マストカ・タルクス⑲『冒険者の町:バラン』と2人の冒険者の身の上話
そういえばこの世界に来てから、関わった人は全員貴族かそれに近い人達だけだったなぁと今気づいた。
この世界の一般的な平民に関わったことがなかったなぁと。
サンバースが経営する定食屋『天地ひっくり返り亭』には沢山の人達が集まってきている。
俺達以外冒険者だ。あの不味いご飯をがっついて食べていた。
「この鳥肉変わった味だな。バランの鳥はこんな味なのかよ?」
「しっかし筒みたいな形してんな。鳥のどの部位だこれ? 尻尾?」
えぇ……(ドン引き)
俺達3人は今日もこの店に来ていた。引っ越し作業はまだ終わってなくて暇なんだ。
さすがにもう飯は要らないので水だけ注文した。
「はいはーい! すぐお持ちしま~す!」
暫くすると忙しそうなアリムが水を持ってきた。
「はい水ですよ。銅貨3枚です」
「え、水なのにお金とるの?」と俺。
「当たり前じゃないですか。私が井戸から汲んできたんですよ?」
「無料で水を出す店なんてどこにもありませんよ」とアルヘイム。
すると店の奥に居たサンバースが顔だけ出して、
「あん? 店の裏の井戸はもう枯れてるぞ? どこの井戸だ?」
「ああもう! お父さん余計なこと言わないでよ! 近くの川の水だってバレちゃうじゃん! ておっといけないいけない……」
アリムがヘラヘラ笑いながらテーブルを去って行った。
水しっかり置いていきやがったよあの人……。
「2人ともこれを使ってくださいな。水に入れると綺麗にしてくれますわ」
シュナが俺とアルヘイムに青緑色の石をくれた。『清め石』という水を綺麗にする石らしい。魔法じゃなくて天然の石なんだそうだ。
俺が『清め石』を水に入れるといきなり水が沸騰してコップから噴き出した。
「熱! なんかいきなり沸騰したんだけど!?」
「はい、一度熱を通したのでその水は安全ですわ」
魔法かと思ったら煮沸消毒かい!
お湯を飲んでいると1人の冒険者に話しかけられた。
「それにしてもなんで貴族のボンボンがこんな定食屋に居るんだ? 『冒険ごっこ』ならお抱えの料理人に作らせりゃいいじゃねぇか? あ?」」
頬に傷がある目つきの悪い男だった。すぐにアリムが飛んできて、
「やめなシャイザル! この人達は借金取りその他を追っ払ってくれた恩人なんだよ!」
シャイザルという男が俺の顔をしげしげ眺めてから。
「へぇ、貴族らしくねぇ坊ちゃんも居るんだな。珍しいなぁ、まるで新種の大道芸人を見た気分だぜ。オラまた誰かの恩人になってみせろよ、出来たら銅貨投げてやるぜ? あん?」
懐から銀貨を取り出して俺の鼻先に近づけてくる。
なんだこの人……なんでこんなにウザ絡みしてくるんだ?
「シャイザル! それ以上絡むと出禁にするぞ!」
サンバースが奥から叫ぶと、シャイザルは舌打ちしてから、
「チッ、うっせぇなぁ! こんな店潰れちまえよ!」
叫んでから荒々しく隣の席に座った。
なんかこっちをメッチャ睨んできてやりづらいんだけど……。
「ごめんねぇマストカ様。シャイザルの奴、昔貴族にひどい目にあわされてから身分の高い人を毛嫌いしてるんですよ」
「そうなんだ……酷い目って一体なに?」
アリムがちらっとシャイザルを見てから話し始めた。
「昔、シャイザルはこの国の近衛兵やってたんですよ」
近衛兵とはその名前の通り皇帝を護衛する兵士のことだ。
通常は貴族の男が務めることになっているのだが、才能ある平民階級が抜擢されることもある。
シャイザルがまさにその平民出の近衛兵だったらしい。近衛兵に抜擢された理由は、その怪力にあったそうだ。
シャイザルがまだ子供だった頃のことだ。彼は帝都の近くの森で遊んでいて、見たことない木の実を見つけてそれを食べた。すると急に素手で岩を砕けるほどの怪力を手に入れたのだそうだ。
彼はその怪力で数多くの武功を立て、皇帝に気に入られて近衛兵に任命された。シャイザルはいっそう張り切って仕事をした。
彼が近衛兵になってから数年経ったある日、同僚の貴族の青年がシャイザルにこんなことを言ってきた。
「君の首筋に妙なアザがあるんだ。気づいてたか?」
「アザ? 初めて知ったよ……でもそれがどうしたんだ?」
「そのアザは『蟲』が体の中にいる証だぞ」
『蟲』とは昆虫型の魔族のことだ。寄生虫タイプが特に多い。
「蟲!? 俺に寄生してるのか!? どうやったら治せるんだ!?」
シャイザルが気持ち悪がって立ち上がると、同僚が落ち着くように言ってから、
「治し方かい? それなら簡単だ。僕が薬を用意しよう、それを飲めば治るよ」
次の日同僚がその薬を持ってきた。シャイザルがそれを飲むと猛烈な吐き気がして嘔吐した。
すると嘔吐物の中に黄色のうねうね動く糸みたいな虫がいた。同僚がそれを回収して、
「こいつは『バラキス』という『蟲』だ。後は僕がなんとかしておくよ」
「すまない。助かるよ」
シャイザルはほっとして仕事に戻ったが、そこで自分の身体の変化に気づいて真っ青になった。
自慢の怪力が消えて普通の人間と同じ筋力になっていたのだ。まもなくシャイザルは近衛兵を解任されて無職になった。
「なんでいきなり怪力が消えた……? あ、ま、まさか!?」
シャイザルは『蟲』を持っていった同僚に会いに行くと、彼は岩を砕くほどの怪力を手に入れていたのだった。
「シャイザルか、どうしたいきなり?」
「どうしたもこうしたもあるか!? 俺を騙したな! 俺の怪力を、蟲を返せ!」
「返せ? 治療して欲しいと言ったのは君の方だ。『バラキス』は動物の体内に寄生する代わりに宿主に怪力を与えるという魔族だ。こいつ自身はとても弱くて普通の鳥にも食われちまう。だからパワーを与えて宿主に守ってもらってるのさ。しかも寄生されると逆に宿主の寿命が延びるんだよこいつは。くくく、素晴らしい蟲だろ? ちゃんと調べるべきだったな」
「そんな……なんで教えてくれなかったんだ!?」
同僚は大笑いして言った。
「なぜ平民ぶぜいに教えなければならない? ていうかなんだその無礼な態度は? 斬られたくなかったらさっさと失せろ、その賤しい顔を二度と見せるな!」
シャイザルは逃げ帰るしかなかった。同僚はそのあと出世して今は近衛兵団長になっているらしい。
アリムの話が終わるとシャイザルが『ケッ』と舌打ちした。
近衛兵団長ってもしかして今のか? 会ったことあるんだけど……。
すると今度はまた別の冒険者が俺らのテーブルにやってきた。
「貴族は糞だ。私ら平民を家畜かなんかだと思ってやがるのさ」
革の鎧をまとった女剣士だった。刃のように鋭い目が特徴的なアラトア人だ。
「マストカとか言ってたなお前。私の名はウルルム。いかにも世間知らずそうな坊ちゃんに私の話も聞かせてやるよ」
そう言ってどっかりと俺の机の向かい側に座って話し始めた。
ウルルムはアルナイ半島の南端にある港町『ヒノイセン』の出身らしい。
『ヒノイセン』は海上交易で重要な港で、世界中から商人が商売しにやってくる大きな街だ。
ちなみにこのバランはヒノイセンの隣の町だ。隣と言っても少し離れてるけど。
ウルルムの父親クイドは冒険者だった。生涯で3匹の魔王を倒し、5つのアッス(東方)の古代遺跡を攻略し、『リプリ』というクノム人の国に味方して戦争で勝利し『勇者』の称号を贈られたすごい人だったらしい。
俺は『勇者クイド』なんて知らなかったけど、アルヘイムとシュナは知ってた。有名人らしい。
「懐かしい名前ですね……私も勇者クイドと戦ったことがあります。私の人生で3本の指に入るほどの戦士でした」とシュナ。
「父さんは数えきれないほどの魔術師と戦ったからな」とウルルム。
ある日クイドはまだ幼い娘のウルルムと一緒に『支援者』の貴族の家にやってきた。
「クイド、お前結婚したという話は本当だったのか……冒険稼業はどうするんだ? まだ続けるのか?」
『支援者』に聞かれてクイドは笑った。
「いやいや、実は今回の仕事を最後に冒険者を辞めようと思いまして、そのことを伝えに来たんですよ。妻と娘が居るのにこんな危険な仕事を続けられませんって」
「……そうか。お前ほど稼げる冒険者は他にいないんだがな……。『魔王ヘインブル』の財宝を持って帰って来た時は本当に腰が抜けたぞ。はっはっは」
「ははは、確かにあの魔族が持ってた宝の山はすごかったですねぇ。あれのおかげで貯金もたんまりあるので、後は家族とのんびり暮らそうかと思ってるんですよ」
冒険は意外と金がかかる。武器防具、食料に薬などの必需品を手に入れたり、あるいは仲間を雇ったりしなければいけないからだ。
だからそんな冒険者達にお金を貸して、冒険者たちが手に入れたお宝の分け前を貰って儲けようという金持ちがいるのだ。それが『支援者』だ。
優秀な冒険者になると沢山の『支援者』がパトロンにつくことがよくある。クイドもアラトアの貴族達が沢山パトロンになっていた。
『支援者』は心底残念そうにため息を吐いた。
「そうか……まだまだ稼げそうな話が沢山あったんだがな。まあ仕方ない。なら早速最後の仕事を頼もうじゃないか」
『支援者』が持ってきた仕事は、ヒノイセンの港から少し離れた所にある無人島だった。
「ヒノイセンの港から船を出すとすぐに大きな無人島にたどり着く。最近その島に邪悪な魔術師が棲みついているらしい。恐ろしい呪いの研究をしているとか、古代の発掘品を大量に持っているとか色々噂がある。是非『冒険』してきてくれ。必要な物は全て私が用意する代わりに、戦利品は半分貰う。それでいいか?」
「……そんな危険な魔術師なら皇帝陛下が軍を出すのでは?」
「色々とあるのだよ、政治の世界はな。君が知る必要はない」
「確かにそうですね。必ず儲けさせてみせましょう」
「ああ、デカい稼ぎを期待しているぞ」
クイドはよく一緒に仕事する仲間と共にヒノイセン港を出て無人島にたどり着いた。
無人島は魔獣の巣窟だった。腹をすかせた魔族を蹴散らしながら島の中を探検し、地下の研究所に繋がる入り口を発見した。
地下に入ると今度は主人である魔術師が出てきて戦いになった。魔術師は若く美しい娘の姿をしていて、炎と稲妻が乱れ飛び、烈風が吹き荒れ、狭い空間の中を魔力が暴れ回った。
「クイド! あの魔術師人間じゃねぇ! 自分の魔法で焼かれてるはずなのに無傷だ!」
「落ち着け! 俺達だってちょっと焼かれたくらいじゃ死なねぇ!」
クイドは短剣を避雷針にして稲妻を避け、マントを身代わりにして炎を防ぎ、『爆裂呪文を封じ込めた石』を投げて烈風を相殺して魔術師に斬りかかった。
「破ぁ!」
「ぐ……!?」
結局魔術師は倒せなかったが、無人島から追い出すことには成功した。クイド達は大喜びで研究所にあった沢山の発掘品、そして金庫の中にあった大量の金貨と倒した魔獣から剥いだ素材を持ってホクホク顔で戻った。
「……そこで終われば普通の冒険譚だよ。でもそこでは終わらなかったのさ。なんとその『邪悪な魔術師』が実はアラトアの大貴族がパトロンになってる魔術師だったのさ」
「は? どういうこと?」と俺。
「騙されたんだよ父さんは。他の貴族のお気に入りの魔術師を悪人と偽って襲わせたんだ。すぐに裁判が開かれて父さんは『強盗』として訴えられたんだ……糞ったれ!」
ガンッ!
ウルルムはそこまで言って顔を真っ赤にしてテーブルを殴った。
「『勇者』とまで呼ばれた父さんが『強盗』だと!? 誇り高い冒険者にとってどれだけ屈辱的なことか! ……父さんはそれでも頑張ったんだ」
裁判では襲撃された魔術師のパトロンが、クイドたちのせいで長年の研究がパーにされたことを訴え、略奪品を全て返すことと、賠償金の支払い、そしてクイドたちの国外追放を求めた。
クイドは自分が騙されたことを主張したが、彼に依頼した貴族は彼を守らなかった。それどころかクイドは嘘を吐いて無関係な自分を巻き込んでいるとされ、その貴族もクイドを訴えたのだ。
裁判の結果、クイドたちは全財産没収の上死刑となった。数日後に死刑が執行され、妻と娘は奴隷として売られてしまった。
「……私はクノム人の商人に売られて召使いになった。その後14才の時に愛人になって、旦那様の許しを得て剣の修行をしたんだ。必ず父さんの敵を討つために! ……だけどいざアラトアに帰ってきたら、仇の貴族は失脚してとうの昔に処刑されてた。今はやることもないからこうやって冒険者やってるのさ」
ウルルムはそこまで話して、別のテーブルに移動していった。
シュナが呟いた。
「……驚きました。その無人島の魔術師は私ですわ。私の研究所が襲われてオルバースがクイドを訴えたことがあるんです。確かにクイドは死刑になってました……まさかクイドの娘と会えるなんて」
マジか、これが縁ってやつか。俺は不思議な気分になった。
でも冒険者って魔法使いを襲うのが普通なの? なんか魔法使いってすごい可哀そうな人達なんじゃ……と思った。
シュナは特にクイドを恨んではないと付け加えた。
1人からでも評価貰えるとやっぱり嬉しいですね。随分遅れたけどありがとうございます。




