サイマス・イル・アサクレス170『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『ザラワシュト将軍と思わぬ伏兵』と『タルキュア擾乱part533』の物語
『コロコス帝国歴史物語』、『ザラワシュト将軍』の『中立』の定義についてカムサが意見を挟み、それに対してイスティがこう述べた。
「この『中立』に関する『東西』の違いはかなり『重要』なことだと私は思っています。そもそもザラワシュト将軍が『中立』を『不安定』と考えた原因は例のごとく『カイバーン二世』ですね。彼は当時の『文明世界』の『全域』を属国あるいは支配下としましたので、『インディーン騎士』達の前に『敵でも味方でもない』という者たちは皆倒されるか自ら忠誠を誓うことになったのです。ですから『ザラワシュト将軍』がこう考えたのも『むべなるかな』というわけですね」とイスティ。
そうやって『同時にいくつも策』を張り巡らしつつ『ザラワシュト将軍』は『ウルハ族』と『四総督』の部隊が合流する前に『タスキヤ』の街へ急いだわけであるが、実際には彼の『作戦』は思った通りにはならなかった。なぜなら『タスキヤ』の町へ向かう道中の山道の中で突如『襲撃』を受けたからである。
その『襲撃』はどういったものだったかというと、山道を進んで居たら突如目の前に『馬車』が現れ道をふさいで『通せんぼ』してきたと思ったら周囲の森の中から突如『武装した集団』が飛び出してきたり、あるいは断崖の下を通ると上から岩を落として来たり大きな声で騒いだり、逃げる相手を追いかけていくと崖に誘導されたりするのだった。もちろんザラワシュト将軍とその部下たちは『馬車』を使うその集団が何者であるかをすぐに理解する。
『エダイラ人どもだ!? 『ルオシャン総督』が『フィロルス河』に派遣した『エダイラ人貴族戦士』たちが襲ってきているぞ!』とザラワシュト将軍。
なんとここで現れたのはかつて『ルオシャン総督』の命令で『フィロルス河』流域に進出して勝手に『関所』を作っていた『エダイラ人貴族』たちだった。彼らは『ザラワシュト隊』が『ブローサ』に来た時点で『関所』を放棄して逃亡していたが、それでも『バスタイ』には戻らず『傭兵』を集めながら『ザラワシュト隊』を攻撃するタイミングを虎視眈々と狙っていたのである。
ここでイスティがいう。
「当然ですが、実はこの『エダイラ人貴族』たちは『王族ダレブ人』と『ケライア王国軍』が『モルバタエ人』の『多数派』を『中立』にしたことでこの『エダイラ人貴族』たちは大いに活動がしやすくなっていたそうです。つまりそれまで地元モルバタエ人たちから『攻撃』されるのでずっと隠れながら少し『ダレブ・ソラース人』たちを雇入れているのが精一杯だったわけですが、モルバタエ人たちが『バルダヤ将軍』に対して『中立』を宣言したことで彼は大手を振って活動し、なんでしたら『モルバタエ人戦士』すら雇えたそうですね」とイスティ。
『ちょっと待って、その『雇われたモルバタエ人戦士』ってつまり『敵』に寝返ったことになるんじゃないの?』とニムル。
「なぜ? 雇われただけなのだからべつに敵対はしてないわよ?」とカムサ。
「男が槍一本で生活費を稼いでるだけだろ? 格好いい生き方じゃん」とハッシュ。
『いやだからその『戦闘民族』特有の考えかたは東方では通じないでしょ(呆れ)』とニムル。
「とはいえ、この時雇われたモルバタエ人戦士たちが何を考えていたかは実は私も知らないんです……もしかしたら本当に『稼ぐためならだれとでも戦う』だったのかもしれません」とイスティ。
『えぇ……『風の王』さんダイモーヤ王のそばにいるのに……(理解不能)』とニムル。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『水の都の戦い:第四次攻撃』で戦場を『乱戦』に強引に持っていくべくついにサレアスがフェルゾ王隊に参加して出陣する。彼(彼女)は本当はサイマス将軍の部隊の前に現れたかったのだが、どの部隊がサイマス隊なのか『アンフィスバエナ』達にはさっぱり分からなかったので適当な部隊の前に姿を現す。するとその部隊はハグニアス隊だった。
サレアスとハグニアスの関係性は『互いに顔と名前が合致するが特にそんなに話したことはない』程度のものである。アラマン兵は互いを『戦友』と呼び合う習わしがあるが、だからといって皆が皆と親しいわけではなかった。ただ『アサクレシス王国』と『高地貴族』たちはともに『ユート王』の時代に屈服するまで『アラマン王国』にとって脅威であり続けた者たちなのでちょっとした『共感』はあった。
相変わらずの無表情で、しかし『アンフィスバエナ』たちの前に立ってどこか『飄々と』しているサレアスに対してハグニアスが不信感いっぱいの顔で尋ねる。
「……あなたは本物のサレアス殿ですか……? あ、いえ、本物であるか証明する必要はありません。仮にあなたが本物であろうが『アンフィスバエナ』が用意した偽物であろうが我らがとるべき行動は一つしかないからです」とハグニアス。
彼の言葉とともに、命じたわけではないのだが『貴族戦士』達の合図で弓兵たちが『聖石矢』を構えた。
するとサレアスの横に魔獣に騎乗して進み出てきたフェルゾ王が正規兵たちに命じて『魔法攻撃』を準備させつつ、サレアスの手を引いて後ろに下がるように命じた。
『おい、貴様がこんな目立つところに出てきてどうする? 殺されるぞ』とフェルゾ王。
「ご心配ありがとうございます。ですがここは私が身分を明かして話をしなければならない場面ですので、もう少し友軍と話をさせてください」とサレアス。
『心配などしとらん、ただ貴様は利用価値があるというだけだ(不満)』とフェルゾ王。
二人の会話にハグニアスと『貴族戦士』達の眉毛がどんどん吊り上がっていく。だがそんなことどこ吹く風でサレアスが言う。
「私を殺すおつもりですか? 私の処遇は『家』の『名誉』にかかわることゆえ、『双角王』のご命令か、『アサクレシス族』の要請なしにハグニアス殿が『判事』になることはできませんよ」とサレアス。
『判事』はクノム人世界において裁判にかかわる役職だけでなく、広く紛争を調停する者たちを指すかなり広い意味の概念である(補足)。
ハグニアスは険しい顔になって告げる。
「……『できれば』あなたをこの場で殺したくはない。あなたに対して『けじめ』をつけるのはサイマス将軍殿だからだ。だから大人しく我らに従ってほしい……」
そこでハグニアスが一旦間をおいてから、
「……だがそもそも『免罪』になることはありえないのだから、もし抵抗するのであればやむを得ない事態になると覚悟されよ。私個人としてはそのような展開になることは本望ではない。戦友であるあなたを殺すことは、様々な出自の者たちが相和す『アラマン王国』の『統合』の理想に悖るからです……そもそも我ら『高地貴族』にとって『アサクレシス族』の雄姿はずっとまぶしいものでありましたし、『高地アラマニア』の土地に生きる者たちは皆あなたの一族の名声を聞いております……それがどうですかサレアス殿、そのふるまいは……」
ハグニアスがそういってサレアスに向って指を『ワナワナ』させながら指す。正確には彼(彼女)とその横にいる魔王フェルゾの両方をさして、
「……『アンフィスバエナ』どもに降伏しただけでなく、罪を重ねないために自害もしないどころかどうか、自ら『アンフィスバエナ』の軍隊に加わっているではないですか。しかもあなたは『盗賊ギルド』との戦闘で右腕を失ったはずなのになぜ元に戻っているのですか? それはどう考えても『アンフィスバエナ』からもらった腕ですよね? 『魔族』からそのような『恩』を受けた状態で我らの前に立ちはだかる意味を分からないとは言わせませんよ。『紳士』として恥じぬふるまいをしてくだされサレアス殿。これはあなたの『戦友』からのたっての願いなのです」とハグニアス。
ハグニアスだけでなく、彼の指揮下にある『高地貴族』達も皆『義憤』の顔のまま黙ってうなずく。『高地貴族』たちからの『アサクレシス族』への評価は実はかなり高く、ゆえにサレアスの振る舞いは彼らをひどく『がっかり』させ怒りを煽っていたのだった。
だがそれでもサレアスを相変わらずの無表情で答えた。
「……私は父祖伝来の『偽装降伏』によってこうやって『アンフィスバエナ』のもとにいるのです。すべては『アラマン王国』を勝利に導くため、すぐに友軍たちも理解していただけるはずです」とサレアス。
この『偽装降伏』の言葉にハグニアスが明確に『爆発』した。
「『偽装降伏』などと下手な言い訳を……実に見苦しいですサレアス殿! あなたがそこまで恥知らずな御仁であるのならもう我らが『けじめ』をつけねばなりますまい! 撃てぇ!」とハグニアス。
彼の命令で一斉にハグニアス隊が『聖石矢』を射かけ始める! 実はサレアスはここでいきなり攻撃されるとは思っていなかったので剣を抜いても間に合わず『聖石矢』を受けてしまうが、武装してたので鎧や小手、マントに兜で受け流した。その後剣も抜いて撃ち落したが、右腕のファイユは悲鳴を上げて、
『IIGYAAA!!?? やめろ! 右腕を使って聖石矢を払い落とそうとするな! 俺に刺さるだろうが!!(必死)』とファイユ。
「利き腕があなたなのでそうするしかないじゃないですか。『聖石矢』だって当たれば痛いですから」とサレアス。
『ええい遊んでるな! こっちに引っ込め! 後は我らの出番だ! GUOOOOOOOO!!』とフェルゾ王。
『GUOOOOOOOO!!』とフェルゾ王隊。
ここからは互いに『密集方陣』を組んだフェルゾ王隊とハグニアス隊の真正面の戦闘となったわけだが、この時明らかにフェルゾ王隊の『横幅』がハグニアス隊より大きかった。つまりハグニアス隊は『密集方陣』を組んでも『第一城壁』から『湿地』までの距離の半分くらいしか横幅がなかったのに、フェルゾ王隊はその『二分の三(1.5倍)』はあったわけである。
「(これはこのままだと包囲される!)戦友たちよ! 横に広がってくれ!」とハグニアス。
なので最初ハグニアス隊の方は『射撃』のみを行い、その間に自軍を『横に伸ばそう』とした。つまり兵士同士の間隔を広げて部隊全体の『横幅』を広げてフェルゾ王隊と同じ幅にしようとしたのだ。
だがフェルゾ王隊がそれに付き合う意味はないので、魔王はハグニアス隊からの『射撃』が始まるとすぐに部下たちにこう命じる。
『正規兵が結界を前に出し、使い魔たちがその向こう側から魔法攻撃を行え! しかし前には進むな!』とフェルゾ王。
『は!』
だが実は、この『横幅が長いフェルゾ王隊』は『幻術』によって兵士たちの数を『水増し』しているのだった。だがハグニアス隊は射撃を行いながらそれに気づくことはできない。『聖石矢』は『結界』に当たって地面に落ち、その『結界』はすぐに『リカバリー』されているので『幻術で作った偽兵士』自体には当たらないので解除されないのである。
次回へ続く。




