アルキオス・イル・ムカリオン&モストルス・イル・シシュマス159『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『バルダヤへの補足2』と『マカイラ使いのバルソイ族』と『タルキュア擾乱part507』の物語
『コロコス帝国歴史物語』、前回の続きでイスティが語り始める。
「カムサ先輩にはぜひ『話を先回りしない』ことを約束してほしいです……確かに先輩の仰る通り『ケライア王国軍』と『王族ダレブ人』たちは『クノム人兵士』を連れてきていませんでした……といっても少々語弊はありますね。『クノム人戦士』自体はいたのですが、優れた『船乗り』はいなかったのです。理由は簡単、『水晶海』には『海賊』が跋扈していて『船乗り』に港を留守にさせるのは危険だったからですね」とイスティ。
「『英雄オルシモス』が『水晶海』全域を『カイル同盟』に組み込むまではこの海域の治安はすごく悪かったそうだからそれを知ってたら当然成り立つ推測だわ(ふんす)」とカムサ。
「あ、『九頭竜王の乱』の経緯をしってたわけじゃねーのかよ」とハッシュ。
「部分的にしか知らないわ。クノム人が深くかかわらない歴史はあまり『クノムティオ』に情報がはいってこないもの」とカムサ。
『本当にクノム人って外国の歴史に無関心だよね……てそういえば『歴史家カナシオン』はいろんなところ旅行してるか……』とニムル。
「クノム人はむしろたくさんの著作家や詩人が『クノムティオ』の外に積極的に出かけているので他の民族よりむしろ好奇心と冒険心の強い人たちですよ(良心)」とイスティ。
さて、『バルダヤ将軍』はインディーン騎士の一人からの提案を受けて『軍隊を二つに分けて片方を『船』に乗せて『モトラ湖』を航行させ、もう片方は『モトラ湖』の沿岸に沿って陸路を進ませる』という作戦をとることにした。提案したのはインディーン人だったがこの作戦にはモートラ人たちも賛成した。
『名案だと思います。まず『モルバタエ人戦士』達の大半を『船』で『モトラ湖』の上を航行させ、陸路の方はバルダヤ将軍の麾下の騎兵軍が進むのです。『王族ダレブ人』と『ケライア王国軍』も恐らく『船乗り』は持ってきていないはずです。そしてすでに『モルバタエ人戦士』たちは皆『モートラ』に集結しているのですから『北荻軍』はモルバタエ人の優れた船乗りを現地調達できません。そうなれば絶対に勝てますよ。そもそも『ケライア王国軍』も『王族ダレブ人』たちも運河沿いでもなんでも『陸地』を通って『モルバタエ』に入ってきているわけですから、彼らが『船乗り』を連れてくるとは思えません。なぜなら彼等は『補給路』をしっかり整備できないゆえに『騎兵』の早さを利用しているからです……』とモルバタエ人。
そこでカムサが一言、
「クノムティオでも『騎兵軍の方が足がやはい(行軍速度が速い)』と良く言われるけど誤解よねそれ。馬は『瞬発力』はあっても『持久力』がないから距離が延びれば伸びるほど人間族のが徒歩で進む方が早くなるのよね」とカムサ。
「先輩の言う通りです。まあですが『王族ダレブ人』と『ケライア王国軍』は身軽なのは確かです。なぜなら彼らは『いちいち忠誠を確認したり降伏を宣告しながらゆっくり進む』ということしていないからです。いきなり襲ってきて略奪するか占領するだけですので、そういう意味で早かったんですよね。後地味な話ですが、『馬』を連れている者たちが多かったので多少荷物が増えても馬が歩くので人間側はそこまで疲れないということもあったでしょう」とイスティ。
「いや荷物増えたら馬がつぶれちまうだろ。遊牧民は馬を大事にしないのか?」とハッシュ。
「『大事にする』の意味が私たちとは違います。『いたわる』という意味なら全くそんなことはしませんね。よく乗り潰してから食料にしてるので。それに『モルバタエ』の遊牧民の土地ですので代わりの馬は手に入りやすかったそうです」とイスティ。
「どうせそこら辺の草を食べさせてこき使ってるんでしょうね。蛮人に飼われる馬も哀れだわ」とカムサ。
(そもそも『夢の世界』の人たちは大なり小なり動物をいたわらないよね……クノム人も人のこと言えないと思うけど……)とニムル。
そもそも『犠牲獣を捧げる』文化が盛んな『夢の世界』に『動物愛護』の思想が根付きようがない気もするのであった(これは偏見かもしれない)。
そして話は『歴史物語』に戻り、部下のインディーン人たちとモルバタエ人たちの『建言』を受け入れて『バルダヤ将軍』は『サルマワ』を救援すべく『モルバタエ人戦士5000』と自分の軍団『4000』の合計『9000』を率いて出撃したのであったという。
『……あれ? 前にバルダヤさん『4000の寡兵で王族ダレブ人とケライア王国軍の大軍相手に戦えない』とか嘆いてなかったっけ? ってあれは『モートラ』に向かう前か……』とニムル。
「でも結局『バルデュス(バルダヤ)』が『4000以上の軍団を指揮した経験がない』ことにはかわらないわよね?」とカムサ。
「あ、そういえばそうだったな……」とハッシュ。
「はい。といっても『サルマワ』に援軍に向かわないことには仕方ないので意を決したそうです……といっても、『自分が経験不足であることを知っていながら安易に積極策に出る』こと自体が『経験不足』の表れなんですけどね……」とイスティ。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『水の都の戦い:第四次攻撃』、ミュシアス&モストルス隊は本隊から切り離され『孤立』した状態でさらに『アンフィスバエナ』のアピル隊とタバサ隊に『挟撃』されつつあった。だがモストルスは怪我を押して兵士たちを鼓舞し続け、ミュシアスは『怪異』に遭遇しつつも『エデュミン』に接近する『友軍の輜重隊』と思しき部隊を認めたミュシアスはここで『賭け』にでる。彼は自分が乗っている『川舟』を漕いでいる漕ぎ手の兵士に『発進』を命じ、さらに全軍に向って叫んだ。
「(……神々を疑うな)全軍に伝達! 『挟撃』を受ける前に逃げろおお!!」とミュシアス。
『……え!?』とモストルス&ラレース&他の部下たち。
この時ミュシアスは『指揮官』として馬の代わりに『川舟』に乗っており、彼の船だけが単独で自軍から離脱したのだ。之を見てもともと『挟撃』に焦っていた彼の部隊があっという間に崩壊する。
だがモストルスと多くの『貴族戦士』たちはミュシアスが走る先にある『輜重隊』を発見してすぐに納得した。
「なるほど! そういうつもりですか!(徒歩)」とペルクロス。
「しかしこれは『賭け』ですよミュシアス将軍……!(徒歩)」と貴族戦士α。
「く、船で逃げるとは情けない……! せめて『しんがり』を務めるぞ!(指揮官なので川船に乗っている)」とモストルス。
「!? 了解しました! お供いたします!(同じ船に乗っている)」とラレース。
そしてそのアラマン兵たちと戦闘中だったアピル隊、さらには『密集方陣』を組み終えて今から攻撃に移る気でいたタバサ隊も驚いた。
『む!? なんだ!? もう連中の体力の限界か!?』とアピル。
『……あれは!? チッ! そういうことか!』とタバサ。
『!? なるほど『援軍』が来てたのか!』とアピル。
ミュシアスの意図にまずタバサが先に気づき、さらに『追撃』に入っていたアピルも一拍遅れて察した。ミュシアス&モストルス隊はアピル隊の正規兵たちの猛烈な『追撃』を受けつつも、こちらに向かってきていたアラマン軍の『輜重隊』に逃げ込んだからだ。実は彼等は『輜重隊』の接近には気づいていなかったのだ(仮に気づいていたとしてもそっちに回す兵力は正直なかったが)。
そしてこの『アラマン軍の輜重隊』はミュシアスが真っ先に接近した時、近づいてくる彼らに対して『聖石矢』を向けて叫んだ。
「その武装から友軍であるとお見受けする! 総司令官のお名前を聞かせ戴きたい!」と『輜重隊長』
「そういうあなたこそ『戦友』のようだ! 私は『ミュシアス・イル・オルトロス』! 『タルキュア方面軍』の将軍を引き受けている者です!」とミュシアス。
「それでは身分証明を! 御免!」と『貴族戦士』
そう叫ぶなり『輜重隊』の兵士たちがミュシアスに『聖石矢』を射かけたが、ミュシアスはすぐに『片手剣』を抜き放って矢を叩き落として見せた。
「ふん!」とミュシアス。
ガン! ガン! ガキィン!
だが彼はわざと一本だけ『聖石矢』を防がずに左腕に受けて見せた。そのまま『輜重隊』に近づき、左腕に埋め込まれた矢じりを示しつつ『クノム語ミストラ方言』で告げる。
「……俺は魔族が化けた偽物じゃなくて、もちろん『盗賊ギルド』でもない。後ろの兵士たちも皆正真正銘のアラマン人であることを神々に誓言しよう」とミュシアス。
このミュシアスの『日本語訳』はあまり正確ではない気もするが、現在クノム人世界では『クノム語トーラン方言』が一番『学術の議論に向く『ちゃんとした』言語』とされており、その中でも特に『ディレトス方言』が『もっとも洗練された言語』と見なされているため、それに比べると『オラクス方言』や『アラマン(ミストラ)方言』は『崩れたことば』に聞こえるのでこんな感じの翻訳が適当かと思われた(作者としても少々悩んでいるが)。
すると輜重隊長も護衛兵士たちに矢を下げさせてから今度は『クノム語ディレトス方言』で返した。
「あなた様を本物であると認めましょうミュシアス将軍。私は『コレノス将軍』から『輜重隊の護衛』として派遣された『フラグネス・イル・バルソス』と申します」とフラグネス。
そういってフラグネスが腰にある『曲剣』の柄をアピールする。ミュシアスはすぐに『クノム語ディレトス方言』に切り替えて、
「おお、あなたはあの『バルソイ族』の人ですか。『サルブルス王子殿』のご家臣の方ですか?」とミュシアス。
「サルブルス殿下……いえ、形式上はサルブルス『副将』と同列の『王の友』でございます。ただ現在はサルブルス殿とコレノス将軍の指揮下に入っております(重要)」とフラグネス。
『バルソイ族』は『イルブルス通史』にも一度名前が登場していた、『コロコス帝国軍が『ミルティオ』に侵攻した時に他のミールス人部族が次々と降伏する中山の上に籠って抵抗を続けていた勇敢な部族』のことである。彼等は結局『コロコス帝国軍』が『西方』から撤兵するまで支配に屈しなかったが、その後入れ替わるように『覇権』を築いた『マスファグ族ペセス(ピセイエ)大王』の支配下に組み込まれた。だが『コロコス帝国に頑強に抵抗した』ことから『マスファグ王国』でも高い地位を与えられていた部族である。
彼等は他のミールス部族のように『投げ槍を使ってのヒット&アウェイ戦法』をあまり使わず、代わりに非常に鋭利な『曲刀』を愛用し近接戦闘を好むことでも有名なため『曲刀部族』とも呼ばれていた(補足)。(実は昔のミールス人たちは『曲剣』で戦うことを好んだが、『庶民英雄シルケズ』の『軍事教練』で投げ槍主体に替わっていたのである。つまりバルソイ族は庶民英雄の教えを拒否した者たちということである)。
だが『ホック(オコス)大王』の死後『マスファグ王国』が『直系の息子ゲオルテスカ(クノム語名:ゲオルテスコス)』と『傍系親族バルカ(ブルコス)』と『元マルシア人傭兵のベルメン(ベルモテス)』の三人の王によって三つに分裂すると、『バルソイ族』は『ゲオルテスカ王』に忠誠を誓って臣従していた。ちなみにこの『ゲオルテスコス・イル・マスファグ王』が『サルブルス(ミールス語でもサルブルスのまま)・イル・マスファグ』の父親である(補足2)。
ちなみにだが、『ホック大王』の直系の子孫が『ゲオルテスカ王』だけなので『アラマン王国』では彼の王国だけが『マスファグ王国』と呼ばれていて、残り二人の王国は『バルカ王国』とか『ベルテモス王国』とか呼ばれていた。だが実際バルカ王も『マスファグ族』の一員なので『マスファグ王国』を自称していて、ベルテモスも妻が『マスファグ族』だったのでやっぱり自称は『マスファグ王国』だったりする(ややこしい)。そして『ユート王』はこの三つの王国を順番に征服する過程で『ベルメン王とバルカ王』は『廃位』後処刑したが『ゲオルテスカ王』だけは『廃位』だけにとどめて家臣として登用している(なので本来ゲオルテスカを『王』と呼ぶのは間違いなのだが、慣習的に『王』と呼ばれていた)。(補足3)。
そしてさらに細かい話だが、『アサクレシス王国』もサイマス将軍の父王『オルコス(オルキ)王』も既に『ユート王』に『廃位』されているので『王』ではない。だが皆からは未だに『王族』として扱われていたりする(補足4)。
簡単に自己紹介をした後、ミュシアスとフラグネスは背後から追いかけてきた友軍の兵士たちを見て、
「……コレノス将軍が『輜重隊』に護衛をつけていただいているという話は初めて聞きましたが、まあ詳しい話は後にしましょう。戦闘に移れますか?」とミュシアス。
「もともと敵地を進んできてるのですから問題ありません。いくぞ貴様ら! ヤーハッラー!」とフラグネス。
『ヤーハッラー!!』と『バルソイ族戦士団』
彼はそういって後ろの部下たちとともに愛用の『曲刀』を抜いて煌めかせたのだった。次回へ続く。




