ハグニアス・イル・アポロニオス186『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『タルキュア擾乱:戦後処理』の物語
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『タルキュア擾乱』が終了しても方面軍の問題は山積している。その中で早急に判断を下す必要があるのが『エデュミン市の山手にそびえる七重の城壁をどうするか』であった。
「候、『エデュミン』の町からは撤退する前にある程度『復興』するべきでしょう。といか本当のところはこの『七重城壁』を撤去すべきです。『コロコス帝国軍』に利用される可能性もありますから」とサイマス将軍。
彼がこういったのは副官サレアスと魔王フェルゾがそういう風に小声で耳打ちしたからだった。
(兄上、『エデュミン』の町の復興を。すでに『エダイラ人冒険者 (ビシュクやハピのこと)』も敵対してきていたので、エダイラ人たちは町を破壊されたことを恨んでいるとみるべきです。なのである程度でいいので復興することで彼らを慰撫すべきでしょう)とサレアス。
(そうだ。少なくとも『エデュミン人』はアラマン人を恨んでるぞ。あと『七重城壁』も危険だからアラマン人で撤去させろ。コロコス人が冒険者を送り込んでくるか、われら以外の魔族が利用する可能性もある)と魔王フェルゾ。
(『復興』はわかるとして『七重城壁』は作った魔族どもが自分で撤去できるのでは? あっという間に作ってただろうが(不満))とサイマス将軍。
(人間族どもより早く作れはするがその分『魔力』を使うのだ。今われらに『魔力』はない、疲れたから人間族がやれ(投げやり))と魔王フェルゾ。
(無責任は貴様らだ蛇ども!(怒))とサイマス将軍。
だがそんなサイマス将軍の提案にアルキオスが反対した。
「今俺らは『疲労』してるし『戦闘』も続いてて『復興』なんてやってる余力はないですって。だが確かに『七重城壁』の撤去は必要。だから撤去作業だけやってからここを撤退すればいいでしょうよ。たぶん『復興』はエダイラ人どもでもできますよ、ほらもう『水』も引き始めてるようですし」とアルキオス。
彼はそう言って『湿地』を指すと、確かに水位がが下がっているように見えた。もうすぐ『冬』が終わる合図である。
「……ほかに意見はないか?」とオルトロス候。
「……無いようだな。では挙手投票を行うか」とダーマス候。
この場で『貴族戦士』全員に『一票』が与えられたが『魔王フェルゾ』はまだ正式な『貴族戦士』ではないので与えられなかった(というか誰もその確認をしなかったし魔王自身も何も言わなかった)。まずサイマス将軍の案に対する挙手がもとめられるが手を挙げた者はサイマス将軍とペルクロスだけ、残りは全員アルキオスの案に賛成してそっちが採用されたのだった。やはり『今は戦争中だから復興とかやってる余裕ない』という意見が強かったのである。
『……はん! そうやって『効率』重視なら『軍団を分割して半分残し半分主君のもとに送る』をなぜ選択しなかったんだ?』とニラト。
『なんだかんだ言いながら『東方人』を奴隷としか思っていないからそういう選択肢を取るんだ。これだとまた反乱がおこるぞ(呆れ)』とタバサ。
『やはり最底辺種族は最底辺種族だな(唾棄)』とアピル。
「『差別』云々も貴様らに言われたくないな(怒)」とサイマス将軍。
『……(気絶している)』とガムル。
「あ、ガムルさんが気絶してますね。かなり危険な状態なのでは?」とサレアス。
『なに!? ちょっとどけサレアス! 診せてみろ!(焦)」と魔王フェルゾ。
ガムルもまた重傷で弱っているようだった。そしてその治療も行われる横でオルトロス候とダーマス候は『エデュミン』の市内に隠れて出てこない市民たちに見えやすいようにとまず『七重城壁』の撤去を始めたのである。
「まずは『第一城壁』から崩していく。がれきは『湿地』の中に投げ落としてくれ。そうすればエダイラ人たちからよく見えるはずだ」とオルトロス候。
「は!」と兵士たち。
すると途端に隠れて様子をうかがっていた市民たちが『なんだなんだ?』と顔を出し始めた。最初は『また何か作ってるのか』と思っていたが、どんどん切り崩される城壁とさらには『アンフィスバエナ』たちも撤去作業を手伝っているさまを見て(だが彼らは魔法を使わず手作業でがれきをどかしていた)、市民たちはやっと『終戦』を察したのだ。
すると間もなくダーマス候のもとにアラマン兵たちが『面会希望のエダイラ人』を連れてきたのである。そのアラマン兵の主君は『高知貴族キュライノス』だった。
「候! 『エデュミンの町の長老』を名乗るものが候への面会を求めています! 『アンフィスバエナ』どもに確認させましたが『魔族』ではなく確かに『人間族』で、『魔法』の疑いもないそうです!」とキュライノス。
そこでダーマス候が『七重城壁』の撤去作業を眺めると全身包帯だらけのガムルがリカノスと『がれき』の奪い合いをしていた。
「よこせ魔族が! 死にかけの分際で粋がるな蛇野郎! 隅っこの方で永遠に寝てるんだな役立たずが!」とリカノス。
『貴様こそよこせ下等生物め! こんな重い瓦礫を運べる肉体構造になってないだろう!? だがわれら『アンフィスバエナ』はちがう、たとえ重傷だろうともこの程度へでもないわ! 生物として違うんだよ生物としてな!』とガムル。
するとこの二人の体をそれぞれの部下たちが抱きかかえて無理やり引きはがそうとした。
『ガムル様は働いてはならぬと魔王様のご命令です! 安静にしてください! いくら我らでも死にますよ!?』と正規兵たち。
「リカノス様もなんで喧嘩売ったんですか!? 処罰されますよ今の状況だと! あとあなたはちゃんと『監督』をしてください! ご自身のやるべきことを成してからほかのことをお願いします!」とリカノスの戦士団たち。
『「はなせー! 俺に『決闘』させろー!」』とガムル&リカノス。
どうやら最初ガムルが『寝てるなんて性に合わない』と魔王の『休め』命令を無視して『撤去作業』を手伝おうとしたところにリカノスが通りかかって『死にぞこないがそんな重いもの運べないだろ? そういう判断力も死んでるか?』と煽ったので『がれき』の奪い合いに発展したらしかった。それに気づいて慌てて『魔王フェルゾ』が仲裁しようとサイマス将軍まで引っ張り出したのでリカノスが憤激してアイアスやアンゲウスを呼び出してしまい……さらに話がこじれそうになったのでオルトロス候が飛んで行って『争いはやめろ!』と注意していた。
そしてダーマス候はそこでふと『不安』が沸き起こってこんなことをつぶやく。
「……話がずれるが、『エダイラ人』が面会にやってきたのなら『アンフィスバエナ』たちを隠した方がいいかもしれない。やつらが大手を振ってここにいることを『東夷』に見られたら面倒なことにならないか?」とダーマス候。
彼の視線の先で『アンフィスバエナ』たちが皆で『いいぞ殺しあえ!GAHAHA!』と無責任に喧嘩を煽っていたのだった。次回に続く。
作者の歴史趣味です。これまで『古代オリエントでは読み書きができる王は限られていた』と考えられていたそうですが、最新研究だと少なくとも紀元前2000年期以後は大抵の王とその高官たち、神官、有力な商人などは程度の差こそあれ読み書きはできたと考えられてるそうです。ですが『学識』があることを自慢している王は『アッシュルバニパル』、『シュルギ』、『イシュメ・ダガン』くらいしかいないそうで、『なぜ彼ら以外の王は学識を自慢しないのか』と『そんな中でなぜこの三名だけは自慢しているのか』の両方を考える必要があるそうですね(歴史沼への誘い)。
イスティ「『アッシュルバニパル』は『アッシリア帝国』の最大版図を実現した王、『シュルギ』は『ウル第三王朝』の同じく最盛期を現出させた王、『イシュメ・ダガン』は『イシン第一王朝』で最も有力な王であった『リピト・イシュタル』の父王だそうですね。『リピト・イシュタル』は『リピト・イシュタル法典』で有名な王様です」
ハッシュ「『書記術』を学んでると『軟弱』になるって発想があったんじゃね? スゲーわかるじゃんその考え方」
カムサ「『イシン第一王朝』は先行する『ウル第三王朝』の『後継国家』を自称していたそうだから、『リピト・イシュタル法典』も『ウルナンム法典』をまねて作ったっていわれてるわね。もしかしたら本当は『イシュメ・ダガン』の治世で作りたかった法典が発布する前に死んでしまったから息子が後を継いだのかもしれないわね」
ニムル『『アッシュルバニパル』は『旧約聖書』にも名前があるからまあまあ有名だけど、あとの二人はオリエント史好きじゃないと知らないよね……』




