ハッシュ・イル・カスラース116『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『イスティの『仕掛け』』の話
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『彼女たちのサガサ族からの逃避行』
前回の続き、バラタグから『なんとかしてお金を引っ張る』べくイスティが『仕掛け』る。『分け前』をエサに『ゴメスやシャクンティなどの他の冒険者たち』に『管理者バラダグ』が『臆病者である』とわざと大声で宣伝させようとしたのである。
「バラタグ殿は臆病者だってさ! どんどん広めてくれよ! 広めば広めほど報酬が上がるって聞いたぜ!?」とシャクンティ。
「おいそれ本当かお前さん!? 俺聞いてねーんだけど!?」とゴメス。
「俺も聞いてねーな(素直)。ただこうやって『言いつのって』ればお嬢ちゃんたちがもしかしたら気をきかせてくれるかもしれねーだろ?」とシャクンティ。
「そいつは確かにそうだな! おーしそういうことなら俺も俄然やる気がでてくるぜ!」とゴメス。
「何勝手に話を進めてるんですか。分け前は増やしませんよ」とイスティ。
「「え~! ケチ~!」」とゴメス&シャクンティ。
「なんでお前ら初対面のはずなのに息ピッタリなんだよ(呆れ)」とハッシュ。
途端に周辺にいた冒険者たちが一斉に『散開』し始めたので役人たちが『棍棒』を取り出して慌てて止めようとした。
「「「な!? おいやめろくそ冒険者ども! そんなことしたらどうなるかわかって……」」」と役人たち。
だが殴られそうになった冒険者の一人が『ニヤニヤ』笑いでこういったのである。
「……おいおい『振舞い』には気をつけろよ? なぐられたとあっちゃあ俺らは全力で『復讐』しないといけなくなる……まぁ、ちょうど目の前に『アラマン軍』もいるし、『どっちにつくか』って話も答えが出て話が早いかもしれないがなぁ?」と冒険者の一人。
「こ、こいつ……!」と役人。
「やめろ! わかったやめろお前たち!……」とバラダグ。
彼は結局役人たちを制し、冒険者たちにも『報酬をやるから黙れ!』と叫ぶ。するとゴメスもシャクンティたちも『すっぱり』と宣伝をやめた。その代わり『報酬』を貰おうとぞろぞろ集まってくる。
そんな中バラダグは『顔に影を作っているイスティ』に対して呆れた調子で言った。
「……なるほどな。ここに『冒険者』どもが集まってきているからこそ『そんな脅し』を仕掛けてきたわけか……こざかしいことをする娘だな貴様。名を名乗れ」とバラダグ。
「マーレト族長殿は私を『アステマ』と呼びます。正しい発音は『イスティ』ですが、ここは『帝国』なのですからそちらの『古の法』に合わせればいいと思います」とイスティ。
「蛮語など誰が使うか(意趣返し)。では『アステマ』でいいな、貴様は……」とバラダグ。
「私は『アムシャ』! 本当は『カムサ』ですが『トゥルエデ語』の発音で呼んでいただいてもかませんことよ!!(シュバッ!)」とカムサ。
「本当に何なんだお前らは……わかった『アムシャ』だな? 貴様らはやはり勘違いしているようだが、私がここにこうやって自ら足を運び長居しているのは別に『不安で落ち着かないから』ではない。本当のことを言えばマーレト族長殿を出迎えて『情報収集』がしたかったことと、あとは『冒険者』どもの中に『腕が立ったり頭がさえてそうなやつ』がいればいいなと思っただけだ。私はもともと『屋敷の中でふんぞり返っている』タイプではないし、自分の足や馬に乗って仕事するのが『コロコス貴族』のあるべき姿だからそうしているだけだ」とバラダグ。
上記の言葉は彼の『本心』である。バラダグは現在『レーム北部』が『アラマン軍VSコロコス帝国軍VS大魔王ニエベ軍』という『三つ巴』状態になっていることに他の『王侯貴族』と同じく『自分自身でできることをしなければ!』と思って『自分の管轄内で可能な範囲で』何かしようとしていたのだ。
そんな彼にとってはまず真っ先に行うべきことは『冒険者ギルドがニエベ軍との戦闘に全エネルギーを注いでいるのでそれを補佐する』ことと『独自の情報収取する』ことであろう。そしてここでややこしい話なのだが、『バラタグ』は『冒険者』が集まる『逃れの町の管理者』ではあるが『冒険者ギルドの役人』ではないことである。『逃れの町』は本来あくまで『中程度の犯罪者を収監しておく町規模の牢獄』なので『冒険者が集まる』のは『副次的事象』なのである。なので『冒険者への仕事の斡旋』などや『補助兵力として戸籍に登録管理』などは彼の職掌ではない。
つまり『バラタグ』は自分の町にやってくる『冒険者』が過去にどんな功績を持っているかすらわからないのだ。ゆえに彼自身には『冒険者への仕事の依頼』、つまり『補助兵力としての募兵権や指揮権』はない。
……といってもここで一つ注意なのは、『冒険者ギルド』にも『法制上』は『募兵権も指揮権』もなくあくまで『補助軍』であろうと『正規軍』であろうと『募兵・指揮権』を有するのは『諸王の王』だけである。だが『冒険者ギルド』には『諸王の王の代理』として『冒険者に限り募兵指揮する権限』が付与されている。そして『募兵を行う役人』と『指揮を行う役人』も分離しており、各地の『冒険者ギルド』はそのギルドの管轄する範囲内で決められた人数だけを募兵でき、また『補助軍団』として運用する場合は『コロコス貴族』がその時限りで任命されて『指揮官』に割り当てられるが、割と頻繁に『信頼度が高い冒険者』に『代理指揮権』がゆだねられることになり……いや、この話はこれくらいでいいだろう(脱線しかけていたので)。つまりバラダグは『冒険者が集まる町』を統治しながらも『冒険者』のことをあんまり知らないのだった。
「……帝国は巨大なためそういうことがよくある。そして私は本当に貴様らに興味があったわけではない。もちろん『門番』たちから『ヒート・アプリ族になぜか戦士となる男たちがおらず代わりに女冒険者と魔族同行している』という報告は受けていたが、それだけで私が直々に出ていく理由にはならん。自意識過剰な誤解を解け西戎が(怒)」とバラダグ。
するとすぐにイスティが丁寧に謝罪した。
「……嘘を強弁して申し訳ございませんでした『駅逓官バラダグ・ケリュマーン』殿。私たちはただ『バラダグ殿に有益な情報』を持っていることをあなたに知らせたくてあのような態度を取ってしまったのです、あなたは立場上日ごろ多くの者たちの『陳情』を受けるお立ちでしょうから下々の者達からのこの類の話は『うんざり』なされるほどお聞きになられているでしょうが、どうか私たちの話にもお耳を傾けていただきたく……」とイスティ。
ここで彼女は『丁寧すぎるくらい丁寧な態度』を取ること相手の『意表』を突き『懐』に入り込もうと試みていたのである。次回へ続く。




