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イスティ・イル・フィズラース93『東方大遠征:サガサ族からの逃避行』と『復讐から守られる街』と『帰ってこない返事』の話

『東方大遠征:レーム北部戦役』、『『サガサ族』からの逃避行編』


 イスティが前回話の流れで『クノムティオ』には存在しない『東方諸国』独特の慣習である『逃れの町』について語っている。ちなみに『クノムティオ』では『わざわざ『後背地コーラ』に犯罪者専用の町』を作るようなことはしない。なぜなら『町』とは『政治の中心機能を備えた場所』を意味するので、『都市国家ポリスのもともとある『山手アクロポリス』以外にもう一つ『犯罪者しか出入りできない山手アクロポリス』を増やすことになり、まったく『不合理』なことになるからだ。


 そしてそもそも『クノムティオ』では『完全自由市民』では無い者は実質的に『奴隷』と大差ないあつかいになってしまうので(厳密には違う場合も多いが)、やはり『わざわざ国家に不要な人間のためになぜ土地を分け与える必要がある?』となるのではないかと考えられた。やはりこの思想の根本にあるのは『その国に不動産を持っている人間以外は戦争になっても死に物狂いで国家を守るために戦わない』という価値観が横たわっているだろうと思われた。


 なのでどうしても理解できずやはりずっと頭上に『??』を浮かべるハッシュと『東方の驚異』に純粋に興味津々な(ようは『娯楽』として楽しもうとしている)カムサに対してイスティが真面目に説明を続ける。


「……ですので現在の『逃れの町』は『王朝が設置する町規模の大きさの監獄』といった方がいいかもしれません。ですが本当の凶悪犯罪者はこの街に住むことを許されずに『処刑』か『追放刑(平和喪失刑)』が科されますので必ずしも『無法者のたまり場』というわけでもないんですよね……しかしその一方で『歴史的経緯』のためか大抵『逃れの町』は『辺境地域』に配置される傾向にあることや、また『冒険者』などが集まりやすい土地であることも変わってないですね。しかしかつてと違って『治安』は劇的によくなっているので『逃れの町』は田舎の小都市ですが活気は『まぁまぁ』あります。またそういう都市の中には多くはないですが『商人』たちの交易路上に位置して『交易都市』となっている場合もありますね。一説によれば『タルマリク市』は実は『ダンジョン都市』ではなく『逃れの町』が成長した町であるという伝承もあるくらいです……『逃れの町』とはそういうものですね」とイスティ。


 言われてカムサとハッシュが「「へ~」」とうなって、


「……そんな町は『クノムティオ』では聞いたことないわ。さすが『東方アッス』は『大陸メソゲイオス』だから土地が余ってるのね(関心)」とカムサ。

「土地が余っているとかはあまり関係ない気もしますが……(汗)。まあしかし広大な平原の多い地域ですのでその認識で間違ってないかもしれません。といってもその大部分が砂漠なわけですが」とイスティ。


「なんでその『逃れの町』ってやつがクノムティオにないんだろうな?」とハッシュ。

「それは私にもわかりませんが、『西方エレブ』でも森林や山奥、島などの犯罪者が逃げ込んで『隠れ里』を作ることもあるので別に『ない』わけではないだろうと思います。ただ『クノム人』たちがそこを『利用』してないだけですね」とイスティ。


 おそらく『逃れの町』は『都市国家』の時代は現在の『クノムティオ』と同じく『ただ犯罪者が逃げ込んでいるだけの場所』だったのだろう。だが後に『領域国家』に社会が変化するとそういう都市も『支配下』に入ることになって『監獄』としての新しい意味が付加されたと考えられる。そうなると単純に『クノムティオ』に『逃れの町』がないのは『まだクノム人世界が『都市国家』が基本の社会で『領域国家』に脱皮していない』ことを表していると考えられた。


(……まあ『クノムティオ』が『領域国家』に脱皮しても『東方』と同じ歴史を辿るとは限らないわけですが……いえ、多分同じになるのでしょうね。結局すべて『ザーラの民』が飲み込んでしまうんですから……)とイスティ。


『未来』のことを思いだして例によってイスティがちょっと『憂鬱』になる。一方でハッシュはすぐに『逃れの町』のことはどうでもよくなって『幌』をつかんでゆすりながら天井に向かって声をかけ始めた。


「おーいニムル~! 聞こえってか~!? なんで返事しないんだニムル!? おいって!」とハッシュ。


 だがやはりニムルは返事せず、そこでカムサはいつの間にか起きだしていた『ダボス族』の生き残りのゴブリンたち(魔法使い)も『幌』の外を確認した後『黒い馬車』の内側をあっちこっち触って回っていることに気づいた。


「あら、あなたたちも起きてたのね。ニムルの容態がわかるの?」とカムサ。

『……(横目で一瞥しただけ)』とゴブリンたち。

「……なにかニムル先輩から感じましたか?」とイスティ。


 イスティは『ゴブリンたちが『黒い馬車』を調べる動機』を尋ねたのだが、ゴブリンたちは『調べた結果』を報告した。


『……先生、我々もやはり『死神バルバン』のことは全く分かりません。ですが今はこれまで『黒い馬車』から放たれていた『威圧感』がなくなっていますね……』とゴブリンたち。


 これまで『黒い馬車』は周辺に『威圧感』をまき散らすことで危険な毒虫や猛獣、魔族などを寄せ付けないようにしていた。もちろんそんなことすると自分たちを『追跡』している『サガサ族』たちを撒くことができないのだが、そもそもニムルが食べ物を手に入れるための『狩り』で結構派手に動いていたので(それこそ魔獣の群れを全滅させたりなど)、どうせ痕跡を隠せないと考えて逆に『威圧感』をまき散らすことで余計な戦闘を避けようとしていたのだった(補足)。


 ハッシュが頭の後ろで両手をくみながら、


「『威圧感』を撒き散らしておけばそこら辺にいる『ワニとか狼とかカバ(マクラーブ)とか毒蛇』とかに出会わなくて済むもんなぁ」とハッシュ。

『どうせ『サガサ族』の追手だって簡単には手が出せませんからね☆ 『東方人貴族』も協力しているようですが、彼等も『東方大遠征』が忙しいでしょうし♡』とデージャ。

「アラマン軍は私達も気をつけなければいけないのだけどね……」とカムサ。


 そこでイスティが言う。

「……私はそもそもその『威圧感』が具体的何なのかもよくわかりません。それは『魔力』なんでしょうか? それとも『瘴気』?」とイスティ。


 彼女がなぜ今まで考えもしなかったことを突然問い始めたかというと、『死神バルバン』という『未知の存在』の調子を知るために『なんでも考えられる可能性は考えよう』と思ったからだった。そして実際のところ、この話は『魔法』において最も『根源的な概念』である『魔力とは何か?』という、『魔女』も『風の王』すらも答えを出せなかった『魔学の大問題』に迫る試みでもあるのだった。次回へ続く。

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