サイマス・イル・アサクレス185『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『サレアスの『説得(ベイトー)』』と『タルキュア擾乱part592』の物語
前回『コロコス帝国歴史物語』が変なことになってたので直しました(汗)、すみません。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『水の都の戦い:第四次攻撃』の一幕、敵に『生け捕り』にされるという『戦闘民族』最大の『恥辱』にオルトロス候は『自殺』する気でいた。そのために目の前に現れたサレアスに『縛を解け』と要求する。
ちなみにオルトロス候たちがいるのは本当は『第五城壁』の『稜線』の上なのだが、オルトロス候の眼には『真っ黒な謎の空間』として映っていた。何の明かりもないはずなのにその中にルサレアスや『アンフィスバエナ』たちの姿だけはなぜはっきり見えて、だが『空間』自体は全部真っ黒でどこからどこまでが床でどこからが壁や天井なのかもわからない、という『謎空間』の『幻』を見せられていたのだ。
だがそんな『真っ黒な謎空間』にも老将軍は怖じずに告げる。
「私はこのような屈辱極まりない『生け捕り』をされてしまったのではもはや戦友たちに面目が立たない。この不名誉な状態になってしまっては『自殺』以外の道はないのだ……もちろんこれは私だけではない、サレアス殿、あなたも同じだ……」とオルトロス候。
オルトロス候は別にサレアスをにらんだり怒りや憎悪を向けたりはしなかった。ただ『冷めた目』でそういいきっただけである。だがそれこそが候の『意志の覆らなさ』を明示していた。
そんな老将軍に対してサレアスがすかさず『反論』する。
「候、ではあなたをみすみす敵に『拉致』させてしまった『オルトロス家』の戦士団たちとその他麾下の『貴族戦士』達全員も自殺しなければならないはずです」とサレアス。
実はこの時オルトロス候はそもそも『議論』する気すらなかった。だが『息子とその同年代の有望な若者たち』を非難されたのでついつい喋ってしまう。
「……彼らは別に捕まってはいない。捕まった落ち度は私にあると述べたはずだ」とオルトロス候。
「候、あなたにこんなことを説くこと自体『滑稽』なことですし、きっとあなたにとっては『若輩者に説教された』と『屈辱』以外のなんでもないでしょう。しかし考えてもみてください候、『戦争』は指揮官一人で行うものではなく部下たちとともに行うものです。あなたが捕まったことはそれつまり『部下たち』全員の失態とみなされるのですよ。ならば『自殺』すべきはあなただけでなく部下全員になります」とサレアス。
オルトロス候はちょっとサレアスの意図を測りかねた。だが一応言い返す。
「……いいやそうはならない。なぜなら『指揮官』であっても一人の『戦士』であることに変わりはないからだ。私自身が死に物狂いで抵抗していればこうはならなかった。だからこれは私だけの落ち度になる」とオルトロス候。
「候は本気で戦っていなかったんですか?」とサレアス。
「揚げ足を取るな(いら立ち)。当然本気で戦っていたが、それでも後で振り返ってみればもっとやりようはあったと思って言っているのだ」とオルトロス候。
「それもまたおかしいですよ候。その時とれた手段が『最上』であるはずです。未熟な若者ならともかく候は『経験豊かな年長者』なのですから、その時取れる最良の手段で臨んでいたはずです。後で考えて『こうすればよかった』は結果論にすぎません。その当時選べなかったのであればそれは最初から存在していなかった選択肢に他なりません」とサレアス。
「それは『詭弁』だ……それにそれがどうしたいうのだ? 私をなぶりたいのか?(怒)」とオルトロス候。
「失礼しました候。私が言いたいことは、あなたがここでこうやって大人しく捕まっていることは、それすなわち息子のミュシアス殿と部下の『貴族戦士』たちに『挽回』の機会を与えたいからではないですか? まだ『戦闘』は終わっていないと解釈すればあなたと部下たちに『敗北の罪』はなく、むしろ『戦友の危機を救った』として『市民冠』すら授与される名誉に賜ることが出来る……ああ、なるほど。だからこそ『まだやりようはあった』とおっしゃられていたのですね。ミュシアス殿に『市民冠』をあげたくて『あえて捕まっているのをごまかすため』に『本気だったが他にもやりようがあった』なんてことを言いだしたわけですね?」とサレアス。
そういうとサレアスの言葉を聞いていた『アンフィスバエナ』正規兵の一人が『移動要塞』を包む幻術を部分的に『解除』してみせた。『真黒な謎空間』の一部が開け、『移動要塞』の外側で『密集方陣』を組む『ミュシアス&リカノス&パリス』の部隊が見えたのである。明らかに『オルトロス候を奪還する気である』ことが見てるだけで誰でも理解できた。
「……ああ、よかったですねオルトロス候。ミュシアス殿たちはちゃんとあなたを救おうとしてくれてますね」とサレアス。
オルトロス候の額に『ビキビキ』と『青筋』が浮かぶ。右手の『ファイユ』がサレアスにだけ聞こえる声で言う。
『お、おいおい、なんで怒らせてるんだ?? お前が帰りづらくなるだけだろ』とファイユ。
(いいえ、これは明確に言っておかなければなりません。私は兄上を信頼していますが、そうであっても私ができることはすべてやっておかなければなりませんから)とサレアス。
静かだが怒っているオルトロス候にサレアスが言った。
「……オルトロス候よ認めてください。あなたはミュシアス殿に助けられることを期待している、違いますか?」とサレアス。
「期待していない(怒)。たとえ助かっても私は結局『敗北の罪』で罰せられなければならない。もちろん私だけでなく貴公もなサレアス殿。だからこそ私に『自殺』させろと要求しているのだ」とオルトロス候。
「では私が今この場であなたを殺しましょうか?」とサレアス。
そういうなりサレアスが右手を振ってみせる。だが何度振っても別に右手に変化が起こらずオルトロス候が変な顔をすると、サレアスが右手を叩いた。
「何してるんですか? 空気を読んで『剣』になりなさいよ」とサレアス。
『いやなんでそんなことしないといけないんだよ!? だってどうせそいつを殺す気なんてさらさらないんだろ!?(心を読んでる)』とファイユ。
「私の本心をばらさないでいただきたい(不満)」とサレアス。
まだ変な顔をしているオルトロス候にサレアスが気を取り直して言う。
「……えーとですね、つまり単純に『死』を望むのであれば私が殺して差し上げましょうということです。それでもよいですよね? だって候は死ぬことで自分の罪を『贖おう』としているわけですから」とサレアス。
「……死ぬならどんな方法でもいわけではない。サレアス殿に殺されることは別に『名誉ある死』ではないだろう(正論)」とオルトロス候
「では今から私と『決闘』しますか? それなら文句なく名誉ある死になるはずですし、私に対する処刑も一緒に済ませられます。もちろん私はあなたに負ける気が一切してませんが……当然『アンフィスバエナ』の方々には肩入れは遠慮願いますがね」とサレアス。
本当は『女性』であることを隠しているとは(クノム人の価値観的には)思いがたい言葉と態度でサレアスは告げたのだった。次回へ続く。