表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1572/2313

サイマス・イル・アサクレス110『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『ダイモーヤ王の返事待ちと『仲買人』』と『籠城戦と攻撃待ち』と『タルキュア擾乱part370』の物語

 前回1500部突破を祝おうかと思いましたが、どうせさらに『イルブルス通史』が割り込まれてズレるのでやめておこうと思いました(笑)。(すみません)

『コロコス帝国歴史物語』、結局何の『実り』もなかったので『捕囚民共同体代表アンダゼブ』が『諸王の王ダイモーヤ一世』のもとを辞すことにした。


『……それでは『諸王の王』よ、思ったより長く厨房をあけてしまっていたので私はこれで。『エルレイアー教の伝統を無視する覚悟』を決められたのでしたら迅速に家臣団を招集して布告をなされるのがよろしいかと』とアンダゼブ。


 ダイモーヤ王がずっと座っていた自室の椅子の上から立ち上がって、

『……一応すでにカルマンとアルマスに連絡してやつらの話も聞いている。そろそろ返事が返ってくる頃だ』とダイモーヤ王。


『それは『ミナワンダ王妃との最善婚フワエートワダサ』の件でですか?』とアンダゼブ。

『そうだ。だが返事が来たらさらにお前と話したことも伝えておきたい。特にカルマンにはな。やつなら『聖典の解釈を曲げず伝統を保守しながらも『諸王の王』を正当化するテクニック』をもってるかもしれんからな。なんといってもあいつは父上と兄上が信頼した『ケリュマーン氏族』の当主なわけだし』とダイモーヤ王。

『いやですからその破綻した願いは誰であっても実現不可能ですって(呆れ)』とアンダゼブ。



「カルマン神官長とアルマス卿からの返事はその数日後に届いたそうです。それまでダイモーヤ王はハリスコ人の家臣たちから再三『はやくミナワンダ王妃と結婚するのかしないのか決めてください』と要求されても無視してたそうですね。なので『謁見殿』にも顔を出さずにずっと自室に閉じこもってたそうです」とイスティ。


「それだと政務が滞ってたでしょうね」とカムサ。

「それがこの時点では『政務』の大半は『ハリスコ人貴族』たちに任せていたので特に問題なかったとか。彼らが国家を経営し税を集めていたので、ダイモーヤ王が行っていたことは基本的に『戦争』の方だけですね。各地に派遣している軍団からの要求に従って食料を送っているだけですが、その『配送業務』もハリスコ人たちが請け負っていたので大まかな指示を出すだけでよかったそうですし」とイスティ。


『『ギナム貴族』たちを丸ごと排除したのに社会がちゃんと回ってるんだね……(感心)』とニムル。


「その言い方は厳密には正しくはないのですが……まあいいでしょう。実はこの時点で『ハリスキーナ』は地域的な差が多少はあっても『貴族の大土地所有』がかなりの程度進行してたそうです。『ギナム貴族』たちが国土の6割ほどを『私領』にしていまして……実はこれは『広義の意味での私領』なのですが、まあ細かい話は割愛します……そこに住む農民たちを『小作人』として支配していたそうです。ですが実際の『農場経営』は部下であった『超名門貴族』や『捕囚民共同体』が請け負っていたそうです。彼らに経営を任せる代わりに『リース料』をとっていたわけですね」とイスティ。


「(難しい話してんなぁ)つまりあれか? やっぱり『東方』は糞ってやつか? 農民は自分の土地をもてねーで他人(貴族)の土地を耕作させられてる……(ドン引き)ってことであってるよな?(自信なし)」とハッシュ。

『まあ、そんな状態ならそりゃあ『カイバーン二世』に負けるよね……(呆れ)』とニムル。


 二人の反応を見てイスティは思う。

(どうやらお二人はかなり『勘違い』をしているようですね……『東方諸国の農業事情』の話は脱線するので今は避けますが……)とイスティ。


 カムサだけは視点が違った。

「『リース料』ってのが気になるわね。『貢租(直接税)』って理解でいいのかしら?」とカムサ。

「あ、いえ、まず『貢租』とは別です。もちろん『貢租』もありましたが、この『リース料』はどちらかというと『賃料』ですね」とイスティ。

「ふ~んなるほどねぇ……つまり『四英雄国』は『王でなければ奴隷』という『国制ポリテイア』だったってことでいいのかしら?」とカムサ。

「言葉がたりませんでしたね、そういうことです。『四英雄』が民衆に課すのが『貢租』、ギナム貴族が『リース料』ですね。『聖戦の大魔帝国』を否定した彼らがその制度を踏襲するのは『歴史ヒストリアイ』の皮肉ですよ(歴史好きのツボ)」とイスティ。

「つまりは『徴税請負人制度』なわけね。確かにそういう人なら『捕囚民共同体(異分子)』はうってつけじゃないかしら?」とカムサ。

「そういう側面もあったということですね」とイスティ。

『????』とハッシュ&ニムル。


 ついていけていない生徒がいたがイスティは構わず続ける。


「……そういうわけで『新サルザリア王国』は『ギナム貴族』たちはいなくなってもそこまで困らなかったそうでよ(繰り返すが厳密には語弊がある)。そして実はその社会構造は『コロコス帝国』にも受け継がれて現在まで存続してるわけですが……その話も今は割愛しましょう。色々と入り組んだ話になりますので」とイスティ。


「またいつものやつか……(呆れ)。まあとりあえず『東方は奴隷ばっかりで糞みたいな場所』ってわかればそれでいいか(のんき)」とハッシュ。

「全然理解していないし、仮に『東方がひどい』なら私たちは今その酷いところにいるのよ(呆れ)」とカムサ。

『ひどい状態なのは事実だし……(苦笑)』とニムル。


「それにしても『新サルザリア王国』の時代から王から土地を借りてそれをさらに部下に又貸しする……まるで『仲買人(交易商人と小売業者をつなぐ橋渡し役)』のようね。西方では考えられないわ。農場は自分の奴隷に耕させるだけなら収穫は全部自分の物なのになんで他の人から借りるのかしら? 又貸しなんてしてたら収穫をどんどん『中抜き』されるだけだし……『カミス』でだってそんなこと誰もしてなかったはずだわ」とカムサ。


「確かにクノム人には理解しがたい『国制』だと思います。ですがその制度にもかなりの『利点』があるんですよね……そして実は『超名門貴族』や『捕囚民共同体』の中には『ギナム貴族』と親戚関係になってその『橋渡し役(仲買人)』になってる者たちも多かったそうですよ。だから問題なく入れ替われたわけですね」とイスティ。


(つまり『中抜き』ってこと? 『ギナム貴族』って結構あくどいことやってんだな~)とニムル。


 彼女は『橋渡し役』の重要性や『農地のリース』の利点を理解していなかったが、一族が『橋渡し役』ででもなければ分からないのが普通だった。次回へ続く。














『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』


『エデュミン』市内で演説して市民たちの『戦意』を高めた後ハピは、フェルゾ王の『エデュミンを第二のベニアとせよ』との言葉を受けて『都市神殿』に『ベニア市長エンカルニ』の大理石像が建立された(市内にあったエルレイアー教神殿に使われていた大理石の柱から削り出した)。『盗賊ギルド』たちを通じて『エンカルニ市長』が『ベニア市民兵』たちを率いていたことを知っていたからである。


 つまりはクノム人世界でいうところの『英雄へロス』だ。『死した者たちは神となる』エダイラ人たちにとっては死者の神格化は戦意を鼓舞するための常とう手段だった。


 このように『アンフィスバエナ』と『エデュミン市民』たちによる『籠城戦』の準備が進められていく。かたやミュシアス隊は相変わらず『高所』に陣取りながら目の前の『アンフィスバエナ(四天王)』たちの部隊と『エデュミン』の城壁を眺めながら、


「……敵の攻撃はなさそうですね。先ほどの魔王の感じですと攻撃を開始するかと思いましたが……む?」とミュシアス。


 彼の視界に『湿地』の上を『埋め立て地』の方向から進んでくる一団があった。明らかに『アンフィスバエナ』たちでこちらに存在をアピールしてきている。


 ミュシアス隊の目の前でその『アンフィスバエナ』の部隊……『埋め立て地』から戻ってきたアピル隊が『エデュミン』の近くで待機していたタバサ、ニラト、ガムルの部隊と合流した。


『『埋め立て地』から帰還した。魔王様は市内か? なぜ目の前にアラマン人(ミュシアス隊)がいる? 俺は中魔王様に改めて報告しなければならない』とアピル。


『四天王』全員集合である。すぐにタバサがアピルの顔の前に顎を突き出して威嚇した。


『結果を聞かせてもらおうかアピルよ。『埋め立て地』に折角築いた拠点を失ったそうだな? しかもこっちにおめおめと帰ってくるとは。アラマン人たちは追撃してこない『作戦』でも講じてあるのか?』とタバサ。


 アピルが牙をむいて返す。

『貴様はいつから魔王様より先に報告を受ける権利を与えられた?』


 さらにニラトもタバサの横に立って、

『盗賊ギルドどもも逃げたそうだな。なぜ捕らえなかった? 結局貴様がやったことはすべて無駄になっただけでなく、『エデュミン』すら危険にさらしている。責任を取ってもらおうか?』とニラト。


 その言葉に『四天王』三人の部下たちが『そうだそうだ!』と吠え声をあげ、アピル隊の傷ついた正規兵たちが逆切れして怒りの声を上げる。


『最も難易度の高い任務にあたっていた我らへの仕打ちがこれか!?』とアピルの部下α。

『アピル将軍! このことも魔王様にご報告いたしましょう!』とアピルの部下β。

『そうです! 負傷している我らに対してこの扱いは不当です!』とアピルの部下γ。


 戦闘の疲労と『行き詰まり』のストレスで兵士たちは爆発寸前だった。ニラトとタバサが『こんなことやってる場合じゃない』と思っていても兵士たちの文句を言いたい想いは止められなかったし、そもそも二人はアピルの『失態』を攻撃するチャンスだった大喜びで『溺れる犬を棒で叩く(彼らの場合は溺れていたらそのまま沈めてしまうのだが)』を実行していた。


 だがガムルただ一人は彼らの言い争いに割って入って止めにかかった。

『愚か者どもめ! 敵の目の前で争ってる場合か!? アピルはさっさと魔王様に報告してこい!』


 アピルが『ふん!』と鼻を鳴らし、タバサとニラトが『チッ』と舌打ちしてからガムルをにらむ。

『なぜアピルを庇うガムル。貴様もこいつの失態を責めたくないのか?』とタバサ。

『今はそんなことやってる暇はないだろうが間抜けどもめ。さっさとあそこにいる人間(ミュシアス隊)を攻撃するぞ、アピルも報告を済ませたらすぐに参加しろ!』とガムル。

『だからあのアラマン人(ミュシアス隊)は攻撃しないと言っているだろうが! お前はいい加減話を聞いて覚えろと言っているだろ!(怒)』とニラト。

『……ガムルめ、今回は恩にきてやる。感謝しろ(尊大)』とアピル。

『恩に着なくていいからお前だけでも俺と一緒に攻撃しろ!!』とガムル。

『だー! だから私の話を聞けエエエエエ!!』とニラト。

『ガムルも魔王様のもとへ行け、うるさすぎる(怒)』とタバサ。


 その後アピルが『エデュミン』市内に入っていく。ミュシアス隊の目の前に入る『アンフィスバエナ』たちの部隊の一部が『エデュミン』の門の中に吸い込まれていくのを見ながらペルクロスがミュシアスに言った。


「……ミュシアス殿。俺たちはどうやら長期間ここにこうやって待機していないといけない感じですね。これでは兵士たちも戦わずして根を上げてしまいますよ」


 確かに『高所』の上にいる兵士たちは皆露骨に『げんなり』した顔をしていた。どうしても四方を泥水に囲まれた絶海の孤島(とその島を囲むたくさんの川船)の上で暮らしているので『不安感』がついて回り精神的に落ち着かないのだ。目に見える『瘴気』に煙る太陽を見続けるだけでもひどく気分が落ち込む。多くの兵士たちが『瘴気には毒気があるんだ! 体調が悪いのもそのせいだ!』と噂しあっている。そしてもっと重大なことなのだが、彼らは少量の食料しか持ってきていない。すぐに飢餓が彼らを襲うことだろう。


 ミュシアスがボヤく。

「……間抜けな話ですが、ちょっと想定外でした……敵はすぐにでも『再攻撃』をかけてくると踏んでいたのですが、まさか何もして来ないとは……このままだと私はここを動くに動けません……」


 今のミュシアス隊だけで『エデュミン』の町を攻撃するのはあまりに無謀だ。だからミュシアスはとりあえずこの『高所』に居座り続けることを最優先し、『アンフィスバエナ』たちに対しては強気の姿勢を崩さなかった。『虚勢』を張って『俺たちにはすぐに援軍が来るんだぞ!』とアピールすることで逆に敵の動きを少しでも制限できればいいと思ったからだ。降伏も撤退もできないが実際に戦闘に入れないのなら『虚勢』を張るくらいしかできることはないだろう。それで戦闘の疲れが癒せれば万々歳である。


 だが高級将校の一人『アイアス』が自信満々に主張した。

「……自分は敵もミュシアス殿と同じ考えをしていると思います。ならばその『逆』を突いてみるのはいかがでしょうか?」


 ミュシアスが変な顔になって、

「…………我々が攻撃してこないと敵が踏んでいるので、逆に攻撃してみると? いや目の前に『アンフィスバエナ』たちの部隊がいるんですが……」

「もうそろそろ友軍が来るはずです。やつらもそれはわかっているでしょう、となれば『エデュミン』の町や『魔王城』への攻撃に備えたいはずです。今ここで我らが攻撃を開始すれば敵はその準備が出来なくなるが、遅らせることが出来ます。どうせこの上にいてもどうしようもないので、やらない手はないのでは?」とアイアス。


 疲労と瘴気に囲まれる中でミュシアス隊内部の話し合いがにわかに熱を帯び始めた。次回へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ