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イスティ・イル・フィズラース100『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『賢者たちの言葉から考える『魔族化』』の話

『東方大遠征:レーム北部戦役』、『彼女たちのサガサ族からの逃避行』


 前回の続き、イスティが最後に述べていた台詞に対して『注釈』を入れたいのだが、まずその台詞を振り返りたい。


「してるとはいえそうですし、してないとも言えますよ先輩。私はニムル先輩の『一貫性と連続性』を気にかけています。確かに人間属も魔族も変わらず『成長し変化する』ものですが、そういう『変化』ではなく、言ってしまえば『確かに成長などで私たちの心は変わるとしても、それを認識する私たち自身は変わっていない。『変わっていないもの』があるからこそそれを比較して『変わっているもの』がわかるということです。『哲学者ヘラニコス』は『同じ川に二度と足を踏み入れることはできない』と述べて今現在も『議論』を呼んでいますが、今まさに私が関心を向けているのはそのことですね……」とイスティ。




 ※注:では注釈をつけるが、『哲学者ヘラニコス』とは『アッスス地方』の有力な都市国家ポリスで『パントーランティオ神聖同盟アンフィクテュオニア』に属する12の都市の1つであり、『狩猟の女神ウービース』を守護神とする『レムモス』出身の哲学者である。『最初の哲学者クラトス』が活躍した時期から約50年後くらいの人。なので大体『ダーイムレス一世』と同じ時代の人で、ニムルたちの時代からだと100年くらい前の人物になる。もともとは『レムモス』の『支配階級バシレウス』であり、伝承では『民主政デモクラティアを軽蔑していた』とされるが当然彼の時代にはまだ『民主政デモクラティア』なんて言葉は存在していなかったのでこれは誤りである。


 ※注:だが『政治家ヘラニコス』として彼が残した『詩』からは『きわめて貴族的で誇り高い性格であった』ことが伺え、繰り返し『教養は愚かな民衆に教えてはならず選ばれた階層によって独占されなければならない(なので彼の詩も『わかりづらい隠喩』や『なぞかけ』がかなり多い)』と説いていたので確かに『民主政デモクラティア』を知っていたら軽蔑したであろうは容易に想像できた。彼は政治家や軍人として『レムモス』を引っ張ったが、晩年は同国での『党争スタシス』に疲れ果てたらしく引退して町の子供たちを『守護神ポリアスウービース神殿』に連れて行ってここで『サイコロ遊び』をしていたらしい。それを市民たちから『女神さまに奉仕する役目でない子供たちを連れてきて何しているんですか?』と尋ねられて『バカバカしい政治にこれ以上かかわりたくないからウービース女神の神慮をうかがってるんだ』と答えたとされている。また『なぞかけ』を好むあまり自分の病気を診察しようとした医者に『なぞかけ』をし、そのために医者が適切な診察をできずに病死したという逸話もあった(これはかなり胡散臭い話だが)。


 ※注:そしてそんな『哲学者ヘラニコス』の最も有名な言葉が、『哲学者ハルブズ』の著書に引用されて知られる『あらゆるものは去り、何事も止まらない(万物流転)』と『同じ川に二度と足を踏み入れることはできない(水は常に流れているので入るたびに違う水に浸かるため)』だった。




 イスティの言葉にニムルが首をかしげて、

『なんだか難しい話だね……』とニムル。


「一見そう思えますが、人間族であれ魔族であれ自らの『成長や変化』に気づくのは過去の自分と比較してのことという話は『至極当然』のことを述べているだけです。もちろんそういうのとは別に『これだけのことをしたのだから自分は変わっただろう』という思い込みも起こることはありますが、それだってしばらくすればすぐに『やっぱり自分は変わっていなかった』と気づくものです。『過去との比較』で『自分の変化に気づく』には『過去の自分の行いを覚えている』ことが大前提でして、そのためには『変わらない記憶』を持ち続けることが必要です。それこそが『変わらない部分』の具体でして、『記憶』とは『精神(人格)』を構成する最も重要な要素の一つなのですから……もちろんそうなるのは私たちは『過去に学んだこと』をもとに『未来の行動』を決め、『実行された言動や行動』が『その人の性格』であると見なされるからで……」とイスティ。


 これは実は彼女の『詭弁』である。『至極当たり前のこと』を述べてると主張しながら実は『ニムルの思考を誘導しようとしている』のである。そもそも『記憶』とは常に『脳』によって『改変』されていくものであるので『変化しない記憶』など存在しない。そしてそういう『脳科学』の知識は『夢の世界』になくとも、『人の記憶は都合よく変わっていくもの』というのはクノム人たちも当然ながら知っている。


 以前『クノム人世界には文字に対する不信感があり、文字記録は必ず改ざんされると考えられている』と述べたが、実はその一方で『人の記憶や口承も当てにならない』と考えられているので『英雄叙事詩』についても『ロアメルダスが歌っていることは話し半分に聞いた方がいい』とよく言われていた。つまりクノム人たちは本当は口承も文字もどっちも信用していないのだが、さすがに全部疑ってかかると『神話』も『記録』も全部無意味になるので『時と場合によって使い分ける』ことを目指していたのである。だが『人間族』にとって『半分信じて半分信じない』はものすごく『困難』なことで、しばしば『全部信じる』か『全部信じない』の『極端』に振り切れてしまうらしかった(なので『中庸』の大切さが説かれていた)。



「そしてニムル先輩、私はもうすでに『先輩が変わった点』に気づいています。それは『声』です。自分の『声』が『人間族のそれではない』ことにお気づきですね?」とイスティ。


 そこでカムサとハッシュが「「え!? それも言っちゃっていいの!?」」と慌てふためく。イスティは自分で禁じたことを自分で破り、ニムルがまた自分の喉に触れて、


『……僕の『声』そんなに変?』とニムル。


「『変』とかではなく『以前と違う』と私は言っているんです。前はそんな声じゃなかったですよね? 覚えてませんか?」とイスティ。


 実はこの時点でイスティはかなり『イライラし始めて』いた。だがニムルは気づかず


『……変じゃないんだね。そっか~、じゃあなら別に大丈夫かな~』とニムル。


 明らかに『受け答え』が『奇妙』だった。なのでイスティがここで初めてはっきりと『強い苛立ち』を感じながら、


「ニムル先輩、私の質問に答えてほしいです。『自分自身の声が以前と変わった』と思いますか? それとも思いませんか? 私はそのことがすごく気になってます。ニムル先輩はどう思ってますか?」とイスティ。


 この時点でハッシュは横で二人の会話を見ながら思った。


(……なんかすげー『いやな予感』がする。いや『なんか予感がする』とかじゃなくてあたしでも『今後の展開がわかる』ってやつだな。イスティはすでに『ピリピリ』してるし、こりゃあ『喧嘩』になるな……)とハッシュ。


 だが彼女はこの時『ニムルとイスティの喧嘩』を想定していた。しかし実際は違ったのである。次回へ続く。

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