イスティ・イル・フィズラース146『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『ターレンタッシャのプトゥヘパの『舞』』の話
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『彼女たちのサガサ族からの逃避行』
前回の続き、『テルビアナ人貴族トゥトゥイルラ』とその『妻プトゥヘパ』が『カラミニの勇気』を讃えて『踊り』を踊っていた。だがそういう『ノリ』に慣れていないカラミニに怒鳴られ、さらに『笑いそうになっていたパシオム』がプトゥヘパに『質問』していた。
「……トゥトゥイルラ殿、カラミニ殿は立場上素直に賛辞を受け取れないのです、ご容赦いただきたい。そして御婦人、貴方は夫の戦場についてこられたのですか?」とパシオム。
『今のは『賛辞』などではない! 完全に俺を『コケ』にしてただけだろ!!(怒)』とカラミニ。
ここでトゥトゥイルラが楽団に『演奏停止』を指示したので部下たちが楽器を片付ける。だがプトゥヘパだけは一人でまだ踊っていて、今度は『タップダンス(とよんでいいのか?)』ではなく『その場でクルクルと一人で回転』を始める。
この『回転ダンス』は回転スピードはゆっくりだが『一切よろめくことなく』、さらには『ずっと同じ位置に同じスピード』でずっと止まることなく回転し続ける。一見単調だが遠心力で低く浮き上がるスカートがまるで下に向かって垂れる『百合の花』のようで優雅だった。
これは『コロクシア』で始まったとされる舞踏、『旋舞』である。もっと高速で回る激しいものもあるのだが、今プトゥヘパは『美しさ』を第一にしているのでゆっくりなのである。
もしかしたら彼女は『10分以上』は回っていたかもしれない(時計がないのでわからないが)、ずっと回り続けても一切『平衡感覚』を失わないプトゥヘパにトゥトゥイルラは腕を組んで『どや顔』し、パシオムも思わず『口笛』を吹き、驚いてみていたカラミニがやっと『ハッ』として、
『……ええい『演奏』だけじゃなくて『旋舞』もやめろ! ていうか貴様は本当に『何』だ!? 『武装』をしていなければ一切鍛えてもないだろ! 俺は『踊り子』に『援軍』は頼んでおらんぞ!!』とカラミニ。
「まぁ私を『踊り子(娼婦)』呼ばわりとは失礼なお猿さん! でも可愛いお方だから特別に許してさしあげますわ……(ウィンク)」とプトゥヘパ。
彼女はカラミニというよりかはパシオムの質問に答えるために『決めポーズ』をしてから停止し、丁寧に自己紹介した。
「……私の旦那様がお世話になっておりますわ、私の名は『トゥトゥイルラの正妻』にして『タルマンタの娘プトゥヘパ』ですわ。祖先は『タレーンタッシャ副王』、つまり我が夫『トゥトゥイルラ』とは『親戚』ですが、『はるか昔に血筋を分かちて』おりますゆえに『近親相姦』とはならないのですわ!」とプトゥヘパ。
伝統的に『テルビアナ人社会』は『近親相姦』にものすごく厳しく、例えば『弟が亡くなった兄の嫁をレビレート婚(兄嫁と弟の血がつながってなくても)』や『いとこ婚』も『近親相姦』判定になり『婚姻』が成立しない『古の法』であった。なのでプトゥヘパは『いわれなき非難』を避けるとともに『テルビアナ人らしさ』を強調したのであった。
※注:そして『タレーンタッシャ副王』とは『テルビアナ帝国』が『海の人魚族』の侵攻に苦しんでいた『末期』に現在の『ファラティオ地方』に『王族(といっても王位継承争いで敗れた王弟で家臣に支持者多数の反乱分子)』を配置して『アバーム半島西部の帝国の支配領域』の統括をまかせたことを起源とする『800年以上』の伝統を持つ『王位』のこと。そして『ターレンタッシャ』とは『ファラティオ地方』にあった都市名である。
※注:そしてこの『ターレンタッシャ副王』には『帝国西方のラニエ人諸都市』に対して『排他的な命令権』をもち自分の管轄に関しては『テルビアナ大王』の干渉を一切受けないという『事実上の独立国』であった。
※注:ちなみに同じく『副王』であった『ラエズリア副王』も『レーム地方の帝国領』に対して同種の『巨大な権限』を有していた。それでも『テルビアナ本国』が平常運転なら『副王』たちも『テルビアナ大王』には服従していたのだが、『テルビアナ本国』が『混乱状態』に陥ると途端に『臣従拒否』して『ターレンタッシャ大王』や『ラエズリア大王』を名乗りだしたのである。
※注:もちろんそうなると『テルビアナ本国』も討伐軍を送るなどしていたわけだが、その『テルビアナ帝国』が『海の人魚族』によって『消滅』すると『ターレンタッシャ副王』と『ラエズリア副王』だけが残ることになったのだ。その後『ラエズリア』を中心に『レーム・テルビアナ諸国』が形成され、『ターレンタッシャ』もその中に加わっていたのである。
※注:……そして実はこの『ターレンタッシャ副王』には『もう一つの名前』があり、それが『クノム語』の『ファラエ王フェリック』である。つまり『ターレンタッシャ副王』とは『ファラティオ地方』の『王』のことなのだ。『ファラティオ地方』は『レーム・テルビアナ諸国』の一つとしてしばらくは独立を維持していたが、その後は『ミルティオ』からやってきた傭兵たちが開いた『アルカーン王国』に従属した。だがすぐに『カルシャーナ帝国』と『アルカーン王国』の『係争地』となって両者の間を『行ったり来たり』し、『ビカルニア王国』は『カルシャーナ帝国』の属国になったことから(比較的)平和になった。その後は『コロコス帝国』に支配される前は『ビカルニア王国』の属国で『王位』は維持していたのだった。
カラミニが言う。
『……俺は貴様の『出自』を聞いたのではない、なぜ『武装していないやつ』がここにいるんだと聞いてるんだ(怒)』とカラミニ。
「プトゥヘパ殿はトゥトゥイルラ殿を『応援』に来たのではないですか? 夫の戦場にまでついてきて励ますとは『妻の鑑』ではないですか、私の妻は怖がって来ようとはしませんでしたよ」とパシオム。
※注:かつて『シェルファス湾の戦い』の直前に『諸王の王ガミデイル三世』が自分の妻子を戦場に連れて行こうとして『魔女シュナーヘル』に説得されて取りやめたことがあったが、『東方』のいくつかの民族にはそのように『戦士が自分の家族を戦場につれてきて励ましてもらう』とう文化が存在した。
※注:だが本当のところはこの『古の法』を持つのは『コロコス人』や『ダレブ人』などだけで『テルビアナ人』や『ネイア人』には存在せず『戦場に女子供を連れてくるのはもってのほか』という文化である。だが『コロコス人』がそういう文化を持っていることも理解しているため、『もってのほか』とは口には出しづらい雰囲気があった。
そして『テルビアナ人やネイア人』同様に『戦場に女子供を連れてくるなんてもってのほか』という文化の『サガサ族』はパシオムの言葉に驚いて、
『はぁ?? 戦場で妻子に励ましてもらうだと?? 連れてきたら敵に奪われる可能性があるだろ! 人間族にはそんな『奇妙奇天烈』な文化があるのか!?』とカラミニ。
あるのであるこれが。次回へ続く。




