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カムサ・イル・アサランシス122『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『ゴメスの『博識』とカムサの『処世術』』の話

『東方大遠征:レーム北部戦役』、『彼女たちのサガサ族からの逃避行』


 前回の続き、『バラタグ主催の弁論大会』の場でカムサがゴメスと『論争』を重ねている。今回は以下のカムサのセリフから始まる。



「『(クノム)神話』は別に『規範』を示しているわけではありません。『双角王の出自』に関する物語を例にとれば、このお話はあくまで『双角王』が『クノム人の血統』にたしかに属しつつ、同時に『クノミア(クノムティオ)の覇王ヘゲモン』となるに相応しい『資格』をもつことを証するための『プロパガンダ』にすぎませんわ(事実はちょっと違うがそういう使われ方もしている)。第一この『覇者ヘゲモン』となること自体『倫理的に正しい』ことではありませんわ。『戦争』を起こして『同族ヘレネス』たちを殺戮しているのですから」とカムサ。



 するとゴメスは茶化したように、


「……今お嬢ちゃんからまた『矛盾』が出てきたぞ。俺の知る限り『クノム人世界』の『正義』とは『味方には恩を報い、敵には仇を報いる』ことなはずだ。『敵』に対しては『仲間』に対して『真逆』のことを行うことが『都市国家』に求められる『あるべき市民の姿』だと『クノム人冒険者』たちは口々に言っていたぞ……もちろん俺達『帝国の民』たちにしてみれば『部族主義』にしか思えんがな……それをお嬢ちゃん1人だけが『逆』のことをいうのかい?」とゴメス。


 イスティだけは知っていたが『クノム人世界』での『都市国家ポリス』や『部族ピューレー』はごく当たり前に使用される言葉で別に否定的なニュアンスはない。だが『東方』ではこれらの言葉は『時代遅れの野蛮人の文化』と考えられていた(補足)。だから実は馬鹿にされていたのだがカムサはそのことをよくわかっていなかったので、


「それはその『クノム人冒険者』たちに『哲学フィロソフィア』の知識が足りなかったようですわね。『クノミア』で最も偉大な『賢者』である『哲学者ハイラーン』は『正義』を『自分が思う最善のことを成すこと』と説いていますわ。これは『教養人ソフィスト』にとってみればごく当たり前のことですわよ。それに……」


 カムサはどこでちらっと『露骨』にバラタグを一瞥してから、


「……それに例えば『人間族』は『諦念や絶望でみじめな環境に身をおかれていなければ』の話ですが、誰だって『痛い思いはしたくない、死にたくない』と強く願うものです。そしてその『願い』が『国家の平安』を希求する『情念』を呼び起こし、『人間族アウィールム』たちを『法』の制定と『正義』の定義へと向かわせるのです。つまり『正義』とは『理性』ではなく『本能』からよびさまされるものですから、『人間族』は母の胎内に宿った時にはすでに持っているということになるのです……」


 その時バラタグは『ものすごく興味深そう』に身を乗り出して耳を傾けていたがゴメスが口をはさむ。


「おい待て! それだって『屁理屈』だ! ならなぜ『クノミア』はあんなにずっと『戦乱』続きなんだ!? お前さんの言う通りならこの世から『戦争』は消えるはずだ! ……」とゴメス。


「私がまだ話してる途中ですわ! それに『クノムティオの戦乱』はいわば『正義と正義の衝突』、対立する勢力がどのような『国制』を正しいかと考えるかで『オラクス・ディレトス戦争』は戦われたのですわ!」とカムサ。


「さっきから『詭弁』しか話さないなお前は!?(苛立ち)『オラクス・ディレトス戦争』のどこが『正義同士の衝突』だ!? 『カミス人の強圧支配』の話や『バンドゥーラ人が働いた残虐』の話は俺らだって知ってるぞ! それにそれ以後の戦争はもはや『政治制度(国制)』なんて全く関係なかっただろ! 誰が『覇権』を握るかの戦いをしていただけで……」ゴメス。


「私は別にあなたと『クノムティオの歴史物語』を語り合いたいわけではありませんわ! 話をそらさないでいたくかしら! ……私の『本題』に戻りますわ(強引)。つまり私が述べたかったことはですね、『人間族』は皆幼いころから『正義』とは何かを大人たちから教えられて育ち、また生れながらにも『痛い思いはしたくない、迷惑を掛けたくない』などと『神々』から『良識』を与えられて生を享けるのですわ。ならばその『正義を希求する本能』は『人間族』にあって『神々』にないはずがない! つまり私が少々『遠回り』してまでして主張したかったことはですね、『神話』のなかで『神々』が『正義』をもとにして行動していたとしても、それは『産まれながらに備わった本能』によって行動しているというだけであり、『自分たちの行動が神話として語られることを見越して『演技』していたわけではない』ということですわ! あくまで『神々』は『思うがまま』にふるまっているだけですが、それが『本能的な正義心』によって『必然的』に『正しい行動』を示していることに過ぎないのです!」とカムサ。



 この『理屈』はもちろん『カムサの即興』である。ただただ『ゴメス』から『クノム神話は倫理観の低い話が多い』と馬鹿にされたので『そもそも神々と人間族では倫理規定が違う』と主張し、それでもゴメスが『悲劇詩人ミュリアノス』の一節まで引っ張り出してきて『神々と人間族の倫理が同じだって他のクノム人が言っているが?』と切り返されたので、『何が正しいか正しくないかは神も人も『本能で知っている』、そして『神話』で『正義』が説かれているのではなく、神々が本能のままに行動してそれが結果的に『教科書』に見えてるだけ』と主張したのだ。だからやはり『神話』は『教科書』ではなく『神々の日記』であるという帰結になるわけだ。


 そしてそんなカムサの『理屈ロゴス』を聞いていたイスティは思わず『唖然』として、


「……さすがはカムサ先輩、『即興』で『クノム神話の構造論』をくみ上げてしまうなんて……もう先輩は『哲学者』と名乗れるかもしれませんね……(感心)(哲学者には『資格』とかないので名乗ったもの勝ち)」とイスティ。


「…………ってことはあいつの言ってることって『高名な哲学者』の受け売りとかじゃないのか?」とハッシュ。


「いろいろな哲学者の『エッセンス』を切り貼りして『新しい論理』をくみ上げてるんですよ。つまりただこの場を乗り切るためだけの『即興演説』ですね。でも素晴らしい完成度です」とイスティ。


『カムサは『役者』の才能ありそうだよね……本当にとっさに口がめちゃくちゃ回る……』とニムル。



「いや、あいつに『女優』の才能はねーよ。だって『お嬢様』の役しかできねーもん、しかもプライド高すぎて絶対に『詩人(監督兼脚本家)』と喧嘩するだろうし」とハッシュ。


『そういえば『詩人(劇作家)』って皆こだわり強い変人が多いって聞くよね……確かにカムサには無理だ……』とニムル。


「……カムサ先輩はとにかく我が強いですからね(ボソッ)」とイスティ。


「聞こえてるわよ三人とも! ていうかイスティも乗るんじゃないの! あなたはどちらかというこっち側でしょう!?」とカムサ。


 次回へ続く。

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