ハグニアス・イル・アポロニオス184『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『歴史物語閑話:語り切れない東方の神話群』と『タルキュア市での党争(スタシス)の再燃2』の物語
『コロコス帝国歴史物語:閑話』、前回イスティが『東方にも『哲学』の伝統があるのは『ハリスコ神話』の『世界創生』に関しての話を見ていけばわかる』と述べたが、そこでカムサがまず『クノム神話』における『世界創生』に関しての伝承の『おさらい』をした。といってもハッシュとニムルは『同族』なのに全く知らないので普通に『教授』になったのだが(汗)。
注:そしてだが、実は『クノムティオ』には『世界創生』について『二つの全く異なった伝承』が存在する。先ず一つが『神統録』で、この『詩』ではまず『原初』の時代に『混沌』が生まれ、さらにこの神が『大地』と『奈落』と『愛情』を産んだ。この三神がそれぞれ子供を産むが、そのうち『大地』は『天空』を産んでから交わってより多くの子を成す。どうやら『天空』は最初から『神々の王』となるように『大地』が創造したそうである。だが『天空』が『大地』が産んだ『単眼巨人』たちを『醜い』とののしって『奈落』に突き落すと夫を恨むようになる。
※注:そしてこの二柱の神から産まれたのが『海』であり『海流』であり、『海の女神シシシュ』であり、さらに多くの兄弟姉妹の末っ子に『悪知恵に長けた巨神王アルキノス』であったという。だがこの『アルキノス神』は『神々の王』として威厳を持つ『天空』を恨んで父神を『去勢』し、自分がまんまと『王位』についた。そして自分の兄弟姉妹であった『大地の巨神メアー』と交わって多くの子供を産むが、今度は母である『大地』から『お前は末っ子に王位を奪われる』と予言されてひどく恐れ、以後『妻神メアー』が産み落とした子供をすべて『丸呑み』にしたという。
※注:だがそのことを恨んだ『メアー女神』が産み落としたばかりの『テイロン神』を密かに隠して殺害を阻止し、成長した『テイロン神』が『父神アルキノス』に戦いを挑む。『テイロン神』は自分の兄弟や伯父叔母などの『聖山ディマティオ』の神々を味方とし、対抗して『父神アルキノス』は『天空』が『奈落』に突き落していた『巨神族』たちを解放して部下とし迎え撃つ。
※注:これが『巨神戦争』であり、これに勝利した暁に『テイロン神』が『神々の王』の座に就くのである。つまり『アルキノス神』は『因果応報』で息子に負けたというわけだ。
※注:以上が『神統録』で歌われている『世界創生』の神話だが、一方で『詩人ロアメルダス』も『世界創生』の話を少しだが語っており、こちらでは『世界を創造』したのは『環海』と『海の女神シシシュ』とされていて、特に『戦争』とかはなくこの二柱の神から様々な神々が生まれてそのまま『世界』になったという。
※注:つまり『神統録』の方では『世界創生』は基本的に『山』を舞台にして進むが、一方で『詩人ロアメルダス』の方では『海から世界が生まれた』という伝承になっていてるし、『ファシオーン』の方は『主神の世代交代』を主題として扱い結構『殺伐』とした内容なのに比べて『ロアメルダス』の方は『特に何のイベントもなく普通にそのまま世界が生まれた』と『さらっと流されているだけ』である。このように『クノムティオ』には全く『毛色』の違う『二つの創世神話』が同時に存在しているのだった。そしてこのまるで違う『二つの神話』は特に『論争』を起こすこともなく、そのままの形で『クノム人世界』に受け入れられていたのである。
「……というわけよ。これが『クノムティオ』における『世界創生』に関する『神話』ね」とカムサ。
『そうだったんだ知らなかった……『神統録』も全文知らないし『英雄叙事詩』もほとんど聞いたことなかったもんなぁ』とニムル。
「そもそも聞ける機会意外とねーしな。思えば『民族の聖典』なのに『祝祭』の時に歌うことってマジでないよな。どっかほかの地方ではあるのか?」とハッシュ。
「ないわよ。『神統録』も『英雄叙事詩』も『祝祭』の時に歌うことはないわね。『饗宴』で『歌手(歌を専門にする女性市民か女奴隷)』が歌うのを聞くくらいじゃない? 『カミス人』は何かと会話の中でこの手の『教養』を織り込んでくる『気取りや』が多かったけどね」とカムサ。
「その『気取り屋』にお前は負けてねーことはあたしが証言するぜ、まじでな」とハッシュ。
さて、また話が『脱線』したのでイスティが元に戻した。
「……まあ『クノム神話』の話はこれくらいでいいでしょう。一方『東方』、というか『ハリスコ神話』には『二つ』どころではない多数の『世界創生神話』があることは以前にも述べたと思われます。まず先輩たちが真っ先に思い出すのが『神界大戦』でしょうが、あの話は『ハリスコ神話の世界創生譚』としてはかなり『後発』の物語ですね。他にも『神々の王ハルルが『つるはし』で天地を割って世界を作った』とか、『混沌から生まれた』とか、『酒に酔った神々が『ゲーム』として世界を作った』とか、実に多種多様は『創世神話』が存在しています……」とイスティ。
『『酔った勢いで世界を作った』ってすんごい発想だよね……(汗)』とニムル。
「クノムティオには全くない話だから興味深いわね……」とカムサ。
「バカバカしい話だなぁ、全然『神話』っぽくないじゃん、それこそ『酔っぱらいの戯言』だろ(辛口)」とハッシュ。
「『宴会の駄話』なら立派な『演劇(神事)』ってことよ。やっぱり間違ってないわね」とカムサ。
「ハッシュ先輩の意見もわかりますが、そう思わせてちゃんと『文学』しているのが『東方』なんですよ……そしてそれらの『創世神話』はすべてにおいて『このような経緯で世界が創造されたから○○が存在するのである』という『何かしらの物事の起源譚』になっていることが『最も重要』なことです。『神界大戦』では『なぜマルシル神が神々の王になったのか』が説明され、『混沌から生まれた』は『何もないところから世界が生まれたらこんな風になるのではないか』という古代人の創造力が発揮されてますし、『神々が酔った状態での『ゲーム』で世界を作った』も『だから障碍者が生まれた(これは明確に差別だが)』という理由づけになっているんです。これらは言ってみれば『哲学』のようなものだと思いませんか? 『目の前にある様々な事象』の『存在理由』を『原初』にまでさかのぼって考察してるんですよ。特に障害者などは『こんなもの存在してはいけない』と言いそうなところを『神々が酔った勢いで作ってしまったが、彼らのために『知恵の神クルミム(バレヌト)』が『職業』を定めてちゃんと生計を立てられるようにした』と述べて神話を締めくくっているんです。私はこういった営為も立派な『哲学』だと思ってますよ(熱弁)」とイスティ。
彼女の話は厳密なところ『哲学』ではなく『形而上学』といった方がいいだろうが、『形而上学』も『クノムティオ』では『哲学』の一部とみなされているので全く問題はない
そしてそこでイスティはさらに『熱弁』をふるおうとしたが、今度こそ本格手的に『脱線』して二度と元の話に戻れなさそうになったので控えることにした。
「……と、いろいろと説明してきましたが、今それらの『哲学的な東方神話』を一つずつ上げるのはさすがにやめておきます。とりあえず『ディメルアンキア王と『瑠璃の国』の領主』に戻りましょうか。そして前回歌った部分の最後に『領主』が『重臣』たちを集めて『意見』を求めてますがが、この部分についても実は『二つの説』が存在するんです。片方はこの『家臣』たちは『瑠璃の国』の『富裕市民』であるとされていますが、もう一つの説では『領主』の『王宮』に所属する『半自由人』たちだと考えられていますね……」とイスティ。
ここでまた気になる言葉ができてたわけだが、その内容は次回へ持ち越す。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『タルキュア擾乱』は多大な犠牲を払いつつもなんとか最初に『双角王』から委託された『タルキュア方面軍』のみで『4つの脅威』、すなわち『一つ目』の『べニアに立てこもっていたエダイラ人市民軍と盗賊ギルドの分遣隊』は完全に滅ぼし、『二つ目』の『その他の地域で活動していた盗賊ギルドの本隊』は大打撃を与えたうえ『タルキュア州』から撤退させ、『三つ目』の『ギルミーナからやってきたエダイラ人反乱軍』を完膚なきまでに叩き潰し(だが首魁は生き残っている)、『四つ目』の『ひそかにハリスコ龍族と結んでいたアンフィスバエナ魔王軍』を『降伏』させることに成功したのである。
結果だけを見れば『文句なしの大勝利、『世界最強の軍隊』の看板に偽りなし』で間違いないのだが、実情は全く違う様相を呈していた。『敗走』の女神は絶対に出会いたくない恐ろしい存在だが、『勝利』もこっちはこっちでなんとも気まぐれで意地悪な女神であろう。
そして『タルキュア市』で『総督代理』として統治を担っていた『貴族戦士コレノス』のもとに『タルキュア方面軍』が移動しようとしたわけだが、さっそく『リカノス派』と『ミュシアス派』の双方が『これからどうするか』をめぐって『弁論の戦い』を始めていたのである。
そして地味に発言機会を失っていた『若きオルトロス』は悔しさのあまり『ギリギリ』と歯噛みしていたのである。
(……今までは『父上がご存命なうえ現役なのに『家産(戦士団含む)』の継承について話をする』のはよくないと黙っていたが……今俺はその遠慮のために『父上』を守れなくなっている! やはりここは『貴族戦士』たちから何を言われようとも堂々と『自分も貴族戦士に等しい!』と自己主張しないとだめだ! 『双角王』にお目通りした際には絶対にそのことを要求してやる……もう誰にも俺の『発言の自由』を否定させはしない……!)とミュシアス。
『発言権』とは『政治参与権』とも言い換えられる、『完全自由市民にのみ認められた『参政権』全般』を指す単語である。なので単に『市民集会』に参加できる権利だけでなく、『武功を上げたら自分自身が顕彰される権利(アラマン王国で顕著だが部下が功績をあげても『貴族戦士』の功績になる)』とか『戦争に従軍して戦利品を分配去れる権利とか『公職に就任できる権利』とか『裁判に参加できる権利』とかかなり意味が広い。そして『アラマン王国の国制』上ではもちろんのこと『完全政治参与権』が認められるのは『貴族戦士』たちと『王』だけである。
また一方で余談がだが『発言の自由』と対応する概念として『表現の自由』という単語もあるが、こっちは『話す内容を咎められない権利』をさす。例えば『権力者の諫言』する際に諫言を理由に処罰されない権利とか、あるいは証言者が身の安全を保障される権利とか、あるいは『妻や娘が夫や父兄弟に対して思っていることをはっきり言う権利』などこちらも意味が広い(これは完全に今は関係ないが)。
またさらには『罵倒』という概念もあるが、こっちはそのまんま『悪罵、侮辱、嘘をつく、だます、印象操作』などを意味する。つまり『驕慢』と被る概念であり、もちろん『カミス』だけでなく『クノム人都市国家』ではどこにいっても『名誉棄損』での訴訟の対象になるので注意が必要である。『自力救済』の社会は好き放題発言できるわけではなく、むしろちょっとしたことで『暴力』が飛んでくるので発言に関しては慎重にならないといけなかった……これも関係ないと思わせてそもそも『裁判』の原因がそれを避けたかったので関係あるかもしれない(汗)。
だがそんな『若きオルトロス』の腰には『仮所有』ではあるが『黄金宝剣』が光を放っていたのである。そんな『発言権』のないことに忸怩たる思いをしていたミュシアスに代わり、『高知貴族ハグニアスとキクラネス』が立ち上がって『反撃』したのであった。
「あまりにも露骨すぎるぞリカノス! お前はコロコス人のことなんかこれっぽっちも考えてはいない! ただ『党争』を優先したいと望んでいるだけだ!」とハグニアス。
「そうだ! 神々の名をかたるな『偽預言者』! リカノスは先ほどの『裁判の判決』が気に食わないが『神々への誓い』のせいでひっくり返せないからそう言ってるだけだ!」とキクラネス。
途端にリカノスは強気に返す。
「はぁ!? そもそも先ほどの判決は『あくまで双角王のご裁可が出るまでは安全を保障する』という約束だっただろうが! 嘘をつくな嘘を!」とリカノス。
さすが常に怒っているだけあって『過激派リカノス』は感情が高ぶりながらもよく口が回る。半面『怒り』で口がうまく回る自信がなかったハグニアスとキクラネスはすぐさまテルアモスとヘラスケスに助けを求めた。なので二人が代わって発言する。
「誓いをゆがめるなリカノス殿! 『なぜ双角王のご裁可まで』としたのかは『目下われら全員でコロコス帝国軍に相手に戦わなければならない』からだ! つまり『コロコス帝国軍との戦いが最優先で、それが終わってから『アンフィスバエナと裏切り者たちの処遇を決める』ということ! 『コロコス帝国』がまだ健在な状況では拙速な判断に過ぎない!」とテルアモス。
「リカノス殿は『主敵はコロコス人』といいながら『対コロコス帝国軍最優先』の作戦を考えていない! 『双角王』を心配する気持ちすらないように聞こえるぞ貴公の提案は!」とヘラスケス。
「何を意味の分からんことをいってくるんだそろいもそろって!? 数で威圧すれば俺が折れるとでも!? 『主敵であるコロコス帝国』と戦う前に『アラマン王国内部に存在する寄生虫』をなんとかしたいと思っているだけだ! 全力で夷荻と戦うときに自分たちの軍団内部に『スパイ』を放置する理由こそないだろうが!」とリカノス。
「ああ言えばこう言うな本当に! 『陪審員団の判決』に従うという誓いを破る気か!?」とハグニアス。
「従ってるから攻撃してないんだろうが! そっちこそ『陪審員団の判決』を破る気か!? あの裁判ではあくまで『黄金宝剣の帰属』が決まっただけ! 俺は一言も貴様らと『アンフィスバエナ』の『恩赦』を認めたとは言っていない! だったらまた裁判をやるか!? 次は『恩赦』をめぐってな!」とリカノス。
「「「「なんでそうなるんだ!? いい加減にしろリカノス!!」」」」とハグニアス&テルアモス&キクラネス&ヘラスケス。
結局『どんな判決であれ裁判の結果に従う』という誓いを立てても『屁理屈をこねて』なんとかその誓いを『合法的に無力化』しようとするのである。それもそのはず、クノム人たちにとって『貴族』とは『本来法律を支配する身分』でもあるからだ(『貴族は何しても罪に問われない』ということはあり得ないが、『貴族』であればその知識と教養と弁論術でどんなことでも『合法化』することはできたのである)。
次回へ続く。




