ハグニアス・イル・アポロニオス187『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『歴史物語閑話:瑠璃国は僭主政?』と『タルキュア擾乱:戦後処理2』の物語
『コロコス帝国歴史物語:閑話』、前回『東方における哲学』についてイスティがいつものごとく『壮大に脱線しかけて元の『叙事詩』に話を戻した』わけであるが、その後彼女は今度は『全く別方面』で『興味深い話』をしたのである。
「……話を元に戻しますが、『ディメルアンキア王と『瑠璃の国』の領主』の叙事詩で『領主』が『重臣』たちを呼び集めて意見を聞こうとした場面まで私は歌いました。実はこの『重臣』たちが一体『何者なのか』についても『二つの説』が存在してまして、片方が『重臣』たちは『瑠璃国』の『富裕市民』たちであるという説。そしてもう片方が『領主の王宮に所属する『半自由人』であるという説です……」とイスティ。
彼女がそこまで言ってそこでハッシュが『ふわぁ』とあくびをし、カムサも背筋を伸ばしていることに気づいた。皆が眠そうでイスティもつられて欠伸をし、『黒い馬車』からも『あふ……』とあくびをしたような音が聞こえてきた。ゴブリンたちの方は『うつらうつら』と半眠りだったのがそこで『ハッ』として目をこすり互いに『ビンタ』しあって眠気覚ましを始めた。
『おきろ……! 先生の貴重なお話で寝るやつがあるか(怒)』とゴブリンα。
『す、すみません先生、あまりの眠気につい……』とゴブリンβ。
「いえ、眠いのは仕方ないです、疲れているのですから」とイスティ。
「かといって腹へって眠れねーんだけどなぁ……でも目は重い。もしかしたら眠れるかも……(鼻提灯)」とハッシュ。
「眠った方が空腹を忘れられていいかもしれないわね、私はイスティのお話が面白いからもっと聴いてたいけど。敵襲があったら起こしてあげるわよハッシュ」とカムサ。
「あたしは敵襲があったらすぐ起きれるんだよなめてんじゃねーぞ(冒険者のプライド)」とハッシュ。
『あふ……やっぱりほかの人が欠伸してると自分にもうつるよね……(『黒い馬車』のどこで欠伸してるのか謎だが)』とニムル。
そこでイスティがいう。
「……皆さんお疲れのようですし、一応私が取り上げている部分をもう一度歌っておきますか……」
彼女が言及しいてた『ディメルアンキア王と『瑠璃国』の領主』の叙事詩の箇所は以下のとおりである。
……すると今度は『知恵の神クルミム(バレヌト)』が『ディメルアンキア王』に『知恵』を授けたのである。彼は『知恵の神』の指示通りに『すりこぎ』を用いて『薬草』のように『叩き潰した物』を『輝く葦』に注ぎ、よく面倒を見て、『5年』か『10年』かの歳月が過ぎると『小斧』のように育った『輝く葦』をそぎ取った。『ディメルアンキア王』はこうして出来上がった『葦製の王笏』を『伝令』の手に乗せて送り出した。
『伝令』は『大きな白い鳥』のごとく山々を超えて『瑠璃の国』に到着し、『宮殿』の『中庭』で待っていた『領主』の前で『葦製の王笏』を磨くと、『ギラギラ』と光を放つ『王笏』に『領主』は『眼がクラクラ』してしまい、またも『聖所』に引きこもった。だが今回は『重臣』たちを呼び集めたのであった……。
そこでイスティがいう。
「……そういえば大事な『注釈』を一つ忘れてました……いえ、前にも説明しましたっけ?? 『小斧』は『ハリスキーナ』において『王笏』と同じ『王権のシンボル』だったらしいです。ですが『コロコス帝国』ではあまり『小斧』は『王笏』としては使われていないですね。どうやら『旧い時代』の習慣だったようです」とイスティ。
『そういえばそんな話してたような気がするね。いつだったっけ?』とニムル。
「この『叙事詩』で『王笏』の話をしてた時よ。そんなに前じゃないわ」とカムサ。
「あ~たしかにそうだったな。民族によって『王笏』が全然違うとかなんとか言ってたな(想起)」とハッシュ。
「皆さん本当にお疲れですね……『空腹』で頭も回らなくなってるようですし、そろそろ危険かもしれません……とにかく『サガサ族』の脅威から安全が保障されればいいのですが……」とイスティ。
そんなことを言いつつイスティは『ディメルアンキア王と『瑠璃国』の領主』の話を続ける。
「……さて、では改めて『瑠璃国領主』の『重臣』たちが『富裕市民』か『下層市民』かどっちだったかという話ですが……まずは質問しましょうか、先輩方はどっちの説の方を『支持』しますか?」とイスティ。
この質問に先輩トリオは『奇妙だ』と言わんばかりに、
「? そもそも『富裕市民』以外にあり得ないんじゃねーの? 重臣なんだろ?」とハッシュ。
『王様が重要に思ってる家臣なら『大貴族』ってことじゃあ? それが『下層市民』ってありえないでしょ』とニムル。
「私も同じ意見だけど……つまり『自由人』の定義が『クノムティオ』と『東方』では違うってことでしょ? 以前イスティが『一般庶民』とは『庇護民』の意味もある』って言ってたからその話かしら?」とカムサ。
「そうです、その話です。『東方諸国』の『社会や政治』を理解するうえで絶対に欠かせないことなのですが、『王』といえども基本的に『自分が所有している土地』からしか『徴税や労働力の徴発』ができないということです。先輩方は『王政』の都市国家出身ではないため『王とはその都市国家の土地すべてを所有している絶対権力者』だと思い込んでるかもしれませんが、『王制の国』がすべてそういう『国制』になってるとは限りません。『コロコス帝国』は『諸王の王が帝国のすべての土地を保有している』という国制になってますが、これは『王政国家』全般からみると『例外的に中央集権に成功している国』でして、『クノムティオ』に存在する『王政の国』でそこまで『王権』が強い国家は存在していません。例えば『アクレピーオス』などは『王』が実質的に支配できているのは『アクレピーオス地方』の『王領』だけでして、その他の地域はすべて『地元豪族』たちが支配権を握り、『王』は『地元豪族』たちの土地に何の権益も持っていません。ですので実態は『寡頭制』のような状態になっています(これは以前イルブルス通史でも触れられていた……」とイスティ。
ここまで語ってから彼女が一旦休憩し、そこから再度喋り始める。
「……つまりもし『瑠璃国』が『コロコス帝国』のように『中央集権に成功した専制国家』であったのなら、この『重臣』たちは確実に『王の庇護民』たちになります。なぜならこの『重臣』たちは『王の土地』の一部を与えらるか借りられることを見返りに王に奉仕する存在だからです(つまり王に雇われている立場。『雇われ人』は『夢の世界』では『庇護民』とみなされる)。ですがもし『瑠璃国』が『アクレピーオス』のような国制であったのなら、この『重臣』たちは『自分の土地を経営して大きな財産を築いている富裕市民』となるわけです。今から私が歌う『続き』はこの『二通りの仮説』があることを意識しながら聞いていただけると『なお面白い』かもしれませんね」とイスティ。
続きは次回に持ち越す。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『タルキュア擾乱終了後』、『戦後処理』を考えていた方面軍のもとに『地元エダイラ人の使者』がやってきていてた。その対応について問われたダーマス候がふと、『アンフィスバエナたちが自分たちと一緒にいる姿を見られるのまずくないか?』と不安になっていた。
するとキュライノスとカリクセノスが答えた。
「……どうでしょうか? 別に『アンフィスバエナ』どもがここにいるというだけでは見られても大した事なさそうですが。われらはすでに『ハリスコ龍族』たちと『講和』してるわけですし……ただ連中の姿を見たくらいでどうこうということもないかも……」とキュライノス。
「そもそも『アンフィスバエナ』たちがおとなしく隠れてくれる……いや、隠すとダメなんじゃないですか? 兵士たちが疲労をおして『撤去作業』をしているのに『アンフィスバエナ』どもを休ませたらそれこそやつらが後で何するかわかりませんよ」とカリクセノス。
「む……確かにそうだな。では隠すのはなしか。まあそれエダイラ人どももすっかり抵抗する気を無くしていることだろう、実際に『反乱』は失敗してるし」とダーマス候。
(カリクセノスには珍しい正論だ……)とキュライノス(失礼)。
そこでその場にいる全員が無意識に『大きなため息』を吐いた。するとキュライノスが苦笑して、
「……本当に疲れましたね候。ですがまだ全然気が休まらないとなると兵士たちだけでなく自分自身の『戦意』を高揚させる方法すら思いつきません」とキュライノス。
「ああ、今までもこれだけ長期間の遠征はなかったわけではないが、『アロス』からこれほど遠くまで離れたことはなかったからな……とりあえず『タルキュア市』で休憩をとろう。短くてもそうすべきだろう」とダーマス候。
「候! それより俺の『凱旋式』はいつ開催できるんですか!?」とカリクセノス。
「一度『しんがり』を務めたくらいで調子に乗るな(怒)。お前より先に『凱旋式』の資格を有する者はいくらでもいるしそもそもお前にその資格はない!」とダーマス候。
「……あとで個人的にカリクセノス殿をねぎらってあげてくださいダーマス候。普通に功績なので(小声)」とキュライノス。
閑話休題、ダーマス候は『高知貴族キュライノス』から問われた『エダイラ人面会者』をどうするか』という質問に答えていなかったことを思い出して告げる。
「(魔族の確認を信じていいものか……だが今は仕方ないか)そういえばそのエダイラ人とあうかどうかという話だったな。では面会しよう。オルトロス候も呼んでくれ」とダーマス候。
「は!」とキュライノス。
ダーマス候とオルトロス候に面会した『エデュミンの長老』という人物は一人のみすぼらしい服装をした髭の長い老人だった。だがボロボロでも肩に『ショール』をかけ首から紐につながった『円筒印章(象牙製)』をかけていて、さらには『宝石のはまった指輪』や『銀の腕輪』なども見えたので確かに『富裕市民(貴族)』であることは『貴族戦士』にも分かった。
しかもさらにはこの老人には『40人くらいの老若男女』が同行しており、話に聞いたところによるとこの老人の『一族』とのことだった。『長老』が『牛を追うための棒』を突きながら『よろよろ』歩き挨拶する(この『牛追い棒』はエダイラ人とクノム人両方で『指導者』を意味する杖で『牧者』の持つ杖と同じもの)。
「……『通訳』を通しての無礼をお許しいただきたい『西方人』のお歴々。私は『エデュミン』が『本籍地』だが(つまりエダイラ人)生まれは『リプリ』(ここに一族の墓がある)で、父祖の時代から『コロコス人(諸王の王)』の認可を受けてずっと『サマーヘル』から『ゲミナ』までの間の町(つまりサマーヘルからゲミナを結ぶ交易路上の諸都市、具体的に『ハキーマ川両岸の『レーム地方』の都市』)諸都市をめぐって『農民ギルド』を経営している者です。名は『タピッカルの息子エッカートゥ』、ですが『タルキュア州』で『戦乱』が起こっていると聞いてこうやって『エデュミン』に駆けつけた次第なのです。今日は『アラマン人』の皆様にご挨拶と、もし可能であれば『エダイラ州』で起こっていた戦いに関して、今後われらはどのような態度を取れと申されるか伺いにまいったのです」と『長老:エッカートゥ』
この『農民ギルドの長エッカートゥ』はどうやら『タルキュア擾乱』の噂を聞いてここ最近『タルキュア州』にやってきた人物のようだった。そして『タルキュア方面軍』が『アンフィスバエナ』たちと『エデュミン』の『山手町』で戦っている間に町の市民たちから『自分たちの代表』に選ばれたいたらしかった(東方では歴史上よくあることである)。
しかも『エデュミン』に限ればずいぶん前に『在地有力者』が(アラマン軍によって)『大虐殺』され、その補佐で政務を担っていた『部下』たちも(こっちもアラマン軍が)皆殺しにしたことで『書記階級』がごっそりいなくなっていたので地元民たちは切実に『書記官』を、特にできれば『タルキュア擾乱に直接かかわっていない人物』を求めていたので(その方がアラマン軍と交渉しやすいから)、そのことを『おおよそ察して駆けつけた』エッカートゥ翁が『エデュミン市民』から大歓迎されてすぐさま『代表』に選ばれたのだった(細かい裏事情)。
するとオルトロス候が『長老エッカートゥ』の横を指して怪訝そうに、
「……おい娘、お前はずいぶんと流ちょうな『トーラン方言』のクノム語を話すな。もしかして『同族』か?」とオルトロス候。
「……」と指さされた女。
このエッカートゥ老の横には『通訳』の若い女がいた。だが全く武装しておらず『細身』でしかも頭には『ベール(『ベール』は本来髪を隠すための東方人女性が被るものだが、この娘の被る『ベール』は『透ける亜麻布』で織られているので全く髪を隠せていない。どうやらおしゃれアイテムのようだった)』を被っていて、どう考えても『戦闘用』の格好をしていないので『クノム人冒険者』には見えない。
なので『長老エッカートゥ』に事情を聴いてみると『もともと『冒険者ギルド』でクノム人冒険者相手に通訳をしていた受付嬢で出身は『ディルタイン近郊に住む『エウクミス人捕囚民共同体』である』とのことだった。どうやら『冒険者ギルド』には『クノムティオ』からほとんど亡命に近い形で『登録』を希望しにくるクノム人たちが多いため『クノム語通訳』が専門職として各都市のギルドの受付に配置されているらしかった。
「やはりこの娘のことが気になりますかクノム人のお歴々。この娘は『ファラエ(ファラティオ)』にあった『冒険者ギルド』で働いていたのですが、この土地の『冒険者ギルド』が解散したので『レーム地方』に流れてきて、『サマーヘル』の市場で職を探していたので私が雇い入れたのです。もしよろしければこの女を『愛人』にしてもよろしいですよ、どうせ行く当てのない女ですので(この娘は庇護者がいないので奴隷と変わらない扱いになっていた。だがエッカートゥ老は奴隷扱いはしていない)」と『長老エッカートゥ』
そういってこの長老は『通訳の女』をオルトロス候かダーマス候に献上することを申し出たのだった。次回へ続く。




