の罪を清算せよ……』


「!?」

 ぞっとしてニムルが辺りを見回したが、怪しげな影はどこにも見当たらなかった。


 その後は特に何もなく、ルアンが警吏に『襲われたけど返り討ちにした』と説明した。プルケラスは近くの町でも問題行動を起こしていたのがすぐに露見したので(ニムル達が見つけた時も実はプルケラスから喧嘩を売っていた)、ルアンの証言は信用されて無罪で釈放されたのだった。

 そのまま一行は足早に町を出たのだった。


『ギルド(組合)』は個人で活動している構成員が困った時に頼る場所、みたいな感じです。ですが組織内部にはちゃんと規律と序列が存在しており、マフィアとかに近い組織かもしれません(会社と違って構成員に給料は出ずむしろ上納金をとられるので、組織が許す範囲で自分で稼ぐ方式。構成員の商売に邪魔が入れば組織全体で報復する)。

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