サイマス・イル・アサクレス108『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『ダイモーヤ王の『覚悟』』と『タルキュア擾乱part368』の物語
『コロコス帝国歴史物語』、『捕囚民共同体』の歴史についてイスティたちが話している。
前回の続き、今度はニムルが不思議そうに聞く。
『『四英雄』は『大魔王の支配から人間族を解放するため』に立ち上がったんだよね確か。なのになんで被害者の『捕囚民』達を『奴隷』にしたの?? その人たちも『人間族』だよね?』
イスティが困ってしまって、
「それは私にも難しい話ですね……理由は不明ですが、『四英雄』は『ギルミーナ商人ギルド』も『粛清』して地上から消し去ってますし、彼らは『農民ギルド』と呼ばれていた『軍閥』も弾圧してますし……しかも『四英雄国』がそういった自国の『汚点』を後世に残さないために『記録抹殺』も行っているので詳細はわかりません。以前『歴史物語』の中で『暗黒時代はカイバーン二世が終わらせた』と言われていた通り、陰惨な時代だったのでしょう」とイスティ。
「なんだよ『農民ギルド』って(呆れ)。また新しいものがでてくるのか?」とハッシュ。
『農民の組合まであるんだ……(困惑)』とニムル。
「『組合』の呼称は『ギルミーナ商人組合』のような『自立した職能集団』をさしてる言葉だから『徒党を組んで武装してる農民集団』を『農民ギルド』って呼んでいただけだそうよ。確かその末裔が今でも東方にいるって聞いたけど?」とカムサ。
「あ、はい。脱線するので割愛しますが、現在の『コロコス帝国』にもたくさんいますよ。彼らはいろいろあって形を変えて生き残りましたが、『ギルミーナ商人ギルド』は滅亡しましたね……」とイスティ。
ニムルもまだよくわかっておらず質問する。
『そういえば『聖戦の大魔帝国』ですごく大規模に『捕囚』が行われたのに、なんで『捕囚民』は少数派なの? 『住民の半分』だったら『ハリスコ人』さんたちの半分は『捕囚民』さんってことだよね??』とニムル。
「単純にほとんどの『捕囚民』が移住先に『同化』したためです。『共同体』を作って同化を拒否しているのは『捕囚民』の中でも少数派でして、しかも『カイバーン二世』の『虜囚民解放令』でさらに多くの『捕囚民』たちが『原籍地(本貫地)』に帰国しているのでもっと減ってるというわけですね」とイスティ。
『あ~なるほど、やっと魂(頭)のなかで歴史が繋がってきたね~』とニムル。
ここでダイモーヤ王とアンダゼブの会話が自然と止まった。わずかな時間沈黙が流れ、そこでアンダゼブが力を込めて告げた。
『……どうしても『聖典』を捻じ曲げられないとおっしゃられるのならもう仕方ありません。あなた様はミナワンダ王妃を娶る以外の道がないことになります……本当にそれでよろしいんですね?』
『……』とダイモーヤ王。
ダイモーヤ王がそこで言葉に詰まって黙る。アンダゼブがいい加減『爆発』しそうになるのをなんとか抑えながら畳みかける。
『もうこれ以上無駄な話し合いをする気はありませんぞ『諸王の王』よ! 『聖典』を捻じ曲げたくないと駄々をこねるのならもう私は『聖典なんて無視してください』としかいえません! 私を『悪魔』とも『不信仰者』とも好きに呼んで構いませんよ! その代りあなた様も『覚悟』を決めてくだされ! 『不信仰者』になる『覚悟』をです『諸王の王』よ! あなたは『エルレイアー教』を裏切っててでも『森羅万象を支配する神々の王』となられるしかないのです!!』
ダイモーヤ王が呟いた。
『……皮肉なものだ。今私にとって最大の『悪行』こそが『最善婚』なのだがな……だが、取りうる手段がそれ以外にないのなら覚悟を決めねばならんわけか……』
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『アンフィスバエナ』たちとサレアスの話し合いが続く。
『ではどうすれば我らはアラマン軍に参加できるのだ?』とガムル。
「……『埋め立て地』の食料は欠乏状態です。もう向こうも限界のはずですが……そろそろダーマス候とモストルス隊が戻ってきているはずです。そうなれば『バスタイ』からの補給が復活してアラマン軍は勢力を盛り返します。それでもミュシアス隊が譲歩する気配がないのなら、まだ戦闘は続けないといけないと思いますね」とサレアス。
『……馬鹿な、もうこれ以上はとても無理だ……我らももう戦力を失いすぎている。後は交渉で解決する以外の道はないぞ』と魔王。
『……私もそう思います魔王様……もう継戦は無理かと……』とニラト。
『諦めて魔界へ帰ることも検討しなければなりませんかね……』とタバサ。
『馬鹿な! だったら私は玉砕する! おめおめと逃げ帰るなんぞ恥だ! せめてアラマンの将軍の一人でも討たねば生きてる意味などない!』とガムル。
『アンフィスバエナ』たちは困り果てていた(ガムルも言葉は勇ましいが『同盟者』は諦めてしまっている)。この期に及んで今いちアラマン軍から『善い反応』がない。今まで散々戦ってかなり苦戦させたはずなので、もう実力は十分に見せたと彼らは思っていた。
魔王が嘆息して、
『……『バスタイ』方面の補給線を切る余力など我らにはない。それどころかそろそろアピルもこっちに戻ってくるはずだ。もうここは諦めて降伏するしかないか……』
するとサレアスが『アンフィスバエナ』たちに対して胸を張って宣言した。
「待ってください! まだあきらめてはなりません! ここは私に任せてください皆さん! あと一押しです! あと一押しでアラマン軍から『譲歩』を引き出せます! ですから私の言うことに従ってください! 皆さんはそのために私を生かしたんでしょう!?」
『アンフィスバエナ』たちがサレアスの顔を一斉にみると、彼(彼女)は力強く頷いて見せる。魔王が念押しした。
『……それだけ言えるのは何か『作戦』があるからだ。それはなんだ?』
「『作戦』とかそういう複雑な話ではありません、簡単な話です。エデュミン市民たちはまだ戦う気でしょうから、彼らを主戦力にして『守城戦』を選択すればいいのです。恐らく友軍は『エデュミン』の街を簡単には落とせないでしょう。そうやってしばらく苦戦させた後、私が活躍してこの『攻囲戦』を終わらせるんです。そうすれば確実にあなた方は私とともに『アラマン王国』に参加することが出来ます。具体的にはこうです……」
サレアスが詳細を説明する。だが内容はなんてことはない『サレアスの武功になる形』で『アンフィスバエナ』たちが降伏するという話だった。
『……そうやって貴様に『武功』があれば貴様は難なく友軍に復帰して処刑されずに済み、我々も貴様の『庇護民』という形になると?』と魔王。
「そのやり方で参加するのが一番『自然』です。というかあなた方はいったいどうやってアラマン軍に参加するつもりだったんですか?」とサレアス。
『……実はすでに貴様らの身内に『協力者』がいるんだが、その者たちは我々との『内通』がばれないようにとほとんど動いてない。それにその者たちの『立場』も微妙故、やつらが動いたところで我々が助命されるという確証もない。そして我々の方から連絡も取れん。今やつらが何をしてるかは我々にも分からんのだ』とフェルゾ王。
「……『ハリスコ龍族』ですか。大体予想はできてました」とサレアス。
『魔族に手を貸すのは魔族』、分かりやすすぎる話だった。ニラトが言う。
『やはり今の情報だけでも感づくか、だから『ハリスコ龍族』と手を組んでいるとばれない様に細心の注意を払っているのだ。少しでも連携しているそぶりを見せたらもう今回の作戦が台無しになるからな』とニラト。
「……なるほど、ならば納得です。ですがよくそんな頼りない『仲間』をあてにして今回の作戦を立てましたね?」とサレアス。
魔王が『ふん!』と鼻を鳴らして、
『……貴様ら人間族に理解してもらおうとは思っていない。『ハリスコ流族』が『アラマン軍が勝ち馬だ、乗れ』といえばそうするしかないのだ。我らももう辺境の貧しい土地に押し込められることに心底うんざりしている。いや『うんざり』だなんてそんな甘いものじゃない、『化外の地』で暮らせば遠からず我ら一族は死に絶えるだろう。それぐらいあの土地は厳しい土地なんだ。そこから抜け出せる『希望』があるのなら我らは毒だって飲むぞ!』
サレアスが返す。
「……ならば諦めないでください。私はもちろんまだまだ『友軍復帰』を諦めてません。諦めるくらいなら死ぬ所存です」
『……ついつい疲労から弱気に流れてしまっていたな……感謝してやるサレアスよ。我ら『アンフィスバエナ』は貴様と『運命共同体』だ。杯を交わそうぞ』と魔王。
「いいでしょう、これで私たちは『義兄弟』ですね」
魔王は『幻術』で葡萄酒が注がれた杯を出し、サレアスと『エア乾杯』した。これで彼らは今や『対等な同盟者』になったのだった。
その儀式が終った後、サレアスが魔王に言った。
「……さて、まずは『エデュミン市民』たちです。あの『ハピ』とかいうエダイラ人はどこにいますか?」
ガムルが言った。
『奴なら『エデュミン』市内の自分の屋敷にいるぞ』
「ならばすぐに魔王殿の命令で彼から市民たちに『守城(籠城)戦』を宣言させるべきですね。めいっぱい戦意を煽って友軍と戦う準備をさせてください。『アンフィスバエナ』の皆さんも『守城戦』の準備を。ミュシアス殿との『交渉』まえの『ハピ』殿の雰囲気を見れば『開戦』には喜ぶはずです」とサレアス。
『そうだな。ではすぐに動くか』と魔王。
フェルゾ王は『ミュシアス隊』のことは『四天王』の三人任せ、自分はサレアスと共に『エデュミン』市内に入ったのだった。
サレアスがその道中フェルゾ王にきいた。
「……自分でああはいいましたが、本当に『エデュミン』市民たちは友軍と死に物狂いで戦うでしょうか? やっぱり怖いのではないですか?」
だがフェルゾは首を振って、
『……いや、確実に死に物狂いで戦う……ちょっと煽れば確実にだ……彼らの方がずっと過激で私がブレーキをかけたくらいなんだ……だから彼らを『セーブ』しなくていいというのならその方が楽だ。今までのままだと我々が『降伏』したくても『エデュミン』市民の方がそれを拒否しかねなかったからな……』
ここで場面が変わり、『エデュミン』市内のハピの屋敷に逗留して頭痛を癒していた『盗賊ギルドマスター』の一人、『ナンダム』のもとに『客人』がやってきた。
『……ナンダム姐さん、大事な話があるんだ。いいかい?』とアンダニ。
ナンダムがあてがわれていた部屋の窓から入って来たのは『盗賊ギルド』の残存勢力、『光輝あるシリウス団』のアンダニである。ベッドに腰かけていたナンダムが一瞥して、
「……アンダニの使い魔か。お前の主人は『埋め立て地』で戦ってるんじゃないのか?」
アンダニに化けたままの使い魔(小人妖精)が笑いながらいう。
『キキッ! 我が主人からの伝言を伝えに来た。『実は『埋め立て地』での戦いに負けて今逃亡しているんだ。私も私の部下たちもかなりの数がやられたし、立ってるやつらも怪我がひどい。だが最悪なのがアザランカの方で、こいつ自身は瀕死の重傷で今昏睡中、そんで部下は全員死亡だ。『ウロボロス団』が壊滅しちまったよ』とのことだ』
ナンダムが立ち上がって怒鳴った。
「はぁ!? 完敗じゃないか!? 『アンフィスバエナ』どもと逃げてこっちにきてるのか!?」
次回へ続く。




