カムサ・イル・アサランシス91『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『ヒート・アプリ族長の教師への無断転職』の話
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『彼女たちのサガサ族からの逃避行』
イスティがずっと『ヒート・アプリ族長』とカムサを会話させていることにゴブリンたちが『抗議』したわけだが、イスティは『これはカムサ先輩に必要な勉強です』と言い張ったことでゴブリンたちは『頭痛』すら感じていた。それでもイスティは『頑な』になって引き下がる気配はない。
それでもゴブリンたちは言わずにはいられなかった。
『ですから我らはそもそも『東方の歴史』を学ぶ意味がないと……『冒険者』は依頼人から受けた仕事をこなせばいいだけ、『教養』なんてあるだけ無駄ですって……』とゴブリンたち。
確かに『冒険者』は言ってみれば『社会の最下層』であると認識されているのだから、そんな者達が『教養』を持っていたところで何にもならない。『夢の世界』の『農民』は『読み書き計算』ができなくても務まる職業だし、『副業』なんてできるはずもないので『読み書き計算』が仮にできたとしても『暇な時間に文字を書いたり計算して遊ぶ』ことくらしいしかその『教養』の使い道がない。これは『冒険者』も同じで、彼らに徹頭徹尾求められるのは『体力』と『言語化不要の経験』である。
そして地味な話だが『貧民が冒険者になってから冒険がてら『教養』を身に着け、そこから依頼人の『貴族』に評価されて最終的に『貴族』に成り上がれる』なんてことは『東西』どっちでも『滅茶苦茶珍しいこと』だ(皆無というわけでもないが)。むしろ『冒険者としての『腕力』を評価されて成り上がる』話の方が善く聞くので、なおさらゴブリンたちはイスティが『教養』にこだわるのか理解できなかった。『やってることと目的がミスマッチ』なのだ。
「私はそう思いません。『教養』は必ず私たちを助けます。むしろ『普通のクノム人冒険者』が『東方の歴史に無関心』なら、私たちが『関心』を示すことで『差』をつけられます。ですからこれは絶対譲れません。カムサ先輩は今『勉強』しなければならないのです(断言)」とイスティ。
『で、でしたら先生が『教師』になればいいのでは……?? なぜあの族長を『教師』に仕立て上げようとするのか、一番向いてないじゃないですか……』とゴブリンたち。
確かにその通りである。イスティはなんだかんだ『族長』の話を理解し『注釈』も入れられるほど『東方の歴史』に詳しいのだから彼女が『教師』になればいいのだ。だがイスティは首を振り、
「……私では意味がありません。『東方人』を『教師』に据えることで意味があるのです……まあ、こんなこと『族長』に了解を得てるわけではないので勝手に実施していることですがね……こればかりは『ニムル先輩に見つかった自分の不幸』を恨んでほしいですね……(自嘲)」とイスティ。
『ギルモ村』と共に『サガサ族』や『テルブ村』などと戦った『第一次農民戦争』はイスティたちにとって『耐えがたいほど痛い教訓』になったが、それでもカムサもハッシュも、そしておそらくニムルも『敵と和睦することの真の難しさ』を完全には理解できていなかったとイスティは思っていた。
いや、そもそもイスティ自身だってそのことを完全に理解できている自信はない。『サガサ族の件で学習したからもう同じ轍は踏まないぞ』と心に決めていても、『族長』に『口汚く罵られた』だけでその『教訓』は吹き飛んでいたのだ。いや、『罵られただけ』というにはあまりにも『罵倒の量』が多すぎたわけだが……だが今の場合『ヒート・アプリ族』は『一方的な被害者』なのでそうなるのも当然といえば当然だろう。
そしてさらにはカムサは『東方人から同族がどう見られているか』を知るだけで『ひどいショック』を受けていたこともイスティは見逃せなかった。きっと同じ話を聞かされたらハッシュも『ひどくショックを受ける』か、『切れて暴れるかして拒否』するであろう、だがこれからいくらでもかかわる『東方人』は皆『そういう眼でクノム人冒険者』を見ているのが『事実』なのだ。
特にハッシュは『風の王アバランジ・クーンや大神官ブンナン・ケリュマーンは特に性格が悪いやつ』と思い込んでいる節があるが、その考えも『早めに矯正が必要』だと(上から目線だが)イスティは感じていた。同じような話は『ギルモ村』でもなかったわけではないが、ハッシュはそこでも『ギルモ村の連中が無教養だから』とか理由をつけて『東方人一般』とは思っていない(ようにイスティには見える)。それではだめなのだ。もう『東方人は全員自分を第一印象で馬鹿にしている』ことを前提にいないとどこにいっても『喧嘩』を仕掛ける危険人物になってしまうからである。
なのでまずはカムサに『族長』を『教師』として付けて『東方の歴史』を教えてもらっていたのだ。そしてそんなことは露とも知らず、『時間稼ぎ』を更に続けようとして族長が『山羊の胃袋で作った水筒』を取り出して中身の水を飲んで喉の調子を整えてから、カムサに語り聞かせる。
ここからは二話前の続きである。
「……『資金援助』など『帝国』が『クノミア』から吸い上げている『大量の貨幣や奴隷』に比べれば『はした金』! 特に『人間を奴隷として誘拐すること』は『鉱物資源』を吸い上げられることより怖ろしいことだと知れ! 『人間』は自分の力で『富』を殖やし、『食料』を殖やし、また『人間』も殖やして『共同体』に計り知れない『恩恵』を与えるのだ。だが『鉱物資源』はそれ自体では何も生み出さん、『鉱物資源』が欲しい『人間』が何かを生み出すのだ……つまり『人間』はまさに『国家の柱』そのもので『至上の価値』があるのだから、それを『大量に外国に連れていかれる』ことで『クノミア』が受けていた『害』は計り知れん。ゆえにお前たち『クノム人』は『貧乏』だったのだ。私はこの『巧妙な搾取構造』を『コロコス人の軛』と呼んでいる。まあ『カルシャンの軛』に比べて『わかりづらい』からピンとこないのもわかるがな……」と族長。
「……『カルシャンの軛』?? それは一体……」とカムサ。
「はぁ? お前『カルシャンの軛』すら知らんのか!? かー! ここまで『基礎教養』のないやつだったとは! もう『クノム人』とは会話することすら苦痛だ! 喋った言葉をことごとく説明しないといけないとは……(徒労感)」と族長。
「な、私もここまで馬鹿にされ続けたらさすがに我慢の限界が……(爆発寸前)」とカムサ。
本当に『ヒート・アプリ族』の長は『年の功』なのか『相手の怒りを煽る』ことが非常にうまかった(きわめて厄介な特技)。そしてイスティは立ち上がりかけたカムサの肩をつかんで無理やり座らせ、
「ちょ、ちょっとストップしてください!。また話が脱線するので『カルシャンの軛』は後で私が説明します……カムサ先輩、私は族長の『言い方』には賛同しませんが、『話している内容』は『おおむね事実』であると思います。確かに『クノムティオ』は……私たちの『故郷』は『コロコス人の軛』によって巧妙に支配される『鉱物資源と奴隷の供給地』でした。これは本当です、少なくとも私の知識も彼の言葉を『裏付け』していますよ……」とイスティ。
カムサはこの時『怒りで顔が真っ赤』だったのだが、イスティの『真摯な瞳』を見つめ返しているとどんどん元気がなくなってイスティにしなだれかかった。
「……そんな……そうなのね……つまり私たちが『ミルティオ』や『北方』を『クノム人に奴隷を提供する哀れな野蛮人の土地』とみるのと同じように、『東方人』たちも私たちをそういう目で見ているのね……『歴史の父カナシオン』が紹介していた『ロクロキスの戦い』の逸話の意味を私は深く考えていなかったわ……」とカムサ。
次回へ続く。




