コレノス・イル・ラムシス⑲『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『功績を焦る集団の中で『頭一つ抜けだしたい者』』と『州都でのさらなる戦後処理19』の物語
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『州都でのさらなる戦後処理』はまだまだ続く。『敵前逃亡』してしまったウルムスとサラシュス率いる『アリアディス同盟兵』たちは気づけば『双角王の裁判』に臨む際に自分たちをかばってくれる信頼できる『保護者』を得られないことに気づき、騒ぐ兵士たちの中から『無理やりにでも西方に帰ろう!』という意見が出されたのであった。
だがその意見自体はウルムスとサラシュスの説得でひとまずは『封印』された。彼らはそれを確認してから提案者フィロメロスを呼び出したのである。
「……ではフィロメロス殿、改めて『哲学者キシュオン』の顰に倣うと主張なされた『根拠』をお聞かせ願いたい」とサラシュス。
すでにいったん兵士たちは『クノムティオへの帰還』はあきらめたわけだがあえて彼らはフィロメロスに『演説の場』を与えたのである。なので彼はさっそくすべての兵士たちの前に立って自分の旧い主張を繰り返した。
「この場に集まる『世界最強の軍隊』の同盟他者たる『真なる自由人』諸君! まず前提として自分は『現在のアラマン王国は危機的状況にある』と考えていることを述べておきたい。理由はあえて言及する必要もないだろうが、『大陸(東方)』に『奥深く侵攻』したアラマン人たちは今のところは勝ち続けているとはいえすでに細かいところでは『破綻』が始まっており、また我らにとっては『本土』である『クノムティオ』の方は『混乱していて何が起こっているかまるで分らない』状態だというではないか! ならばこれから『アラマン王国』の中で立場が確実に弱くなっていくであろう我らはここであえて『哲学者キシュオン』にならって『一万の退却』を行い、『クノムティオ』に未だ存在する『反アラマン人』の勢力と合流することで身の安全を図る、つまり『反アラマン人』の勢力を我らが『育てる』ことで『双角王』から譲歩を引き出すことが『上策』ではないかと考えた! ゆえに俺は先ほど『武力でもって西方に帰るべき』と主張したわけだが……」
ここでフィロメロスは『ウルムスとサラシュスが自分にあえて発言を促した意図』をちゃんと読み取って付け加えた。
「……だが今俺はこの考えを変えたのだ諸君、ウルムス殿とサラシュス殿が申された通りまだまだ俺たちは『東方』で頑張れるはずです。我ら『同族』がこうやって『東方の豊かな土地』を手に入られる機会なんてそうそうないですからね。それに『アリアディス同盟兵』たちは我らだけでなくあっちこっちに分散しています。その者達全員と連絡を取り合ってからでも遅くはありません。今はとりあえずウルムス殿とサラシュス殿に従います」とフィロメロス。
彼のこの『空気を読んだ言葉』にひとまずは安心してサラシュスとウルムスが言う。
「ては『忠誠の誓い』をしていただけませんか? 一応ここの指揮官は自分たちですので」とサラシュス。
「我ら『同盟兵』にも『統合』の理想があります。無用な『党争』を避けるためにお願いしたい」とウルムス。
二人は表面は笑顔だった。そして一方フィロメロスの方はというと、
「(変に目立つと周りから嫉妬されるから、『誰もが認める功績』をあげてから名乗りたかったが……まあ仕方ないか)わかりました。改めて誓いを建てましょう」とフィロメロス。
ここでフィロメロスがウルムスとサラシュス相手に『忠誠の誓い』を行って『指揮系統の再確認』を行い、流れでほかの兵士たちもみな同じことをした。そして同時に『これからは我々は『運命共同体』となって『双角王の裁判』を何とか乗り切る』ことも確かめられたわけである。
そしてこの儀式が済むと今度はウルムスとサラシュスが以下の宣言をした。
「「確かに我らはまだ『クノムティオ』に帰還することはない。だがもし将来的に帰還が検討されるときは皆思い出さなければならない、その提案を最初にだしたのは『パレノス人のフィロメロス殿』である!」」とウルムスとサラシュス。
これは『クノム人世界』でよく行われる『意見を却下された人物のメンツを立てるために』行われる、『今は却下したけど名案だと思う。だから将来的にこの意見が採用されるかもしれないから、そうなったときのために提案者を記録しておこう』という体裁で行われる『顕彰行為』である。なのでフィロメロスの名前と共に彼の案が粘土板にきざまれて記録されたのだ。
そして『フィロメロスの名前』が知られたことで彼自身の『名誉心』がある程度だが満たされ、とりあえずこの場はおとなしくなったのであった。
(……この流れならもし『双角王の裁判』の雲行きが怪しくなったら自動的に俺がこの場の『同族』たちの『頭領』になれる可能性が高い……もちろん『裁判』で『免罪』を得られても俺には利益があるが、もし失敗しても俺自身が『アラマン王国への反乱』の指導者になれれば『歴史に名を残せる』だろな……これは悪くない流れだ……)とフィロメロス。
実はこの男は『アラマン王国はあっちこっちでガタついてるから『アリアディス同盟軍』が反乱を起こしたら瓦解するだろう。なので反乱が起こせる段階になったら自分が指導者の位置につけるようにしたい』と常日頃考えてそのチャンスをうかがっていたのである。だがもちろん似たようなことは彼だけが考えているわけではなく外の同盟兵たちも同じである。
そしてそうなった場合に一番真っ先にフィロメロスの『毒牙』がおよぶことになりかねないウルムスとサラシュスも警戒を強めたのだった。
(……フィロメロスというこの男、ちょっと警戒した方がいいかもしれませんね)とウルムス。
(ええ、俺たちの『特権』を奪いに来そうですからね……)とサラシュス。
そのような『火種』を抱えつつも、一方で『裁判』の方も当然有効な対策は何も思いつかないのでただただ『まんじり』とその日を待つことしかできないのであった。
そして一方彼らが話を聞いたオルトロス候とダーマス候、というかこの二人を含む『貴族戦士』たちはこの時何をしていたかというと、『さすがに兵士たちが疲れ切っているから数日休憩しよう』と『州都タルキュア』の城壁の外にある『陣営(テント村)』で休暇に入っていたのである。つまり『アリアディス同盟兵』たちが『庇護嘆願』を行おうとしたのは『休暇中のオルトロス候とダーマス候』だったわけだ。
なので『貴族戦士』たちはみな『休暇』の間は各々のテントでゆっくり過ごす……わけがあるはずもなく、まず『サイマス将軍』は『アンフィスバエナ』たちとこっそり話し合っていたのである。
そしてその『話し合い』をセッティングしたのはサレアスだった。彼(彼女)は『アサクレシス族』のテント村にやってきた(『貴族戦士』たちごとに別々のテント村を作っている)『アンフィスバエナ』の『魔王フェルゾ』と『四天王』たちに対して開口一番以下のことを要求したのである。
「……現在『アンフィスバエナ』の皆さんは『アラマン王国』では『在留外国人』身分となります。あるいは『二等市民』と言い換えてもいいですが、つまりあなた方は『市民共同体(国家)』の正式な一員である『完全自由市民』ではないということです。当然そういう者たちに『クノムティオの古の法』は『軍役(従軍するだけでなく戦利品を分配されたり武功を認定してもらえる権利)』を認めていません。ですのであなた方には『保護者』が必要です。わが兄上である『サイマス・イル・アサクレス』に『庇護嘆願』を行い奉仕義務を負ってもらいますよ」とサレアス。
次回へ続く。
作者の歴史趣味です。現在作者が読んでいる『賄賂と民主政』の本の中で『ギリシャ人はもともと『賄賂』を禁忌視する文化がなかった。だが『ペルシャ戦争』でペルシャ人がギリシャ人を買収する危険性が認識されてから『賄賂』を禁忌とするようになった』と書かれてまして、『その発想はなかった』と感動しています(なぞの上から目線)。
イスティ「浅学な作者にはない発想だったそうで、『これが本職の歴史研究者の推理力か』と興味深いそうですよ(言い方が悪いですが皮肉は一切ないです)」
カムサ「この本で著者は『ペルシャ人がギリシャ人を買収した確たる証拠』がないからその話は避けてるようだけど、そこをあえて『断定』しないのも『学問』って感じよね」
ハッシュ「あたしは『ペルシャ人がギリシャ人を買収した』って話はぜってー事実だろからもう『断定』してもいいと思うけどな。言い方がもやもやして気持ちわりーぜ」
イスティ「証拠のないことを断定するとそれは『歴史学』ではなく『歴史物語』になるので別物ですよ(良心)」
物語はあくまで物語、だそうです。




