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マストカ・タルクス㉓『冒険者の町・バラン』と娼館の主アハーマが出会った奇妙な薬売りの話

童貞力の高い話です(注意喚起)

『耳長族』は大抵の国で高級娼婦として働いているらしい。

 なので結構お金を持っていることが多いし、貴族や金持ちの愛人になることもよくある話らしい。

 だけど『耳長族』は人間と子供を作ることが出来ない。だから『耳長族』との結婚を許さない国も多いらしい。

『やつらは人間を誘惑し、他の人間への興味を失わせてしまう悪魔、快楽に溺れさせる淫魔、静かな侵略者だ。浄化しなければならないのです』

 鬼族とはまた違ったベクトルで人間の天敵なのだと昔母上に教えられた。



「この薬どこで買いました!?」

 俺が真剣な顔で聞いたのでアハーマはびっくりしながら、

「え、えっと……う~ん、分かんない☆」

「はいぃ? 分からない? 店名を覚えてないとか?」

「店名だけじゃなくて場所も分からないわぁ。あの日は確か、うちの従業員の子達と市場にお買い物しに行った昼のことよん」

 アハーマが記憶を辿りながら語り始めた。


市場フッタール』というのは日本の夏祭りに神社に並んでる屋台みたいな感じだ。あるいは外国の露店が並んでいる市場を想像してくれれば、まあ似たような物だと思う。

 アハーマが買い物を済ませ、小腹が空いたので蛇の串焼きを買って食べながら人通りが多い市場を抜けて住宅街を歩いていると、ふと変な看板を見つけた。

 その看板は家と家の間に立っていてこう書かれていた。

『↓ここにもう1軒家があるそうです。見つけた人は右の家までお知らせください』

 看板の『↓』が指しているのは家と家の間の隙間で、アハーマが試しに通り抜けようとしたら胸と尻がひっかかって通れない。

 隙間を覗いても、やはり家の向こう側の道が見えるだけだ。

「?? これは何かの暗号かしらん? それとも魔法? 右の家の人が置いたのよねん? 一体どういう意味なのかしらん?」

 そこへ買い物を済ませた従業員の子達がやってきたので看板の話をした。

「なんですかこれ? なんか気持ち悪い……置いた人頭がおかしいんですよ」

「私もなんかやだぁ……関わらないで行きましょうよ」

「バランの町は外から来る人が多いから、変な人もいっぱいいるんですよ。故郷に馴染めなくて冒険者になった人とか……きっとそういう類の奴ですよ~関わらない方がいいですって」

 従業員達はさっさと娼館へ帰って行った。


 でもアハーマは気になってとてもそんな気にはなれなかった。

「……ちょっとだけ、ちょっとだけだから……」

 自分に言い聞かせながら看板の右の家の玄関の前に来る。粗末な木のドアを叩いた。

 反応はない。恐る恐る扉を押してみるとあっさり開いた。

「すみませ~ん……中に入っちゃいましたぁ……」

 ごく普通の平民の家だ。扉を開けると靴のまま入れる床、素朴なテーブルと背もたれのない椅子や棚が置いてあるだけ。玄関の近くにはかまどがあった。

 アハーマが薄暗い部屋をキョロキョロしてると、部屋の隅っ子の暗がりから声がした。

「おい、何勝手に人の家に入ってるんだ」

 アハーマが目を凝らすと、暗闇の中に魔術師のような黒いフードを被った人間(?)が座っていた。

 老人の顔のお面をつけているので顔は分からない。声は甲高いから女かも知れない。


「あら~ごめんなさい。表の看板を見て来たのよ~? ほら隣の家との隙間にもう1軒家が見える人探してるんでしょ? 私見たわよ~!」

 そう言って胸を張ると、魔法使いが立ち上がって言った。

「ほう……ときにお嬢さん、あの看板を普通の者が見たらどんなことを考えると思うかね?」

 予想外の質問にアハーマは口元に指を当てて考えてから、

「そうねぇ、普通の子なら看板を置いた人の正気を疑うわね~」

「そうじゃとも! 普通の者なら『面倒そうなことに関わりたくない』と思うじゃろうさ。だからあの看板は人を募集しているのではない、実は人を寄せ付けないための結界なのじゃよ。なのになぜお前はワシを訪ねてきた?」

「そんなの本当に見たからに決まってるからじゃな~い! すごく不思議で『なんでこんな所に家があるか知りたい』て思ったから聞きに来ただけよ~ん」

「……お前は耳長族か。娼館に遊びに来る客に話すネタになればと思ってここに来たのか?」

「うふふ、バレちゃったかしら? まあ別に隠してたわけじゃないけどぉ、隙間にある不思議な家のお話とかきっと喜ばれると思ったの~♪ 私達耳長族のメスは人間の男を喜ばせたい、ご奉仕したいって本能があるからしょうがいないの~、そうやって私達は生き残ってきたのよ~?」

「ほうほう、なかなかの努力家じゃのぅ……」


 魔法使いは感心したように頷いた後、いきなり地面に向かって唾を吐いた。

「ペッ! 嘘つきめ。隙間に家なんぞあるわけがない。あれはワシが適当に描いた看板じゃ。お前は好奇心に負けて嘘を吐いてまでここに入ってきたにすぎない。愚かな魔族め……少しは恥を知れ」

 するとアハーマは特に悪びれもせず、それどころか影のある笑いを浮かべた。

「……くくく、当たり前じゃない、私は『耳長族』よ……? 人間を騙すのが得意な魔族に『嘘つき』呼ばわりはむしろ誉め言葉だわ……」

『耳長族はその美貌で人間を惑わせ多くの国を傾けてきた』

 アハーマの背後には殺戮と迫害を生き抜いてきた『耳長族』の血塗られた歴史が横たわっていた。

 人間を誘惑する恐ろしい存在とされながらも、どの人間の国にも耳長族の娼館は存在するのだ。これこそ彼女達が恐れられる理由だった。


 一転して魔法使いが嬉しそうに高笑いした。

「ほーっほっほ! 素晴らしい! そうとも、それでこその魔族よ! 気に入った、ワシはお前のような者が来るのを待っておったのだ。好奇心が強く、嘘つきで、自分のことしか考えていない冷血な性格。お前のような奴にこそこれを売ることが出来るのじゃ」

 そう言って取り出したのは透明な小瓶に入った白い粉だった。

「これは『ピラガナ』、禁止されている魔法薬じゃ。飲んだ者の愛欲を刺激する薬じゃぞ。客に飲ませればお前の店は大繁盛するじゃろうて」

「あらそんなすごい薬があるの~? じゃあ今金貨5枚持ってるから買えるだけ下さいな♪」

 アラトアの金貨は1枚で大体100万円くらいの価値があるんじゃなかろうか? 日本円と比べることが出来ないから分からないけど。それでもそんなに沢山は買えなかったらしい。

「ねぇ、またこれ全部使い切ったらどこで買えばいいのん? またここに来ればいいの?」

「ここに来てもワシはおらんぞ。欲しくなったらバランの町を歩いて探せ。看板の所にワシはおる」

 それからアハーマは『ピラガナ』がなくなるとは1日かけて街を歩き回る。毎回違う場所に例の看板があって、そこに行くとまたあのお面の魔法使いから買えるのだそうだ。


 最後にアハーマが付け足した。

「ち・な・み・に♪ うちの店のお客さんにはお役人様も沢山いるわぁ、勿論この魔法薬を飲んでハッスルしてるわよぉ……ふふふ、私は1回も逮捕されたことないけどねん」

 俺は目の前に置かれた『惚れ薬』を見て、次に俺に抱き着いてるアハーマを横目で見て聞いた。

「……俺一応貴族なんだけど。そんなこと喋っちゃっていいの? 父上に報告すると思わない?」

「あら~、そんなことしたらあなたも共犯よ~♪ もうすでにリンゴ酒の中に入れちゃってるもの~♪」

「え!? マジで!?」

 そういえばなんだか妙に身体が熱い。油断してるといきなりアハーマが俺を押し倒した。

 やばいやばいやばい! 手足に力が入らない! 

「ふふふ♪ 意外に強情な所もキュンと来ちゃうけど、そろそろ観念してね~? 早速脱がしてあげるわね~?」

「ひぃいい!? ちょっと待って待って!」

 抵抗もむなしく下半身を裸にされる。アハーマと他の娼婦達が最初は目をキラキラさせていたが、すぐにむくれた表情になった。

「なんでよー!? 『惚れ薬』を使ってもなんで元気になってないのー!? もしかして病気!?」

 完全な公開処刑じゃん……。

 俺は恥ずかしさで思わず顔を手で隠して言った。

「ごめんなさい……もう本当勘弁してください……」

「いいえ絶対許さないわよ! こうなったら最終手段よ! マストカちゃんの理想の女の子に変身できる便利な魔法があるのよ! 『鏡よ映せ! 望みを写せ!』」

『心象投影の術』、それは相手が心の中に思い浮かべた人や物に変身できるという高度な魔法だ。だがあくまで外見しかコピーできない。

 アハーマの身体が光に包まれて形を崩し、光が消えると……シュナーヘルに変身していた。

 すでに服を着ていたシャイザルとアルヘイムがそれを見て笑った。

「うっはっは! マストカ様わっかりやすいですなぁ!」

「ヒャッヒャヒャ! これは恥ずかしい! あんた本当面白いな!」

「うぅ……」

 俺はもはや掛布団代わりのデカい布に包まって芋虫になることしか出来なかった。

 アハーマがそんな俺を見て怒りだして、

「もうなんで隠れるの!? さあ惚れ薬を飲ませてさらに理想の女性にもなったんだから何としても抱いてもらうわよ!」


「その通りですわ。そろそろ決着をつけないといけませんわね」

 シュナーヘルの横にシュナーヘルが居た。片方が不思議そうな顔になって、

「あら従業員の誰かが変身したの? 名案ね。こうなったら全員この女の姿になって誘惑すればさすがに坊ちゃんも元気に……」

「『禁よ破れよ、戒めよ解けよ!』」

 シュナの『魔法解除の術』でアハーマの変身魔法が破られた。彼女は自分の手元を見てから笑顔のシュナを見て、

「……もしかしてマストカちゃんの理想の女性さん?」

「ええ。私の理想の男性がお世話になりましたわ……『光は鎖! 撃てよ雷霆!』」

『ぎゃあっ!?』

 すぐさま放たれた『雷光の呪文』を食らって逃げようとしていたシャイザルとアルヘイムが倒れた。

 続いて指先をアハーマに向けると彼女はすぐに降参した。

 シュナが布から顔をだしている俺に向き直って、

「さぁ若殿、こんな店からはさっさと帰りましょう。どうせあそこのお馬鹿さん2人が無理やり連れてきたんでしょう? オルバースに知られたら説教じゃあ済まされませんわ」

 いつも通りに見えるが、なんだか目が滅茶苦茶怖い。完全にブチ切れてる。

 まあそりゃ怒るわな。ははは……はぁ。

「いや、帰りたいのはやまやまなんだけど……でも『惚れ薬』のせいでちょっと立ち上がれる状況じゃあ……」

 本物のシュナを見てから、その……言わなくても分かるだろ!

「……」

 俺が布の中でごにょごにょ言ってると、シュナがニコニコほほ笑んでから俺の布団の中に入ってきた。

「でしたら、私が協力いたしますわ……」

 シュナが指を鳴らすと、勝手にベッドのカーテンが動き出して俺達2人を隔離した。

「え、ちょ……え?」


「もう! なんで連れてきたのよ! 騒ぎになるしプライドも傷つけられるしで散々な目にあったわ!」

 俺達が店を出るとアハーマがシャイザルに猛抗議した。

「すまねぇって。まさかシュナーヘルに最初からバレてたとは予想外だったぜ。なんですぐに入ってこなかったんだ?」

 振り返って聞くとシュナがほほ笑んで、

「そんなの、若殿の面白い顔が見れると思ったからに決まってますわ。それに……」

 彼女は俺の腕に抱き着いて、

「……とても可愛い所も見れましたしね♪ 素直さは美徳ですわよ若殿?」

「うぐぐ……」

 何も言い返せない。俺はひたすら願った、今すぐ雷が落ちて俺を即死させてくれることを。

 いや、今晴れてるからあり得ないけどね。

 しっかし本当に月がきれいだ……。

「それにしても遅い時間になっちまったな。おやっさんに叱られるんじゃね?」とシャイザル。

「自分で連れ出しといて無責任な……」と俺。

「私やシュナーヘルも居るから大丈夫だろう。『魔術の訓練』とでも言えば納得するだろうさ。口裏を合わせてくれシュナーヘル」とアルヘイム。

「いいでしょう、シャイザルとアルヘイムが嫌がる若殿を無理やり拉致して歓楽街に連れ出したと言っておきますね」

「ははは、聞こえなかったか? 私は口裏を合わせてと…」

 シュナの『雷光の呪文』で再度アルヘイムが倒れた。すぐにシャイザルが降参のポーズをとる。

「そちらこそ分かりませんか? 私がとても怒っていることに……」

『マジすんませんした!』

 恐ろしく迫力のある笑顔に俺とシャイザルがその場で平謝りした。


『耳長族』の設定が自分的にお気に入りです。

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