コレノス・イル・ラムシス⑭『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『ディメルアンキア王と『文字』の発明』と『州都でのさらなる戦後処理14』の物語
『コロコス帝国歴史物語:閑話』、イスティが『ディメルアンキア王と『瑠璃国』の領主』の続きを語っている。ちなみにこの時カムサやゴブリンたちはちゃんと聞いていたが、またもハッシュは『うつらうつら』し始めていた。
だがイスティはそのことはきにせずに話を続ける。
「……さて、それでは『第三のなぞかけ』の最後の部分の『注釈』を行いましょうか。ここが一番重要なシーンですのでもう一度おさらいしておきましょうか……」とイスティ。
その『おさらい部分』は以下のとおりである。
……さらに『アラバ(アリシーク)の王』は続けて『伝令』に言う。
『……さらには『いつまで『グダグダ』と御託を並べているつもりなのだ『領主』よ! すぐに『瑠璃の国』の住民たちに輝く金銀や『ラピスラズリ』を集めさせ、『聖なる乙女アラ(ウドナ)女神』のために『アラバ(アリシーク)』の『宮殿』の『中庭』にそれをうずたかく積み上げさせるのだ!』と、これが『二つ目』だ。伝令よ。さらには『三つ目』もあるぞ、『住民たち全員が『市場』で『価格』をつけられたくなかったら(つまり『奴隷』として売られたくなかったら)さっさと山々から出てきて『輝石』を運び出し、それら用いて我が『アリシーク』の建物を装飾せよ!』とな。伝令よいいか? まだ私が伝えたいことはこれだけではない、『領主』の物分かりが悪すぎて私は『言ってやりたい』ことがそれこそ山のようにあるのだ! さらに今から『四つ目』を話すが……』と『ディメルアンキア王』
このように『堪忍袋の緒が切れた』ディメルアンキア王はさらに多くの『伝言』を伝令に伝えたが、そのたびに伝令の口は重くなり、もうそれらを『復唱』できなくなってしまったのである。
『我が『主君』よ! あまりにも『伝言』が多すぎて覚えきれません! どうか『伝言』の数を減らしてくださいませ!(悲鳴)』と『伝令』
『む、そうか。だが私も言いたいことがまだまだある以上は『伝言』を減らすことはできない……おお!またも『知恵の女神ナバニ』が私のご助力成されたぞ!』と『ディメルアンキア王』
王はここでおもむろに『粘土』を手に取り、そこに初めて『文字』を刻んだ。この時初めてそれまで存在しなかった『文章』というものが初めて作られたのであった……、
ここまで歌ってイスティが満を持していった。
「……この部分こそが『ディメルアンキア王と『瑠璃国』の領主』の『叙事詩』で一番大事なシーンになる『文字(文章)が発明された経緯』に関する由緒譚です。つまり『スキアン人』たちは『文字』は『演説(伝言)を伝えるときにに使うメモ』として発明されたと考えていたわけですね。そしておもにその『メモ』は『王が遠隔地の王のもとに派遣する使節(伝令)に自分の言葉を正確に伝言させるため』に考案されたことから、『文章』と『交易』と、さらには『王権』は切っても切れない関係にあったということになる……それがこの『ディメルアンキア王と『瑠璃国』の領主』の『叙事詩』が述べている『教訓』ということになります」とイスティ。
この話にはハッシュがちょっと納得できなさそうに、
「前に『古い時代の東夷の交易』とは『相手国を自国に服従させて『貢物』を出させ、それに対して『褒美』を与えることで主従関係を確認する作業だった』って言ってたが、なんか納得できねーな。でもなんていえばいいか……あ~! 『弁論術』が苦手なせいでどううまく伝えればいいかわかんね~! イスティあたしが言いたいことわかるか!?」とハッシュ。
「それだけでわかったら『賢者』、あるいはあなたの心を読む『魔法使い』ってことよ(呆れ)」とカムサ。
『さすがそれはイスティでもわかんないでしょ……(呆れ)』とニムル。
「(苦笑)さすがにハッシュ先輩が何を納得できていらっしゃらないのかはわかりませんが、一応私なりに推測して答えましょう。いくら『原初の交易は『朝貢(家臣が貢物を主君に差し出し、主君が家臣に褒美を与える)』のことだった』と言われましても、今現在の『交易』とあまりにも違いすぎてなかなか納得できないと思います……つまりハッシュ先輩が言いたいとこは『ディメルアンキア王と『瑠璃の国』の領主のやり取り』と『自分たちが知っている交易が全く結びつかない』ことをおっしゃっているので正しいですよね?」とイスティ。
ハッシュが『うーん』と何度も首をひねって、
「それでいいのか……? 確かにイスティが歌ってる『叙事詩』が『原初の交易の姿』って言われても納得はできねーってのはそうだな……」とハッシュ。
「なら今から『原初の交易』から『現代の交易』へどういう『変化』を辿って行ったのかを簡単に説明しましょう。その『説明』をするのなら『フェイダーン地方の歴史』と『ギルミーナ地方の歴史』を『例』にすると一番わかりやすいと思います。まずは『フェイダーン地方』の歴史ですね(早口)。おそらく『ハリスコ人』たちが生み出した『朝貢貿易』に対抗して『新しい交易のスタイル』を確立したのがこの二国の人々だからですね……」とイスティ。
「……え? もしかして今から滅茶苦茶脱線する気かイスティ? 『叙事詩』はどうしたんだ??」とハッシュ。
「このままハッシュ先輩が『納得できない』まま続けてもしょうがないでしょう? だからここで『脱線』します。大丈夫です安心してください、すぐに『ディメルアンキア王と『瑠璃の国』の領主』に戻ってきますから」とイスティ。
「マジかよ……いろいろな話されすぎてもう覚えきれねーぞ。メモをくれよ……」とハッシュ。
次回からイスティが『計画的かつ壮大な脱線』を始めたのだった。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『州都でのさらなる戦後処理』がまだまだ続き、『戦勝(戦闘終了)』を祝って『タルキュア総督代理コレノス』がエダイラ人と『貴族戦士』たちを集めて『饗宴』を開く。だが『アラマン王国』では伝統的に『酒宴』が『政治の場』であるので、さっそく『情報交換』が始まったのである。
前回のサレアスに引き続きサイマス将軍もいう。
「……『ニムル殿』たちのパーティにはもともと『魔法使い(ハッシュ)』がいて自由に『王宮』を出入りしていたので問題視する意見もあったが『先代ユート王』と『双角王』は特に気にしておられなかったのだ。だが『シクリクート攻囲戦』で『魔女』がその『魔法使い(ハッシュ)』を操って『双角王』を暗殺しようとしたのだ。結果は未遂で済んだが、『双角王』はひどく『立腹』し『ニムル殿』たちの処刑を敢行しようとしたが、その前に彼女たちは『アラマン王国軍』を脱走してしまったんだ」とサイマス将軍。
彼の説明には一部『嘘』が含まれていたが説明が面倒くさいのでこの場の誰も突っ込まなかった。そしてそこで意外なことにリカノスが口を開く。
「……しかもどうやら『ニムル殿』自身は『死神』という魔族と『融合』してしまっていて、実は『マッシェーラ攻囲戦』の時点で『アラマン王国軍』から出奔してしまっている……貴様ら『アンフィスバエナ』どもも『死神』の話は聞いたことあるだろう?」とリカノス。
言われて『アンフィスバエナ』たちが皆で『父』に視線をあつめる。その魔王フェルゾは『……え? 私に聞いてるのか?』と戸惑いながら答えた。
『……『死神』なら私も噂は知っているが実際に遭遇したことはない。ただ我々の出身地にいた『自称1000歳の大長老たち(もちろん全員高位魔族)』は『かつてテルビアナ帝国の末期に殺戮の限りを尽くした強大な魔物がいた』という話はしていた。テルビアナ人たちはその魔族を『馬車に乗る冥界の怪物バルバン』と呼んでひどく恐れいていたそうだ』と魔王フェルゾ。
今度はミュシアスが身を乗りだして、
「『馬車に乗る』? 『死神』は『騎士』姿だったはずだが?」とミュシアス。
『当時はまだ『騎兵』が発明されていなかったんだ。『死神』は最初『馬車に乗った姿』だったそうだが、『カルシャーナ帝国』が『騎兵』を本格運用し始めたり『ソラース人』が南下してくると『騎兵姿』になったらしい。つまりは当時恐れられていたものに姿を寄せているというだけだ』と魔王フェルゾ。
そう告げる魔王の横でガムルがニラト、アピル、タバサに尋ねた。
(『死神』とはなんだ? 俺は全く聞いたことないぞ(真顔))とガムル。
(お前は単に忘れてるだけだ(指摘)。確か『暗黒時代』に『四方世界』で暴れまわっていたという『孤立魔族』だ。仲間は一匹もおらず孤高の存在で、なにやら『人間族の罪悪感』を『餌』にするとかなんとか……確か今は『クノムティオ』にいると風の噂で聞いたことはあったな)とニラト。
(なんでも『暗黒時代』は『いくつもの都市を破壊』したとか、『人間族を万単位で殺戮した』とかいろいろ聞いたことがある。テルビアナ人たちは『開祖ハザルナ(王)が戦ったが滅ぼせず、テルビアナ人が都市という都市に『アルカーンのカギ』を置く風習ができたのも『死神が都市に近づかないようにするためだった』とか……そんな話を俺も『故郷に住んでたほかの魔族』から聞いた記憶があるな)とアピル。
『なに!? そこまで『人間世界の歴史』に干渉しながら『人間族の神』に滅ぼされてないのか!? 実は『コロクシアの旧き神』だったか!? そういう大昔の忘れられた神とかじゃないのか!?(大声)』とガムル。
(うるさいぞ馬鹿! ていうか『大昔の忘れられた神』ってなんだそれは。『四方世界』で最も古い『スキアン人の神々(ハリスコ神話の神々)』が忘れ去られてないのにいったいどこにそんな神がいる?)とアピル。
(それに『コロクシアの旧き神』も別に忘れ去られてなんかないぞ(呆れ))とニラト。
(あいつもしかして『コロクシアの旧き神』がどういうものなのかよくわかってないんだな……)とタバサ。
『四天王』たちはあくまで『酒の入った何気ない話』という体だったが聞いていた『貴族戦士』やエダイラ人たちはみな『ごくり』と唾をのんだ。
(((ニムル殿はそんな『ほとんど神に等しい魔物』と融合していたのか……?)))と『貴族戦士』たち。
ちなみにエダイラ人たちも『そんな恐ろしい魔物が今『レーム地方』にいるのか?』と思っている。そしてサイマス将軍やアルキオスたちも『死神』の力は知らないわけではなかったが、『神与の宝物』である『アルカーンの鍵』にまでかかわる魔族と聞くと別に『恐怖』は抱かないが、さすがに興味をひかれずにはいられなかった。
「いや~でもにわかに信じられないですか~? ニムル殿ってあのニムル殿でしょう?」とサルブルス。
「あ、俺もそう思ってましたよサルブルス殿~、あの『ふにゃけた顔』を思い出すとちょっと信じられないですよね~?」とカリクセノス。
「カリクセノスお前ニムル殿とあったことあったか??」とダーマス候。
(このカリクセノスってやつ、サルブルスと一緒にすると危険なやつなんじゃねーか……?)とコレノス。
だが魔王フェルゾはそこで肩をすくめてみせて、
『……全部しょせんは『ボケた老魔族どもの本当かどうかもわからん話』だ。『アルカーンの鍵』はそもそも『魔族除け』に置かれていたものではなく『王権の正当性』を保障するために置かれていたもの(らしい)からな。それに本当なら『人間族の神々』に逆らって滅ぼされない魔族などいるはずがない。きっとその『死神』はそういう『プロバガンダ』をあっちこっちにばらまいているやつなんだろう……知らんがな』と魔王フェルゾ。
そこでオルトロス候が『東方』で知った『史実』を思い出して、
「……確か『テルビアナ』とは『アルカーン王国』のことだと私は聞いたが……」とオルトロス候。
『『アルカーン王国』の『前』に存在した国だ。『テルビアナ帝国』が滅亡した後その遺領の『西半分』を継承したのが『アルカーン王国』、『東半分』が『レーム・テルビアナ諸王国(都市国家群)』になったのだ。時代はおおよそ『800年前』のことだそうだ。といっても私はその時代にはまだ生まれてないからよく知らないがな』と魔王フェルゾ。
「……つまり『死神』は少なくとも『1000歳』は超えているということか?」とオルトロス候。
『知らん。だが『大長老』たちが嘘をついておらず記憶も正しいのならそうであろう。クノム人世界で『精神錯乱の疑いがある者の証言』をどういう風に扱ってるかは知らないがな』と魔王フェルゾ。
※注:『精神錯乱』は『発狂している』だけでなく『高齢による痴呆』とか『心神耗弱状態』など広く『責任能力が認められない状態』を意味する単語である。ちなみにクノム人世界で『カミス』に限らず大抵の都市国家で『60歳以上の男性市民が兵役を免除される』理由が『60歳を超えた人物はボケてる可能性が高い』という身もふたもなさすぎる理由である。『夢の世界』はとにかく『自立できない』とみなされた属性に対する扱いが容赦なかった。
次回へ続く。




