バルクス・イル・オルトロス&ノックス・イル・ダーマス194『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『現状確認』の物語
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『タルキュア方面軍』が現在自分たちがおかれている状況を確認している。
そしてここで『レーム北部の地理』を再確認するが、おおざっぱに説明するとまず『タルキュア州』は北側に『モルバタエ州』の山地がそびえ、南には『マウハナー河』が蛇行しながら流れている地域である。『コロコス帝国』で定められている『州域』はこの州を南北一直線に流れる『涸れ川』である『カハル川』と、この川と『マウハナー河』との接合部分。そして翻って『カハル川』へ『北』から注ぐ支流である『イーダ川』を含む『6~7本』の『涸れ川(一年中水が流れている川は一つもない)』、そしてさらにその周辺の平地で構成されている土地である。『雨期』である冬だけはすべての川の水が復活するがそれ以外の季節は基本的に平地である。また人口が多く集まっているのはこれまでも見てきた通り『カハル川』と『イーダ川』の流域のみである。
だが実は『イーダ川』以外の『支流』にも『エダイラ王国』や『カルシャーナ帝国』時代には人が住んでいたらしく、この山がちな地域には『古代遺跡』が多く残っていたりするのだが、今回の戦役では全く関係ないので触れらることはなかった(余談)。
そしてこの『カハル川』……によってはこばれた土砂によって形成された『デルタ地帯』こそが『暗黒時代』以前に『レーム北部』から『ギルミーナ』までを支配した大国『エダイラ王国』の首都圏だったことから現在でもエダイラ人たちが多数派を占めている地域である。だがすでに過去に言及されていた通り、エダイラ人たちは『旧エダイラ王国領』に広く分布しているし、また実はもっと広範囲にも散らばっているのだが、もちろんそれは『聖戦の大魔帝国』のあれこれが原因である。まあこれも今回は割愛しよう(余談2)。
そしてこの『タルキュア州』には重要な都市が三つあり、まず『カハル川』の支流『イーダ川』の上流域にあり、そこから北の『モルバタエ州』との境界線に近い都市『バスタイ』である。この都市はエダイラ人たちの間で『母市』とされており、『アラマン王国』に対してはこの都市を代々支配いていた一族『バルナーマトゥ氏族』の長『カルッパタ』が無血開城し、『双角王』から父祖伝来の支配権を承認されていた
そしてその次が『カハル川とイーダ川』の結節点からさらに南にある『カハル川中流域』に位置する『エデュミン』である。この都市は『エダイラ王国:ナラダ王家』が『創業』した土地であり、『カハル川デルタ地帯』の北の端に存在する。だが『エダイラ王国』が『テルビアナ帝国』によって『属国化』されたあとは『傀儡のエダイラ王』が引き続き首都を構えていたが、隣国に出現した『カルシャーナ王国(別名『中期カルシャーナ・カルシャーナ第二王朝』)が『エダイラ王国再興』を掲げて攻撃を繰り返したことで『テルビアナ帝国』と『カルシャーナ王国』が激しい争奪を繰り返した町である。
だがその『テルビアナ帝国』と『カルシャーナ王国』の争奪戦は『タルキュア州』全土が戦場になったので『エデュミン』に限った話ではなかったのだが、『エデュミン』は特にその後『カルシャーナ王国』が最終的に『エデュミン』を併合して一時はこの街に『エダイラ副王』という『ナラダ王家』の傀儡王を設置していたりする。そして実はその『エダイラ副王』と『カルシャーナ王国王家』こそが『メルカータ貴族ハピ・トゥドゥハリヤー』の直接の祖先だったりする(割と複雑な経緯のある一族)。
その後『暗黒時代』の到来で『テルビアナ帝国』と『カルシャーナ王国』がほぼ同時に滅亡し(実はカルシャーナは衰退しただけで滅亡していない)、『エデュミン』の町には『レーム・テルビアナ人』が大量植民してテルビアナ人の都市国家となったが『エダイラ王国』の記憶も残っていたので重層的なアイデンティティを持つ人たちになっていたようである。なので『エダイラ人冒険者:トリピヌの息子ビシュク』は『自分たちはずっとエダイラ人の伝統を守ってきた』という認識は間違いなのだが、彼はやはり教養がなかったのでそこらへんよくわかっていなかった。
だが『エデュミン』の町は『カルシャーナ帝国(新カルシャーナ)』が出現するとその圧力にさらされて『貢租国』におとされ、その後一度『反乱』を起こし『フラッガルの戦い』で撃退したが、この時に『タルキュア州』の政治的中心が『タルキュア市』に移って一地方都市に転落してしまった。
その後は『カルシャーナ帝国』の支配下で『行政州』と呼ばれる『カルシャーナ帝国の固有領土』に編入され『人口をごっそり入れ替え』られている。この時行われた『大規模捕囚』によって多数の『エダイラ人』が『ギルミーナ地方』に『捕囚』され、逆に『ギルミーナ人』が『エダイラ州』に植民されたのである。これによって『エダイラ王国』の伝統は大部分が『破壊』され、また『ギルミーナ人』との『同化』も大きく進み、『エダイラ人』というアイデンティティーはほとんどなくなってしまっていたらしい。
その後は『カルシャーナ帝国』が派遣した『大宰相』と呼ばれる行政官(おもに宦官が務める)によって支配されたが、『テルビアナ帝国の後継国家』を自称する『アルマテ王国』や、『カルシャーナ帝国』の『国制』をまねて『軍事強国化』を達成した『アランギル王国』に近い地域であったためこれらの国の支援で頻繁に『反乱』を起こすようになる。そして実は『カルシャーナ帝国』の最盛期を築いた『エダイラ王朝』と呼ばれる王朝をこの地域は輩出しているのだが……後のエダイラ人たちはそのことを都合よく忘れている。(余談)。
さらにには『カルシャーナ帝国』は『大王の道』とよばれる交易路を整備しており──もちろんこれは『コロコス帝国』の『皇帝(大王)の道』と全く同じものである──『タルキュア州』はこの交易路によっても実は恩恵を受けていたわけであるが、そのことも『自分たちはカルシャーナ帝国の被害者』であるために都合よくなかったことにしていた(余談2)。
そして最終的には『四英雄』の『大反乱』によって『カルシャーナ帝国』が崩壊すると『タルキュア市』や『バスタイ市』などが一時的に都市国家として独立したが、『新サルザリア王国』によって併合されると一まとめに『タルキュア州』が設置された。そしてこの時に改めて『エダイラ王国』の記憶が掘り起こされて『エダイラ人』というアイデンティティーを持つ共同体が『再生』したのである。これは『コロコス帝国』でも変わらずそのまま温存されている。
そして現在は『アラマン王国』と『コロコス帝国』との戦闘で破壊され、さらに『川の氾濫』によって水浸になっているという『踏んだり蹴ったり』状態だった。だが市内のがれきの中にはまだエダイラ人たちが隠れながらも住んでいるようだった(そしてどうやら今までの戦いを可能な限り観戦してもいたようだ)。
最後に『タルキュア市』だが、すでに述べたようにこの都市が大きくなるのは『レーム・テルビアナ都市国家』になってからである。『四方世界』全域が混乱する中で唯一巨大な領域を安定支配していた『聖戦の大魔帝国』の脅威に『レーム諸民族』が対抗するために建設された『要塞都市』が起源である。それまでは『エデュミン』から少し離れた小都市だが交易路上にはあったので『宿場町』に過ぎなかったが、『カルシャーナ帝国』の侵攻が激しくなった時期に大きくなったのだ。だがその後はやはり一地方都市に陥落し、だが『新サルザリア王国』の支配下で再度『対ムルディアナ王国』の『要塞都市』として重要視され、『コロコス帝国』になると『タルキュア州』の総督府がおかれて現在に至る。
そして『アラマン王国』が『タルキュア総督ジルハーン・カイン』の軍を破って占領すると『コロコス帝国』の制度が継承されて引き続きこの都市に『総督府』がおかれ、『サイマス将軍』がその任務に指名された。だが『タルキュア擾乱』の発生で『内政』どころではなくなり、その後いろいろあって流れで現在『貴族戦士コレノス・イル・ラムシス』と『副官サルブルス・イル・マスファグ(マスファギエス)』が『総督代理』としてこの都市にいる。彼のもとには『アリアディス同盟兵』たちも逃げ込んでいた。
そして一方『カハル川』と『マウハナー河』の結節点付近には『べニア』の町があり、現在は『盗賊ギルド』との戦闘に協力し(『精神支配』で巻き込まれて)『エデュミン』同様破壊されてしまっている。だがこの都市には『貴族戦士サイガス・イル・タルミタリス』が駐屯しており、さらにこの都市から南側に広がっている『レーム大砂漠』で現在おこっているという『大魔王との戦闘』に関する情報を集めていた。
そして最後に『元タルキュア総督ジルハーン』についてだが、彼は『鉄槌のジルハーン』の異名をもつ有能な軍事指揮官かつ『諸王の王ダイモーヤ一世』以後帝国の大貴族として重きをなした『カイン氏族』に名を連ねる男である(だが素行の悪さで人事評価は低かった)。彼は一度は『タルキュア州』から撤退したが『ラエズリア州』で『反撃』を始めており、さらに彼とあと二人『コロクシアの剣:スファルト・イルヤーン』と『治癒者ケリミーン・ケリュマーン』も軍勢を率いて『レーム北部』に駆けつけている。彼ら三人はみな過去に『軍功』を『諸王の王』に顕彰された経歴があるがプライベートで問題が多かったことから閑職に押し込められており一緒くたにまとめて『レーム三将軍』と呼ばれていたようである。
そしてまだ三名とも健在で軍団も十分な数を維持しており、一方『コロコス帝国軍』の主力部隊である『不死軍団』は『シェルファス湾の戦い』で大打撃を受けしかも帝国全土で発生反乱と『シュミルネ族の侵攻』、さらには『大魔王軍の攻勢』への対応に追われているようだった。『タルキュア擾乱』中に『コロコス帝国軍が反乱を鎮圧したぞ!』という偽情報も流れたことがあったが、どうやらまだ『アラマン軍』に攻撃できる段階ではないらしい。
だがそこでダーマス候が重々しい声で付け加える。
「……確かに『コロコス帝国』がまだわれらと事を構える体制に戻れていないことは『僥倖』だ。しかし一方われらも後方の『中つ海』が『海の人魚族』によって荒らされ『クノムティオ』との連絡が完全に断たれているという話だ。正直『神話上の怪物』が現れたという話を私はとても信じられないがな……そしてそうなると確実にわれらの『楔』がなくなって『バンドゥーラ人』が活発化していると見て間違いあるまい。実際にそういう情報も流れているようだ」とダーマス候。
次回へ続く。
作者の歴史趣味です。最近知って驚いたことですが、ギリシャ人の貨幣単位『タラントン(タレント・タラント)』ですが、どうやら『アッシリア』由来だったらしくアッシリア人も『タレント』を重さの単位として使っていたそうです。
イスティ「そうなるとローマ時代のユダヤ人たちが『タレント』を使っていたのも、ギリシャ化しかたらではなく、それ以前からの単位を使っていただけという話になりますね……」
ニムル『『タレントのたとえ』にもそんな歴史的背景があったとはねぇ(好奇心)』
カムサ「アッシリア人が主に『銀の重さ』に『タレント』を使っていたのもなかなか面白いわね」
ハッシュ「『スタテル』もフェニキア由来だったし、アジア要素多いなギリシャ人って連中は(笑)」
どんどんギリシャ人が『固有の文明』ではなく『北は黒海沿岸、南は北と東アフリカ、西は地中海、東は中央アジア・インド』まで広がる広大な『ユーラシア文明』の一部に過ぎないことがわかってきて楽しいです。




