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マストカ・タルクス⑮魔法の洞窟と空飛ぶ爺さんの話

今回更新はやいです。

 シュナはよく俺にこんなことを言う。

「若殿、魔術師にとって最も重要なことは何だと思います?」

「えっと、戦闘中に呪文を間違えない冷静さ?」

「ふふ、まあそれが正解でもいいですけど。私が用意してた答えは違いますわ。それは『魔法とは不思議な物』という心構えですわ」

「?? どういう意味?」

「そのままです。奇怪な体験をした時にこの言葉を思い出してくださいませ」

「……大丈夫任せて。シュナの言葉は絶対に忘れないよ」

 ちょっとカッコ良くない今の言い方?(ドヤァ)



 アラトアでは秋になると貴族達が夜に集まって『トモロ』という植物の花を観賞しながら宴会をする。

『トモロ』は昼間は普通の黄色い花なんだけど、夜になると青白く発光する。月明かりの下だとすげぇ綺麗だ。

 ちなみに、アラトアでは昼間はおしとやかだが夜は激しい女性を『トモロの花』と言うらしい(エロいスラング)

 ある秋の夜、俺は一人庭に出て月を眺めていた。

 世界は違っても月は同じだ。やっぱり秋は月見だろ?

 そこにシュナがやってきた。

「若殿見つけましたわ。奥様がご病気なのはご存知ですか?」

「は? 母上が? 聞いてないんだけど……」

 そういえば俺はここ3日ほど母上を見ていない。

 ていうかタルクス家の屋敷はでかいし、母上は基本寝室と自分専用の書斎を行ったり来たりしてるだけなのだ。特別用事がないと会いに行くことがない。

「具合はどうなの?」

「魔法薬を作れば明日には回復してるでしょうね。とりあえず来てください」


 母上の寝室に入ると父上と召使達が母上を看病していた。

「マストカ、久しぶりに顔を見ますわね……見ての通り母は病気です」

 母上が苦しそうにベッドの上で言う。シュナはすぐに部屋から出て行った。

 長い赤毛に気の強そうな鋭い目をしている。気難しくてちょっと怖いのが俺の母、ニニメだ。

「大丈夫なんですか?」

「魔女が薬を用意するそうです、心配ありません。お前はもう寝なさい」

「あ、はい……」

 父上が『後は任せろ』と言ったので俺は部屋を出た。

 うーん、やっぱり母上はちょっと苦手だ。父上は気さくで接しやすくて、母いわく『貴族らしくない』人だ。

 逆に母上は父いわく『嫌になるくらい模範的な貴族女性』だそうだ。父より勝気なので完全に尻に敷かれている。

「若殿、ちょっとおつかいを頼んでもよろしいですか?」

 部屋の外にはシュナが立っていた。ちょっとびっくりした。

「……えっと、おつかいって何?」

「魔法薬の原料を採ってきてほしいのです。帝都の南門を出てすぐの所に『クリトルの小山』という小さな山があります。その山の中に洞窟がありまして、その中に生えている『ビーマ』という草の葉っぱを持ってきてほしいのです……これが実物ですわ」

 シュナが懐から葉っぱの形をしたガラスを取り出した。

 いや、ガラスみたいだけど触ると柔らかい。肉厚の葉っぱだ。

「不思議な葉っぱだね……ていうか既に持ってるじゃん」

「足りないのですわ。あと5枚ほどこの葉っぱがあれば十分な量の薬が作れます。若殿今から持ってきてください、私は薬を煮込むのに忙しいので」

「そっか、分かったよ」

 俺は引き受けてさっそく外出の準備をしようとしたらシュナがまた呼びとめた。

「若殿、『魔法とは不思議なもの』ですわ。忘れないでくださいね?」

「? 分かったよ……」

 俺は魔法剣を持ち、いつも乗ってる白い馬に乗って出発した。


 本来なら帝都の城門は夜になると閉ざされていて通行出来ない。

 だけど俺は貴族なので、圧倒的特権パワーをごり押しして無理やり門を開けさせた。

「しばらくしたらまた帰ってくるからちゃんと開けてくださいね」

「勘弁してくださいよー! これ本当は違法なんですからね! いくらタルクス家の御曹司だからってワガママ過ぎます! バレたら処罰されるのは俺達なんですよ!」

「はっはっは、そんじゃまたー!」

 不満タラタラで文句を言ってくる門番達。俺は笑ってごまかして馬を走らせた。

 なんか申し訳ない……でも仕方ないね。

 南門から伸びる道を走ると暫くして右手に小さな山が見えた。

 これがシュナが言っていた『クリトルの小山』か。俺は道を外れてそっちに向かった。

「よし、お前はここで留守番しててくれ。すぐ戻ってくるからね」

「ブルルッ……!」

 俺は森の入り口の木に馬を繋いだ。こんもりと木が茂ってる小山だ。

 森の中は月明かりが届かないので明かりをつけた。

 俺はもう片手に『星空の剣』を持って1人で森の中に入った。

 森の中は『モンテールの丘』と似たような感じだ。遠くから色々な鳴き声が聞こえてくるし、割と光る物も多い。


 しばらく歩いていると、大勢の声が聞こえてきた。

「ガハハハ! 今日は運が良い! こんなデカい儲けは久しぶりだ!」

「へっへっへ親分の勘はすげぇっすねぇ! こんな金貨の山は見たことねぇ!」

「酒だ酒! 久々に浴びるように飲みたいっすねぇ!」

 俺は咄嗟に近くの木の上に登って隠れた。もし戦うなら頭上を取った方が有利だからだ。

(あれは……山賊?)

 少し離れた所に大きな岩石がある。その前に沢山の袋を抱えた30人くらいの傷だらけの男達がやってきた。袋の口からは金銀宝石が見える。どうやら略奪品のようだ。

 どいつもこいつも滅茶苦茶人相が悪い。中には数人の魔法使いも居た(もちろん皆顔が怖い)

「親分、新しい倉庫はどこすか?」

「ああ、ここに1つ洞窟があったからな。そこを岩で塞いで秘密の倉庫にしたんだ、ここだ」

 親分らしき男が大きな岩に手を触れて叫んだ。

「俺は狼、口を開けろ!」

 すると岩の一部が動いて入り口が現れた。

「おらさっさと荷物を入れろ!」

「へい!」

 山賊たちがせっせと荷物を中に運び込んだ。終わると勝手に入り口が閉まった。

 山賊たちはぞろぞろ立ち去って見えなくなった。


 俺は木を降りてから大きな扉の前に来た。

「……さっき『洞窟があったから入り口を岩で塞いだ』て言ってたな……てことはここがシュナが言ってた洞窟? 薬草もこの中に生えてるのか?」

 でも山賊の倉庫になっているということは、除草されてるんじゃないか?

 いや魔法薬の、しかも回復薬の原料だ。山賊団の中には魔術師もいたし、大事に残すんじゃないか? 

 うーん……。

(とりあえず中に入ってみればいいんだけど……)

 俺は小声でそう言ってから慎重に岩に耳を当てた。

 何も中から音は聞こえない。

 さっき岩は自動で開閉していたように見えた。どうやって自動で動いていたのだろうか? 想像できる方法は2つだ。

 1つめ、中に仲間が居て開け閉めしている。

 2つめ、魔法で開け閉めしている。

「……もし1つめなら、俺がここを開けようとしたら仲間が出てきて襲ってくることになる。敵の数も装備も分からないし、もしかしたら『使い魔』の可能性もある。『星空の剣』があるから負ける気はしないけど、時間がかかるのは困るな……」

 だが2つ目なら? さっきの盗賊のボスが唱えた合言葉に反応して自動で開く魔法の扉だったら? 中には誰もいない、つまり簡単に入れるってことだ。

「一体どっちだ……?」

 色々辺りを調べてみるが、どっちなのか判断出来るものはなかった。中に何か居て扉を守っているか、それとも無人のオートセキュリティか、可能性は50%だ、どっちだ? 母上のことを考えると時間はかけられない、一体どっちなんだ!?


 ……いやだから悩む時間ないんだって!

「……もうなんか面倒くさくなってきた。実際に開けてみればいいんだ。魔族が出てきたら出てきた時、でてこなかったら出てこなかった時、そうだろ?」

 これは賭けだ。

『若殿、重要なのはほんの少しの勇気なんです』

 シュナの言葉が思い出される。俺は自分に喝を入れた。

 行け俺! 父上も言ってたじゃないか!

 俺はもう一人前の男なんだ! いけ!

「『俺は狼、口を開けろ!』」


 一瞬の静寂。

 ガタンッ!

 中から何かが動く音がして岩の一部がずれ、入り口が開いた。

 再度静寂。

 俺は恐る恐る中を覗いて確認したが、何も出てこない。

「うわ……すげぇ」

 それどころか洞窟の中がものすごく明るくてびっくりした。

 そこは宝物の山だった。金銀宝石が山積みになっている。光を放っているのは魔法の宝だろう、まるでここだけ昼間のようだ。

 俺は山積みの宝物の中から『ビーマ』が詰め込まれた袋を発見し、ガッツポーズした。

「やった! 賭けに勝ったぞ!」


 目的の物を手に入れたので洞窟を出ると、やはり勝手に入り口が閉まった。

 俺は鼻歌交じりで小山を降りると、来た時に馬を繋いでおいた場所に馬が居なかった。

「あれ、あ、あん?」

 俺は一瞬自分の目を疑った。先ほど馬を繋いでおいた木に知らない爺さんが繋がれているのだ。

 爺さんはじっと俺を見つめている。俺の馬につけていた手綱がなぜか爺さんの首についていた。

「あの、誰ですか? ていうか俺の馬は?」

 爺さんが無言で明後日の方向を指すと、遠くを走り去る俺の馬が見えた。

「ちょ!? なに人の馬逃がしてるんですか!? ていうか手綱を返せ!」

 すると爺さんがいきなり土下座して、そのまま地面に丸まってしまった。

 これじゃあ手綱を取れない! なんなんだこのジジイは!?

 ……ていうか、なんでこんなヨボヨボの爺さんがこんな所に居るんだ? おかしくないか? 山賊だってうろうろしてる場所なのに、いくらなんでも不用心過ぎる……。


『魔法とは不思議な物なんです』

 俺はシュナの言葉を思い出してじっと爺さんを観察した。

 爺さんはちらっと俺を見た。相変わらず背を丸めて地面に蹲っている。

 ……もしかして乗れって言ってるのか?

 なんでそんな発想が降りてきたか分からない、でも馬がないから何か別の乗り物が必要なのは事実だ。

 俺は躊躇いがちに爺さんの背中に跨った。

 瞬間、爺さんが跳躍した。

「うわあああああああああ!?」

 爺さんが俺を乗せたまま空高く舞い上がる。振り落とされないように必死に手綱に掴まり、わずか3回の跳躍で俺達は帝都の真上の空までやってきた。

「ふん!」

 いきなり空中で爺さんが手綱を引きちぎり、俺が真っ逆さまに落下する。

「うえあああああああああああああ!?」

 そのまま俺はタルクス家の庭の木に墜落した。いきなりの騒音に屋敷の中から皆が飛び出してきた。

「何事だ!? ん? マストカ!? そんなところでなにやってる!?」

 父上の頭上で木にぶら下がっている俺が、『ビーマ』の葉っぱを見せた。

「はへへ……薬草を見つけてきました……」

 皆が眼を白黒させていた。

 俺が持ってきた葉っぱで母上の病気はすぐに治った。

 そして俺が持ってきた情報に従って山賊団が1つ潰滅した。没収された財宝の一部が褒美としてタルクス家に与えられたので、これで一応フェリの件の償いは出来たと思う。

 それにしてもあの爺さんは何だったんだ……?

 シュナに聞いてみたが『魔法とは不思議なものですよ?』とほほ笑まれただけだった。


自分で書いててよく分からない話です(哲学)

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