ハグニアス・イル・アポロニオス173『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『歴史物語閑話:『木』と『金属』と『奇怪な植物』』と『タルキュア擾乱part794』の物語
イルブルス通史あげました。忙しくても何とかあげられててほっとしてます。
『コロコス帝国歴史物語:閑話』、『スキアン語修辞学』において基礎中の基礎とされる『限定詞(符)』についてイスティがさらに解説を加える。
「……さて、ここでもう一度『ディメルアンキア王と『瑠璃国』の領主』の内容に戻りたいです。今述べた『限定詞』を念頭に置いた状態で『第二のなぞかけ』を思い出してみましょう……」とイスティ。
その『第二のなぞかけ』の『前半部分』は以下のとおりである。
『……それはまずもって『木製』であってはならず、それどころか『樹木と名のつくもの』のどれであってもダメなのだ。なぜなら『瑠璃国』にこれ以上『アラバ(アリシーク)の物』を根付かせるわけにはいかんからだ(魔術的な意味で)。だからその『王笏』は『ポプラ』ではなく、『杉(タマリスクかオリシア杉?)』でもなく、『糸杉』でもなく、『ナツメヤシ』でもなく、『硬木(オーク材?)』でもなく、『杜松』でもなく、『車(ロバ車)に使うコトカケヤナギ』でもなく、当然ながら『これは木ではなく皮だ』といって『樹皮』で作るのもダメだ……』と『領主』
「ここで早速『限定詞』の登場です。まず『木製』とは『スキアン語』で『木』を表す文字(表意文字)です。この文字は『一文字』で『木』あるいは『木製の製品全般』を意味しています。そしてこの『木』の文字が『別の単語の前』に追加されると『『木』を表す限定詞』になりまして、『後ろの単語』が『木か木製品』であることを表すようになるわけです……」とイスティ。
※注:これは『転生者』に対しては『漢字における『木偏』』を例にするとわかりやすいと思われる。『桜』、『樫』、『橄欖』の『橄』など樹木に成長する植物には必ず『木偏』がついているし、『杖』は通常『木製』であったためやっぱり『木偏』がつく、といった具合だ。そして例えば『スキアン語』でも『アリシア語』でも『武器』は『手』の単語の前に『木』の限定詞をつけることで表現されていた。そして日本語でも『白楊』、『杉(香柏)』、『糸杉』、『棗』、『杜松』、『楢』、『柳』、『樹皮』すべてに『木偏』が使われているので漢字表記すると『第二のなぞかけ』もかなりわかりやすいのではないかと思われた。
「……そして『第二のなぞかけ』の『後半部分』も同じです。ここに出てくる『金属製』という単語も厳密には『金属・金属製品』を表す『限定詞』をさしています。そして『領主』が名前を挙げている『貴金属(輝石含む)』も『スキアン語』で表記する場合は必ず『限定符』をつけて記述するそうですね」とイスティ。
その『後半部分』を振り返ると以下のとおりである。
『………そして『木製でない』といっても『金属製』ならいいかととわれたら、もちろんそれも『ダメ』だ。つまり『黄金製』でも『銅製』でもなく、『純正の銀製』でも『そうでない普通の銀製』でもなく、もちろん我ら自慢の『紅玉製』でも『瑠璃製』でもいかん……これらの条件に適した『素材』で作成した『王笏』を『瑠璃の国』まで送ってよこすがよい……さぁ一字一句違えずに伝えるのだ伝令よ!』と『領主』
そこでカムサがイスティが『黒い馬車』の床に書いていた『楔形文字』を興味深そうにしげしげ眺めながら、
「……なるほどねぇ。それで『葦』は『木の限定詞』も『金属の限定詞』もつかない単語というわけね……この植物だけは結構特別扱いなのね」とカムサ。
「『特別扱い』というわけでも別にないです。『葦』はどう考えても『樹木』ではないので区別しているだけですね。明らかに見た目で区別できますので……」とイスティ。
ちなみにだが『樹木』は『生物学』では『木本』と呼び、対する『草』は『草本』と呼んで区別する。基本的に両者を区別する基準は『木本は年輪を形成してどこまでも太く大きく成長できるが、草本は一定まで成長するとそれ以上は大きくも太くもならない』というものである。だが実はこの定義には『例外』があり……、
「……といっても『タンギラ』には『木でないのにものすごく長く成長する奇妙な草』があるそうですが……まあそれはいいでしょう、今は関係ないので」とイスティ。
「なんだよイスティ~? なんか気になるじゃん『タンギラの奇妙な草』ってやつさ。どんなものなんだ?」とハッシュ。
「……私も現物を見たことないのでよくわかりませんが(嘘)、『草なのにどこまでも長く高く成長し、しかもとんでもなく堅く、しかしよくしなる材質を持つ。だがその草が生えた場所はほかの植物を駆逐してしまい、さらには近隣の家まで破壊する』のだそうです。『コロコス人』たちが面白がって輸入してひどい目に遭ったという話もあるそうですね」とイスティ。
「それって魔界植物??」とカムサ。
「いえ、ただ『転生者』は知っていたらしく、彼らの国の言葉で『ターケー』と呼んでたそうです」とイスティ。
(……それって『竹』じゃん!?)とニムル。
『竹』だけは『草本』でありながら『樹木』のように成長するので『例外』とされているのであった。
またも脱線しつつ次回へ持ち越す。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『水の都の戦い:第四次攻撃』の『最終章』、『黄金宝剣』の帰属をめぐる『第二審』が開かれ、まず『リカノス派』のアンゲウスが『援助弁護人』となったわけであるが、そこにリカノスが『ルール違反(?)』の『感情に訴えかける演説』を行って『陪審員団』の心を動かそうとした。クノム人世界では『法廷』と『決闘』は同じで『最初に参加表明した人間だけで行われるのなら、その内容はどんな卑怯な手を使ってもいい』という『自由の度高い(かなりポジティブな表現)』な闘争の場である。なのでリカノスたちは自分たちの行いを恥ともなんともなくむしろ誇っているくらいである。
そしてそれが終わると今度は『ミュシアス派』の発言順となったわけであるが、発言前に魔王フェルゾとサイマス将軍(さらに他のオルトロス候なのど仲間たちも)がサレアスとミュシアスに尋ねる。
『話す内容は即興か?』と魔王フェルゾ。
「我々の順番が後になったから相手の論点が知れて有利といえば有利だが、行けそうか?」とサイマス将軍。
「問題ありません兄上。今時戦役でどうやら私は即興の弁論が得意であることがわかりました。今まで『裁判』というものに参加したことが無かったので、自分の思わぬ才能に驚いています(参加したことがないのは単に『女』であるため)」とサレアス(いつもの無表情)。
「今まで家族が『裁判』から遠ざけてたのですか?(勘違いしている)だったらそれは正解でしたねサイマス将軍(皮肉)」とミュシアス。
「……(頭痛)」とサイマス将軍。
かくして『ミュシアス派』の弁論が始まったが、まず最初にミュシアスが話し、その後サレアスが話すことになった。なのでミュシアスはまず登壇する前に自分の話す内容を自分で決めておいた。
(……『メモ』でも、それこそ『法廷弁論』でも事前に書いておけるとよかったのだが……いや、自分は『法廷弁論家』ではない。とりあえず何を言うかを決めておけばいい……よし、やればできるんだ俺は。さっき思いついた『論点』もあるし、即興といってももう既に二回もリカノス派の話を聞いてるんだ。それに反論すればいい……)とミュシアス。
『若きオルトロス』が『第一審』の敗訴にうろたえることもなく、いやだからこそ奮起し『冷静さ』を意識しながら弁論を開始した。
「……『世界最強の軍隊』の一員である戦友諸君! まず私の『黄金宝剣』ノ帰属を決める方法は『くじ引き』を提案したい! 理由は明瞭簡潔、『決闘』や『神明裁判』はどちらも人死がでる可能性があって危険だからだ! そもそも今回の『裁判』の意義は『もはや将兵たちの損耗は許容の限界を遥かに超えており、これ以上戦友を一人として失うことは避けたい』という合意があってのことのはず。なのに危険な方法で決めようとするならそれこそ本末転倒だからです! ……」とミュシアス。
補足だが『神明裁判』とは『海や川に罪人を投げ込んで溺れ死しなかったら無罪』とか『毒入りの酒と普通の酒を用意しロシアンルーレットして毒を飲まなかったほうを勝訴とする』などの方法である。『神々は必ず正義の側の者を生かし悪人を罰する』という信仰に基づく発想で、クノム人世界ではもっぱら毒入り酒を使うものが好まれていた。
ちなみに『神明裁判』は危険な方法でなければならない『不文律』が存在するが、理由は『神々に人間の側から意見を伺うのは本来『恐れ多い』ことなので、聞く内容が『大事件』であれば構わないが、そうでない『ごく個人的な事柄』である場合はわざわざ神々の時間と労力を奪わなければならないので(神々は不死なのだが)人間族は命をかけなければならない』という価値観があったからである。『イルブルス通史の話44』にもあったが、神々は人間族を『虫けら』かそれ以下にしか思ってないのでその『虫けら』から神託を乞われても面倒くさがって出さないこともあるからだ。
またもう一つの理由としては『神々は悪人と認定したものを必ず殺すしなんなら周りの人間(家族や地域、場合によっては国丸ごと)も巻き込むので、そうなる前に罪人一人を先に殺すことで神々の怒りが直接無関係な人間にまで及ぶことを避ける』などの理由もあった。つまり『神々』が『神罰』を発動させてしまうと勢い余って無関係な人間まで巻き込まれるので、『人間族』側が先に罪人だけ処理してしまうことで『神罰』の発動を阻止しようとするということである。そうなると確かに『有罪判決が出た時にはすでに死んでいる状態』より素早い処刑もない。合理的であるといえよう(どう考えても不合理極まりない理屈だが)。(補足2)
そしてミュシアスの言葉を聞きながらラレースとマクシスが思った。
(……確かに言われてみれば今までそういう論点はなかったですね……)とラレース。
(しかしやはりリカノス殿の意見のほうが『戦闘民族』らしいとジジイには思えますなぁ……)とマクシス。
(……ミュシアスよ、なかなかの知性だ。私もその点を思い立って居なかったぞ)とオルトロス候(感心)。
(即興で思いついたことを『弁論』してるのならたいした『弁論術』だミュシアス殿……)とダーマス候。
師匠や父、多くの同胞たちに見守られながらさらにミュシアスが続ける。
「……まずもって私が『くじ引き』を推した理由は『今回の裁判の一番の目的である『これ以上将兵を死なせない』にもっとも適合的な手段が『くじ引き』であるからに相違ありません。ですが『援助弁護人アンゲウス』殿が私に対して『そもそも自分は『黄金宝剣』の発見者になる『名誉を持たない『名誉喪失者』である』などと論じておられましたが、私自身が『弁論順が後』であったのであえて彼の言葉に『反論』させていただきましょう……『戦争』で最も『戦死者』が多くなるのは一体どのようなときでありましょうか? それは当然ながら『会戦』や『攻囲戦』などの『正規戦闘』の時です。そしてこの場には大なり小なり部隊を率いる『指揮官』たちが大勢いますので理解していただけるかと存じますが、『正規戦闘』は相対する両軍の『軍司令官』が互いに『戦おう』と思わなければ絶対に成り立たないものです。しかるなら常に『軍司令官』たちは『あえて自らの将兵を最も死傷者が多く出る可能性のある『正規戦闘』に突入させるべきか否か』を選択する場面が必ず訪れ、その時に『死傷者が出る可能性も厭わずに正規戦闘に挑む』といいう選択』をすることになるです。そしてひとたび『正規戦闘』が始まれば必ずや怒力が『敗軍』となり多くの将兵を『冥界』に投げ落とすことになるはずです……失礼、おほん! ……」とミュシアス。
彼はそこで一旦言葉を切って自分の思考を整理する。実際彼はじつはあまり即興での弁論は得意ではないので、少々自分の弁論が『明後日の方向』に飛びそうになったのを何とか抑制しようとして、
「……あー、えっと……あっと、つまりですね、『軍司令官』には常に『あえて将兵の損耗を避ける道』が用意されているということです……つまり……つまりですね! 今回父や私がとった『あえてアンフィスバエナに降るという判断』も……つまり……」とミュシアス。
彼はこの時自分の次の言葉が『だから自分たちはこれ以上自分の戦士団の損耗を避けるために『アンフィスバエナ』達に降伏したんです』といおうとして、すぐに『矛盾』に気づいた。
(……あれ? もし私たちが『自軍の損耗を避けるために降伏した』のなら『アンフィスバエナ』達と共闘することはおかしくないか? だって今度は『友軍』と戦って兵士を減らしてる(あるいは減らそうとしてる)じゃないか!? あれ!? もしかして私自分で墓穴を掘るようなことを言ってるんじゃないか!?)とミュシアス。
この考えが浮かんだ瞬間、彼は『心臓』が跳ね上がり『血』の熱さが全身を駆け巡ったのを──つまり『転生者』の言うところの『頭に血が上った』──ことを自覚したのだった。次回へ続く。




