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ハグニアス・イル・アポロニオス13『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『仲間を襲う者・信じない者・それらを傍観する者』と『タルキュア擾乱part601』の物語

『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』


『水の都の戦い:第四次攻撃』の一幕、『ダーマス隊』と『アンフィスバエナの移動要塞』との戦闘を避けて慎重に撤退した『錯乱アーテー状態』の『ハグニアスとテルアモス』の部隊が今度は『アイアス隊』と遭遇する。アイアスが率いて居るのはやはり他の『貴族戦士ヘタイロイ』達と同じく自分の戦士団の生き残りだけだが、彼らは周辺の瓦礫を使って『陣営バリケード』を作りすでにそこに籠って『防衛戦』の準備をしていたことだった。


 そのアイアスが『陣営』の中でまず自分の部下たちに『命令』と『訓示』を行った。


「どうやらあの『ハグニアス殿とテルアモス殿』の部隊は『狂気アーテー』に導かれてしまっていてまともな判断力を持って居ないようだ。ならば彼らが他の『友軍ヘタイロイ』を襲う前に我らで『対処』せねばならん! 総員戦闘態勢に入り、この『バリケード』を最大限に有効活用して撃退するぞ! もし可能であれば二人の『貴族戦士ヘタイロイ』は生け捕りにするべきだが、無理であったのなら強制はしない。殺してしまっても俺が責任を取る! 今の状況ならおそらく別の個所でも『狂気アーテーに取りつかれた友軍ヘタイロイ』がいるはずだ! だから俺たちの判断もきっと許されるだろう! お前たちもためらわず存分に戦え!」とアイアス。

「「「は!」」」と部下たち。


 ハグニアスとテルアモスはうっかり『戦友ヘタイロイ』を殺してしまったことにショックを受けた一方でアイアスがためらわずこう判断する違いはやはり『性格の違い』が大きかったかもしれない。だが今のアイアスにはハグニアスとテルアモスとは違い『自分たちは幻術にかけられている』という感覚が『全くなかった』からという理由もあった。彼は『乱戦』以後『アンフィスバエナ』に遭遇していなかったからである(これは偶然。だから聖石矢を残しておけた)。


 そうやって部下たちが持って居た『長大槍サリッサ』を準備したり、『聖石矢』を構えて『バリケード』の後ろから斜め上に打つ準備をしたり、さらに投石を構えた兵士が『バリケード』の上に乗ったりした。そうしながらアイアスが自らの声で叫ぶ。


「どうやら本物の『ハグニアス殿とテルアモス殿』の部隊であるとお見受けする! だがその態度はとても『正気』とは思われず、恐らく『狂気アーテー』の虜となっておられるのであろう! この『王の友アイアス』がそなたらに引導を渡そうではないか! お覚悟召されよ『戦友ヘタイロイ』たちよ!」とアイアス。


 その勇ましいことを言うアイアスと彼の造った『陣営』を見てハグニアスとテルアモスが相談しあう。


「……落ち着いて考えてくださいテルアモス殿、彼が本当に『アイアス殿』であったとして……まあとても信じられませんが……ああやって『バリケード』を作っている意味はなんでしょうか? 俺には全くわかりません」とハグニアス。


「あ、それは俺に説明したいんじゃなくて聞いてるだけなんですね……(汗)。わかりませんが、もし本当に『友軍ヘタイロイ』であったらあんな『バリケード』は作らないと思います。なぜなら『アンフィスバエナ』たちは地面の下を潜ってくるからです。もし地面の下から『バリケード』の内側に侵入してきたらあの『アイアス殿』は逃げ場がありません。ですがもしかられらが『アンフィスバエナ』なら話は別です。彼等は『物体の中を潜れる』ので『瓦礫』は彼らの移動の邪魔にならず、また『聖石矢』を防げるのですから……つまり彼らがあのような作戦をとっているということは『アンフィスバエナ』の可能性が高いです(断言)」とテルアモス。


 彼の理屈は『非常にそれっぽい』のでハグニアスだけでなくずっと『怪訝顔』であった二人の戦士団の者たちまで『なるほど』と感心し納得させてしまう。だが実際のところ『アンフィスバエナ』たちが『バリケード』を作って『聖石矢』を防いでもその『聖石矢』自体が『バリケード』の周囲に残ってしまうので彼らにとって『よい作戦』とは言い難い。それよりむしろ『空を飛んで矢が届かない位置から攻撃する』方がずっと『合理的』だった。そして実際に『アンフィスバエナ』たちがそう振舞っていた場面に『アラマン軍』は遭遇しているのだが、この時彼等はそのことを完全に忘れていたのだった。『錯乱アーテー』している頭で『それっぽい理屈』を耳に流し込まれてしまったので『感化』されてしまったのである。


 このように『自分が幻術にかかったと一度思いこむとどんどん悪い方向に考えて勝手に自分を自己暗示にかけてしまう』というのはニラトの狙い通りであった。


『……といってもここまでうまいことかかるのはきっとニラト様も驚くだろうな……まあアラマン人ども疲労が蓄積しているか……』と監視の正規兵。


 この『アンフィスバエナ』はニラトの命令でずっと『ハグニアスとテルアモス』の部隊を監視している者である。彼は既に『第四次攻撃』が非常に長期化していることを思って『人間がこんな長期間死の恐怖にさらされながら魔界に長居したら『魔族追跡部族』でも正気は保てんな』と思ったのだった。



 そして、『テルアモスに感化』されてしまったハグニアスが部下たちに命じた。


「相手が『アンフィスバエナ』であるのなら俺たちの敵だ! しかもどうやらさっきの『ダーマス隊』に化けて居た『アンフィスバエナ』たち(いつの間にか決めつけている)とは違ってあの『偽アイアス』たちは俺たちを襲おうとしている! ここで俺たちも戦うべきだ!」とハグニアス。

「そうだ! 偽アイアスが我らに『引導を渡す』というのなら我らの方が魔族どもに『天誅』を下してやるぞ! ヤーハッラー!」とテルアモス。

「「「ヤーハッラー!」」」と部下たち。


 こう言った経緯で『バリケードに籠るアイアス隊』と『ハグニアスとテルアモス隊』が『戦闘』になった。そしてその傍らではモストルスとともに行動する『ルリダイア人ヘラスケス』が告げる。


「……俺たちもずっとここに隠れていると危険です。せめて『第五城壁』の上に登りましょう。上の方が安全でしょう」とヘラスケス。


 だがラレースはまだ弱ったままのモストルスを気遣いながら、

「……それはどうでしょうか? モストルス様はこの通り大変弱っておられます。『瓦礫の山』の上にあがるよりまだ下にいた方が休みやすいかと。それに目の前に『アンフィスバエナ』たちがこもる『移動要塞』がありますし……」とラレース。

「……すみませんヘラスケス殿……情けないです……」とモストルス。

「いえ、確かにラレース殿の言う通りです。では俺たちも『バリケード』を作りますか。『第五城壁』も利用するのがいいでしょう……おい、作るぞ!」とヘラスケス。

「「「は! ヤーハッラー!」」」と部下たち。


 ヘラスケスはすぐに部下に命じて、自分たちが隠れていた『第五城壁を作った時に出てきた瓦礫を積み上げて作られた山』を解体し、それをアイアス隊と同じような『バリケード』に変えた。この作業にはラレースとその部下たちも加わり、『第五城壁』と合体した『陣営』』に変えたのであった。


 この『陣営バリケード』の中にモストルスたちがとどまり、他方ヘラスケスの兵士たちは『第五城壁』の上に登ってあたりを引き続き監視する。そんなルリダイア人兵士たちの視線の先では『アイアス隊』と『ハグニアスとテルアモス隊』の戦闘が行われアラマン兵同士が雄たけびを上げて殺し合いを行っていたのだった。

 ここでまた脈絡なく作者の歴史趣味を一つ。以前作者は『中世イスラームの『奴隷軍人』の制度は古代ギリシャ起源か!?』とかなんとか適当なこと言ってましたが、『マムルーク制度』は普通に『古代オリエント』由来でした(汗)。


 ニムル『古代オリエントにいたの奴隷軍人って??』


 イスティ「『奴隷軍人』といいますか、正確には『君主が自国内に強力な地盤を持っていない『異分子』の人間を家臣にする』習慣は実は『古代オリエント文明』で非常に広く、というか『すべての時代のほとんど国や地域でごく当たり前に』行われていたことらしいです。『古代オリエント』ではかなり初期のころから『君主』は『中央集権』を志向しており、自分の家臣は必ず『自分と血縁関係のある人物(つまり『王族』)』か『外国出身者で国内に頼れる相手がいない者』のどちらかしか登用していなかったとか。つまり後者が『奴隷軍人』の起源ですね」



 ※注:イスティの述べている『古代オリエントの君主は中央集権を志向していた』は恐らく正しくないと思われます。たぶんですが理由は別にあると作者は思ってます(あくまで私見ですが)。



 カムサ「『奴隷』と『外国人』に大した差なんてないから確かにどっちでもいいわよね」

 ニムル『その話は何度聞いてもげんなりするよ……(しょんぼり)』


 ハッシュ「……え? マジで? ホントに『王の宮廷にいる家臣たちは血族か外国出身者しかいなかった』って、本当に下っ端の役人とかまで全員王族か外国人しかいなかったのか? じゃあその国の『自由市民』はどうしてたんだ?」


 イスティ「それに関しては『時代』や国で大きくで変わるそうですが、初期の時代は割とそうだったようです(王宮が小さかったので)。恐らく上の役職は王族、下の役職は奴隷という感じで分けてたのかもしれません(これは推測)。また後の時代になると『宮廷(王宮)』は『徴税』などの業務を外部に『アウトソーシング』していたらしく、恐らく『徴税請負人制度』もそこから生まれたものとか。この『アウトソーシングされた外部の者たち』は王様の支配する国の自由市民階級だったようです。つまり王様にとって自分の国にいる『自由市民』たちは直接自分の家臣ではないということです。これを前提に考えてください。ですがこれらの『自由市民』たちは一応王様に対して『敬意』は評していたようですが、かといって必ずしも王様を『自分たちの代表者』とはおもっていなかったそうですね」


 カムサ「『クノムティオ』の話になるけど、そもそも『自由市民』は『誰にも支配されていない(そして誰かを支配している)者』のことだから例え自国に『王』がいても服従する義務も義理もないし、自分にとって都合が悪ければ『倒して』いいのよ。だから……」


 ハッシュ「……カムサがらしくねーこといってる。あいつ病気なんじゃねーの?(ド失礼)」

 ニムル『おなかすいて弱気になってるのかな??(こっちも失礼) 王様は神聖な存在なんじゃないの??』

 ハッシュ「はっは! だけどカムサの言うとおりだ、気に入らねー王はドシドシ倒すべきってのはあたしも同意だな!(ノリノリ)」



 カムサ「失礼ね(怒)えー、おほん! 人の話を最後まで聞きなさい(仕切り直し) ……だから『王』にとって自国の『自由市民』は本質的に『守るべき対象』ではなく『潜在的脅威ライバル』なのよね。実際私のお父様もそうだったわ。表向きは『『ファーバス』の全住民を守る責務が自分にはある』と述べていたけど、それは『ファーバス』に住んでる『お父様より貧乏な自由市民』たちが徒党を組んで『アサランシス家』の財産を奪おうと狙ってきたり、周辺の都市国家ポリスに内通しないようにするための『配慮』に過ぎないわ。本音ではお父様が守ろうとしてたのは『アサランシス家』とその『庇護民』たちだけだったのよ。だから『城壁』はあんなに小さかったのよ、まさか知らなかったの二人とも? それ以外の『自由市民』たちは『軍隊の兵士として必要だから生存を許してるだけの存在』にすぎないわ。この『大前提』を理解していないと『王権』というものの『本質』は見えてこないでしょうね……」



 ※注:『ファーバスの城壁は小さかった』というカムサの言葉の本当の意味はいずれ本編で出てくると思われます(悪しからず)。



 ハッシュ「王様なら自分の国の人間は全員守ってくれよ……(絶望)」

 ニムル『な、なんか『エノリ』がいいそうなことだね……(懐かしい名前)。同じ国に住む『同胞』に対してあんまりじゃない?? ていうかもしかして僕たちもその『潜在的脅威』にみられたの……?」


 カムサ「『エノリ』さんは直接会ったことないけど彼女も『教養人』なら確かに同じことを言うでしょうね……ちなみにニムルとハッシュの実家はどっちもお父様の『庇護民』だから守る対象だったわ、だから安心なさい。お父様はちゃんとあなた達を守ってたわよ」


 イスティ「『同じ国の同胞なんだから守るべき』というのは『民主制デモクラティア』の国で特に叫ばれる『イデオロギー』でして、『クノムティオ』ではその思想が信じられてる国は『カミス』やその影響を強く受けた一部の国くらいです。そしてこの『理想』が守られていた国は恐らく『全盛期のカミス』くらいでしょうね。ちなみに以前に少し本編に出てきていた『家政組織』という単語があったの覚えてませんか? 王様が持っている『家政組織』が『王宮』のことですよ」


 ハッシュ「ちょっと待ってくれ、いろいろこんがらがってきたんだけど……」

 ニムル『僕たちも『混乱パニコス』しそうだよ……』

 カムサ「作者曰く、『ここら辺の話は近々『コロコス帝国歴史物語』に出てくると思われますのでそっちで語ることになると思います』とのことだそうよ(予告)」


 

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