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カムサ・イル・アサランシス90『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『コロコス帝国に流れ出るクノム人の『金と銀』』の話

『東方大遠征:レーム北部戦役』、『彼女たちのサガサ族からの逃避行』


 前回の続き、『ヒート・アプリ族長』は『クノムティオ』を『コロコス帝国から見たら鉱物資源と奴隷を供給する、実質的には支配下にある地域』と評していた。もちろんカムサは『クノム人は『真なる自由人』なのだから『コロコス帝国』に支配されていないわ!』と強硬に主張したわけだが、『クノム人世界の貨幣(貴金属)が東方に流出している一方で『コロコス帝国』の貨幣が一切『クノムティオ』に流出していない』という『事実』をもってして『論破』したのである。といってもカムサは『論破された』と認めていないし『審判』もいないので『論破』はできていないのだが。


 そしてこの三名が『激論』を交わしている横では『ヒート・アプリ族』が『パン焼き』と『家畜の肉の煮込み』を作り始めていた。『羊』を選別して『喉』を『短剣』でかき切り地面を『血でべたべた』に汚している。こうやって『家畜を屠るときにわざと血を地面に流す』のは『クノムティオ』でも共通の『家畜の解体法』である(実は『家畜の血を地面に垂らすことを嫌う』文化圏も存在し、そこでは家畜の血を一滴も漏らさずに息の根を止めるのだった)。


 そして他方『パン焼き』の方では『パン生地を捏ねている女たち』が『歌』を歌いながら生地を捏ねている。老人や子供たちは一緒に歌ったり『ラッパ』や『タンバリン』などの楽器を取り出して『演奏会』になっていったのだった。そっちはかなり楽しそうである。



 そして族長も『演奏会』には参加していないが『上機嫌』で『事実』をカムサに述べる、


「……『貨幣』とは『品質保証された貴金属そのもの』のことだ。それが大量に『コロコス帝国(クシャサ)』に流出しているということは、お前たちクノム人どもは『不平等交易』によって搾取されているというだけ。お前たち自身がそう考えていないのは単に『プライド』と、あとはこの『不平等貿易』が『仕組み』としてよくできているからだ。クノム人たちは『クノミア征討(コロコス戦争)』以後『富裕市民』の間でコロコス人の真似をして『日傘』を差すようになったというが、それは『帝国軍』の巨大さと『裕福さ』を目の当たりにして『恐怖』と『驚異』を感じたからだ。それを『ブランド』という……」



 ※注:これはイルブルス通史でも指摘していたが『日傘』が流行したのは厳密には『富裕女性市民』である。男たちは『軟弱』として『日傘』を差すことはない。また実は『コロコス帝国』では『日傘』を差すことが許されるのは『コロコス貴族(アールヤ)』だけで『被支配者アナールヤ』は差すと罰せられる。なので『非コロコス人(アナールヤ)』であるはずのクノム人が『日傘』を差すことはそのまま『コロコス人の軍門に下らなかった』ことを誇示していることになるのだった。



「……つまりお前ら西戎たちは『コロクシアブランド』ともいうべきものにすっかり染まり切り、『帝国クシャサの物産品』と聞けばなんでも欲しがるようになったからだ。実際に『帝国クシャサ』では『日傘』だけでなく多くの『威信材』が『貴族アウィールム』限定で使用を認められ、『庶民ムシュケーヌム』は禁止されているからな……(事実)……だから『コロコス貴族(アールヤ)』と同じことができることを『自慢』するためにお前たちは『コロコス人の真似』をしていたのだ。だがそのためになお一層お前たちは『帝国クシャサ』から様々な物産品を買わねばならなくなり、一方『帝国クシャサ』側にはせいぜい『鉱物と奴隷』くらいしか『クノミア』から買うものはない。そのようにあくまで『自発的』に『不平等交易』が成り立つようになってしまったからクノム人どもは『軛』を打たれているのに『自分たちは支配されていない』と思い込むことができたのだ。理解できたか?」と族長。


 この族長の考え方は実は『彼個人の持論』なので正直言うとイスティは共感はできなかった。だが『コロコス人の真似をすることで彼らの支配下になく対等以上であることをアピールするために東方の奢侈品をクノム人は好んで買っている』という話には『そんな見方もあるのですね』と感心しつつ、


「……確かに『クノムティオ』と『コロコス帝国』の『不平等交易』の理由は『クノム人側は東方から買いたいものがたくさんあるのに、東方側がクノム人から買いたいものが少ない』ことに起因してることは事実ですね。まあその理由は『東方の方が裕福で先進地域だから』と言われるのが普通ですが……この『ふわっとした理由』より族長の話の方が『もっともらしく』聞こえます。まあどっちにしても、『クノム人世界が鉱物を東方に供給する地域』という認識は間違っていません。『クノムティオの銀貨』が東方に大量にわたっているのはそのせいです」とイスティ。


 カムサは『理解できない』という顔で、


「イスティまで……私は認められないわ……じゃあ『同族ヘレネス』たちはずっと『コロコス帝国』の『属国』だったってことなの? 『自治権アウトノミアー』を部分的に認められただけの『隷属地域』だったと??」とカムサ。


「あくまでそういう見方もできるというだけです。ですが少なくとも『鉱物資源を吸い取られていた事実』は動きませんよ先輩。また『クノムティオ』は『奴隷供給地』としても『コロコス帝国』からみられていました。理由は『クノム人都市国家ポリス』同士の戦争で発生した『戦争奴隷』は頻繁に『コロコス帝国』に売却されていたからです。また直接『東方』ではなく『他のクノム人都市国家ポリス』や『アルディアーナ』などに奴隷を売ったとしても、結局『一番奴隷需要が高いのがコロコス帝国』なので最終的にはそっちに流れてしまうんですよね。また『出稼ぎ』と称して自分の意思で渡航するクノム人たちもいますが、これだって『コロコス帝国』側からみれば『奴隷ワルドゥ』と何ら変わりありません。『冒険者ギルド』に登録するにしても『コロコス貴族』のもとに『食客』としてお世話になるにしても『庇護民』とみなされますからね……」とイスティ。


「それは単に『コロコス人が一番高値で買い取ってくれるから』というだけだし、自分の意思で渡航する者は『奴隷』ではないのだから……(だが庇護民も奴隷も実態はそんなに大差ない)」とカムサ。


 不満たらたらのカムサに族長はこの上なく楽しそうな顔で、


「それは『単に』などという言葉で簡単に受け流せる事実ではないと何度も言っているだろうが! お前たちが本当に『コロコス人より強い』ならなぜ今まで一度も『コロコス人』と戦って『大陸(東方)』に攻めてこようとしなかった!? 強いならできたはずだし、事実今『アラマン人』どもがやっていることだ! なのになぜ『アラマン人』たちが始めるまで『150年もの間』誰もお前たちの『先人』は行わなかったのだ!? 『そもそも同族殺しに忙しくてそんな暇がない』からだろうが! なら『帝国』は今まで『資金援助』を行って『同族殺し』に手を貸していたのだから、それは立派な『コロコス人によって同族殺しを煽られていた』ということだ!」と族長。


 彼はそう言ってから喉が渇いて水を飲み、また話をつづけたのだった。それは次回に持ち越す。

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