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マストカ・タルクス㉔『冒険者の町・バラン』と薬物密売人の裏切りの話

ちょっと政治的な話になるかもしれません。

 アラトア神話には『魔術の神』は存在しない。

 魔法は魔族が人間に与えた技術だからだ。『知恵の神』は火や文字などの『文明』を人間に与えたが、魔術には関わっていない。だから魔術を司る神はいないのだ。



 夜中に娼館から帰ると父上が起きて待っていた。

「一体こんな時間まで何をしていたのだ?」

 玄関を開けると父が仁王立ちしていたので俺はすっかりすくみ上ってしまった。

「えっと、それは……」

「魔法の訓練ですわ。夜の方が適していたので」

 すかさずシュナがフォローしてくれた。

「む、そうか……帝都ならともかく、ここでは出来る限り夜は避けてくれ」

「以後気を付けますわ」

 シュナの腕はごく自然に俺の腕に巻きつけられている。

 特に怒られることもなく無事にベッドに入り、酷く疲れていたので一瞬で眠りに落ちてた。


 翌朝のことだ。

 俺とシュナとアルヘイムがまた市場へ行こうと馬車に乗ったらいきなりアハーマに呼び止められた。

「こんにちは~♪ ちょうどいい所に来たわね~」

「アハーマさん!? なんで家の前に居るの!?」

 俺が馬車から顔を出す。アハーマは隣に立っている爽やかな青年の手をとって、

「マストカちゃん達にお話があるのよ~、出来ればお出かけはキャンセルしてもらってぇ、お家の中に入れてくれないかしら~ん? あ、こっちは私の恋人のライクルよん」

「お初にお目にかかりますマストカ様、『市場管理官』のライクル・フィンダールと申します。今日はオルバース候にお話があって参りました」

 ライクルが丁寧に挨拶した。上品な人だ。

 俺の横からシュナが顔を出して、

「……一旦屋敷に戻りましょう。とても重要そうなお話があるようですわ」

「うふふ~そうなのよ~! お願いねシュナーヘルちゃ~ん!」

 あれ? シュナはアハーマに名乗ったっけ?



 屋敷の広いリビングの大きなソファーにアハーマとライクルが並んで座った。

 それと対面するように俺と父上が座る。その後ろにシュナとアルヘイムが立って控えていた。

「む、貴女がアハーマ殿か……なるほど『耳長族』か」と父上。

 父上は露出度の高いアハーマにちょっと困惑していた。

「そうなのよ~♪ バランの歓楽街で1番高級なお店を営んでるわ~ん。それでぇ、すっごい大事なお話があるの~ん♪ これなんだけどぉ~」

 父上の前に何かの帳簿のような紙の束が置かれた。

「? これは一体……? 名前と数が書かれてるが……」

「ご禁制の『惚れ薬』を買った客のリストよ~ん。そこに書かれてる名前はバランの町の役人、大商人、神官などの上流階級の人達ね~」

 いきなりどでかい爆弾が放り込まれた。


 部屋の空気が一気に緊張する。

 父上がおもむろにリストを手に取ってから尋ねた。

「……確かに見たことある名前があるな……仮に君の言葉を信じるとして、なぜ君がリストを持っている?」

「うちの店で売ったからに決まってるじゃな~い♪ つまりうちのお客よ~ん♡」

「なるほど、つまり君は禁止薬物の売人というわけか、なるほどなるほど……」

 ようは内部告発である。


 いやいや、どこに社長が内部告発する会社があるっていうんだよ。

 父上が何度も紙の束とアハーマを交互に見る。あまりに堂々としている彼女に逆に気後れしながら、

「まあ、事情は分かった。それでなぜ私にこのリストを見せた? 君はこのリストの客達に信頼されているから薬を売れたはずだ。その信頼を私に売り飛ばして君が買いたい物はなんだ?」

「うふふ~さすが大貴族、お話が早くて助かりますわ~。実は今の町長のカルマスを逮捕するか処刑して欲しいの~ん♡」

「……君は自分が何を言っているか分かっているのか?」

「あらあら酷いわぁ、魔族だからってアラトア語は喋れるわよ~ん? 」

「言語能力の話はしていない、君は私に無理なことを要求しているのが分かっているのかと聞い……」

「そんなの分かってて言ってるに決まってますわ~! タルクス候がカルマスを追放してくれなきゃ私が自殺しなきゃいけなくなるの~!」

 自殺とはまた穏便でない。アハーマが泣きながら媚び媚びの声で訴える。

「私、カルマスに脅されてるのよ~! 『惚れ薬の件で逮捕されたくなかったら毎月賄賂を払え』てぇ! あいつが私に命じて売らせてるのに、挙句の果てにそうやって脅すのよ~ん! それでずっと払い続けてきたんだけど、ドンドン値上げされてうちの家計は火の車よーもー! このままだといずれ借金のかたに奴隷、ううん、魔法薬の材料にされちゃうわ~! お願い助けて~!」

 ライクル青年も涙を流しながら父上に言った。

「お願いします! アハーマは僕の愛する人なんです! どうか彼女を助けてください! このままでは町長に殺されてしまいます!」


 アハーマの話の詳細は以下の通りらしい。

 彼女ら『耳長族』は本来忌み嫌われている魔族だ。町長のカルマスは迫害しない代わりにご禁制の薬物を売らせて、その売り上げをピンハネしているらしい。だが最近ピンハネ額がドンドン値上げされていて、薬物の収益だけでは払い切れないほどになったのだそうだ。それで本業の娼館の売り上げからも払っていたのだが、ついにそれでも払い切れなくなったらしい。


 父上も困り顔になって、

「このままだと破産するからカルマスを逮捕してくれと……確かにカルマスが賄賂を受け取っているというのは捨ておけん……だが、お前達も逮捕しなければならん」

 アハーマが号泣しながら、

「待ってぇ! 私達は密告したんだから特別に無罪にしてよ~ん! カルマスが裏でやってた汚いことの証拠まだ持ってるんだから~! 見逃してくれたらそれもあげるから~!」

「むぅ、まだ何かあるのか?」

「色々あるわ~ん。あいつはとんでもない悪徳町長なのよ~ん! 無罪にしてくれたら教えてあ・げ・る♡」

 父上は暫く考えてから決断した。

「ふむ、分かった。密告の報酬としてお前達を無罪にしてやろう。その代わりカルマスの悪事の証拠を全部出すんだ」

 アハーマが飛び跳ねて喜んだ。

「やったぁわ~ん! それでそれでぇ、もう1つ提案なんだけどぉ、カルマスの次の町長を決めなきゃいけないでしょう? 是非ライクルに任せてほしいんだけどよろしいかしらん? ダメって言ったら証拠はあげな~い!」

 おい、無罪にしたら証拠出すんじゃねーのかよ。

 アハーマの言葉でライクルが立ち上がって元気よく言った。

「是非僕にお願いいたします!」

 2人揃って図々しすぎるだろ……。


 父上は頭痛を感じながら、

「……ライクル君は一体どこの家の者だ? バランの町長になるには名門の家でなければ無理だぞ」

「血筋なら問題ないわぁ、ライクルはカルマスの甥っ子よ~ん。でも叔父さんと違ってか弱い『耳長族』をいじめてお金を巻き上げる屑じゃないわ~♪」

 あんたらもいい性格してると思うけど……。

 ていうかライクルさんは自分の家族を売って町長になろうとしてるのか。

 なんでこんな爽やかに振舞ってるの……(絶望)

「まあ、なら血筋的には問題ありませんわね」とシュナ。

 父上が眩暈をさせながらシュナとアルヘイムに聞いてきた。

「お前達はどう思う? 私はアハーマが放つ『呪いの言葉』で錯乱してきているようだ……」

 父上はもはや限界だった。俺も頭が痛くなってきた。ツッコミ切れんわ。

 シュナが言った。

「アハーマに乗りましょう。どっちにしろカルマスは逮捕しなければなりませんし、ライクルも血筋的には問題ありませんし、ですが……」

 シュナがアハーマに顔を近づけて聞いた。

「……今回『惚れ薬』の密売を見逃しましたが、金輪際禁止薬物を売らないと誓いますか?」

「え~、うんうんもちろんよ~! ちゃんとやめるわ~!」

 アハーマは明後日の方向を見ながら言う。

 こいつやめる気無いな。

「……まあいいでしょう。私は力づくで約束を守らせるのは得意ですから。それよりオルバース、売買リストに載っている者達を全員逮捕しなければなりませんわね」とシュナ。

 アハーマは『町長を逮捕して』と言ったが、リストには町長以外の名前もしっかり入っている。

「あら~? そう言われればそうなるわね~?」

 アハーマがわざとらしくとぼけた。

 この魔族は……(呆れ)


 父上とアルヘイムはリストを見て難しい顔で唸った。

「なんてことだ……バランの町の有力者の名前がほぼすべて書かれているぞ。もし全員逮捕したら暴動が起こるかも知れん……」

「え、暴動? 犯罪者を逮捕するだけでしょ?」と俺。

「有力者達は沢山の召使を雇っていますし、彼らの払う給料や報酬で生活している者も多いのです。それが逮捕されたら沢山の平民が食いぶちを失う。だから力づくで抵抗してくるかもしれません。反乱がおこる可能性もありますぞ」とアルヘイム。

 ?? なんでそうなるんだ?? 全く分からん……むしろ犯罪者を逮捕しないほうが問題だろ……。


 父上が熟考してから言った。

「ふむ、ならカルマスだけを逮捕しよう。それ以外の者達はとりあえず保留する。2人もそれでいいな」

「だから私が最初からそう言ってるじゃな~い!」とアハーマ。

「中途半端はよろしくありませんわ」とシュナ。

「控えろシュナーヘル。それくらいが限界でしょう。町長だけなら他の者達もいきなり暴動を仕掛けたりはしないでしょう。町長を逮捕して、そこからは反応を見てから決めましょう」

 アルヘイムに言われてシュナは不満げだったが黙った。

 方針が決まったので父上は部屋を出て行った。続いてアハーマとライクルも上機嫌で出て行った。

「さよなら~♪ またお店に遊びにきてね~」

 シュナが睨むとアハーマが全速力で逃げていった。

 アルヘイムがため息を吐いてから一言。

「さぁて、これから騒がしくなりますぞ……」

 すでに部屋の外では父上の命令を受けた役人達が大騒ぎになっていた。


 翌日、町長のカルマスはあっさり逮捕されて牢屋にぶち込まれた。

 父上が帝都に使いを送って『バランの町の新しい町長にライクル・フィンダールを推薦します』と伝えたら皇帝から『好きにせよ』とだけ返ってきた。

「なんかあっさりだね、父上が信頼されてるから?」と俺。

「興味がないんですわ。帝都の貴族達は基本田舎に関心はありませんから」とシュナ。

「まあ理由は両方でしょうな。それはともかくライクル殿のお祝いですぞ!」とアルヘイム。

 特に問題なくライクルが新たな町長になった。

 ……『問題』ねぇ、

 まあ確かに問題はなかったよ、ここまではね……。

町長のカルマスの一族や他の幾つかの家族がバランの町の土地のほとんどを所有しており、またバランに運び込まれる様々な商品のルートも握っています。冒険者はカルマスの関係者の商人にしか獲得品を売れませんし、それ以外から何も買えません(専売品売買の皇帝の許可証もカルマスの許可がなければ申請できない)。無関係の商人は賄賂(みかじめ料)を払う必要があります。町長はバラン市内の徴税を行い税金をオルバースに渡す(帝都に送る)大事な役割もあります。

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