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マストカ・タルクス⑰『冒険者の町:バラン』と英雄イヒルナスの話。

急に色々設定がでてきます(注意喚起)

 この世界には『冒険者』と呼ばれる人達がいる。

 だけど『冒険者』という職業は存在しない。

 アッス(東方)の伝説的な冒険者はこんなことを言ったらしい。

『自分が知らない世界を見たいと思った時、その人は冒険者になる』

 よく分からないまま知らない世界に来た俺はどうなるのかな?



 アラトア帝国の南部には『バラン』という『商業都市』がある。

「『商業都市』とはなんのことか分かりますかマストカ様」とアルヘイム。

「えっと、『冒険者が集まる街』だよね」と俺。

「正解です。ですがもっと言うなら、『冒険者と様々な宝が集まる街』ですぞ」

 父上と俺とシュナとアルヘイムの4人で商業都市:『バラン』にやってきていた。

 人口は帝都よりずっと少ないはずなのだが、帝都よりも活気があるように感じられた。

「クノム製の『リタックス(両刃の長剣)』だよぉ! 今日はなんと3割引きだぁ! 買うなら今だよぉ!」

「金銀財宝の換金にお困りの方はおりませんか! 魔族の骨や皮、真偽不明の情報まで高価買取!」

「負傷してもう冒険を続けられない、でも故郷にも帰れないそこのあなた!? アラトア吟遊詩人組合はそんなあなたを求めています!」

 商人の呼び込みが騒がしい。


 通りを眺めてみると色々な店がある。

 武器屋、魔法薬の専門店、解呪屋、携帯保存食を売る商人、職業斡旋業者、保険屋、手紙を運ぶ郵便屋、奴隷商人、情報屋、発掘品買い取り業者、地図屋、冒険者に仲間を紹介する仲介業者、魔族の冒険者向けの店まである。

 冒険者の顔ぶれも実に多種多様で、赤毛の人、茶髪の人、老若男女に鬼族まで居て個性豊かだ。

 だけど共通点もあるな、冒険者は全員武装している。

 父上が通りを指さしながら言う。

「国に関係なく『商業都市』には神聖不可侵のルールがある。

 1つ、普通の町は兵士以外武装してはいけないが、商業都市では誰でも武装してOK。

 2つ、冒険者は『自由人』だ。彼らはその国の市民として扱ってはならない。

 3つ、冒険者の過去を聞いたり調べたりしてはならない。

以上の3つだ。このことをよく心に刻んでおけ」

「1つ目は分かりますけど、2つ目と3つ目の意味がよく分からないんですが……」と俺。

「お前もすぐに理解するだろう。それではまずは町長に挨拶しにいくぞ」

 混雑している大通りを横に外れてこの辺りで1番大きな屋敷に入った。


 数日前、帝都でのことだ。

 アラトア皇帝が住んでいる城は『カートラッド宮殿』と呼ばれている。『カートラッド(白色)』の名の通り白く美しい城だ。

 そこの『謁見の間』に俺と父上は突然呼び出された。

「オルバース・タルクスとその息子マストカ、参上つかまつりました」

「うむ、顔をあげよ。マストカよ、先日の盗賊退治の件大儀であった」

 アラトア皇帝・サンマルテール3世は今年で30歳になるイケメンだ。

「あ、ありがとうございます……」と俺。

「今回呼び出したのは、お前達に新たな任務を与えるためだ。オルバースよ、お前をバランの町での『商業都市管理長官』に任命する。マストカはその補佐だ。最近ご禁制の品を持ち込む冒険者が後を絶たんのだ、任せたぞ」

「ははー!」


『商業都市管理官』とはアラトア帝国内に存在する商業都市の管理を行う、名前のまんまの仕事だ。

 初めて聞いた時驚いたんだけど、アラトア帝国には皇帝の許可がなければ売ってはいけない物が沢山あるらしい。魔法薬の材料はほとんどそれで、他にも外国語で書かれた本、異教の神の像、宝石、香辛料、特定の魔族から取った素材、材質不明の発掘品などが入る。

 え? どうしても上の物をアラトアで売りたい? 残念それは無理……ではない。実は『許可証』を手に入れれば売ってOKなのだ。だがこの『許可証』はべらぼうに値段が高く、しかもアラトア皇帝にコネがないと買えないのだ。


 バランの町長が俺達を出迎えてくれた。

「いやーお久しぶりですオルバース候。マストカ殿も立派になられましたなー! バランの役人一同歓迎いたしますぞ」

 町長は丸々と太ったブルドッグみたいなおっさんだった。

 俺は覚えてないけど昔会ったことがあるらしい。

「お久しぶりですカルマス町長。早速執務室に案内していただけますかな?」

「おお、仕事熱心でいらっしゃる。それはすぐに案内いたしましょう」


 父上は家の召使も数十人連れて来ていたので、すぐに引っ越しの準備をさせた。管理長官の任務が終わるまではバランの町に住むからだ。

 忙しく荷物を運びこむ召使達に俺が近づいて聞いた。

「あの~、なんか手伝うことある?」

「若様は散歩でもしててくだい! ここに突っ立ってられると邪魔です!」

「あ、はい……」

 しょんぼりしてるとアルヘイムとシュナが近づいてきた

「ふふふ、じゃあ若殿、早速バランの町を見物しましょう。ここは『中つ海』中から人が集まるので面白い場所ですよ?」とシュナ。

「帝都では見れない物が沢山ありますからな。ただ『古の法』は忘れないように。禁忌を破れば神々の怒りを買いますぞ」とアルヘイム。

「『古の法』? ああ、貴族は蛮族の食べ物を食べてはいけないってやつか……」

 俺はこの前のことを思い出した。そういえばそれを怒られて夜歩いてたのが原因だっけ、鬼族との戦争は。

「はい。それだけではなく『蛮族に触れてはならない』もあります。バランの町には蛮族の冒険者も多数いるので気を付けてください」

「ええ~、どうやって蛮族を見分けるのさ」

「アラトア人とテール人とクノム人以外は蛮族、それで十分です」

 アルヘイムが断言した。俺はちょっと引いて、

「蛮族って……マジでそうなの?」

 シュナに確認すると彼女も頷いた。

「残念ですが事実です。エレブ(西方)で文明人なのはその3つの民族だけですわ」

 アラトア人とテール人は元々同じ民族だから、実際はアラトア人とクノム人だけってことだ。

 なんだかものすごくモヤモヤしたけど、『古の法』を守らないと神罰を受けると言われたので一応納得する振りはした。

「……なんで蛮族に触れたらダメなんだよ?」

 俺が聞くと、アルヘイムとシュナが顔を見合わせ、シュナがこんな話をし始めた。

「これは、大昔の話らしいのですが……」


 アラトア帝国は大昔、北から移動してきたアラトア人達がアルナイ半島南部を征服して建てた国だ。

 建国者は伝説の英雄『イヒルナス』、太陽神モンテールと軍神マヨールスの力を借りて原住民が崇拝していた邪神を滅ぼしたとされる。

 だがこの邪神は死に際に原住民達にある『魔術』を遺していたのだ。


 これは英雄イヒルナスと部下達が、支配下に入った原住民の長老に歓迎の宴に招待された時の話だ。

 宴の途中で1人の乞食が長老の家にやってきた。

「おい! 大事な宴の最中だぞ! あっち行け!」

 長老が追い返そうとしたが乞食は泣きながら食べ物を分けて欲しいと何度も懇願した。

 それを見ていたイヒルナスが可哀そうに思って、自分が食べていた料理を乞食に与えた。

「おお! 新しい王様はなんとお優しいお方……!」

 乞食はイヒルナスの手を握って泣きながら感謝し、最後にぼそぼそと何か呟いてから去った。

「? あの者は最後に何か呟いていなかったか?」

 イヒルナスが不思議そうに言うと、近くに居た長老の召使が真っ青になってこんなことを言った。

「イヒルナス様! 貴方様は今恐ろしい呪いをかけられました! あの乞食は妖術師でございます!」

『なに!?』

 部下達が追いかけたが、すでに乞食は行方をくらませていた。

「イヒルナス様にかけられた呪いは、滅びた邪神が最後に遺した魔法でございます。呪いたい相手の身体に触れて呪文を唱えるだけという術で、かけられた者は必ず死にます!」

 イヒルナスは慌てずに尋ねた。

「して、その邪神の魔術とはどんなものなのだ?」

「『オナラの呪い』でございます!」

 イヒルナスと部下達は全員目が点になって再度聞き返した。

「……もう1回言ってくれ」

「ですから『オナラの呪い』でございます! 呪われた者は恐ろしく臭いオナラにもがき苦しんで無残な最期を遂げるのです!」

 再度イヒルナスと部下達が顔を見合わせて、

『だーっはっはっは!』

 アラトア人達が笑い転げた。

「ククク……! 確かにそれは恐ろしいな! はっはっは! 死ぬほど臭いオナラか! 今日のご馳走は肉が多いから匂うかもしれんな!」

「い、イヒルナス様? 私は真面目な話をしているのですが……?」

「はーはっはっはっは! やめてくれこれ以上笑わせないでくれ! 分かった分かった、気を付けるとしよう」

 イヒルナスはその日結局朝まで飲んで、ベロンベロンに酔っぱらって長老が用意した家に泊った。ベッドの上にイビキを掻きながら1人で寝ていると、ドカドカと大きな音がして目が覚めた。

「あぁん?」

 寝ぼけた目を擦って部屋を見ると、見知らぬ子どもが6人ほど部屋に上がり込んでいた。子供達はニヤニヤ笑いながら同時に『ブーッ!』とオナラをこいた。

「うわ!? なんだお前達は!?」

『きゃははは!』

「う!? ぐ、臭い!?」

 子供たちが笑いながら逃げていき、イヒルナスもあまりの悪臭にたまらず外に飛び出した。

「イヒルナス様!? 一体どうしました!?」

「い、いや、なんでもない……」

 部下達が気づいて集まってきたが、適当なことを言って追い払った。

『子供のオナラが臭くて逃げた』なんて恥ずかしくて言えなかったからだ。


 その日の真夜中に今度は10人くらい子供たちが突然部屋に入ってきて同時にオナラをこいた。

 イヒルナスは寝ていたが、あまりの臭さに飛び起きて怒鳴った。

「クソガキども! 皇帝を侮辱した罪は重いぞ!」

 すぐに近くにあった剣を掴んで子供の1人を斬った。

 ガギィンッ!

 だが驚くべきことに子供の顔に当たった瞬間剣が折れた。子供達はゲラゲラ笑い飛び回りながらオナラをこきまくった。

「や、やめろ!」

 今まで嗅いだことのない悪臭が部屋の中を充満する。扉を開けようとしたら子供達に羽交い絞めにされ、泡を吹きながら彼は意識を失ってしまった。


 翌朝、悶絶していたイヒルナスを部下達が見つけて大騒ぎになった。

 イヒルナスはその後意識は取り戻したが、原因不明の高熱にうなされた。

 すぐに部下達は『太陽神モンテール』に救援を求めたが、

『強力な怨念に阻まれて助けられない』

 という神託が下り、絶望の中でイヒルナスは35才でこの世を去った。


「……アラトア人の英雄の非業の死、それから太陽神によって『高貴な身分の者は野蛮人に触れてはならない』と決められたのです」

「へ、へ~、そんなことがあったんだ……」

 オナラで死んだ英雄とか最悪だな、と思った。

「まあ、『オナラの呪い』なる魔術は失伝していますけどね。そもそもこの話が本当にあったことなのかすら疑わしいらしいですわ」

 シュナが最後にそう付け加えて、それでこの話は終わりなった。

 事実か疑わしい話が根拠って、だったらそんなルール無くしちゃえばいいんじゃないのか……?


アラトア帝国はサンマルテール3世の治世で建国から600年程度経っています。隣国エリアステールも似たような年数です。


通常地方へ派遣される貴族は中流貴族が基本で、大貴族タルクス家が行くことは珍しいのですが、皇帝が専売制の維持を最優先に考えて信頼できる貴族を送ったという背景です。冒険者が掘りだす宝(特に魔法の宝)は多くの国で支配者の富の源泉になっています。

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