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サイマス・イル・アサクレス126『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『ミナワンダ女王の寛仁の終わり』と『魔界に咲く天文と哲学の花』の物語

『コロコス帝国歴史物語』、ミナワンダ女王とサルマン王子の『手紙のやり取り』が続く。


『奴隷の売買が『福祉』? お父様と兄さまが聞いたら卒倒するでしょうねサルマン。『タイモーン』にそう吹き込まれたわけ?』とミナワンダ女王。


『違います。私の考えです。ただ『諸王の王』が『インディーン・フェイダーン王国』の『再統一』を達成するためには『ハリスコ人』達の協力が絶対必要でした。『知将マニーヤ』を倒すためにはどうしても彼等の要求をのまねばならなかったのです……そもそも今の『反乱』がおこった経緯を思い出してください姉上。『ダイモーヤ王』が先王『カラミスヤ三世』陛下を暗殺してから『マニーヤ』が反乱を起こしたわけではありません、『マニーヤ』が反乱を起こしてから『カラミスヤ三世』が暗殺されたのです。『マニーヤ』の狙いは明らかに『インディーン・フェイダーン王国』の崩壊であり『カイバーン二世』の功業の否定でした。もし姉上が私を非難するのなら、あなたも同じ『罪』を背負っていることを自覚為されるべきです』とサルマン王子。


 この手紙にミナワンダはちょっと返事が遅れたが、結局こう返した。


『マニーヤはタイモーンが兄さまを暗殺して王位を僭称したことを察知して『反乱』を起こしたと述べているわ』とミナワンダ女王。


『そこれそ事実ではありません姉上。『マニーヤ』が反乱を起こした後『カラミスヤ三世』が『討伐』の勅命が下されたことは当時の誰もが知っていたこと、今更このことをごまかすことはできませんよ姉上。マニーヤは『自らが王になること』を目論んだからこそ『ハズミシュ二世王』を『傀儡』として独立を宣言したのです。彼には『カラミスヤ王朝』を継ぐ『正統性』がありませんでしたから『四英雄国の復興』という形をとっただけ。彼は『己の野望』に忠実に動く『中身のない罪人』であり、その男を庇った姉上も非難されるべきです。姉上が『正義アシャ』であるなどと名乗ることはできない……私たちの『手紙のやり取り』はまずその前提に立って行われるべきであると私は考えております』とサルマン王子。


 ミナワンダはまたしても返事に少し悩んだ。横で『手紙』を見ていた『リミニル王アルベラシム』が愉快そうに肩を揺らして、


『ふっはっはっは! 弟にいいように『丸め込まれている』なミナワンダ! 何も言い返せないんじゃないか!?』とアルベラシム。

『やかましい(怒)。口だけは立派になったようねサルマン……でも残念だけどこれで私の『寛仁』は売り切れだわ……弟だからってもう容赦しない、本当の『交渉』ってやつを見せてやるわ!(怒)』とミナワンダ女王。


 彼女は『やり方』を変えることにしてさらに『手紙』をおくる。このことについてカムサがコメントした。


「……今になって思うと、『反逆者』である『マナユス(マニーヤ)』を迎え入れたのは『悪手』だったかもしれないわね。『大義名分』的な意味で」とカムサ。


「そうですね。ですが『ダイモーヤ王』が『諸王の王』を名乗り『同胞の奴隷化容認』を打ち出した時点で『ミナワンダ女王』はそこを攻撃するにきまってますし、ある意味『その点を攻撃するように仕向けられた』ともいえるでしょう。そうなったらミナワンダ女王は『正義』を掲げなければいけませんし、当然自分に『正義がある』と主張するのなら『マニーヤ候』を受け入れたことが矛盾する……ある意味、ミナワンダ女王は最初から『議論』ではサルマン王子に勝ち目はなかったわけですね」とイスティ。


「でもまぁ、そもそもマナンディスもそんなこと最初から分かってただろうけどな」とハッシュ。

「その通りです。分かっていたからこそサルマン王子に手紙を書く前に『レーム封建騎士』たちを焚きつけて反乱にそそのかしてしました」とイスティ。

『ミナワンダ女王、結構やり方が『荒くれ者』だよね……』とニムル。


 ミナワンダ女王はここから『本格的説得』を始めたのだった。次回へ続く。










『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』


 オルトロス隊はいまだ『七重城壁』をもつ『山手アクロポリス』を前にして『目抜き通り』左側の『城壁(瓦礫の山)』の上に築いた『陣営』で休息していた。対する『アンフィスバエナ』たちも『アラマン軍が動くまでは動かない』と決めて休憩していたのだが、オルトロス隊はそれを知らなかったので魔王軍の動きを警戒し続けていた。


 時刻は夜(?)である。一応『太陽』と思しき空に浮かぶ七つの光る星が地平線に沈むのが見えたのでオルトロス隊は警備兵を残していて寝ていたのだが、代わりに空には10個の月(?)と思われる星が輝いており、明るさにそんな違いはなかった。


 そんな月(?)を眺めてある警備兵たちの会話が巡回中のサイマス将軍の耳に飛び込んできた。

「月と太陽は明確に明るさが違うのになぜ同じに見えるんだろうな?」と兵士α。

「さぁ……? 『瘴気』のせい……どっちも等しく『瘴気』に隠れてるなら太陽の方が明るく見えるはずか……(兜を脱いで頭ポリポリ)」と兵士β。


 するとそこで別の兵士γが通りかかった。どうやら彼は矢の束を運んでいたようである。彼がこんな話をした。


「……もしかしたらこの『瘴気』は『太陽』まで届いてるかもしれんな。太陽の方が月より遠くににあり、さらに太陽から地上までの距離の方が月から地上までの距離より『長い』らしいから、その間の距離(空間)に『光』を弱らさせる『瘴気』が満ちていると考えたら、太陽の光の方が月の光よりより『瘴気』を通過する距離(時間)が長くなるから、その分『瘴気』に光が『殺される』んだろう」と兵士γ。


 クノム人世界、というかこの時代の『夢の世界』では『天文学ウラーニアー』の成果によって『太陽は月より遠いところにある』ということはわかっていた。だが『地上から天体までの距離』は本来よりも極めて近いと誤解されており、『太陽や月がある高さまで空気がある』とか『空気は月まででその上には別のものがある』とかいろいろな議論がなされていた。だが『魔法』で空を飛ぼうとしても月にすら到達することが出来ないので(飛行呪文を鳥と同じ高さまでしか飛べない)、魔族ですらも本当はどうなのか知らなかった。


 ……というか、正直なところ『夢の世界』の天体や宇宙が本当に『現実世界』と同じという保証もどこにもない。見かけは同じに見えるだけで本当のところは『転生者』達も分からなかった(補足)。


 兵士αとβが兵士γの話に感心して、

「へ~! それで本来太陽の方が月より光が強いので、ちょうど地上に届く光が同じくらいになっていると?」と兵士α。

「あんた別の隊の者だな? なんだ? 故郷では『教養人ソフィスト』だったのか?」と兵士β。

「俺は『アロス』の出身でな。そこでちょっと『哲学』を学んでたんだ。本当は『タルキウス先生』が教鞭をとってた『大学校ミエザ』に入りたかったんだが、俺は『家格』が低くくてな。だが『哲学者フィロソフォス』と呼びたいのなら呼んでもらっても構わないよ(ドヤ)」と兵士γ。

『はははは! 『哲学者』ね! 今度からそう呼ばせてもらうよ!』と兵士α&β。


 彼らはその後サイマス将軍が近づいてきたのに気づいて挨拶し、兵士αとβはそのまま警備を続けてγは自分の持ち場へ戻っていった。


 立ち去る兵士γの背中を眺めながら『アサクレシス王国騎士団』の者が兵士αとβに告げた。

「……さっきの話は聞かせてもらったが、なかなか興味深い話だった。ならもし今が夏だったら太陽の方が多少は明るく見えるということだろうか?」


 そして『哲学』の学派の一つ『アラトス学派』では『夏が暑いのは日照時間が長くしかも太陽の位置がより地表に近いから』という説が提唱されていて、クノム人世界ではおおむね『真』であると考えられていた。『地表に近い』とする理由は夏の方が冬より太陽の位置が地平線に近いからである。同じ理由で『北が寒く南が暑いのも太陽が南側を通り北側を通らないから』と主張されていた。これは実際のところ『北半球』での素朴な観測結果をもとにした『推測』に過ぎないのだが、クノム人は『大地は球である』ことは知っていても『自分たちの活動範囲が北半球に限定されている』ことはよく理解していなかった。


 だが実は過去に『アルディアーナ』が派遣した『冒険家バルコス(これはクノム語名。『王』とクノム人は呼んでいるが本当は『執政官スーフェース』)』が『南方大陸』の西側に広がる『最果ての海(別名『アトランティス海』)を南へと船を進め、『灼熱の砂風に焼かれる海』を越えると『太陽が北に見えた』という記録が『アルディアーナ』の『都市神殿』に残されており、『バルコスの大冒険』の話はアルド人たちに今でも読み継がれる作品であった。だがクノム人たちは『辺境海アトランティス』は『異世界』だと思っているので重要視していなかった(補足)。



 騎士団の者の話に兵士αとβが答える。

「そうですね。夏になれば分かるかもしれませんが、さすがにそんな長期間『魔界』に居座るつもりはないですからね」と兵士α。

「そもそも春になったら『カハル川』が涸れるそうですし。確かめることもできませんしね」と兵士β。

「ふぅむ、ぜひ『哲学者』の先生にこの『驚異』を尋ねてみたいものだ……いや、『アンフィスバエナ』たちなら何か知ってるか……?」と騎士団の一人。

「はは! 『アンフィスバエナ』の捕虜を捕らえたら聞いてみますか!」と兵士二人。

「……おほん」とサイマス将軍。


 なんだか和気あいあいな雰囲気になってきたのでサイマス将軍が軽く咳払いすると、部下たちはぴたりと会話をやめた。


「……引き続き警備に励んでくれ。それでは」とサイマス将軍。

「は! 将軍殿も頑張ってください!」と兵士二人。


 サイマス将軍がその場を離れてその話はこれっきりになった。彼が騎士団たちに言う。

「……『哲学』というものは相変わらずさっぱりだ。俺は『大学校ミエザ』に呼ばれなくてよかったと思っている。『太陽と月の明るさが同じに見える』など、『瘴気の妖しい力でそう見える』で十分だろうに」とサイマス将軍。


 すると部下たちがこう言い返す。

「そんなこと言ってしまったら『学問』がすべて無意味になってしまいますよ。『幾何学』がなくても『農民』なら生きていくことはできますが、『権力者』として土地を測量して税を定めることが出来ないのは致命的です。『学問』を軽視してはいけませんよ王子」と騎士たち。

「……似たようなことはもう飽きるほど聞かされてるよ……(嫌そう)」とサイマス将軍。


 アラマン王国の貴族たちは『脳筋』だが『教養』や『学問』に対して嫌悪感は持っておらず、むしろ『哲学者』や『教養人』に対しておおむね『尊敬』の念を持っていた。これが『戦闘民族』と呼ばれながら学問を発達させてきた『クノム人』の特徴的な文化の一つである(だが勉強しかできない『ガリ勉』はあまり尊敬されない)。


 次回へ続く。

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