ハグニアス・イル・アポロニオス54『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『サイマス将軍の処遇と方針転換』と『タルキュア擾乱part671』の物語
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『水の都の戦い:第四次攻撃』の一幕、ダーマス候は今まで『二回』も『独断専行をはじめサイマス将軍をどう扱うか』を決めようとして決めていなかったことに気づいて自分に絶望する。一方をそれを見ていた『貴族戦士シクロニス』は『ダーマス候がサイマス将軍を処罰したくなくてわざと何も決めなかったのか?』と勘繰った。
「……ダーマス候はやはり『アサクレシス王国』が敵に寝返ることを避けたいのか……? しかしそれはいくら何でも依怙贔屓だろう……出身地が大国だったらどんな罪も許されるなんて俺を含め他の兵士たちが納得しないぞ……(小声)」とシクロニス。
すると『高地貴族キュライノス』は首を振って、
「……いえ、ダーマス候は『アサクレシス王国』を贔屓して判断を先延ばしにしてたわけではなく、単に疲れていてサイマス将軍に対する処置の決定を失念してたってだけですよ。第一『アサクレシス王国』を贔屓したらそれ以外の『貴族戦士』たちがみんな反乱起こしますよ?」とキュライノス。
「そうか? 俺はなんだか候が贔屓してるように見えるが……(不満気)」とシクロニス。
(……シクロニス殿も疲労で判断力が鈍ってる……これは皆いつ大きなミスをしでかすか分からんぞ……)とキュライノス。
そこでダーマス候は少し考えていたが、やっと『サイマス将軍』に対して結論を出した。
「……すでにハグニアス殿、テルアモス殿、キクラネス殿と『貴族戦士』達の中から少なくない裏切り者を出してしまっている。私も今までは『法』を優先して裏切り者を全員処罰すべきだろうと考えていたが、正直な話少し揺らいでいる……このまま『サイマス将軍』も敵側に追いやっていいのだろうか?」とダーマス候。
もうダーマス候は疲れていた。疲れすぎているのに目の前にまだ『アンフィスバエナ』がいて、下手したら『また乱戦か何かで軍団を分散させられるかも』という不安と焦燥もあり、さらには今まで『サレアスの罪』を認めて『必ず責任を取らせる』と『アラマン王国への忠誠』を示し続けて居てくれていたサイマス将軍が『裏切ったかもしれない』と聞かされて、『もうこれ以上離反者が出るのは勘弁してほしい』と悲鳴を上げたのである。
「……私は今までの『サイマス将軍』の『忠誠心』を評価していたのだ。彼は弟(妹)が戦士として恥をさらしてもそれを庇うことなくちゃんと『罰するべきだ』といってくれたのだから……世間では『家族を庇わない者』は『薄情者』だと非難を受けるものだが私はそう思ない。むしろサイマス将軍が『国家』を何よりも尊重していることを評価していたのに……だから彼のような『逸材』をそう簡単に捨てていいとは私は思わない。『血族』より『共同体』の方を本心から優先できる人間を私は大事にすべきだと思っている」とダーマス候。
候の発言の後半部分は実は『本心』ではなくあくまで麾下の『貴族戦士』達を説得するための『理屈』である。ダーマス候の本心は『これ以上アンフィスバエナに寝返る者を出したくない』ただ一点だった。
これにはにわかに『貴族戦士』達が湧きたって早速議論が始まる。まず伝令を通じてリカノスが『怒り』をぶつけてきた。
「なにを仰られているのか候!? 『サイマス将軍』はすでに『アルキオス隊』に対して『敵対行為』をとっており、そうでなくても我らの軍に対しても一切協力しなかったのだからそれは『敵』だ! 候に『待機』を命じられていたのならいざしらず、そうでもないのに動かず、あまつさえ我らに対して『圧力』をかけてきたのに! あれを『敵対行為』としないでなんとするのですか!? それに『血族』よりも『国家』を優先するだぁ? 今まさにしてないじゃないか! していたら我々に協力して『アンフィスバエナ』を叩いてたはずだ!」とリカノス。
だがそこで『高地貴族キュライノス』が言う。
「候、正直な話、自分もこれ以上『裏切り者』を増やしたくないです。通常ならいざ知らず、今は将兵たちの疲労も限界を越えています。もうこれ以上負担が増えたら一気に皆倒れてしまうでしょう。サイマス将軍が『国家』を最優先させる人物かを自分はあえて判断しませんが、私も候の意見には賛成です。まだ『直接戦闘』をしていないのですから敵対行為とは見なくていいでしょう」とキュライノス。
思わぬ『賛成意見』に他の『貴族戦士』達も最初は目を見開いていたが、すぐに『ナルクルティオのパリス』も同調した。ちなみにリカノスの伝令はキュライノスが発言を終えた後すぐに主人の下に戻っている。
「……自分も実は同じ考えです。ですが以前にも誰かが言っていた通り、とりあえず『双角王』の御裁可を伺うことにしてそれまでは『保留』でいいでしょう。私の見たところ『サイマス将軍』も恐らく我々から攻撃をかけない限りは向こうもこちらを攻撃してこないのではないかと思います。確実に将軍はまだ『裏切るべきかどうか』悩んで躊躇してるんだと思います。なので『中途半端』な態度をとるのです……でしたらその『中途半端』のままにしているかぎり『アンフィスバエナ』と組んで我々を攻撃してくることもないのですから、そのままにしておけばいいのですよ。確かに我々の戦力も彼が抜けた分落ちますが、敵の兵が増えるわけでもないのでよいのではないかと思います」とパリス。
これにはシクロニスやキュライノスやダーマス候も賛同した。
「俺もそれでいいと思います。とにかく今は『保留』にしましょう」とキュライノス。
「そうです『保留』です……まあ『双角王』の裁判が開かれた際にわれわれ全員で『サイマス将軍』を非難して『有罪』を求めるのは確定なのですから、これはもうだましているのと同じでは……?」とシクロニス。
「『裁判』ならサイマス将軍自身も自分を弁護するでしょうし、判断するのは『双角王』だから我々の行動で判決が決まるわけではない。だから騙してはないですよ(悪い顔)」とパリス。
このようにダーマス候のもとでは大凡意見が決まってしまった。だがここでダーマス候は思った。
(……これだと体よく『強硬派』のリカノス殿を遠くにやった状態で『サイマス将軍』の処遇を決めた形になるな……いや、そもそも『サイマス将軍』の処遇をどうするか聞いてきたのはリカノス殿の方だ……あるいは彼自身がここにいる間に聞けばよかったわけだから、私がわざと遠ざけたわけじゃないぞ……)とダーマス候。
だがそこで飛び込んで来たリカノスの伝令はこう言った。
「ダーマス候! 我が主君リカノス様からの伝言です! 『もはやサイマス将軍の敵対行為は明らかなはず! なぜそれを今更になって『弱気』になられるのですか!? それでは一番最初にサレアス殿に対して『自殺しろ』といったことすら矛盾じゃないですか!? サイマス将軍を許すということはサレアス殿も許すということになるんですよ!?』とのことです!」と伝令。
リカノスが言ったことは『道理』として正しい。ここでサイマス将軍を許してサレアスが許されない理屈は何か? これに対してダーマス候が言った。
「いや、サレアス殿とサイマス将軍は『違う』、サレアス殿は既に『アンフィスバエナ』とともに行動して『友軍』と『直接戦闘』していることが分かっている。彼(彼女)は確実に自らの手で『戦友』を殺しているのだ。だが『サイマス将軍』は今のところ『友軍』相手に直接干戈を交えた話はない……だから両者の処遇が変わるのは当然だ。既にパリス殿もいっているが、前回『サイマス将軍』は『圧力』はかけたかもしれないが我々に対して『直接戦闘』を仕掛けたわけではない。だから彼はまだ『裏切り者』とはみなせない」とダーマス候。
これはこの戦いで初めて提唱された『裏切り者の定義』であった。次回へ続く。
いつものごとく作者の歴史趣味ですが、古代ギリシャ語の『恩赦・和解』は『アムネスティア』ではなく『アムネシア』だそうです(どうやら間違えていたようです)。
イスティ「でも『アムネスティア』の方が語感がいいんですよね……悩ましいところです」
ニムル『『世に名高い『和解』の故事』と『世に名高い『和解』の故事』……う~ん、まあでも後者でもいいような気がするけど……」
カムサ「あと『和平協定』は『シュンテーカイ』だそうね。たんに『協定』でも『シュンテーカイ』らしいけど」
ハッシュ「じゃあ『普遍平和協定』ってか? これぜってー古典ギリシャ語の文法的におかしい表記だろ」
でも響は結構いいんですよ。最近いろいろ学んでいます(笑)。




